第十四章 「成城剣子(せいじょう つるぎこ)の場合?」

 

 桃の丘女学院初等部の生徒会は、会長、副会長、書記、会計、書記補佐、会計補佐の合計六人で運営されている。

 会長と副会長が六年生。書記と会計が五年生。書記補佐と会計補佐が四年生と決まっていて、任期はその学年の間一年間だ。

 桃の丘女学園の生徒会が他の学校と違うのは、役員が選挙ではなく試験で選抜されるということと、四年で書記補佐を務めた者が次の書記、会計補佐を務めた者が次の会計、五年で書記を務めた者が次の会長、会計を務めた者が次の副会長と、定まっているということだろう。

 三年生の最後。希望者たちによって生徒会選抜試験が行われ、上位二名が生徒会入りとなる。

 試験で試されるのは学力は当然のこと、身体能力、礼儀作法、そして容姿までもが試され、生徒会入りするということは、生徒たち憧れのステータスとなっている。

 それに加え生徒会役員は、中等部への転属試験が免除され、無条件で中等部へと進むこともできる。

 現在の生徒会役員は、

 会長の森霧保乃華(もりぎり ほのか)。背中を覆い隠す、波打った亜麻色の髪。サファイアのようなブルーアイ。アラバスターを思わせる白い肌。

 名前からは想像できない、アンティークドールのような「造形美」を持つ美少女。偏差値、知能指数ともに学園トップで、運動能力も申し分ない。

 副会長の成城剣子(せいじょう つるぎこ)。

 漆黒の髪をショートにまとめ、切れ長の黒瞳が知的に輝く。細長いしなやかな四肢が、どこか鋭角的な黒猫を想像させる。

 全国小学生剣道大会女子の部では、四年生のときから二年連続で優勝していて、今年も優勝確実だといわれている。当然、学園からの期待も大きい。

 書記の竹本亜衣(たけもと あい)。

 サイドで三つ編みにした髪型がよく似合ってはいるが、一見してかわいらしいという以外の特徴はない。しかし昨年度の全国小学生弁論大会で、四年生で最初の最優秀賞を受賞した才女でもある。

 会計の白綺鈴音(しらき りん)。

 全国規模で展開するファミリーレストン「ホワイト・L」の会長、白綺まお子の孫娘。純粋培養のお嬢さまで、外見もお嬢さま以外のなに者でもない。

 いつでものんびりとした笑みを絶やすことなく、多少おっとりしたところのある少女だと他人には思われがちだが、見た目を裏切るほどの飛び抜けた記憶力の持ち主で、忘れようとしない限り、一度でも見たもの、聞いたことを、忘れることはない。

 書記補佐の角紅子(すみ あかこ)。

 桃の丘女学園では珍しい、初等部三年からの転入生。それまでは珍しくもない県立校に通っていたらしいが、ほとんど自分のことを話すことはなく、訊かれても答えないので真偽は定かでない。感情の起伏に乏しい、謎の多い少女。

 会計補佐の党次まゆ(とうつぐ まゆ)。

 母方の祖父は資産家だが、自身の家はありふれたサラリーマンの家庭。孫娘の才能をいち早く見抜いた祖父からの援助によって、学園に在籍できている。

 努力を惜しまない性格で、人当たりもいい彼女は、今年度の生徒会ではマスコット的存在でもある。

 と、この六名が今年度の桃の丘女学園初等部、生徒会役員である。

     ☆

 毎週火曜日の放課後に行われる、生徒会の定例会議。それも終わり、すでに陽は半ば落ちて、空には白い十六夜の月が昇っている。

 役員四人はすでに帰宅し、生徒会会館には会長の森霧保乃華と、副会長の成城剣子の二人だけとなっていた。

 会長の机の上に、軽く股を広げて腰をかけるほのか。その右足首には、丸まったショーツが引っかかっている。

「保乃華…さま」

 保乃華のスカートを被るようにしてその股間に顔を埋める剣子は、目の前のやわらかな肉に吸い付き、ワレメにそって舌を這わせた。

「ぅん…」

 頭上から届く、保乃華の甘い吐息。剣子の胸に、温かい「想い」が満ちあふれる。

(あぁ…保乃華さま。愛しております)

 この世界で、一番愛おしい存在。剣子にとって保乃華は、「女神」にも等しい存在だった。

 その「女神」の大切な部分に、口をつけることを許された自分。その「女神」と、身体を重ねることを許された自分。

「愛しております。保乃華さま」

 そう告げることを、許された自分。

(私は、なんと幸せ者だろう。私ほど幸福な者は、そういるものではない)

 剣子はありったけの「想い」を込めて、「女神」の身体の中心にキスを送った。

 

 剣子は、桃の丘女学園に幼等部から在籍していたわけではない。彼女が桃の丘の生徒になったのは、初等部からだ。

 初等部の入園式。

(…あの子。外国人なのかな)

 透けるような白い肌。ウェヴがかった、シュークリームのような亜麻色の髪。南国の海のようにすんだ、マンリンブルーの瞳。

 剣子がそれまでに見たことも会ったこともない、「きれいな子」だった。

(お姫さまみたい…)

 それが剣子が「運命」と邂逅した瞬間であり、その幼女こそ、森霧保乃華だった。

 しかしそれから三年間、二人にさほどの接点はなく、二人が明確な接点に重なるのは、生徒会役員となった四年生になってからである。

「森霧保乃華と申します。これから、よろしくお願いいたしますわ。成城さん」

 心も身体も溶かされるような微笑み。同学年の生徒会役員ということは、これから三年間のパートナーとなったも同じ。それに剣子が会計補佐なのだから、いずれ会長となる保乃華をサポートする立場だ。

 どう見ても、外国人の容姿を持つ保乃華。しかし発される言葉は、丁寧な日本語。剣子は多少の違和感を感じながらも、

「こちらこそ、よろしくお願いします。森霧さん」

 と、頭を下げた。

「保乃華…と、呼んでくださいませ?」

「では私も、剣子と…」

「はい。剣子さん」

「改めて、よろしくお願いします。保乃華…」

 とここで剣子は、なぜか「さま」と続けてしまいそうになり、ハッとなって一度言葉を切ってから、慌てて「さん」…と続けた。

 保乃華は剣子の慌てた様子が可笑しかったのか、口元に手を当てて「くすくす」と笑う。

「な、なにか…?」

「い、いいえ。笑ったりなどして、もうしわけございません。で、でも…くす、くすくす」

 わけがわからず、憮然とする剣子。だが保乃華の笑顔は、見とれてしまうほど愛らしく、美しかった。

 

 やがて、「約束」されていたかのように親しくなっていく剣子と保乃華。五年生になってすぐに起こったあることが切っ掛けとなり、二人はお互いだけのときには、

「保乃華さま」

「剣子」

 と、呼び合うようになっていた。

 二人が初めて関係を持ったのは、五年生の夏休み。保乃華の家…というか豪邸に招かれた剣子は、全てが白で統一された保乃華の部屋に驚きながらも、

「保乃華さまらしい」

 とも感じていた。この頃になると剣子は、「保乃華さま」という呼び方を自然と使っていたし、それが当然だとも思っていた。

「保乃華さまは、私のような凡人とは違う。保乃華さまは、女神だ」

 そう口にしたことはなかったが、剣子の保乃華への「想い」は、崇拝にも似ていた。

 なにもかもが「特別」で、美しい保乃華。正に「美」の結晶。この世に森霧保乃華という存在ほど、美しいものは存在していない。髪の一本いっぽんまで、完全な「美」を宿している。

「どうしたの? 剣子」

 保乃華の私室と、その部屋の主に心を奪われていた剣子は、いつの間にか主が自分の目の前に立っていたことにハッとなり、

「な、なんでもございませんっ。保乃華さま」

「わたくし…剣子にとっては、なんでもないんですの…?」

「えっ?」

「わたくしのことを、考えていたのでしょう?」

 見抜かれていた。恥ずかしいと思うよりも、嬉しく、誇らしかった。保乃華が自分の考えていたことを見抜いていたことが、少なくとも自分が、そのくらいには保乃華に理解してもらっているということが嬉しく、誇らしかった。

「…はい。その通りです、保乃華さま。私は今、保乃華さまのことを考えておりました」

「なにを? わたくしの、なにを考えていたの?」

「美しい…と。保乃華さまは、なんと美しいのだろう…と」

 告げるには、多少の照れを必要とした。そして剣子の言葉に返ってきたのは、

「…剣子は、わたくしのこと…好き?」

 真剣…とも思える顔つきでの、保乃華の問い。

「は、はい…好きです」

 答えるには、躊躇は必要なかった。

「愛して、いるの?」

「愛…して、おります」

「では、証拠を見せて」

「証拠…ですか?」

 証拠といわれても、どう示せばいいのかわからない。真面目な顔で考え込む剣子。答えの出せないまま一分ほどが経過した頃、

「キス…して」

 保乃華がいった。

「できるでしょう? キス。わたくしを愛しているのなら、できる…わよね?」

「は、はいっ…それは、もちろんです」

 保乃華が無防備に瞳を閉じ、顎を上に向ける。このときの保乃華の身長は平均よりも高かったが、それよりも剣子の方が約五センチは高かった。六年生となった「今」では、さらに差が開いているが。

 保乃華の細い肩に手を添え、薄桃色の唇に自らのそれを近づける剣子。

「本当に、いいのだろうか?」

 思いはしたが、誘惑には勝てなかった。

 そっと触れ合うように重なる、唇と唇。

「やわらかい」

 と、剣子は思った。それしか、思えなかった。

 頭がぼ〜っとして、なにも考えられない。保乃華に手を引かれ、真っ白なベッドに誘われたときも、保乃華のいうままに衣服を脱ぎ去る途中も、自分と同じく一糸纏わぬ保乃華の身体を目の当たりにしても、重なるように激しいキスを貪り合っているときも、剣子はなにも考えることができず、ただ、幸福な夢を見ているように感じていた。

 

 剣子が夢から醒めたとき、すでに日は陰り始めていた。

「私…なにを…?」

 思い出す。保乃華の身体のやわらかさ。貪り合ったキスの感触。互いの身体を舐め合った。大切な部分も、お尻の穴まで舐め、舐めてもらった。

「保乃華…さま?」

「…なに? 剣子」

 返答は、すぐ隣から。目を向けると、自分に寄り添うように身体を横たえる、愛おしい保乃華の顔。

「夢じゃ…なかった」

「くすっ…そうね。夢では、なかったわ。剣子、とてもすてきだった」

「…保乃華さま」

「わたくし、ずっとこうしたかった。剣子と、愛し合いたかった…」

「……」

「後悔…してる?」

「い、いいえ」

「じゃあ…よかった? わたくしの身体、美味しかった?」

「えっ…は、はいっ」

「くすっ、くすくす…剣子も、とても美味しかったわ」

 なんだか、不思議な会話。それでも剣子は、言葉にならないほど満たされていた。

「保乃華さま」

「なに?」

「キスして…よろしいでしょうか?」

「えぇ…わたくしの唇は、剣子に塞がれるためにあるのよ?」

 剣子はその言葉通り、保乃華の唇を唇で塞いだ。

     ☆

 夢のような「幸福の日々」を保乃華の傍らで送りながらも、愛すること、そして愛されることの「意味」を模索する度、剣子はいい知れぬ「恐怖」を覚えてしまうようになっていた。

「こんな毎日が、いつまでも続くものなのか? 私は、こんなにも幸せでいいのか」

 もし今の「幸福」が消え去ってしまったなら、剣子は壊れてしまうだろう。「保乃華なしでも生きていける」などといい切る自信は、剣子にはない。彼女は、自分の程度を知っている。

「私は、弱い人間だ。だから剣を掴んだ。幼いあの日、悲しみの中に埋もれていた私を助けてくれたあの人。そしてあの人が携えていた竹刀。

 あの人も竹刀も、とても力強く見えた。だから私も、剣の道を選んだ。自分の名に“剣”の文字が刻まれていたのにも、なにか運命的な意味があったのかもしれない」

 一人きりの道場。剣子は握り馴れた木刀を振るう。

 ブンッ…と、虚空を切る音が重く響き、剣子は思う。

「迷いが、虞(おそれ)が剣に出ている」

 と、

「なにを迷っている、剣子」

 剣子の剣の師。絢目連基(あやめ れんき)だ。

「師匠…」

 腕を下げ、連基に視線に向ける剣子。

「迷い、それに虞。お前らしくもない」

「そう…でしょうか。私は、弱い人間です」

「弱くない人間などいない。人間誰しも、弱さを抱えておる」

「師匠でも、ですか?」

「当然。それに、弱さは罪ではない。己の弱さを知り、理解し、受け入れる。それが、強さへと至る道を示す。まずは、己の弱さを許すことだ」

「…師匠の言葉は、いつも難しいです」

「恋の悩み…かな」

「っ! し、師匠っ」

「恥ずかしがることでもあるまい」

「そ、そうかもしれませんがっ…」

「まぁ、お前くらいのときは、悩むのが一番なのかもしれんな」

「師匠も…悩みましたか?」

「今でも悩むことは多い」

「どういうことを…です?」

「例えば、ワシはカレーライスが嫌いだ」

「…はぁ?」

「だがな、どうしたものか最近、新(あらた)のヤツがカレーライスを作って、ワシに食べさせようとする」

「新さんが料理を?」

 新というのは連基の孫で、現役の女子高生だ。そして、剣子が剣を取る切っ掛けを作った少女でもある。

 見た目は普通(というには、やけに目つきが鋭いが)だが、お世辞にも料理などをするような女の子ではない。剣の腕は剣子より数段上で、天才とはあの人のような者を指す言葉なのだろう…と、剣子は思っている。

 とはいえ、その人間性は疑うべきものを備えていて、遠くから眺めているだけなら痛快なのかもしれないが、近くにいるとなにかと迷惑な少女でもある。

 なので熊の刺身というのなら剣子も、「そういうこともあるかも」…と、思わなくもないが、新がカレーライスを作るとは…どういう嫌がらせだろう。

「困ったことに美紀子が褒めるものだから、新も調子に乗って毎日のようにカレーライスを作る。美紀子も新も、自分は食べないくせにだ」

 ちなみに美紀子は連基の一人娘で、新の母親だ。

「で、誰が食べるのかというと、ワシと季彦くんだ。季彦くんは優しい男だから、美味しいとかなんとかいって食べておるが、日に日にやせ細っておる。新の作るものだぞ、不味いに決まっておるのだ。嫌いなカレーライス、それも新が作ったものだぞ。いくらワシでも、そんなものを食べるきはせん」

「それは難儀な…」

 本当に同情的な視線を、連基に向ける剣子。自分が連基の立場ならと考えると、ゾッとした。新の料理を食べられないというわけにはいかないし、いってボコボコにされるのも考えものだ。

 最近はそうでもないが、以前は新とともに修行していた剣子にとって、新はある意味、恐怖の具現者だ。

 あの人と一緒に修行していて、私はよく無事でいられたものだ…と、剣子は今でも思うし、たまに新が登場する悪夢(と、決まっている)を見ては、冷や汗を流しながら飛び起きたりもする。

「じゃろ?」

「…はい、師匠」

「でだ…お前から新のヤ」

「イヤです」

「少しでい」

「絶対イヤです。私、今日はこれで失礼させていだだきます」

 剣子は早口でそう告げると、逃げるように道場を後にした。

 

 どうもあの師匠は、剣の腕は一流だがそれ以外では役にたたない。いうことは意味不明だし、そろそろ新さんの「時代」がきたのかも…。

 そんな恩知らずなことを考えながら帰宅した剣子は、誰もいない家に灯りを点し、夜勤に出ている母が作り置いてくれていた夕食を温めて採ると、自室に入って勉強を始めた。

 剣子には父親がいない。物心ついた頃からいなかった。

「お父さんは、行方不明になってるの」

 母の言葉。どうやら、死んだわけではないらしい。といっても、死んでいても不思議ではないが。

 剣子の家は、母が働かなくても生活していけるほどの蓄えはある。亡くなった母の両親、剣子にとって祖父母が残してくれた遺産があるからだ。

 だが母は家に閉じこもることを嫌い、父と出会うきっかけにもなったという看護婦の仕事を続けている。

 お父さんがいなくて寂しい…と、剣子が思ったことはない。いないのが、当たり前だから。これまでいたことがないから、いないという寂しさがわからない。

 それに今の剣子には…。

「私には、保乃華さまがいる。いて、くださる」

 それで十分だった。

 しかしだからこそ、剣子は保乃華に依存し、「もし、いなくなってしまっら…」という「恐怖」に駆られる。

 大切な存在だから、なくすことが恐い。「もし」…考えるだけムダなこと、だが、考えずにいられない。

「…保乃華さま」

 波のようにうち寄せる不安。剣子は勉強の手を休めズボンのベルトを外すと、その不安を紛らわせようとするかのように、右手をショーツの中に誘った。

 これまでに、数え切れないほど保乃華のキスを受けた秘部。こうして部分に染み込んだ保乃華の優しさに触れると、なんだかとてもホッとする。

 自分は一人じゃない。そのことを思い知らされ、安心する。

 ある種の矛盾。

 保乃華と出会ったからこその不安。そして、保乃華の存在がもたらす安心。

 出会ったことに、後悔はしていない。出会えてよかった…と、心から思う。

「私はもう…保乃華さまなしでは、生きてゆけません」

 脳裏に保乃華の姿を思い浮かべる。美しい身体。白い肌も、やわらかな金髪も、キレイな海のような瞳も…全てが「奇蹟」のような保乃華。

 この手が、保乃華さまの手だったら…。指で、口で、舌で、保乃華に何度も愛された秘部を弄り、滑った穴に真ん中の指を入れる。

「う…っん」

 器用に指を前後させ、同時に左隣の指で痺れる敏感な突起を刺激すと、剣子の恥ずかしくてはしたない穴が、透明な蜜を滴らせた。

「パンツ汚れちゃう…脱がなくちゃ」

 蜜の多い剣子には、ティシュが不可欠だ。剣子は下半身をソックスだけにすると、ティシュの残量を確認してから箱を手に取り、それを持ってベッドに移動し、続きを開始した。

 少し弄っただけなのに、もう内股はびしょ濡れだ。剣子は幾枚もティシュを使い、頭の片隅でシーツが汚れないように気を配りながら行為を続ける。

 右手で前の、左手で後ろの穴を刺激する剣子。どちらかといえば、後ろの方が気持ちいい。だが後ろは、弄り過ぎると「中身」が出てしまう。剣子は一度、保乃華の後ろへの刺激に耐えられずに、異臭を放つ「中身」をぶちまけてしまったことがあった。

「も、もうしわげございませんっ。保乃華さまぁ」

「くすっ…いいのよ、剣子。よかったら、食べてあげてもよろしいのよ?」

「そ、そんなこと。お願いですから保乃華さまっ、そのような汚らわしいことはおやめくださいっ」

「剣子のは、なんだってきれいよ。でも剣子がそういうなら、やめておくわ。わたくし、剣子に嫌われたくありませんもの」

 保乃華が自分の排泄物を食べる。「歪曲的な悦び」を思わなかったといえばウソになる。価値ある芸術品を無意味に破壊したくなる「隙間」に似た、ある種の「刹那的渇望」。

 保乃華はときおり、そんな「隙間」を剣子に提示する。

「剣子になら、壊されてもいいわ」

「このまま、一緒に死にましょう?」

「わたくしの血液は、本当に赤いのかしら…ねぇ、剣子? 確かめてくださいません?」

 そんな言葉を投げかけられる度、剣子は目の前に「隙間」に引きずり込まれないように、意識を「知覚」しなければならなくなる。

「このまま保乃華さまを壊し、私も…」

 油断すれば「隙間」は剣子をさらい、闇へと沈めようと飛びかかるだろう。

 だが剣子の前には「認識」できる一線が存在し、その一線を越えることは剣子にはできないし、したくもない。

 剣子の願いは保乃華を壊すことでも、ともに生を断ち切ることでもなく、ただずっと、永遠に、いつまでも保乃華の側にあること。

 死ぬまで、いや、死んでも保乃華と共に「存在」すること。それが剣子の、偽らざる願いだ。

「うぅ…ほ、保乃華…さ、まぁ」

 粘着性の強い蜜が、手の平全体にまとわりついてくる。

 にゅちゃ、にちゃ

「はあぁうんっ! も、もう、あっ、あっ」

 剣子…と、耳元で囁く保乃華の美しい声が聞こえた。剣子は前の穴を二本の指で欠掻き混ぜ、後ろの穴に中指を根本までねじ込むと、

「あ、愛して…はうぅっ! い、います…ほの、ほのかさまああぁ〜っ!」

 弾け跳ぶような絶頂に、大きくその肢体を跳ねさせた。

     ☆

 優しい風。美しい世界。

 そんななによりも、私はただ、あなたを求めていた。

 あなたがナニモノであろうとも、あなたがあなたである限り、そして私が私である限り、いつまであなたと共にあることが、私の望みだった。

『キスして…よろしいでしょうか?』

 あの瞬間から私は、なにを得て、なにを失ってしまったのですか?

 

 あなたは、全てを知っていらっしゃるはず。

 どうかこの滑稽な私に、「言葉」と「微笑み」をください…。

 

 

To be continued.  第十六章 「保乃華と剣子の場合?(前編)」



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