第十五章 「森霧保乃華(もりぎり ほのか)の場合?」

 

 漆黒の宝石。魔石のような、漆黒の瞳。凛々しく、気高く、力強く…。

 まるで籠に捕らわれた小鳥のように、森霧保乃華(もりぎり ほのか)はその背の翼を折りたたんだ。

「だれ…? この子」

 遠慮なく向けられる視線。痛いくらいに保乃華を貫く。

 桃の丘女学園初等部。その入園式。これから六年間学友となる者たちに混じった「黒い天使」の視線が、保乃華に「運命」を提示する。

 保乃華は意識してその視線を避け、壇上からの言葉を身体に止めずに通過させながら、自らの高鳴る心音を聞いていた。

 

 「黒い天使」の名は、さほどの時間も必要とせずにわかった。「成城剣子(せいじょう つるぎこ)」というらしい。

 桃の丘女学園には初等部からの入園生で、知能、身体能力、共に同年園生トップレベル。だが人付き合いは苦手らしく、特に親しい友人はいないらしい。

 足音も立てず、しかしどこか跳ねるような歩き方。髪にはあまり気を配っていないのか、基本的には男の子のようなベリーショート。耳が隠れるくらいまで伸びると、また男の子に戻る。

 運動神経は抜群で、背中に「黒い翼」が伸びるかのように飛び跳ね、舞う。なぜか時折、廊下で窓の外を物憂げに眺めていることがあり、その度に保乃華は剣子と親しくなりたいと声をかけようと思うのだが、そんな「簡単」なことがどうしてもできなかった。

 だから保乃華は、遠くから凛々しい魔瞳の輝きに憧れるだけの毎日を送った。

「成城…剣子さん」

 そっと名を呟く。自分だけに聞こえるように。それだけで保乃華は、不思議な力に守られるように感じた。

 亜麻色…というよりは、自ら輝くような金色の髪。南国の澄んだ海色の双瞳。まさに透けるような白色の肌…。

 周りの人間とはまるで違う、異色な自分。

 なにも気にしてはいないというふりはしていても、保乃華はずっと自分の「異国人的容姿」をコンプレックスに感じていた。

「わたくしは、日本人です」

 法的にはなんの問題はないし、保乃華は日本で生まれ、日本で育ってきた。だが周りはそうは見ない。

 流暢に日本語を操る、異国の子供。驚きの顔。困惑の顔。怪しみの顔。

「わたくしは…日本人…です」

 本当に「そう」なのか? 父は自分と同じ色の髪。瞳。肌。だけど母は違う、母は周りの「日本人」と同じ、黒い髪と黒い瞳だ。

 「イデンシイジョウシャ」…意味不明の言葉。調べると、「遺伝子異常者」と書くらしいことがわかった。だがなぜ自分が「遺伝子異常者」などと呼ばれるのかは、そのときはわからなかった。

 なぜ自分が「遺伝子異常者」なのか保乃華が理解できたとき、保乃華はすでに三年生になっていた。

 あるテレビ番組。日本人と外国人の子供は、通常黒い髪と黒い瞳を持って生まれるらしい。だが保乃華には、その「色」がない。

「そうでしたの…それでわたくしは、遺伝子異常者なのですわね…」

 普通ではない者。だから「異常者」。保乃華は不意に自分を「バケモノ」のように感じ、

「わたくしは、バケモノだったのですわね」

 呟いて、「くすくす」と可笑しそうに笑った。

 一年前父と母が離婚したのも、自分が「バケモノ」だったから。父と母がいつもケンカしていたのも、自分が「バケモノ」だったから。

 全部…そう、全部自分が悪い。自分が「バケモノ」だったからだ。

 止めなく溢れる涙を拭うことなく、保乃華は可笑しそうに笑い続けた。

 それは九歳の誕生日を目前に控えた少女が流す涙にしては、あまりにも悲しい涙だった。

 

 三年生の終わり。成城剣子が生徒会役員選抜試験を受けると聞いて、保乃華は自分も受けてみることにした。

 別に生徒会に興味があったわけではない。ただ、剣子と同じことをしたかっただけ。

 興味本位で受けた試験。なのに保乃華は、トップの成績で合格した。

「…わたくしが、生徒会役員ですって? バケモノのこのわたくしが?」

 最初は辞退するつもりだった。だが自分と同じく生徒会役員となるのが剣子だと知り、

「もしかすれば、成城剣子さんと親しくなれるかもしれませんわ…」

 憧れの学友。遠くから見ていることだけが、なんとか許されていた憧れの人。

「わたくしでよろしいのでしたら、生徒会のお仕事…お受けさせていただきます」

 保乃華の期待と不安が混ざり合った心の中で、漆黒の魔瞳が凛々しく輝いていた。

     ☆

 初めて会話した「黒い天使」は、想像していたのとは少し違っていた。

 思ったより謙虚で、それに微かに頬を染めがら「美しい芸術品」でも見るように自分を見つめる剣子は、なんだかかわいくて微笑ましかった。

 同じ生徒会役員。廊下ですれ違うと、剣子ははにかむように微笑んで頭を下げてくれた。毎週火曜日の生徒会会議が終わると、校門までだが二人は並んで歩いた。

 これまで(保乃華の主観で)とは時間軸がずれたように、急激に親しくなっていく保乃華と剣子。だが話しかけるのは、ほとんど保乃華からだった。剣子は多弁な方ではなく、どうやら自分から話題を振るのは苦手らしい。それでも剣子は、どんなたあいない話題でも保乃華の話を真剣に聞いて、返すところは返してくれた。

 剣子と一緒だと楽しい。ウキウキして、ドキドキする。学園が休みの日は剣子の顔を見ることができない、寂しい。声だけでいい、聞きたい。電話したい。しかし用もないのに電話して、もし迷惑だと思われたら、嫌われたらどうしよう。せっかく仲良くなれたのに…。

 保乃華の毎日が、「剣子色」に染まっていく。気がついたら、剣子のことを考えている。その姿を頭の中に浮かべている。漆黒の瞳を、意識している。

(剣子さん…大好きです)

 降り積もる「想い」は溶けることなくその「高さ」を、そして「深さ」を増し続けていった。

 

 こうして半年ほどが経過した頃、すでに保乃華は生徒会という組織の実体を見抜いていた。

「生徒会といっても、結局お飾りなのですわね」

 実験は学園サイドが握っていて、生徒会は学園の以降をなぞっているだけの機関。中身のない箱のようなものだ。

 どうやらそれは剣子も感じているようで、

「生徒会は、思っていたような場所ではないです。私はもっと、やりがいのある場所だと思っていました」

 保乃華と同じ感想を口にした。

「ではわたしくたちで、やりがいのある場所にすればよろしいのではなくて? きっとできますわ。わたくしと、剣子さんになら」

「…そう、でしょうか? 保乃華さんにならば可能かもしれませんが、私には自信がありません」

「違うのではなくて?」

「なにがですか?」

「自信がないのではなくて、剣子さんは、やる気がないのではなくて?」

 剣子は生徒会の仕事に熱心ではない。保乃華は見抜いていた。

 だがそれは、保乃華も同じだった。もともと保乃華は、剣子と親しくなりたくて生徒会に入ったのだから。

「…そうかも…しれません」

 剣子は、保乃華の問いにそう答えた。

「いいですわ、それでも。わたくしは、こうして剣子さんとお話しできるだけで、楽しいですもの」

 生徒会などどうでもいい。自分は剣子がいれば、それだけでいい。本当はそういいたかった。

「そ、それは…私もです。保乃華さんとお話しができて、その…う、嬉しいです」

 剣子が保乃華を、「美しい物」を見るような目で見る。

(どうしてですの? 剣子さん。あなたの方がこんなバケモノのわたくしよりも、ずっと凛々しくお美しいですのに…)

 それでも保乃華は、自分を目の前にしたとき憧憬にも似た光を宿す剣子の黒瞳に、どうしようもないほどに惹かれていった。

 剣子の瞳に、自分以外のナニモノも映したくないと思うほどに…。

 

 それは、五年生になってすぐのことだった。

 昼休みの第一校舎中庭。四年生の終わり頃から、保乃華と剣子は昼休みになるとそこで同じ時間を経過させるようになっていた。

「…剣子さん?」

 午前の授業が終わり保乃華が中庭に向かうと、二人の指定席となっているベンチに腰を下ろして剣子が眠っていた。

「疲れているのかしら…」

 剣子が剣道をやっていることは、当然保乃華も知っている。昨年度の全国大会で優勝しているのだから。

 保乃華は剣子を起こさないように、静かにその隣りに腰を下ろす。

(くすっ…かわいいですわ)

 剣子の寝顔。いつもより幼く見えた。

 と、つい保乃華は、剣子の髪に触れたくて腕を伸ばしてしまった。

 瞬間。

「…ん」

 剣子が瞼を開け、寝ぼけたような顔で保乃華を見る。

「…保乃華…さま?」

 保乃華の名を、「さま」付けで呼んだ。

 聞き間違いだと思った。だが…

「すみません、保乃華さま。どうやら眠っていたようです」

 再び剣子が、「保乃華さま」と呼んだ。

 目を丸くして剣子を見つめる保乃華。剣子はハッとした顔をして、やっと自分の「失態」を悟る。

「い、いえっ、その、保乃華…さん」

 が、もう遅い。保乃華は聞いてしまっている。「保乃華さま」と自分を呼んだ、剣子の声を。

 ただ見つめ合うように向かい合い、身動き一つしない二人。一分ほどの静寂を作り時間が通り過ぎた後、保乃華は口を開いた。

「…どう…して?」

 なんとでも取れる言葉。剣子の答えは、

「わかりません。ですが…保乃華さまは、保乃華さまです」

 という、意味不明なものだった。

「…剣子さんは、その方が呼びやすいのですか?」

「はい…たぶん」

 スッと、視線を逸らす剣子。

「で、でしたら」

 保乃華はそこで数秒言葉を句切り、

「それでも、よろしいですわ…よ?」

 剣子が視線を保乃華に戻す。保乃華は続けていった。

「保乃華さまで…剣子さんがそう呼びたいのでしたら、それで…よろしいですわ」

「…ですが、ご迷惑ではありませんか? そんなのは…変です」

 変なのはわかっている。しかし保乃華は、剣子がそうしたいのなら変でも構わなかった。

「二人だけのとき…ということではどうですか? わたくしは、剣子さんがなさりたいようにしていただきたいですわ」

「……」

 沈黙する剣子。保乃華は浮遊感に身を委ね、ドクドクという血の流れを意識していた。

 停止したような世界。しかし確実に時間は流れ、

「本当に…よろしいのですか?」

 剣子が震えた声で発した。

「はい。よろしいですわ」

 軽く肯き、返す保乃華。

「…保乃華、さま?」

 小さな声だった。

「なにか? 剣子さん?」

 保乃華はハッキリとした声で返した。

「保乃華さま」

「剣子さん」

 意味のない、だが「意味」のある呼び合い。

「剣子…と」

「はい?」

「剣子と、お呼びください。呼び捨てにして…ください」

「わかりました…いえ、わかったわ…剣子」

「ありがとうございます。保乃華さま」

 「運命」の歯車が廻り始めた瞬間を彩るかのように、今季最後の桜を孕んだ風が見つめ合う二人の髪をなで、その狭間を彼方へと凪がれた。

     ☆

 あの日から、保乃華と剣子との関係は変わった。

「剣子がそうしたいのなら、わたくしはそれで構わないわ」

 向けられていたと感じていたのは、友情。でも実際には、崇拝だった。それが理解できないほど保乃華は子供ではなかったし、「自己を確立したふり」をしていた。

 五年生の夏休み。家に初めて自分の家に招いた剣子に迫ったのは、保乃華の方だった。

「キス…して」

 剣子の唇は、とても優しかった。キスだけで、剣子は思考力をなくした。ベッドに誘う。剣子は呆然としたまま従った。

 そのまま服をはぎ取り、自分も裸になって、剣子を食べた。美味しかった。どんな料理よりも、剣子の身体は美味しかった。

「わたくしは、とんでもない罪を犯してしまった…」

 剣子を汚してしまったと思った。自己満足な欲望で、凛々しく気高い「黒い天使」を、現世に堕としてしまった…と。

 だがそれでも、やはり剣子の身体は美味しかった。欲望に負け、夏休み中毎日のように何度も食べた。剣子は拒まなかった。

「美味しいわ…剣子」

「は、はい…あ、ありがとうございます、保乃華さまぁ」

 剣子が帰った後、自己嫌悪に陥るのはわかっている。

「また、剣子を汚してしまった…」

 嗚咽。醜い泣き顔。剣子には見せられない。

「愛して…愛しているのよっ!」

 自分へのいい訳。涙は止まらない。

 自分が許せない。もし目の前に自分が立っていたら、殺してしまうかもしれない。剣子を汚す者は許せない。だがその者は自分自身…弱く、醜いバケモノの、保乃華自身。

「ゆ、許して…」

 誰への懇願? 剣子? 自分? それとも、なにか? 「ここ」よりも高い次元の、かつて剣子が存在していた場所にいるはずの…。

 それでも保乃華は、剣子を求めるのを止めることはできなかった。

 

 時間は、「統一された軸」を進んでいるのではない。歪み、歪曲した軸を、速く、そして遅々と進んでいる。だが結局、進んでいることに変わりはなく、予定されていた通り保乃華は桃の丘女学園初等部の会長となり、剣子は副会長となっていた。

「保乃華っ…さ、まぁ」

 最初の日から、まるで二人の間で交わされた「誓約」のように、日曜日になると保乃華は剣子を家に招いて、自室で「美味しく」食べていた。

 剣子が自分に求めているものはなんだろう? 自分は剣子に、なにを与えることが必要で、なにを与えることができるのだろう。

「剣子にとっては、わたくしは女神なのかしら?」

 剣子を「理解」してゆく内、保乃華はそう考えるようになっていた。

「そう…ならわたくしは、女神になろう。剣子だけの女神に…」

 保乃華は軽く頭を振って「邪念」を落とすと、純白で統一された自室のベッドでうつ伏せになり、お尻を自分に向かって突き上げる剣子の後ろの穴に吸い付いて、やわらかくもあり力強くもあるその内部に舌を潜り込ませた。

「んくぅ」

 剣子の鳴き声。何度聞いても飽きることがない。剣子の身体も、食べる度に味が増していく。もう、幾度食べたかわからない。とてもたくさんのようにも感じるし、まだまだ食べたりないようにも感じる。

 舌に浸透する剣子の味。剣子は一度保乃華の前で排泄してしまってから、保乃華の家を訪れる前に内部をきれいに洗浄してくるようになった。

 それは保乃華に食べられるのを前提として家を訪れるからで、剣子が食べられることを望んでいるのに他ならない。

 自分勝手だとはわかっていたが、保乃華はそう考えることにした。

「剣子は、わたくしに食べらたいのだわ」

 …と。

 それで、罪悪感を誤魔化すことはできた。誤魔化すようにと、自分にいい聞かせたから。

「気持ちいい? 剣子…」

「は、はぃ…保乃華さ、まあぁっ!」

 剣子が言葉を終える前には、保乃華は自らの口と舌でほぐした剣子の排泄口に、白い中指を根本まで埋めていた。

 保乃華は「うくうく」と鳴く剣子の後ろを責めながら、蜜が滴る秘部も空いた手を複雑に蠢かせて責める。

 手の平全体にまとわりつく、温かな剣子の蜜。保乃華はその蜜を舐め取り、至高の笑みを浮かべた。

「美味しいわ…とっても美味しくてよ、剣子」

「うくぅ…あ、ありがとう、ござ、ございますうぅ」

 保乃華は剣子を表にひっくり返すと、

「ほら…剣子もお舐めなさい?」

 滴る蜜を揃えた二本の指でたっぷりとすくい、剣子の口元に誘う。剣子は自分の蜜が付着した指を、なんの躊躇いもなく口に含む。

 ちゅ…くちゅぱ…くちゅ、ちゅぱ…

 保乃華の指を舌で愛撫する剣子。そのうっとりとした顔には、普段の凛々しさは欠片もない。大好きな主人に甘える子猫のような、どこか「媚びている」とも取れる色が浮かんでいるだけだ。

 剣子が自分の指を舐めている間も、保乃華はもう一方の手で蜜を零す部分を飽くことなく弄る。たまに剣子に見せつけるように蜜を舐め取り、すぐさま手を戻して弄るという動作を繰り返す。

 年齢と身長を考えると未成熟すぎる剣子の胸の先端が上に飛び出して、保乃華を求めているかのように微かに震える。保乃華は無言の懇願を聞き入れ、肌との境を明確にする二つの輪の内剣子から見て左の輪に吸い付くと、

 コリッ…と、軽く噛んだ。

「くはあぁっ」

 剣子は保乃華の指を外に出し、雷にでも撃たれたように激しく背と首を反らす。だが保乃華は剣子を押さえつけるように重なり、

 コリッ…コリッ…

 歯の間でしこった先端を何度も転がす。その度に室内の白に吸い込まれる、剣子の激しく甘い喘ぎ声。保乃華は聞き入りながら、自らの身体に湿りと疼きを覚えた。

 もう…止まらない。

 保乃華は「なにか」に突き動かされるままに、剣子を貪った。

 剣子の肌を滑らすように、唇を下に移動させる。引き締まり、でもやわらかい腹部。その下には、甘い蜜を滴らせる秘部。

 保乃華がその滴る蜜を吸い尽くそうと、顔を押しつける。

「うはあぁっ! ほ、ほのかさ…まぁ」

 剣子は甘い味。声も身体も、とても甘い。

 そう…「苺」よりも、甘い。

 誰だったろう? 「苺は命の果実」と詩った詩人は。彼(もしくは彼女)には、なにが「見えて」いたのろうか。

 今保乃華が「見て」いる「モノ」と同じ「モノ」が、彼女(もしくは彼)にも「見えて」いたのだろうか。

 氷のように熱く、炎のように冷ややかに、保乃華は剣子を貪る。

「う…ぅうっ、んっ!」

 剣子の鳴き声。たまらなく愛おしい。

(好きよ…剣子。愛していますわ)

 愛する資格。愛してもいい権利。保乃華はどこで「それ」を手に入れたのだろう。

 生まれながらにして持っていた? 当然の「所有物」だったのだろうか?

 過去から未来。氷河の流れが認識できるほどの「トキ」。想像はできなくとも、「それ」は確かに「実在」していた。

 二人の「トキ」もこれまでの「トキの連続」に含まれ、「永遠」に残るのだろうか? 「ダレ」が「それ」を承認するのだろうか。

 澱みに沈んだ「想い」の中。保乃華は一つの「真実」を「見て」いた。

「わたくしは、剣子を愛している」

 だがそれがいい訳にならないことは、彼女自身も、数え切れない涙を代償として理解していた。

「愛してさえいれば、相手になにをしてもいい」。

 そんな「答え」はどこにも存在していない。

 保乃華は手を使って剣子のスリットを拡げると、「れろんっ」…と、大きく舐め上げた。

(おいしいぃ…つるぎこは、なんておいしいのかしら…?)

 ジンジンと、脳が「痛み」を伴って灼ける。

(わ、わたくしも…なめてほしいですわ。つるぎこに、たべてほしいですわぁ)

 保乃華は身体を反転させ、下半身を剣子の顔に差し出しすように体勢を変えると、

「な、舐めて…い、いいえ、剣子。舐めなさい?」

「は、はい…保乃華さまぁ」

 保乃華のスリットの上部には、産毛のような金髪が生えていた。剣子はその金髪に、一度愛おしそうにキスを送り頭の上の白いお尻に手を添えて、ヒクヒクとしている割れた肉に顔を押しつけた。

「あはあぁんっ! よ、よくってよ剣子おぉ」

 負けじと、保乃華も剣子のワレメに吸い付く。

 互いの陰部を口と舌で刺激し合う少女たち。その姿は「愛し合っている」というようりも、「慰め合っている」という方が適切な表現のように写った。

 淫乱というよりは神聖。快楽というよりは苦痛。満たし合っているというよりは、奪い合っている。

 なぜだろう。とても…「悲しい」姿だ。

 互いは、互いに捧げられた「生贄」。身体も、心も、全てを相手に捧げた「生贄」のように見えた。

 泣いているかのように響く、二つの甘い喘ぎ声。重なっているようで重なっていない、ちぐはぐなデュオ。

(愛しているわ…剣子)

 向ける「想い」。返答はない。ただ舌に絡む甘い蜜の味だけが、保乃華に染み込んできていた。

     ☆

 わたくしは、あなたになにを求めていたのかしら?

 安心? 幸福? それとも…。

 ただ二人でなら、こことは「もう少し違う場所」に行けるように感じていたわ。

『わかりました…いえ、わかったわ…剣子』

 あの瞬間。

 わたくしはなにを得て、なにをなくしてしまったのかしら?

 

 あなたは全てを知っているのね?

 だからこんなにも滑稽なわたくしに、「言葉」と「微笑み」をくださるのでしょう?

 

 

To be continued.  第十六章 「保乃華と剣子の場合?(前編)」



戻る   

動画 アダルト動画 ライブチャット