第八章 「安岐香織(あき かおり)・初等部五年生の場合?」

 

 これほど夢中になれることなんて、香織の短い人生では初めてだった。

 彼のことを考えるだけで、心が潰れてしまいそうになり、意味もなく涙が零れたりもする。

 彼のアパートで交わした、初めてのキス。思い出す度に嬉しくて、切ない。

 香織は、恋をしていた。

 初めての恋を。

「好きだよ」

 告げられた言葉。

「あたしも…好きです」

 返したのは本当の想い。

 自然と重なった唇と唇。

 重なった部分から、彼の想いが染み込んできた。

 なにも考えられなかった。ただ、幸せだった。

 初めてのキス以来、香織は彼のことばかり考えている。家でも、学校でも、授業中でも、休み時間でも。

 いつでも、どこでも。

 彼のことで、香織の小さな頭はいっぱいだ。

 コイスルオトメ。

 盲目的で一直線、他人のいうことなど聴く耳がない。

 オロカデアワレナソンザイ。

 だが香織はいうだろう。

「それでもいい」

 と。

 なぜなら彼女は、幸福の中にいるから。

 幸福で満ち足りていて、それだけでいいから。

「彼がいればいい。他にはなにもいらない」

 ユメミルオトメ。

 夢しかみない。現実はみない。みたくないから。

 みなくても幸せだから。

 幸せだからそれでいい。

 バカナコドモ。

 キミノシラナイコトハ、ヨノナカニアフレテイルンダヨ。

 キミノオチヨウトシテイル〈アナ〉ハ、キミガミテイナイダケデ、ホラ、スグソコニ…。

 

     ☆

 

 待ちに待った日曜日。今日は彼と五回目のデートだ。

 香織は目一杯おしゃれして、彼のアパートへ向かった。「おしゃれ」という言葉もなかなかに「面白い」単語だが、取りあえず「今」は関係ないだろう。

 彼のアパートまでは、電車を使って約三十分。その間香織は、どきどきと高鳴る胸を押さえつけるのに必至だった。

 二階建てのアパート。彼の部屋は201号室だ。

 急な階段を登るとすぐ、彼の部屋の前に到着。このままドアをノックすれば、彼が香織を出迎えてくれるだろう。

 だがその前に、コイスルオトメにはすることがある。身だしなみのチェックは怠れない。

 胸元のリボンが特徴の、フリルでデコレーションされた「おしゃれ服」。汚れてもいないのに埃を払う。彼がプレゼントしてくれた白いリボンで飾った髪も、手で撫でつける。

(うん。大丈夫)

 香織は一つ深呼吸して…いや、もう一度。コイスルオトメの儀式とは、どうにも面倒くさいものらしい。

 結局香織は、五回深呼吸してから目の前のドアをノックした。

 と、すぐさまドアが開き、

「まってたよ。香織ちゃん」

 彼が出迎えてくれた。

「は、はい」

 ドキッと大きな鼓動。そして、なんともいえない幸せな気持ち。

 コイスルオトメ。

 うんざりするが、本人はいたってマジメだ。

『勘違いだろうが思いこみだろうが、誰がなんと言おうと、<恋>はとても素晴らしい』

 これは誰の言葉だっただろう?

 誰の言葉なんてのはどうだっていいが、そういった(いえる)ヤツは、脳が膿んでいるのだろう。もしくは、脳みその代わりにドングリ(多くて三つだ)が詰まっているのかもしれない。カワイソウに。

 今の香織は、そのカワイソウな子なので、〈恋〉という幻想に支配されている。いや、〈恋〉という幻想に支配されているから、カワイソウな子なのだろうか。まぁ、どちらでもいいが。

 それにしても、世の中には「どうだっていい」ことが多すぎる。

 だがどんな些細なことでも、一度に選択することができるのは一つだ。そんな選択の連続が人生であり、人一人がたどりうる道となってしまう。

 残念なことに人生は一度きりで、その上後戻りはできない。

 後悔先に立たず。

 後になって悔やむから後悔なのであって、これは当たり前のことでしかないが。

 しかし後悔なんてものは、しないですむならしないほうがいい。

 後悔にも大小はあるだろうが、本当に取り返しのつかない後悔は、したことがない者が考えているよりずっと重い。

 どうして時間を戻すことは不可能なのか? と、悩むだけ時間の無駄なことを考え続け、眠れない日々を経過させる事態になりかねない。

 そして、本当に取り返しのつかない後悔は、高確率で人を歪ませる。

 「どうだっていいこと」と、「そうではないこと」の見極め。よりより人生を送るためには、その見極めは極めて重要だ。

 よく考え、選択する。

 自分がよりよい人生を送るために。

 悔いのない人生を送り、「最高の死」を迎えるために。

 香織には「それ」ができるだろうか? 今は無理だろう。なぜなら彼女は、コイスルオトメなのだから。

 

     ☆

 

 小学五年生にしてみれば、二十歳といえば立派な大人だ。

 常識もわきまえていて、落ち着いていて、なんでも知っているに違いない。そうでなければならない。

 義務教育も終わっていない、子供の妄想。

 だが香織にとって、その妄想は妄想ではなく真実だった。

 香織は二十歳になったことがなく、大人を理解していない。だから彼、端山義則(はたやま よしのり)を、ただの二十歳の専門学校生を、「立派な大人」だと勘違いしていた。

(今日はどこでデートするのかな? あたしは義則さんといられるなら、どこだっていいけれど)

 八畳のワンルーム。床はフローリングで壁は淡いグレー。壁に貼ってある、「マテリアル」という平均年齢十二歳の四人組アイドルグループのポスターが、香織は三週間前にこの部屋を初めて訪れたときから気になっている。

(あたしだって自分の顔はきらいじゃないし、それなりにかわいいかもって思うけど、この子たちにはかなわない)

「こんなポスターはがしてください」

 いいたいけどいえない。嫌われたくないから。イヤな子だって思われたくないから。アイドルに嫉妬するなんて、恥ずかしいことだから。

(この子たちがどんなにかわいくたって、義則さんの側にいるのはあたしなの。あたしは義則さんの「恋人」なんだから、どうどうとしてればいいの)

 負け惜しみ。言い訳。捨てきれない、くだらない嫉妬。

 二人ベッドに腰掛け、義則が淹れてくれたコーヒーを飲む。香織はコーヒーが苦手だったが、せっかく義則が淹れてくれたのだからと口をつける。

 ミルクも砂糖もたっぷり入れてもらったのに、苦い。でも、美味しいと思いこんで飲んだ。義則が淹れてくれたのだから、美味しくないわけがない。美味しくなくてはならない。それを苦い、美味しくないと感じるなんてことは、義則への裏切りだ。

「美味しい?」

 義則の問いに、

「はい。とっても美味しいです」

 香織は答えた。

 微笑む義則。香織も微笑みを返した。胸の奥がキュンとした。「キスして欲しいな」と思った瞬間、義則の顔が近づいてきた。

(うれしい。通じたんだ、恋人だから)

 香織は瞳を閉じ、顔を上向きにして唇を心持ち突き出した。初めてのときは重なるだけだったキスも、何度かしている内にディープなキスにかわっていた。

 舌を絡め、唇を吸う。零れるほど唾液を交換し、飲む。頭が真っ白になるくらい気持ちいい。どきどきして、ふわふわして、飛んでしまいそうになる。

 二人の唇が離れたときには、香織の手の中のコーヒーは冷め切っていた。

 息が届くほど近く見つめ合う二人。

「香織ちゃんが、欲しい」

 真剣な顔で義則が告げた。その意味は、香織にもわかった。

「…は、はい。もらって…ください」

 顔も耳も真っ赤にして、香織は答えた。デートの予定など、どうでもよくなっていた。

(恥ずかしいけど、義則さんに、あたしの全部もらって欲しい)

 香織はカップを取りあえず床に置くと、胸元のリボンを解きながら腰をベッドから上げた。そしてフリルいっぱいのワンピースのボタンに手をかけ、それらを外していく。

 控えめな膨らみを包んだブラが露わになると、少しだけ手の動きが止まったが、すぐに動きを続けた。

 ちなみに香織は、ブラが必要なほど発育しているわけではないが、クラスの数人が着けているので自分も(見栄を張って)着けている。

 ボタンを全て外し、肩袖から腕を抜く。スッと、ワンピースが香織の身体から滑り落ちた。

 光に晒された香織の下着姿は、年相応に幼くてかわいらしい。

 義則の視線を真っ直ぐに浴び、香織の白い肌が薄い桜色に染まる。

(み、みられてる…恥ずかしい。で、でも…うれしい)

 と、ここで香織はハッとなった。

(あっ。ど、どうしよう。パンツ…ネコさんのプリントパンツだわ…)

 こうなることなど予想していなかったので、今日の香織のショーツは、バックにかわいくないネコのイラストがプリントされた、子供ぽっいものだった。

 それはそれでかわいいと思うのだが、香織にしてみればそうではない。

 しなくていいブラまでしている見栄っ張りの香織にとって、バックプリント入りという子供ぽっいショーツをはいているなどと義則に知られるのは、とても恥ずかしいことだった。

(あたしのバカっ。どうしてこんなパンツはいてきたのよぉ)

 今さらどうしようもないだろう。観念してもらうしかない。

 義則は、香織が固まってしまったのは恥ずかしいからだと決め込んで、「きれいだよ」と告げた。勘違いも甚だしいが、香織に対しては大人ぶっていても、所詮は二十歳にもなってまだ童貞の男だ、コイスルオトメの心情など理解できるはずもない。

 だがコイスルオトメは、「きれいだよ」などという唾を吐きたくなるようなセリフでも、飛び上がってしまいそうなほど嬉しかった。

 香織は下着、次いで靴下を脱ぐと、

「…もらって…ください」

 義則の胸に身体を預けた。

 

 生まれたままの姿で、ベッドに仰向けになる香織。香織に覆い被さるように、義則。

 最初はキス。そのキスは、段々と下方に向かう。首筋から、仰向けになると膨らみがなくなる胸の先端へとキスが移動する。

 香織は緊張で、なにがなんだかわからない。気持ちいいとかそういうことは全くなく、身動きもなしに寝転がっているだけ。

 やがて義則の顔が、香織の股間に埋もれる。舌が香織の恥丘を割り、内部を舐め上げた。

「う…うくぅ」

(く、くすぐったい…)

 大切な部分を舐められて恥ずかしいというよりも、くすぐったいというほうが大きかった。

 声が漏れそうになる。笑い声だ。

 香織はそれを一生懸命飲み込んで、耐えた。

(わ、笑っちゃダメ…へ、へんに思われ…で、でも…くすぐったい…)

 ぴちゃぴちゃと、香織の秘部に義則の唾液が絡む湿った音が、室内に響く。が、耐えている香織には聞こえていない。

(うっ…だ、だめぇ。お腹…おなかつっちゃう)

 香織の腹部に、ピキピキとした痛みが走る。だが、義則の顔が香織の股ぐらから離れることも、秘部と擦れ合う舌の動きが止むこともなかった。

「くはっ」

 ビクンッと、香織が背中を反らす。

(いっ、イタイッ)

 腹部から、身体中に痛みが広がった。

 香織の動きに、義則がやっと顔を上げる。

「気持ちよかったの? 香織ちゃん」

「いいえ。くすぐったいだけです」…とはいえない。よくわからないが、そういってはいけないと香織は思った。

 だから、

「は、はい。きもちよかった…です」

「そう? だったら、もっとしてあげる」

 勘違いした義則は、再び香織の股に顔を埋めた。

(えぇっ? またするのぉ。も、もうやめて)

 当然、それは口に出せない。

 それにしても、「気持ちよかったの?」とはあまりにもお粗末というか、「普通そんなこと訊かないだろ?」…である。

 だが義則は、そのことに気がついていない。

 産まれて初めてみる異性の大切な部分。それも、まだ毛も生えていない、つるつるの一本線。

 その一本線に触れ、舐めることもできる。一本線の持ち主は、子供服のパンフレットの中にもいないような美少女で、なぜか義則のことを「好き」だとも、「恋人」だともいっている。

 ロリータコンプレックスの義則にとって、これほど最高の「脱童貞」シュチエーションはないだろう。

 香織の秘部のやわらかさに義則の頭はクラクラし、思考力が低下していた。なので二十歳の童貞男が、お粗末なことを口走っても仕方がないかもしれない。

 初めて触れる女の子の身体は、その全てが義則の想像以上にやわらかくて、いい匂いがした。

 大切な部分は、舐めれば舐めるほど口が離せなくなる。

 香織がピクピクと小刻みに痙攣しているのは、気持ちいいからに違いない。義則は上手くてきていることに自信をもった。

 どうしてそう思えるのだろうか?

(ひっ! くす、くすぐったい…まだ? まだ? も、もうやめて…わら、笑っちゃうぅ)

 香織の頭の中を、義則にみせてやりたい。

「くすぐったいだけで、気持ちよくはないらしいぞ。お前、上手くできてないじゃないか」 

 そういってやりたいものだ。

 義則の唾液でべちょべちょになる秘部。それ以外では濡れていない。そもそもくすぐったいだけで気持ちよくないのだから、濡れるはずがない。

「入れるよ? ホントにいいんだね?」

 満足するまで舐めたのか、義則が顔を上げていう。

「…はい。いい…です」

 肯く義則。その動作は、やけに滑稽にみえた。

 香織は開いた脚を義則の肩に乗せた。そうするのが、一番、義則がしやすいと感じたからだ。

 義則が香織の腰に両手をそえ、少し引き寄せる。そして視線を落とし、「場所」を確認する。初めてなので、確認しないと「場所」がわからない。

 脚を開いても閉じきったままの香織の恥丘に、義則がモノをあてがう。

 ぷにっとしたやわらかさを、堅くなった棒の先端に感じた。

 義則は腰を前に突きだした。

 が、

 にゅる

 失敗した。

 義則のペニスは、香織の割れ目にそって滑っただけで、どこにも埋もれていない。

 もう一度。

 にゅる

 もう一度。

 にゅる

 なんどやっても失敗だ。

「あ、あの…」

 香織が申し訳なさそうに声をかける。

「もう少し、下…です」

 そういって香織は少し腰を持ち上げ、自ら閉じた割れ目を指で開いて義則に示した。

「う、うん」

 義則は、香織が指で開いて露わになった性器にペニスを押しつける。

「は、はい。そこ…です」

 これでは、どちらがリードしているかわからない。

「じゃ、じゃあ…いくよ」

「…はい」

 こんどこそは失敗できない。すれば恥だ。

 義則は深く、一気に腰を突きだし、ペニスを埋め込んだ。

 ぐりっ

 どうやら成功したようだ。

 義則のペニスは、一気に半分以上が香織の膣壺に埋まっていた。

 

     ☆

 

(えっ? は、入ったの…)

 考えていたより痛みがないことに香織は驚いた。だがそれは義則のモノが小さいからなのだが、初体験の香織にわかるはずもない。

(な、なんだぁ…心配して損しちゃった)

 確かに痛みはあるが、耐えられないほどではない。注射のほうが痛いかもしれないくらいだ。

「よ、義則さん…」

「痛くない?」

「だいじょうぶです」

 香織はいいきった。実際痛くはない。もちろん、気持ちよくもなかったが。

 女性が初体験で感じるなんてのは、フィクションの中だけの作りごとだし、男女が一緒に「イク」なんてことも、実際にはほとんどない。

 女性が一緒に「イった」ふりをすることはあるだろうが、実際に「イク」ことができるのは、そういう「特殊技能」をもった女性だけだろう。

 例え一緒に「イった」としても、勘違いして「オレってテクニシャンじゃん」とか思わないほうがいい。

 それは相手の女性に「そう思わせて」もらっただけで、自分の実力でないことのほうが格段に多い。

 初体験の少女にすら痛みを感じさせることができない義則は、それでも自分のモノが小さいとは想像もせずに、

「動くよ」

 と、自信満々にいった。恥ずかしい男だ。

「は…はい」

 答えた香織の下半身に、義則の重さがのし掛かった。

 チュッ、ちゅっ

 擦れ合う性器と性器。

 香織はお腹の中で蠢く義則を感じた。

(あ、あたし…してる。セックスしてる…)

 香織は不思議に思った。

 セックスは大人のするものだと思っていたのに、子供の自分がそれをしていることを不自然に感じた。

 そう感じることができる余裕が、香織にはあった。

 だが、義則にはなさそうだ。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 息を吐きながら、香織の腰に手をそえて、不器用に腰を前後させる義則。腰を動かすこと以外、なにも考えられないようにみえる。

 香織は、冷静に義則を観察し、考えていた。

(これで、本当にいいの? こんなのがセックスなの?)

 まるで気持ちよくないし、苦痛でもない。

 香織はセックスというものを、「もっと素晴らしいもの」だと想像いていた。

 もっと気持ちよくて、心が満たされて…そんな、「素晴らしいもの」だと。

 だが香織が小さな身体で体験している「それ」は、とても「素晴らしいもの」とは思えなかった。

(これがセックス? こんなのが? こんなの、なんでもない。どうして? あたしが、まだ子供だから?)

 ワカラナイ。

 リカイフノウ。

 ナニカガ、カケテイル。ソレハ…ナニ?

 無心で香織に押し入っている義則。

(気持ちいいですか? 義則さん。あたしは…こんなの、なんでもないです)

 カケテイルノハ、アタシ?

 ソレトモ…。

 香織の中で、なにかが急激に冷めて凍った。

(どうしてあたし、セックスなんてしてるの? まだ子供なのに…)

 イヤ…。

 コンナノ、イヤッ!

「か、かおり…香織ちゃんっ」

 義則の声が、香織の意識を浮上させた。

「イク…もうダメっ!」

 香織の中に、熱くて「キモチワルイモノ」が放出された。

(う、うそ…? どうして? どうして中にだすのっ?)

 香織は、義則が膣内に射精するとは思っていなかった。

(ど、どうしよう…あ、赤ちゃん…できちゃう)

 それは香織が保健の授業で習った知識で、確実に「そう」なるというものではなかったが、香織は「膣内に射精される=妊娠する」と結びつけてしまった。

 冷たい恐怖が香織を満たした。

(あ、あたし…赤ちゃん、産むの? そんなっ! あたしまだ子供なのにっ)

 そう、香織はまだ子供だ。

 そして子供の彼女には、「子供を産む機能」は備わっていない。香織はまだ、初潮を迎えてはいないのだ。

「…い、いや。いやあぁ…」

 それでも香織は知っていた。セックスすることで、膣内に射精されることで子供ができるのだと。だから自分は赤ちゃんができてしまうのだと。

 未熟な性知識。だが香織にとっては、それが「真実」だった。

「…ど、どうして?」

「はぁはぁ…か、香織ちゃん。よかったよ、すごくよかった…」

「どうしてですかっ?」

「えっ? な、なに? どうしたの?」

「どうして中に出すんですかっ? 赤ちゃん…できちゃう…」

「えっ? エエェッ?」

 義則は本当に驚愕した。

 香織が初潮を迎えているなどと、想像もしていなかった。

 実際、その通りなのだが…。

 香織は顔をくしゃくしゃにして、泣き出してしまった。

 怖かった。

 泣くことしかできなかった。

「ばかっ。義則さんのバカアァーッ!」

 香織が、まだ繋がったままの義則の胸元を突き飛ばした。

 義則から身体を離した香織は、両腕で自分の身体を抱きしめ、そのまま上半身を倒して踞る。

「うっ…うぅっ、いや…あかちゃん…いやぁ」

 身体を小刻みに振るわせ、香織は泣き崩れる。

 義則はどうしていいのかわからず、ただ無言で香織を見下ろしていた。

 性器から零れる赤が混じった精液が、香織の内股を伝いシーツに染みを作る。香織は、自分が深い穴に落ちてしまったように感じた。

 けして抜け出すことができない、恐怖と絶望の穴に。

(バカだ…あたし、バカだ…)

 無知という罪。

 知らないから、わからない。

 それは当然のこと。

(どうしよう…あかちゃん。あたし、どうしたらいいのっ?)

 無用の心配。香織に生殖能力はない。

 だが香織には、誤った性知識はあった。

 だから…

(し、死ぬ…? 死ねば、赤ちゃん産まなくていい?)

 それこそバカだ。

(う、うん。そ、そうよ。死ねばいいんだわ…)

 あまりにも短絡的で、刹那的で、愚かな思考。

 しかし香織にとって、この愚かな思考だけがすがれるモノだった。自分を「助けて」くれるモノだった。

 光がみえた。死が恐怖ではなくなった。

 それは「救い」となって、香織に光を示した。

 そして香織は、その「救い」にすがった。

 

 安岐香織という少女だった赤にまみれ潰れた「物」が、彼女の自宅マンションの敷地内で発見されたのは、それから約二時間後のことだった。

 彼女の勉強机の上には、「ごめんなさい」という文字だけが記されたメモ。そして自宅マンションの屋上には、きちんと揃えられた彼女の靴と、なぜか丸めて靴の中に入れられた靴下が残されていた。



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