白く小さなキャンバスに

 

 

     1

 

「おはようございます。おにいさま」

 目が醒めた瞬間。一瞬、ボクは自分がどこにいるのかわからなかった。しかしすぐさま頭が正常に働きだし、「おはよう。椎奈」と、ボクは一回り以上年下の従妹に挨拶を返した。

 そうだ。ボクは昨日から、従妹の茜森椎奈(あかねもり しいな)と二人暮らしを始めたんだ。

 椎奈の両親。ボクから見れば叔父さんと伯母さんは、二ヶ月もかける世界一周旅行に出かけてしまい、その間、椎奈の面倒をボクが見ることになったんだ。

「朝食の準備はととのっていますわ。早く着替えて、ダイニングに降りてきてくださいませ」

 センスよくフリルがちりばめられた白のワンピースを着た椎奈が、ベッドの傍らに立ってボクに頬笑みを向ける。

「……朝ご飯?」

 何年ぶりだろう? 朝食を採るなんて。

「椎奈が作ったのかい?」

「はい。そうですわ、おにいさま」

 う〜ん……お嬢さま育ちなのに料理が作れるなんて、椎奈はえらいな。それに椎奈は、まだ小学四年生のはずだ。誕生日もきてないから、10歳にもなってない。

 ボクなんか大学四年生にもなって、普段は一人暮らししているくせに料理なんかしたことがない。コンビニ弁当か外食ばかりだ。

 やはり従兄妹同士とはいえ、家庭環境が違うとここまで違うのだろうか?

 ボクの家はごく普通のサラリーマン家庭だけど、椎奈の家はすごくお金持ちで、椎奈も名門お嬢さま学校に通う、純粋培養のお嬢さまだ。

 ボクが二ヶ月間、椎奈と二人きりで暮らすことになったこの家だって、「どんな悪いことすれば、こんな家に住めるようになるんだ?」といぶかしみたくなるほど、広くて立派だ。

「では、お早くダイニングにおこしくださいませ」

 外見には似合っているが、年齢には似合わない丁寧な口調で告げると、椎奈は腰の上辺りで切りそろえられた長い黒髪を揺らし、ボクに軽く頭を下げた。

 椎奈が部屋を出ていくのを見送り、ボクはベッドから抜け出して着替えを済ませた。

 二階の部屋から一階にあるダイニングに降りると、大きなダイニングテーブルに並べられたクロワッサンを中心とした朝食と、ちょこんと椅子に腰掛けている椎奈が目に写った。ボクの瞳に自分が写っているのがわかったのか、椎奈が控えめにニコッと頬笑む。

「どうぞ、そちらにおかけくださいませ」

 ボクは椎奈に示された通り、彼女の対面に腰掛けた。

「待っていたのかい? 先に食べていればよかったのに」

「そういうわけにはまいりませんわ。それに、おにいさまとご一緒にお食事が採れるのを、わたくし楽しみにしていましたのよ」

 あぁ……嬉しいこといってくれるよなぁ。ボクにこんなことをいってくれるなんて、世界中で椎奈一人だろうな。

 かわいい椎奈。姉妹のいないボク(兄は一人いる)にとって、椎奈は正に妹のような存在だ。椎奈もボクを「おにいさま」と呼んで、なぜか慕ってくれている。

 朝食を採っている間、椎奈は食事以外では口を開かなかったが、何度かボクを見て、その度に上品な頬笑みをくれた。

 それにしても不思議に思う。

 なぜ椎奈は、こんなにもボクを慕ってくれているのだろう?

 ボクは自分でも、自分が「たいした人間」ではないことは知っているし、女の子に好かれることなど、全くといっていいほどない。

 椎奈は、「兄」としてボクを慕っているのだろうけど、それでも不思議だ。

 朝食を終えると、椎奈はすぐに食器を手際よく片づけた。そしてボクがぼーっと座っているテーブルに戻ってくると、

「おにいさま? 本日は、なにかご予定はございますか?」

 今日は土曜日で、ボクも椎奈も学校は休みだ。とはいえボクは大学四年生なので、大学に行かなければならないのは、週に三、四日だけだ。椎奈が通う小学校……いや、私立の女子校の初等部は、土日が休みの週休二日制らしい。

 なので、今日と明日の二日間別に予定のないボクは、椎奈がなにも予定がないのなら、ずっと一緒にいることができる。

「ボクは今日も明日も、予定はなにもないよ。椎奈はなにか予定があるのかい?」

「いいえ。わたくしも予定はありません。でしたら、その……」

 そういうと、椎奈は耳まで真っ赤にして、

「わ、わたくしと、お出かけしていただけませんか……?」

「お出かけ? いいよ。どこか行きたいところがあるのかい?」

「あっ、はい」

「よし。じゃあ、そこに行こう」

「お、おにいさま? わたくしまだ目的地を……」

「……? あぁそうだね、ごめんよ。ボクは椎奈とお出かけなら、どこだっていいからさ。で、どこに行きたいの?」

「あの……わ、笑わないでくださいませ?」

「笑われるようなところに行きたいのかい?」

「い、いえ……でも、子供っぽい場所ですから……」

 なにいってるんだろう? 椎奈はまだ子供じゃないか。

「いってごらん? どこだって、ボクは笑わないよ」

「そ、そうですか? では、その……わたくし、動物園に行きたいのですが……あっ、お、おにいさまが恥ずかしいのでしたら……わ、わたくしは……」

 なぜ動物園が恥ずかしいのか、ボクにはわからなかった。椎奈はどこかで、大人が動物園に行くのは恥ずかしいことだとでも教えられたのだろうか?

 それにボクは、動物園に行きたいという椎奈を笑ったりしないし、動物園がさほど子供っぽい場所だとも思わない。なぜ椎奈がそんなことを気にするのか、わからないくらいだ。もしかしたら最近の小学生は、四年生にもなると動物園はもう子供っぽい場所だと思うものなのか?

「いいよ。一緒に動物園に行こう」

 この街で動物園ということは、電車で一時間弱ほどの距離にある篠山動物園のことだろう。というか、ボクはそこしか動物園を知らない。水族館なら二カ所知っているけど。

「ほ、本当ですかっ?」

「ボクは椎奈にウソを吐いたり、騙したりなんかしないよ」

「あっ、そ、そうですね……申し訳ありません、おにいさま……」

 本当に「申し訳なさそう」な顔をする椎奈。どうしてこんなにかわいいのだろう? この世界で、椎奈だけが「純粋な存在」のように感じる。とてもではないがボクと従兄妹だとは思えないくらい、椎奈はかわいくて純粋だ。

 できることなら二ヶ月なんて決められた時間ではなく、ずっと椎奈と一緒に暮らしたい。一生かわいい椎奈と、「頬笑み合って」暮らしたい。

 でも椎奈がこうしてボクに懐いてくれるのは、椎奈がまだ子供で、世間を、男を知らないからだろう。

 いつまで椎奈は、ボクを「おにいさま」と呼んで慕ってくれるのだろうか? いつまで椎奈は、ボクに頬笑みを向けてくれるのだろうか?

 そう思った瞬間。ボクの胸にズキッと痛みが走った。

 できることなら一生、椎奈の「おにいさま」でいたい。頬笑みを向け続けて欲しい。

 しかしそれは叶わない願いだろう。

 ボクの胸に、もう一度痛みが走った。

 ズキッとした、とても耐えきれないほどの痛みが……。

 

     2

 

 土曜日の動物園は、はっきりいって空いていた。とはいっても最近では、動物園は子供にあまり人気がないらしい。そういうニュースを観たような憶えがある。

 しかし椎奈は違うようで、大きな瞳をキラキラさせながら、ゾウだのキリンだのを目に焼き付けるのに忙しそうだ。

「おにいさま……?」

 猿山を眺めていると、不意に椎奈がボクに目を向けた。

「なんだい?」

「あ、あの……やはり、退屈なのではありませんか?」

「どうして? 楽しいよ」

「で、でも……おにいさま、あまりお話しをしてくださいませんし……」

 お話し……って? 会話が少ないということだろうか?

 でもそれは、楽しそうな椎奈に見とれていたからで……。

「そうかい? ごめんよ」

 ボクは素直に「口を開くのも忘れて、椎奈に見とれていた」とはいえず、「椎奈が楽しそうだったから、じゃましちゃ悪いかなって」と、無難に答えておいた。

「だから、退屈じゃないよ。椎奈はボクのことなんか心配しないで、十分に楽しめばいいんだよ。そのほうが、ボクも嬉しいからね」

「それでしたら……よいのですけれど……」

 椎奈は納得できていないようだ。子供なのだから、そんな気を使う必要はないのに。それに相手はボクだ。ボクに対してまで遠慮することはないと思うし、遠慮されていると思うと、少し寂しい。

「そうだ、椎奈。お腹空かない? なにか食べようか?」

「あっ。は、はい」

 場を和ますためにそういってみたけど、ボクは普段採らない朝食を採ったためか、もう正午になるも関わらず、あまり空腹ではなかった。でも椎奈は違うだろう。椎奈の性格からして、自分から「お腹が空いた」とはいわないだろうから、この辺で休憩にするのも悪くない。

「じゃあ、なにか食べる物買ってくるから、そこのベンチで待ってて」

 ボクはそういい残し、売店に向かった。売店で二人分のホットドッグとドリンクを買って戻ってくると、椎奈に声をかけているオバサンがいた。

「お、おにいさまっ」

 椎奈がボクに駆け寄ってくる。そして、ボクの後ろに隠れた。

「どうしたんだい? あの人……誰?」

 ボクの質問に答えたのは椎奈ではなく、そのオバサンだった。

「あなた、その子のお兄さんですか?」

「まぁ、従兄ですけど。椎奈が……この子がなにか?」

「いいえ。学校はどうしたのと訊いただけです。私、補導員ですので」

 そうか……今日は土曜日だから、普通の小学生は学校に行っているはずの時間だ。

「あぁ、そうですか。でもこの子は私立の……えっと、確かセント・シェラリール女学院に通っていますから、今日は休日なのです。そうだね? 椎奈」

 椎奈は「は、はい」と、どこか自信なさげに答え、肩にかけているショルダーバッグからなにか取り出した。

「こ、これ……院生手帳です」

 補導員は、差し出された院生手帳とやらを受け取り中を確認する。と、すぐに椎奈にそれを返し、「ごめんなさいね。これが仕事なのよ」と椎奈に頬笑みを向けた。

 そして、

「じゃあ、お兄さんとデートの続きを楽しんでね」

 と去っていった。

 なんでこんな空いている動物園に補導員がいるんだ? ゲームセンターとか行けよな。それにこんなかわいい椎奈が、学校をサボったりするわけないだろ?

 ……って、そんなこと他人にわかるわけないか。

 椎奈は、ボクの服の裾を掴んで離さない。こわかったのかもしれない。

「こわかったのかい? ボクと一緒に行けばよかったね。ごめんね、椎奈」

 ボクが顔を覗き込むと、椎奈は俯いて顔を隠した。ボクは、その顔が紅くなっているのに気がついた。

 泣いてる……ってことはなさそうだけど……。なんだろう?

「どうしたの、椎奈? どこか痛いの?」

 椎奈は首を横に振る。

 仕方がないので、ボクは椎奈の手を取ってベンチまで連れていくと、そこに腰掛けて椎奈に彼女の分のホットドッグとドリンクを渡した。

「さぁ、食べよ?」

「は、はい……」

 椎奈が小さな口を開けてホットドッグに付けるのを確認すると、ボクも同じようにして自分の分を口にした。

 椎奈は無言で食事を続ける。ボクは椎奈より早く食事を終えてしまった(まぁ、当然だけど)ので、まだ食事を続けている椎奈の隣で、ぼーっと辺りを眺めていた。

「あ、あの……おにいさま?」

「ん? あぁ食べ終わった?」

「はい……」

「じゃ、どうしようか? 今度はなにを見に行く?」

 食事を採って落ち着いたのか、椎奈の様子はもとに戻っていた。結局、なんだったのだろう?

 まぁいいか。

「行こうか?」

 ボクは立ち上がって、椎奈に手を差し出した。手を繋いでいれば、もう補導員なんかに声をかけられることもないだろう。

 椎奈は差し出された手の意味が即座に理解できなかかったのか、少し躊躇してからその手を取った。

 椎奈の手はとても小さくて、でも柔らかく、温かかった。

 その後、ボクたちはずっと手を繋いで動物園を歩いた。椎奈は午前中のようにはしゃいだりはしなかったけど、時折ボクを見上げて嬉しそうに頬笑みをくれた。

 その度にボクはなんともいえない幸せな気持ちになって、頬笑み返した。

 ずっとこんな時間を、椎奈と過ごしていければいいのに。

 そう思ったけど、楽しい時間は刹那に過ぎ去ってしまった。

 でもいい。これから二ヶ月間は、椎奈と一緒にいられるのだから。また椎奈と手を繋いで、動物園を廻ることもあるかもしれない。

 だから今、ボクは幸福だといえる時間の流れに包まれている。

 

     3

 

 時計の針が午後十時三十分を回った。でも、寝るにはまだ早い。

 ボクは自分の部屋のベッドに腰掛け、たいして興味のない雑誌を適当に捲っていた。

 その時。

「おにいさま。入ってもよろしいでしょうか?」

 なんだろう? こんな時間に……。

「いいよ」

「失礼いたします……」

 そういって部屋に入ってきた椎奈を見て、ボクは固まってしまった。

「……ご、ご迷惑でしょうか」

 ご迷惑とかそういうことじゃなく……。

「し、椎奈……ど、どうして、服……着てないの?」

 椎奈はその幼く未成熟な肢体に、一糸もまとっていなかった。

 胸の前で腕を交差させ、細く薄い身体を露わに俯く椎奈。

「……お、おにい……さま。わ、わたくし……」

 恥ずかしそう(実際、恥ずかしいと思う)に俯き、途切れ途切れに言葉を繋げる椎奈。ボクはその言葉を聞く以外、驚いて……いや、違う。椎奈に見とれてしまって、なにもいえず、なにもできなくなっていた。

「おにいさま、そ、その……」

 一度言葉を区切り、椎奈が告げた。

「わたくしを、椎奈をもらってくださいませ」

 顔を真っ赤にし、それでも真っ直ぐにボクをみつめ、椎奈は告げた。

「……えっ?」

 椎奈は、自分が告げた言葉の意味を理解しているのだろうか?

 ボクには、とてもそうだとは思えなかった。

 でも現実に、椎奈は一糸も纏わない姿で目の前にいる。

「お、おにいさま……?」

「……し、椎奈?」

「は、はい」

「椎奈は、自分がなにをいってるのか、わかってるのかい?」

「……わかっています」

「本当に?」

「わたくしは……もう、子供ではありません」

 どこからどうみても、椎奈は子供にしかみえない。そして、事実子供だ。

「ご迷惑なのはわかっています。でも……わたくしは、おにいさまが好きです。おにいさまを……あ、愛して……います。ですから……お願いです。わたくしを、おにいさまのものに……おにいさまの椎奈にしてください……」

 紅く染まったかわいい顔を飾る椎名の瞳から、透明な涙が零れ頬を伝った。

 椎奈が……ボクのことを好き? あ、愛しているっ?

 信じられない。でも椎奈がそんなウソを吐くはずがないし、涙まで流して好きだと、愛していると告げた椎奈を拒否するなどということが、ボクにできるはずがない。

「ホ、ホントに……いいんだね?」

 コクンと肯く椎奈。ボクはその、小さな椎奈の身体を抱きしめた。椎奈の身体はすごく柔らかくて、それに……とてもいい香りがした。

 

 ボクは裸の椎奈をベッドに横たえて、小さな桜色の唇にキスをした。

「んっ……うくぅん……」

 舌を入れると、椎奈も舌を突きだしてボクのそれに絡めた。

「……椎奈」

「お、おにいさまぁ……」

 潤んだ瞳。上気した頬。キスで濡れた唇。

 椎奈。かわいい……ボクの椎奈。

 今度は、椎奈からボクにキスをしてきた。ボクは受け入れ、差し込まれた舌を吸い、甘い唾液を飲んだ。

 キスの間息を止めていたのか、唇を離すと椎奈は「ぷはぁ」と大きく息をした。その仕草がかわいくて、ボクは苦笑を漏らす。

「ど、どうなさったの? おにいさま……」

「なんでもないよ」

 不思議そうな顔をする椎奈を仰向けに寝かせつけ、ボクはその未成熟な身体を眺めた。

「お、おにいさま……そんなに、み、みつめないでくださいませぇ……」

 恥ずかしそうな椎奈の胸に、ボクは顔を埋めた。

 椎奈の胸は微かに、ホントに微かに膨らみ始めていたけど、その先端の桜色は陥没していて、椎奈がまだ子供であるという事実をボクに突きつけた。

 その陥没乳首にキスをする。椎奈は「ぅく……」と小さく声を漏らし、「く、くすぐったいです……お、おにいさまぁ」とかわいく主張した。

「我慢できない?」

「……で、できます」

 ボクはキスを続けた。その度に椎奈は、くすぐったそうに身体をくねらせながら声を漏らす。

 その仕草と声は、ゾクゾクするほどかわいかった。

 ボクはキスの位置を、じょじょに下へと移動させた。肋の浮いたお腹。美味しそうなおへそ。そして……その下へも。

「……脚……開いて。椎奈」

 少しの躊躇いの後、ボクの目の前で椎奈の脚がそっと開かれる。露わになる椎奈の大切な場所。

「は、恥ずかしいです……」

 そんなことない。とてもきれいで、素敵だ。恥ずかしがることなんて、なにもない。

 脚を開いても椎奈の大切な場所は完全に閉じていて、ぷにっとした肌に短めの縦線が走っているだけだった。

 ボクはその部分の、考えていた以上の小ささに気後れしてしまった。

 ホントにできるのか? こんなに小さな部分に、ボクのがホントに入るのだろうか?

 知識では知っているが、ボクにとって初めての体験だ。ここまではなんとか椎奈をリードしているけど、これからは、女の子のこの部分は、ボクの未知の領域になる。

 どんな女の子でも、「ちゃんとできるようになっている」と聞いたことはあるが、それは子供の椎奈にも当てはまるのだろうか?

 ホントに……「しても」いいのだろうか?

 壊してしまうのではないか? 椎奈を、大切な椎奈を壊してしまうのではないか?

 ボクは椎奈が欲しい。これにウソはない。そして椎奈も、物心がついてからは誰にも見せたことがないだろう大切な部分を、こうしてボクに開いてくれている。それで十分じゃないのか?

 ボクの心は決まっている。そして、椎奈の心も決まっているのではないか?

 無理に、最後まで「する」必要があるのだろうか?

「……お、おにいさま? ど、どうなされましたか……?」

 じっと大切な場所を凝視され続け、困惑した声で椎奈が問う。ボクはその声に、ハッと意識を浮上させた。

「い、いや……なんでもないよ」

 考えと裏腹に、痛いくらいに膨張しているボクの性器。椎奈の小さな部分と繋がる瞬間を、準備を整えて待っている。

 抗えないと思った。その「命令」に。

 ボクは吸い付けられるように、その小さな割れ目に顔を寄せ、線に沿ってキスをした。

「あっ、お、おにいさまぁ。そん、そんな、汚いですぅ」

 キュッと脚を閉じようとする椎奈。ボクはその脚を手で押さえて、キスを続けた。

「お、おにいさまっ。だ、だめですっ」

 ダメといわれても、ボクはもう「戻れない場所」まで来てしまっている。

 柔らかな閉じた肉を割り、その中に舌を埋めた。

「きゃっ」

 椎奈の味がした。脳みそがとろけてしまいそうだ。

 舌を喰わえ込む肉の感触。ボクは夢中で貪った。

「うんっ、く、くすぐっ、あっ、お、おにぃ……さま……くす、くはあぁん」

 跳ねる椎奈の腰を掴み、固定して、ボクは椎奈の股間に顔を埋めて貪り続けた。

 唾液で濡れる椎奈の股間。それ以外の湿りはない。

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 不意に、椎奈の力が抜けた。

 ボクは顔を股間から離して、息を吐く椎奈を覆い被さる形で見下ろす。

「椎奈……ホントに、いいんだね?」

 潤んだ瞳でボクを見て、椎奈は小さく肯いた。

 ボクは椎奈の腰を少し持ち上げ、短い縦線に堅い肉をそえた。

「……いくよ」

 腰を突き上げる。しかし、上手く「入って」くれない。位置を修正して、もう一度。

「いっ!」

 椎奈が瞳を堅く閉じ、額にしわを寄せる。

 上手くいったかどうかはわからないけど、先端が肉に埋まった感触は伝わった。しかしそれ以上埋まるとは思えなかった。

「……し、椎奈……ここで、ここでいいんだね……?」

 変なことを訊いているとはわかっていたが、訊かずにはいられなかった。椎奈は苦しそうに、うめくような声で「はい」と答えた。

 その返答に、ボクは腰に力を入れた。

 肉を引き裂くような感触。下唇を噛み、うめき声を零しながら涙を流す椎奈。それでもボクは止まらなかった。

 止まることができなかった。

 と、

 グチイィ

 なにかが貫通した。ズブッと埋まり、先端に行き止まりを感じた。

「ウギッ! ひいぃ、ひいいぃ」

 椎奈が、顔と上半身を左右に大きく振る。

 繋がった……と、わかった。

 ボクと椎奈は繋がったのだと。

「椎奈、しいなっ」

「お、おにい、おにいさまあぁっ」

 頭の中が真っ白になった。ボクを呼ぶ椎奈の声が、どこか遠くから聞こえてくる。

 こんな近くにいるのに。

 繋がって……いるのに。

 ボクはなにをしているのだろう? 椎奈はなにをしているのだろう?

 ボクは「命令」に従って、腰を動かした(ホントに動かしているのか? よくわからない)。全身が性器になってしまったように、ボクは椎奈に締め付けられる。

 暖かな椎奈に包まれて、そのまま溶けてしまいそうだ。いや……溶けてしまいたい。

 溶けて、椎奈と「一つの存在」になってしまいたい。

 椎奈がボクを呼んでいる。

「おにいさま。おにいさまぁっ」

 ボクも椎奈を呼ぶ。

「椎奈。椎奈っ」

 壊れてしまいそうだ。

 壊してしまいそうだ。

 脆いなにかが。

 脆いなにかを。

 だけどボクは、これ以上ないというくらいの「幸福」を感じていた。

 掴んだのだと、手に入れたのだと感じた。

 椎奈。

 椎奈との「永遠」を。

 これでずっと椎奈と一緒に、これで椎奈はボクだけの椎奈に。

 ボクは椎奈という「小さなキャンバス」に、自らの手で最初の一筆を刻み込んだ。

 

     4

 

 約束の二ヶ月が終わるまで、後僅かの日数しか残っていない。

 そして今、ボクは苦悩している。ホントにこれが、ボクが、そして椎奈が望んでいたことなのだろうか?

 ボクにはわかならない。椎奈にはわかっているのだろか?

「……んっ、んくっ、チュ……ちゅくちゅ……んっ、ぅんはぁ……ちゅッ、ちゅぱっ……」

 ベッドに横になるボクの起立したペニスを、無心で口に含み舌を這わせる椎奈。

 二ヶ月前までの、あの眩しいほどの「純粋さ」は影を潜め、幼く、でも整った顔には妖しいまでの表情が張り付き、その顔を飾る大きな瞳には鈍く暗い光が宿っている。

「んはあぁ……お、美味しいぃ……おちんぽおぉ……おにいさまのおちんぽぉ、すごく、すごく美味しいですうぅ……んっ、んっ、ちゅ……んちゅぱっ……くちゅ、んっ、ぅんくっ……」

 学校では普通にしているようだが、家に帰ってくるなり椎奈は一変して、「こうなる」ようになってしまった。

 ボクを見るなり潤んだ瞳で「してぇ……おにいさまぁ」と自分の服を脱ぎ、ボクの服を脱がせる。

 三つの穴のどこででもボクを喰わえ、飽きることなく精液を吸い出そうと夢中になる。

 急激に成長した椎奈の舌技に負け、ボクは生暖かい口腔内に頬張られたままぶちまけた。

「うっくうぅっ、ふ、ふはあぁんっ……せーえきいぃ。おにいさまの、おにいさまのぉ。ちゅぱ、ちゅくちゅぱ……お、美味しいぃ……せーえきぃ、せーえきすてきですうぅ」

 口の中で、ワインを味わうように舌を転がして精液を味わう椎奈の姿に、ボクは欲情とともに悲しみを覚えた。

 どこで狂ってしまったのか? 少なくともボクは、この状態が狂っていると理解している。

 だが、椎奈はどうだろう?

 今の姿を見る限り、椎奈には理解できているとは思えない。

 かわいい椎奈をここまで堕としてしまったのは、このボクに他ならない。

 心のままに椎奈を求め、なにも考えずに、考えることができずに椎奈を求め続けたのはボクだ。

 あの最初の日が過ぎ去り、明けた日曜日から、ボクは時間があれば椎奈を抱き続けた。椎奈は拒まなかった。

 いつでも、どこでも……。

 ベッドの中はもちろん、食事中でも抱きたくなれば抱いた。一緒に風呂に入って抱いた。ボクの部屋で、椎奈の部屋で、トイレで、玄関で、朝も、昼も、夜も、ボクは椎奈を抱き続けた。

 飽きることはなかった。それよりも、抱けば抱くほど愛おしくなり、愛おしさが募るほど抱いた。

 行為は段々とエスカレートして、ボクが椎奈の三つの穴を征服するまで、三日とかからなかった。

 椎奈は自ら腰を使うようになり、舌技も教えた通り以上にマスターし、排泄器官での行為も悦ぶようになった。

 快楽に支配され、快楽を得るための努力を惜しまないようになった。

 そして、じょじょに虚ろな表情を見せるようになり、それに伴って瞳の光も鈍くなっていった。そのことがわかっていながらも、ボクは椎奈を抱き続けた。新しい快楽を教え、刻み続けた。

 ボクが「なにか狂いが生じている」と気づいたのは、二人の生活が一ヶ月ほど経過した日のことだった。

 その日椎奈は、起きても朝食を作らなかった。「どうしたの?」と訊くボクに、椎奈は「時間がもったいないです」と答えた。

 椎奈は、「食事を作る時間があるなら、セックスしていたい」と主張したのだ。そして自らボクに乗り、蠱惑的ともいえる顔で腰を振った。

 椎奈は悪くない。椎奈を壊し、堕としてしまったのはボクだ。

 なら、ボクになにができる?

「し、してぇ……おにいさまぁ。おまんこしてぇ」

 精液の残りかすを口元に付着させ、涎を垂らして強請る椎奈に、ボクができることは一つしかない。

「あぁ、いいよ。してあげる」

「は、はい……して、してくださいぃ」

「どこに欲しいんだい?」

「ど、どこでもいいですぅ……だから、はやく、はやくくださいませぇ」

 四つん這いになりボクに小さなお尻を向ける椎奈の股間は、すでにベトベトに濡れて液が滴っている。

 意識とは無関係に、口に出してまだ間もないボクのモノが、その光景に力を取り戻す。

「あっ、は、はやくぅ。入れて、いれてくださいませぇ。ぐちゅぐちゅかき混ぜてくださいっ……はっ、はやくうぅ」

 堪えきれないのか、椎奈は自ら指で性器を押し広げ、滴る液で手を濡らしながらボクを迎え入れようと必死になる。

 ボクはこの約二ヶ月で随分広がった椎奈の穴の一番奥まで、一気に突き刺した。

「ああぁぅんっ!」

 たいした抵抗もなく、それは受け入れられる。

「うはあぁんっ。あっ、あっ、あうぅんっ、はっ、あはあぁんっ、お、おにい、おにいさまあぁ、もっと、もっとつよく、もっとつよくしてえぇっ」

 パンパンと肉がぶつかり合う音と、繋がった部分から響く湿った音。それに椎奈の甘い声が重なり、その音楽がボクの思考能力を奪っていく。

 ボクを喰わえ込み締め付ける温かい肉の感触が、身体全体に広がってボクを満たそうとする。

「あっ、あっ、あううぅんっ! いっ、いくうぅ、いってしまいますうぅっ!」

 椎奈は入れられたままの体勢で大きくエビ剃りになって、身体中から吹き出す汗と、長い髪を空に舞わせ絶頂に達した。

 はぁはぁと息を吐く椎奈を思い、ボクが抜こうとすると、

「らぁ、らめぇ。ま、まだぁ、お、おにいさま、いって、いってらっしゃらないですうぅ……」

「でも、椎奈は辛いだろ?」

「へ、平気ですぅ……わた、わたくしは……だからおにいさまぁ……いって、わたくしの、わたくしのおまんこでぇ、おまんこのなかで、いって、いってくださいませぇ」

 ピクピクと小さく痙攣しながらも、椎奈はボクに「イってくれ」とせがむ。

 かわいい椎奈。「純粋」にボクを想い、慕ってくれる椎奈。

 そんなところは、以前と変わっていないのに。

 なのに……。

「なぁ、椎奈?」

「は、はいぃ……な、なんでしょう……?」

 なにかにすがるように、ボクはその質問を口にした。

「動物園……今度、また一緒に動物園に行こうか……?」

 頼む椎奈……「はい。行きましょう」といってくれ。そういって、「あの頬笑み」をボクに与えてくれ。

 頼む……頼む、椎奈……。

 椎奈は口を動かして、「答え」を紡いだ。

 ……ボクの頼みは聞き入れられなかった。「あの頬笑み」は与えられなかった。

 ボクは椎奈に押し入り、打ち付けた。

「い、いやですぅ。おま、おまんこしているほうが、ずっと、ずっといいですうぅ」

 たぶん一生ボクの中で消えることはないだろうその「答え」を、今この瞬間だけは忘れてしまいたくて、かつて真っ白だった小さなキャンバスに、ボクは「欲望」という絵を描き続けた。


End


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