深夜さまの楽しいお遊戯

 

 

     1

 

 六畳ほどの洋室。青白い蛍光灯の光が、薄暗く室内を照らしている。

 室内には二つの人影。小さいものと、大きいもの。

「さぁ、なめなさい?」

 小さい方の影。一人がけのソファに身体を埋める、純白のドレスを着た十歳ほどの少女が、彼女の足下に跪くもう一つの影(男だ。三十歳ほどだろうか)に紅い靴を履いた細く長い脚を差し出し、優しく、しかし命令口調で告げた。

「は、はい。深夜さま」

 男はそっと腕を伸ばし、紅い靴の底に手をそえる。そして顔を近づけ、靴の先端に舌を伸ばした。

 深夜(みよ)と呼ばれた少女が、楽しそうに頬笑んで「くすっ」と笑う。

「どう? おいしいでしょう?」

「はい。とても美味しゅうございます。深夜さま」

 背中を全部隠してしまうほど長い、軽くウェブがかかった色素の薄い髪をかき上げ、深夜は満足そうな表情を、キレイというよりはカワイイと形容した方がいいだろう面に宿した。

「はぁ、はぁ……み、深夜さま、みよさまッ」

 男が、深夜の靴をむしゃぶるように舐め始める。

「くすっ。くすくす」

 男の息づかいが荒くなり、ぴちゃぴちゃと響いていた音が、じゅるじゅるというものに変わっていく。

「深夜さま。あぁ、じゅ、ジュパッ……み、みよさま」

 男は肩を大きく上下させ、跪いた身体を震わせる。深夜は頬笑んで、男の頭を見下ろしていた。

「くすっ……かわいい」

 深夜は言葉通り、愛くるしいペットでも観賞しているかのような表情で、男を見下ろしている。

「み、深夜さま……も、もう……あぁッ」

 切なげな声で男が鳴いた。

「なに、もうだめなの? おちんちんカチカチなの?」

 深夜が頬笑みながら問う。言葉の内容とは違い、その口調には男をバカにしたような含みはない。本当に優しく、母が我が子に「今日はなにが食べたいの?」と問う口調と、なにも変わる所がない優しい口調だ。

「あっ、は、はい」

 男はその問いに、顔を靴につけたまま答えた。

「靴なめるだけで、おちんちんカチカチにしちゃったの?」

「はい……」

「誰が、おちんちんカチカチにしていいっていったの?」

「も、申し訳ございません。深夜さまッ」

 深夜の靴から口を離し、男がその場に土下座する。露わになった男の後頭部を、深夜は頬笑みながら踏みつけた。

「あなたはなに?」

 問う。頬笑みながら、優しい口調で。

「み、深夜さまの奴隷でございます」

 答える。当然のことを述べるように、はっきりとした口調で。

「そうよね。じゃあ……しつけのなってないドレイには、おしおきが必要よね?」

「は、はい。その通りでございますッ」

 嬉しそうな、そしてなにかを期待するかのような色が、男の声には含まれていた。

「服、ぬぎなさい? かってにおちんちんをカチカチにしたドレイに、ごしゅじんさまがおしおきしてあげるわ」

「あ、ありがとうございます深夜さまッ。よ、宜しくお願い致します」

「……さぁ、ぬぎなさい」

 男は着ていた仕立てのよい背広を脱ぎ、下着も靴下も靴も、全部脱いで裸になった。なにかスポーツでもやっているのだろうか? 男の身体は贅肉など微塵もなく、理想的な体型といっていいだろう。

 それに踞っているときはわからなかったが、男の身長は百八十センチを超えている。顔も整っていて、やり手のエリートサラリーマンといった感じだ。

 服を脱いだ男が、腕を後ろに組んで深夜の前に立つ。ちょうど、ソファに座っている深夜の目の前に、男の直立したペニスが位置する形となった。

「本当。おちんちんカチカチね」

 コケテッシュな笑みを浮かべる深夜。男のペニスがピクピクと蠢いた。

「出したい? どぴゅってしたい?」

「は、はい」

「でもだめ。だってこれから、おしおきするんだもの。どぴゅってするのは、まだまだ後よ」

「……」

「あら? お返事は?」

 男の沈黙に、深夜がかわいく小首を傾げて問う。

「……はい。深夜さま。どうか躾のなっていない奴隷に、お仕置きしてくださいませ」

 男が頭を垂れた。

「よろしい」

 深夜はソファから降り、部屋の隅にある棚の前までトコトコと移動した。男はその場で、まだ頭を垂れている。

「う〜ん。これっ……かな?」

 深夜は棚に置かれていた乗馬用の鞭を手に取ると、またトコトコと男のもとまで戻ってきた。

「さぁ、お尻をつきだして、そこにひざまずきなさい?」

 男はいわれた通り、深夜に後ろを向けて膝を折り、四つん這いの姿勢になった。深夜からは、男の肛門も垂れた玉袋も丸見えだ。

「くすっ……汚らしい。よくもごしゅじんさまの前に、そんな汚らしいモノをさらせるわね?」

 自分でこうしろと命令したくせに、深夜は男を嘲笑うように詰った。

「も、申し訳ございません。深夜さま……」

「もうしわけございません。あなたはそればかりね? 本当に、そう思っているのかしら?」

「は、はいッ。申し訳ございません」

「……まぁいいわ。じゃあ、おしおきタイムすたーと」

 深夜は告げ、男の臀部に鞭を走らせた。

 

     2

 

 ピシッ! ピシッ!

 おしおきタイムが始まって五分。すでに男の臀部も背中も、幾つもの鞭の痕で紅く染まっている。所々、血が滲んでいる箇所もあった。

 ピシッ!

「ウッ! み、深夜さまあぁッ」

 男が、苦痛というよりは歓喜の声を出す。と、不意に深夜の鞭が止み、

「ふ、ふぅ……こ、これくらいでゆるしてあげるわ」

 どうやら、お仕置きしている深夜の方が疲れたようだ。

「は、はい……あ、ありがとう……ご、ございました」

「どう? おちんちんは、カチカチじゃなくなったかしら?」

 男がのそっと立ち上がり、深夜に前を見せた。そのペニスは、未だそそり立った状態だった。

「どうやら、おしおきが足らないみたいね」

「深夜さま。も、もう……お願いでございます。一度だけ、一度だけ出させてください」

 男が懇願した。

「どぴゅってしたいの?」

「は、はい」

「がまんできない? 本当にだめ?」

「はい……」

「う〜ん。だめ子ちゃんねぇ」

 深夜は小首を傾げ、少し考えるような仕草をした。

「わかったわ。とくべつに、一回だけどぴゅってさせてあげる」

「あっ、ありがとうございますッ」

 男の顔に歓喜が宿った。

「じゃあ……どうしよっか?」

「あ、あの……できれば、深夜さまのお口で……」

「お口でどぴゅってしたいの?」

「はいッ」

「ドレイのくせに、ごしゅじんさまのお口でどぴゅってしたいの?」

 頬笑む深夜。

「い、いえ……も、申し訳ございませんでした……深夜さま」

 男が恐縮したように項垂れた。

「いいわよ。ごしゅじんさまが、お口でどぴゅってさせてあげる」

 が、深夜の言葉を聴き、バッと顔を上げた。

「ほ、本当でございますかッ」

「ごしゅじんさまをうたがうのかしら? このドレイは」

「い、いいえッ! あ、ありがとうございます。深夜さまッ」

 深夜はくすっと笑って、床に鞭を置いて男の前に膝を折った。

「おちんちんの毛、多いわね」

「も、申し訳ございません……」

「別にかまわないわ」

 チュッ

 深夜が、男のいきり立つ先端にキスをする。男は腰をビクンと跳ね上げた。

「じっとしていなさい?」

「は、はい」

 にゅるんっ

 深夜は右手で男の棒を掴み、小さな舌でその裏側を根本から舐め上げた。それだけで、男の先端から透明な汁が溢れ出る。

 深夜はその透明な汁を、舌ですくい取って、

「ちょっと苦いわ」

 と頬笑んだ。その頬笑みは、全くの無邪気な子供のそれだった。

「あ、あぁ……み、深夜さまあぁ」

「ちゅ、くちゅうぅ……ど、どうしたの? ぴちゅ。出ちゃう? もう、どぴゅって出ちゃうの?」

「あ、は……い」

「がまんしなさい?」

「……は……い」

 なにかを堪えるような男の顔を見上げ、深夜はこれまで舐めているだけだったペニスを、大きく口を開けてパクッとくわえ込んだ。

「ウッ!」

 男が顔を顰める。

「ん、ぅん、ふく、ん、んく」

 深夜は顔を小刻みに動かし、口腔内では舌を先端の裏でこね回す。その舌使いは、まるで男の弱点がわかっているかのように的確だった。

 そして、深夜が男の先端にキスをしてから二分弱。

 どぴゅうッ! ぴゅっ、どぴゅっ

 男が深夜の口の中で果てた。お仕置きの間も、よほど我慢していたのだろう。たった二分も持たなかった。

 それにしても凄い量だ。

 深夜の唇の隙間から溢れ、顎を伝って純白のドレスにこぼれ落ちるものだけでも、驚くほどの量があった。深夜の口腔内にも白濁した液は満ちているだろうから、それを考えると、男の放出量は凄まじい。

「ウッ……うげえぇッ」

 深夜は苦しそうな呻きとともに、男のペニスを吐き出した。

 ドロリと糸を引き、深夜の口から白濁液が零れる。それも大量に。

「ゲッ、げふっ、ゲッ、ゲフげほッ」

 目に涙を浮かべ咽せ込む深夜。口と顎の周りには、青臭い臭いを放つ液がびっしりと貼り付いている。ドレスの胸元はもうドロドロだ。

「あっグッ……はぁ、ゲ……け、けふうっ!」

「み、深夜さま……あぁ、も、申し訳ございませんッ。深夜さま、みよさまッ」

 腰を折り踞って咽せ続ける深夜。男は跪き、深夜の肩に手を置いた。

「がッ、く、くほっ……も、もう……出す前は、ちゃんと、い、けほっ……いいなさい」

 深夜が顔を上げる。顎から胸元にかけ、ドロリと液がこぼれ落ちた。

「は、はい。気を付けます」

 男の言葉を聴き、深夜がスクッと立ち上がる。

「じゃあ、おしおき続けるわよ?」

 深夜は顔の下半分を白濁液で汚したまま、笑顔でそう男に告げた。

「はいっ、深夜さま。宜しくお願いいたしますッ」

 土下座した男を見下ろしながら、深夜は唇に付着した液を舌で舐め取って、口の中に残っていたものと一緒に飲み込んだ。

 

     3

 

「さぁ、もう一周よ」

 四つん這いになった男の背に、深夜が横向きに座っている。男は深夜を背に乗せたまま、いわれた通りに三周目の室内散歩に突入した。

「もっとはやく歩けないのかしら?」

 深夜は男のアナルに刺さる黒いバイブを、グイッと奥に押し込んだ。

「アウッ」

 男が動きを止めて鳴く。

「誰が止まっていいっていったの?」

「も、申し訳ございません」

「あやまってばかりね? あなた。ホント、しんぽないんだから」

 深夜はバイブをグイグイと押しながら、くすくすと甘い声でかわいく笑った。

 行為は小悪魔のようだが、深夜の姿も、頬笑みを絶やさない面も、物語られる天使のように愛らしい。

 四つん這いで犬のように歩く男の上で、深夜は「ふん、ふふん」とハミングを奏でる。それは、二十年ほど前にある女性シンガソングライターが発表した「満月」という曲のメロディだったが、男にはわからなかった。

 だが、それも仕方ないだろう。深夜がハミングを奏でているのは、もう昔の曲だし、彼女は有名なシンガソングライターではなかった。「満月」もトータルで一万枚弱しか売れなかったアルバムに収録されていただけで、シングルカットもされていなかったのだから。

 男が室内一周を終える。深夜は男の背から床に降り立ち、男のアナルに刺さったバイブを引き抜いた。

「ウギィッ」

 内蔵をえぐり出されるかのような痛みに、男が悲鳴を上げる。だが深夜は気にした様子もなく、排泄物が付着したバイブを無造作に放り投げ、

「はい。よくできました。さんじゅうまるあげるわ」

 と、男の頭を撫でた。

 深夜が男に与えた「さんじゅうまる」とやらには、いったいどのような意味があるのだろう? 多分なんの意味もないのだろうが、男は「あ、ありがとうございます。深夜さま」と、床に頭を擦り付ける。

「のどかわいたでしょ?」

 不意に投げかけられた深夜の質問の意味を把握しきれない男は、「はっ?」と間の抜けた声を返した。

「くすっ。もう……おバカさんね」

 深夜はいい、ドレスの裾をおへそが見えるまでたくし上げる。

 深夜はドレスの下にはなにも身に着けておらず、男の目の前に陰核包皮すら見えない深夜の、つるつるでぷにぷにのワレメが露わになった。

「み、深夜……さま?」

 男の視線が、深夜の白い肌に走った一本線に釘付けになる。

「おしっこ……飲みたいわよね?」

 無邪気な顔で頬笑む深夜。男は、音を立てて唾液を飲み込んだ。

「は、はいッ」

「そうよね。ごしゅじんさまのおしっこだもの、とうぜんよね?」

「あぁ……ありがとう、ありがとうございます。深夜さまぁ」

 男がだらしなく顔を歪め、涎を垂らした。

「まぁ、よだれたらしたりなんかして。おぎょうぎがわるいわよ?」

 深夜はそっと脚を開き、

「さぁ、なにを見ているの? はやくお口をつけなさい? 少しでもこぼしたりなんかしたら、汚いおちんちんのモジャモジャ、ぜんぶもやしちゃうからね」

「はい……はいッ」

 男は跪いたまま深夜の腰を両手で固定して、開かれた股間に顔を埋めた。

「ぅんっ」

 深夜がくすぐったそうな声を漏らす。

「ちゃ、ちゃんと、お口でマンマンふさいだ? こぼしたら、ホントにモジャモジャもやしちゃうから」

 返事の変わりなのか、男の舌が深夜のスリットを舐め上げる。深夜はピクッと幼い身体を震わせた。

「じゃ、じゃあ出すわよ。おしっこ、ぷしゃあぁって出すわよ。ぜんぶ、ちゃんと飲むのよ?」

 深夜がいい終わった瞬間。男の口腔内に温かい黄金水が注ぎ込まれた。

 男は勢いよく注ぎ込まれるそれを、一滴も零さずにゴクゴクと咽を鳴らして飲む。深夜からは見えないが、男のペニスはビンビンに勃起し、反り返っていた。

 放出を終えた深夜が、「ふぅ」と息を吐く。

「ちゃんと、こぼさずに飲めたみたいね? えらいわ」

 深夜が男の頭を撫でる。男はそれを、深夜の股間に顔を埋めたまま、恍惚とした表情で受け入れた。

「ほら。ちゃんとなめて、ごしゅじんさまのマンマンきれいにしなさい?」

 男はいわれるまでもなく、その通りにした。何度も舌を往復させ、スリットの奥まで舐める。

「……ん、ぁう、お、おいしいの? マンマン、おいしいの……?」

 ジュルジュルと湿った音が響く。男は舐めるだけでは足りないのか、本当に小さな深夜の敏感な突起に吸い付いたり、舌で内部をこね回したりする。

「くはっ! あ、あぁ……お、おいしい……のね? マ、マンマン……ご、ごしゅじん……さまの、マン……は、はあぁんっ!」

 深夜がピクピクと小刻みに痙攣を始める。膝もブルブルと震えていた。

「アッ! く、くはあぁんっ」

 深夜がドレスの裾を放す。スカート部分が、ふわっと男の身体を被った。

 深夜はドレスのスカート越しに男の頭を両手で掴み、

「あぁっ、も、もっと、あっぅん……そ、そうよ。もっと、ク、クリちゃん……す、すうのぉ、あ、ああぁうぅんッ! クリちゃん、クリちゃんすいなさいぃ〜ッ」

 甘く、だが激しい、喘ぎを漏らした。

 湿った音と深夜の喘ぎ声がデュオを奏でる。どこか胸を締め付けられるような、切ない響きだ。

「ん、ん、ん……う、うぅんっ。そ、いい、はうぅんッ! いい、いいわあぁ。もっと、そうもっとつよくうぅ。あ、あぁ……い、ひいぃ」

 深夜は涎ばかりか、鼻水まで垂らしてよがっている。それでも彼女の顔は愛らしく、醜く歪んだとは、とてもではないがいえない。

「ま、まんまん……あぁっ、まんまんいい〜ぃッ!」

 背を反らせ、髪を舞わせて深夜は絶叫した。

 

     4

 

「は……はぁ、はぁ、あ、あなた……な、なめるのは、じょ、じょうず……ね」

 男の口と舌で果てた深夜は、震える脚でソファまで移動して、ぽふっと座り込んでからいった。

「あ、ありがとう……ございます」

 男が、深夜の足下に土下座して答える。

 深夜は、何度か深呼吸して息を整えると、

「立ちなさい」

 男に命令した。

「はい」

 男が立ち上がる。

「おちんちん、またカチカチね」

「は、はい」

「したい?」

「はい」

「なにをしたいの? はっきりおっしゃい」

「は、はい。深夜さま……ご主人様と、つ、繋がりたい……です」

 深夜が頬笑む。

「つながるって? はっきりおっしゃいと、いったはずよ?」

「あっ……も、申し訳ございません。そ、その……ご、ご主人様の……」

 いい淀む男。深夜は、

「わたしのなに? マンマン……オマンコでしょ? わたしのオマンコに、あなたのチンポをハメたいんでしょ? グチュグチュつっこんで、ごしゅじんさまであるわたしを、ヒィヒィいわせたいんでしょ? なかに出したいんでしょ? オマンコに、どぴゅどぴゅせーえき出したいんでしょ? そうでしょ? ちがわないわよね?」

 深夜の顔には、見ているだけで心が和むような笑みが浮かんでいる。

「そ、その通りでございます」

「ふ〜ん。ドレイのくせに、ごしゅじんさまをヒィヒィいわせたいの? オマンコに、せーえきどぴゅどぴゅ出したいのね?」

「……」

「みのほどを、わきまえなさい?」

 無言の男に、深夜はやさしい口調で告げる。

「……は、はい。申し訳……ございませんでした」

 床に額を擦り付ける男。深夜は「くすっ」と笑った。

「あなたには、まだはやいわ。そうよね?」

「はい……その通りでございます」

「そうよ。ごしゅじんさまのオマンコは、そんなに『安く』ないのよ?」

 深夜はふと、壁埋め込まれ、薄く発光している時計に視線を向けた。

「あら? もうこんな時間……今日はもうおしまいね」

「そ、そんなッ! み、深夜さま、ど、どうかお慈悲をッ。このままだと、おかしくなってしまいますッ」

 そそり立つペニスをビクビクと蠢かせ、男が懇願する。

「そうねぇ……うん。じゃあ、じぶんでしなさい? 見ててあげるわ、あなたがどぴゅって出すところ」

「は、はいッ。ど、どうか宜しくお願い致しますッ」

 男はいい、自分のペニスを握ってしごき始めた。

「あっ、あぁ深夜さま。見て、見てくださいませッ」

「えぇ、見てるわよ。がんばりなさい?」

「はい……はいッ。深夜さまッ」

 男の腕がスピードを増す。

「ハッハッハッ、み……ウッ、みよさまああぁあぁぁ〜ッ!」

 どぴゅッ!

 先ほど大量に放出したにも関わらず、男は前にも劣らない量を放出した。それは目の前に深夜にまで届き、彼女の前髪、頬、ドレスを白く汚す。

 それでも男は深夜の名を呼びながら、ペニスをしごき続けた。

 ピュッ、ぴゅうぅッ、ぴっ、ピュッ……。

 放出され続ける精液が、床に白い溜まりをつくる。

 と、全て出し尽くしたのか、男の手が止まる。深夜はそれを確認すると、ソファから降りて男の前に立った。

 そして、見上げるような形で男に頬笑み、その頬に付いた精液を指ですくって舐めとって、

「また、遊んであげるわ」

 男に告げると、その横を通り過ぎて部屋の外へ出ていった。

 バタンとドアが閉まり、男がその場にへたり込む。

「あ、あぁ……み、深夜さまぁ」

 男のうっとりとした声が、彼一人きりの室内に響き、空間に染み込むようにして消えていった。

 

     5

 

「お疲れさま。深夜ちゃん」

 深夜がプレイを終え、SMクラブ「ラック」の「女優」控え室に戻ると、一人だけ控え室にいた先輩の彩子が声をかけてきた。

「どうだった? 初顔のお客さんだったんでしょ。変な人じゃなかった?」

 いわゆる「女王様スタイル」の衣装を身に着けた彩子は、その様な衣装を纏っているにも関わらず、どこかボーイッシュな印象を受ける二十歳ほどの女性だ。彼女は背が高くスレンダーな体型で、日本人離れした八頭身の持ち主だが、胸はお世辞にも大きいとはいえない。

「変……じゃなかったですよ。顔はまぁまぁよかったですし……でも」

「でも?」

 深夜は、「くくっ」と噛み殺したような笑いを漏らし、

「それがですねぇ。すっごいんですよ」

「……なにが?」

「せーえきですよ、せーえき。すっごい量のせーえき出すんですよぉ。もう笑っちゃうくらい、すっ……ごいんですよッ」

 腹を抱え、「ケラケラ」と大口を開けて笑う深夜。

 彩子は眉をよせ、

「……そ、そんなに、すっごいの?」

「そ、そりゃもう。わたし、笑いをこらえるのにひっしだったんですからぁ。もうかわいちゃってますけど、衣装、せーえきでドロドロだったんですよぉ」

「そうなんだ……羨ましいなぁ。精液で衣装ドロドロかぁ」

 ぽ〜っと空を見つめる彩子。

「私なんか、ほら、お客さんほとんど女の子でしょ? ホントは、精液で汚されるの大好きなのに、かわいいわよ、子猫ちゃん。あぁ嬉しいですぅ、お姉さまぁ……って、こんなのばっかりなんだから」

 彩子の言葉を聴きながら、深夜は衣装のドレスを脱いで裸になる。その身体は、とてもSMクラブでバイトしている「女優」には見えない。

 胸に膨らみはなく、ぷにぷにとやわらかそうな股間は、プレイ中男に見せた通りつるつるの一本線だ。

「彩子さん。今、誰かシャワーつかってます?」

 深夜が問う。なぜ、服を脱ぐ前に訊かないのだろう? 精液が染み込んだ衣装が、気持ち悪かったのだろうか。

「知らないわよ、そんなこと……って、あっ、そうだ。さっき、サーナがウンチまみれで廊下歩いてたから、サーナが使ってるかも」

「サーナさんって、M担当の外人さんですよね? なんだか、お姫さまみたいにキレイな人」

 サーナは、長く真っ直ぐなプラチナブロンドの髪を持つ、自称十九歳(実年齢は、自称よりも下らしい)の「女優」だ。彼女は深夜や彩子とは違い、「M」を担当している。

「そうそう、それよそれ。でもあの子、スカトロ大好きなんだって。お金を貰ってウンチが食べられるって聞いて、この店に来たらしいよ。信じられる? ウンチだよ。糞だよ? くっそっ」

 彩子はウンザリした顔でいった。

「私なら二十万貰ってもイヤだね、糞喰うなんて。でも……三十万くれるんだったら、少し考えるかなぁ?」

「けど、せーえきは好きなんですよね? 彩子さん」

「はっ、精液と糞は違うわよ。全く別。そうだ、深夜ちゃんだったらどう? いくら貰えば、糞喰う?」

「……そうですねぇ。う〜ん……五万くらい、ですか?」

 と、小首を傾げる深夜。

「やっすいわ、それ。じゃあ、五万出すから私の糞喰えっていったら、喰うの?」

「彩子さんのですか? それだったら一万でいいですよ。お客さんのだったら、五万ですけど。わたし、彩子さん好きですから」

「くう〜っ。かわいいこというねぇ、深夜ちゃんは」

「くすっ。だってわたし、かわいいですもん」

 深夜は、天使のような「営業スマイル」で頬笑んだ。

「あっと……わたし今日は、もう一人よやく入ってるんです。はやくシャワーあびなきゃ。サーナさんいてもいいや」

「えっ? まだ予約入ってるの。今日なん人目?」

「四人目です」

「相変わらず人気者ねぇ、深夜ちゃんは」

「えへへ」

 深夜は彩子に照れたような笑みを残し、控え室を出て隣のシャワー室に向かった。


End


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