続・深夜さまの楽しいお遊戯

 

 

     1

 

 六畳ほどの洋室。青白い蛍光灯の光が、薄暗く室内を照らしている。

 室内には二つの人影。小さいものと、それよりは大きいが、さどほ大きくはないもの。

「あなたのことは、あなたの前のごしゅじんさま、彩子さんから聞いているわ。とってもかわいい声で鳴く子猫ちゃんなんですってね?」

 小さい方の影。一人がけのソファに身体を埋める、黒いドレスを着た十歳ほどの少女が、彼女の足下に跪くもう一つの影に優しげな口調で告げる。

 跪く影。裸体に首輪だけという姿の、真っ直ぐな長い黒髪を持つ十六、七歳の美しい少女は、ソファに座った少女の右手と自分の首輪を繋ぐ鎖をジャラと鳴らし、「…はい。深夜さま」と小さく呟いて土下座した。

 背中を全部隠してしまうほど長い、軽くウェブがかかった色素の薄い髪を左手でかき上げると、深夜(みよ)と呼ばれた少女は「くすっ」と笑い、満足そうな表情をキレイというよりはカワイイと形容した方がいいだろう面に宿した。

「立ちなさい?」

「……はい」

 ジャラ。鎖が鳴る。少女は立ち上がった。その少女の面は上品とでも記せばよいのか、高級な日本人形を思わせるような整いかたをしている。前髪を眉の上で水平に切りそろえているので、そう感じるのかもしれないが。

 少女の肌は白く滑らで、四肢は細く長い。薄い体つきのわりに、胸は豊かに形よく発育している。少し乳輪も乳首も小さくは感じるが、控えめな雰囲気の少女には、それが似合っているようにも思われる。

 だがその少女の身体にも不自然な部分があり、この年齢の少女には当然あるべき下腹部の茂みが見あたらない。剃ってしまったのだろうか。

「あら? モジャモジャはきれいにしてあるのね。自分できれいにしたのかしら?」

 深夜が小首を傾げて問う。

「は、はい。そう……です」

「そう。じゃあ、あしを開いて座りなさい? せっかくきれいにしてあるんだから、じっくり見てあげるわ」

 少女がいわれた通りにする。お尻を床につけてM字に脚を開き、後ろにまわした腕で身体を支える。

「くすっ。いやらしいビラビラね。おなにぃのしすぎじゃないのかしら? 一日なん回しているの? 十回? それとも二十回かしら?」

 問われた少女は恥ずかしげに俯き、真っ赤に染まった顔を横に背けると、

「……そ、そんなに……し、していません」

 小さな声で答えた。

「なに? きこえないわ。なん回しているの? おなにぃ。はっきりおっしゃいなさい? それとも、おしおきされたいのかしら? ビラビラといっしょで、いやらしい子猫ちゃんね?」

 深夜は、「くすくす」と楽しそうに笑った。

 それにしてもこの深夜という少女の頬笑みは、どうしてこれほどまでに愛らしいのだろう。見ているだけで心が和み、溶かされてしまいそうになる。

 天使の頬笑み。

 桜色の唇から紡がれる言葉とは違う、純粋で無邪気な少女が見せる天使のような頬笑みを深夜はその整った幼い面に浮かべ、脚を開いて性器を晒す少女をじっと眺めた。

「さぁ、いいなさい? おなにぃなん回しているの?」

「……」

 無言の少女に繋がった鎖を、深夜はグイッと引っ張った。

「きゃっ」

 少女が体勢を崩して前につんのめる。

「だめな子猫ちゃんね。ごしゅじんさまのしつもんに答えられないの? 彩子さんは、どういうしつけをしていたのかしら?」

「お、お姉さまは悪くありませんっ!」

 少女が強く反論する。

「おねえさまねぇ……くすっ、あなたホントに子猫ちゃんなのね? でも、今はわたしのドレイなの。彩子さんの……おねえさまのことは忘れなさい? 忘れられないのなら、あなたいらないわ。あなた、わたしのドレイになりにきたんでしょ? ちがう?」

 十秒ほどの沈黙の後、

「……は、はい……そ、そうです」

 少女は項垂れて答えた。

「答えなさい? おなにぃなん回しているの?」

「……さ、三回……です」

「毎日、三回もおなにぃしてるのね? だから、そんなにいやらしいビラビラなのね?」

「そ、そう……です」

「どうやっておなにぃしているの? 指だけ? ちがうでしょ。いいなさい?」

 問われた少女は、悔しそうな顔で下唇を噛んだ。そして、

「……かってます」

「なに? きこえないわ」

「バイブ使ってますっ」

「ふ〜ん……どんなバイブかしら? 太いの? 長いの? 色は?」

「黒い……外国製の、いっぱいイボイボがついた、太くて長くて、グイングイン動いて、とても気持ちいいバイブですっ」

 告げた少女は、涙を流し嗚咽を始めた。よほど恥ずかしく、屈辱的だったのだろう。

 少女は自分よりも年下の深夜に、どのような性具を使用して自慰をしているかを告げたのだ。普通の神経を持つ者に耐えられるものではない。

 身体を震わせ、ポロポロと涙を零す少女。

 と、深夜はソファから降り、

「よくいえたわね。えらいわ」

 嗚咽する少女の頭を優しく撫でた。

 少女は涙で濡れた顔を深夜に向ける。深夜は天使の笑顔で頬笑んでいた。そして少女には、深夜が天使そのものに見えていた。

「かわいいわね。あなた」

 天使がいう。

「あ、あぁ……」

 少女の胸の奥に、なんともいえない温かな感情が沸き上がる。嬉しい……少女は思った。

「み、深夜……さま……?」

「どうしたの?」

「あ、ありがとう……ございます。う、嬉しい……です」

「そう? よかったわね」

 頬笑む深夜。それにつられるかのように、「はい」と少女も頬笑んだ。

 

     2

 

「そ、そうよ。もっと、ぅん……奥まで、おくまで舌をいれなさい?」

「は、はい。深夜さま。ん、ちゅ、ちゅぱ……くちゅ、ちゅ……ぅく、ど、どうですか? み、深夜さまぁ」

 ソファに座った深夜の黒いドレスのスカートに身体を隠し、ショーツを着用していない深夜の股間に顔を埋め、少女はその年相応なつるつるでぷにぷにの一本線に舌を走らせる。

 その少女の股間からはトロトロとした液が滴り、むき出しの太股を伝って床に零れていた。

 あぁ……すてき、深夜さまのおまんこ、ビラビラしてなくて、やわらかくて、温かくて……とっても美味しい……。

 深夜に、「ちゃんと、おなにぃのことをいえたごほうび」として股間を舐めることを許された少女は、もう十分ほども深夜の股間を舐め続けている。

 だが少女の舌技は未熟で、多くの「奴隷」を持つ深夜には物足りないものだった。実際、舐められている者より、舐めている者のほうが股間をより濡らしている。

 深夜に頭を撫でられあの頬笑みを見てしまった少女は、その瞬間に「お姉さま」のことなどすっかり忘れてしまい、こうして舌を這わせながら「私は奴隷。深夜さまの忠実なる奴隷」とすら感じていた。

「ん……もっと、クリちゃんすいなさい?」

「……ちゅぱ、は、はい、深夜さま」

 ちゅうぅ〜っ

 少女が、深夜の小さくて皮を被った突起に吸い付く。

「くはあぁっ。そ、そうよ、いいわ……いいわよ」

 お褒めの言葉をいただいた少女は、夢中になって突起を吸った。「深夜さまがお悦びになられている」、そう思うと、少女の股間からはこれまで以上に蜜が滴った。

 下腹部が熱くなり我慢できなくなった少女は、股を擦り合わせて濡れた部分に刺激を送る。指を使えばいいと思うが、少女は「深夜さまのお許しもないのに、勝手にオナニーするなんてできない」と、自分でそれを戒めていた。

 短期間で、少女はお姉さまの「子猫ちゃん」から、深夜の「奴隷」へと劇的に変化していた。

 最初、彼女は自ら「望んだ」ことにも関わらす、深夜のことを怖れていた。彩子お姉さま以外の女性に身体を委ねることなど初めての経験だし、深夜は自分よりも年下だ。「なにをされるかわからない」という恐怖があった。

 裸に首輪という、お姉さまの前でもしたことがない恥ずかしい格好で部屋に入るようにいわれ、部屋に入るなり深夜に鎖を繋がれて、引きずられるようにソファの前に移動させられると、ぽふっとソファに腰を下ろした深夜に「なに立ってるの? ひざまずきなさい?」などといわれたのだから、少女が深夜を怖れても仕方がない。

 だがそんな恐怖も、頭を撫でられ、天使の笑顔を向けられると、ウソのように消え去った。深夜のことも年下だなどと思えなくなり、ただの女の子なんて下らなくてちっぽけな自分とは違う、この世界よりももっと高次元から舞い降りた存在に思えた。

 深夜に隷属できるということが、自分には過ぎた幸運であり、胸が潰れてしまいそうなほど幸福だと感じた。それは、お姉さまにかわいがられていたときとは違うベクトルの幸福だった。

 お姉さまに与えてもらっていた幸福は、「恋」という感情に似ていた。が、深夜に与えられた幸福は、いうなれば「認められた」という幸福だった。

 自分は、天使である深夜さまに「認めて」いただいた。

 少女は急に、自分が「価値」ある人間になった気がした。自分は、「深夜さまの奴隷」という「価値」を与えられたのだと……。

 だからこそ深夜さまは、私におまんこを舐める許可をくださったのだわ。深夜さまが私を「認めて」くださったからこそ、私などがこうして深夜さまのおまんこを舐めていられるのだわ。

 少女は深夜の「期待」を裏切らないように、深夜に悦んでもらえるように、必至で舌を動かし、突起を吸った。

「あぁ……ちゅっ、ちゅうぅ、ちゅっ、み、深夜さまぁ」

 だが少女の舌技で深夜がイクことはなく、「もう、ごほうびタイムは終わりよ」という深夜の言葉に、少女は泣き出しそうになるのを堪えて従った。

 

     3

 

「あ、あの……深夜さま、そ、それは……?」

 少女は深夜が部屋の隅にある棚から取り出した、十センチほどの小瓶を見ていった。ちなみに少女の首輪に繋がっていた鎖は、「じゃまだから」という深夜の一方的な理由で外されている。

「くすっ。これはね、えっと……ね、ね」

 深夜は微かに眉をひそめた後、なにかを思い出したような顔で続けた。

「そうそう、ねんまくにぬると、そこがクリちゃんになったみたいに、気持ちよくなれるお薬よ。まだ使ったことないけれど、マンマンとかお尻の穴にぬると、きぜつするくらいいいんだって」

 深夜はそういって小瓶の蓋を開け、あやしげな緑色の薬を指ですくう。

「さぁ、よつんばいになって、お尻をつきだしなさい? あなたお尻がすきなんでしょ? 彩子さんから聞いているわ。だから、このお薬、お尻の穴にぬってあげる」

 にっこりと頬笑む深夜。少女は期待と不安が入り交じったような顔で、それでもいわれた通りに深夜にお尻を突き出すように四つん這いになり、「お、お願いいたします」と告げた。

「ぅん」

 深夜の指が少女の排泄口をこねる。少女は思わず吐息を漏らした。

「中にもぬってあげる」

 つぷっと深夜の指が埋もれた。

「……どうかしら? よくなってきた?」

 問われたが、深夜の指は気持ちいいが、少女にそれ以外の快感はなかった。

 が、少女がそのことを告げようかどうか迷い、やはり告げようと思った瞬間。

「ヒギィッ!」

 少女はお尻に燃えるような「熱さ」を感じ、悲鳴を上げた。

 身体が燃えるように、お尻が焼けただれ、溶けるように少女は感じた。だがそれは、圧倒的な快感だった。

「あっ、あひいぃ。ひっ、ヒイィィイィ〜ッ!」

 四つん這いの姿勢を保てなくなった少女が、床に転がってビクビクと跳ねる。少女は身体中の穴という穴から汁を排泄し、すぐさま床に、汗だの涙だの鼻水だの尿だのといった少女の汁が水たまりをつくった。

 少女はそんな自分の汁たまりの中で、身体を跳ねさせ、喘ぐ。

 深夜は予想以上の薬の効果に、冷や汗を流した。

「だ、だいじょうぶ?」

 声が震えている。

 問われた少女はヒグヒグと喘ぎながら、「みよさまッ。みよさまああぁあぁ〜ッ!」と深夜の名を叫んだ。

「ど、どうしたの? ホ、ホントだいじょうぶっ?」

「してッ。おしりしてえぇッ! え、えぐって、おしりえぐってッ」

 獣じみた声で少女が懇願する。

 深夜が呆然としていると、少女は床に横向きで寝転がったまま腰を前屈みに折り、右手の人差し指と中指を揃えて、ヒクヒクと痙攣している肛門にねじ込んだ。グリグリと肛門を押し広げ、根本まで指が陥没してゆく。少女は壊れてしまうくらいに激しく手を動かし、「ウギッ! ウギイィ」と鳴いた。

 目が血走り、獣のように鳴く少女。上品ともいえる面は歪み、だがそこに苦痛の色はなく、「気持ちいい。きもちいい」と語っていた。

 少女が空いた手で性器をこね始める。グチュグチュと音を立て、少女の左手は見る見るうちに白く濁った本気汁で染まった。

 それでも少女は両手を止めることなく、所々に「みよさまッ」と混ぜながら喘ぎ続ける。

 深夜は、どのくらいそんな光景を呆然と、そして震えながら眺めていただろう。

 一時間? 三時間? 深夜にはそのくらいの長い時間に感じられていたが、実際は十分ほどで少女の蠢きは沈静化した。

 身体中を汁で染めた少女。長い髪は汚水で湿って身体に貼り付き、性器と肛門にはまだ指が刺さったままだ。そんな少女はピクッピクッと身体を小さく痙攣させながら、虚ろな視線を深夜に向けた。

「み、みよ……さ……まぁ」

 その呟くような小さな声に、深夜はハッと我を取り戻した。

「だ、だいじょうぶッ? だいじょうぶなのッ?」

 少女の傍らにしゃがみ込み、その肩に触れる深夜。

「……あ、あぁ……す、すきぃ。みよ……さま、す、すきですぅ」

「だいじょうぶなのね?」

「う、うれ……しいぃ。み、深夜さまに、心配して……い、いただける……なんて」

 少女は至福の笑みを浮かべ、ポロポロと泣き出した。

「ご、ごめんなさいね……あのお薬、こんなにきくなんて思っていなかったの」

「い、いい……です。よか……ったです……すごく、深夜さまのお薬……だ、だから、お気に、な、なさらないで……く、ください……」

 途切れ途切れに告げる少女。深夜は悩んでいるかのような、複雑な表情をした。

「そ、そう……あなたがだいじょうぶなら、それでいいの」

「は、はい……だ、大丈夫……です」

 少女は性器と肛門に刺さった指を抜き、身体を仰向けにした。

「身体、汚れちゃったわね? ごめんなさいね。立てる?」

「あっ……深夜さま、だ、ダメです。よ、汚れてしまわれます」

 少女は、自分を抱き起こそうとする深夜に告げた。

「かまわないのよ。気にしないで?」

 深夜がいうと、少女はされるがままに上半身を起こした。しばらく間、二人の視線が絡み合う。

「目を……閉じなさい?」

 少女はいわれたたままに目を閉じた。

 と、

「ぅん」

 思ってもいなかった感触が少女の唇を塞いだ。少女が驚いて目を開くと、そこには目を閉じた深夜の顔があった。

(……キ、キス? 深夜さまが、私なんかにキス……してる?)

 事態を認識した瞬間。少女はドクンッと高鳴る心臓の音を、確かに聴いた。咄嗟に身体を放そうとしたが、ピクリとも動かない。

(ダ、ダメッ! 私なんかとキスしたら、深夜さまが汚れてしまうッ)

 そう思うのに、唇から身体中に染み込んでくる優しい温もりを、少女は手放すことなどできなかった。思いとは別に、身体が勝手に深夜を求めてしまう。ジンジンと脳髄が灼ける。もう……なにも考えられなくなっていく。

 頬に温もりを感じた。深夜が両の手を少女の頬に触れていた。瞳が、少女の瞳を覗き込んでいた。

「目……閉じなさいっていったでしょ?」

 深夜の言葉は、少女の頭の中に直接響いた。少女はそれを不思議だとは感じなかった。少女は「いわれた」ままに瞳を閉じた。

 深夜の舌が少女の歯に触れた。少女は歯を開き、それを受け入れ、吸った。甘い……と少女は思った。

 それからはもう、なにがなんだかわからなくなり、少女は夢中で深夜の唇を、舌を吸い、唾液の交換を続けた。

 いつの間にか、深夜が斜めに少女に覆い被さる形で、二人は床に転がって重なっていた。

 キスを続けながら、深夜は少女の胸に触れた。少女の胸の先端は、深夜が触れる前からコリコリになっていて、深夜はそこを重点的に責める。

「んふぅっ」

 重なった唇と唇の間から、少女の切ない声が漏れる。その吐息を聞いた深夜は少女の顔から自分の顔を離して、今度はコリコリの先端にキスを送った。

「あっ……うっ、うぅんっ!」

「おっぱい、きれいね」

「あぁっ、ダメですっ。私……汚れてますからぁ」

「いいのよ。あたなのお汁、とってもおいしいわよ?」

「そ、そんなぁ……み、深夜さまあぁ」

 深夜は自分の言葉を証明するかのように、少女の汁まみれの身体を丹念に舐める。乳房も、お腹も、そして……深夜の顔は少女の股間に埋もれていった。

「あなたのビラビラ、よく見るととってもすてきね? かわいいわ」

「み、深夜さまッ。そ、そこは、本当にダメですぅ。深夜さまが、汚れて、けがれてしまいますッ」

 少女は身体をよじった。が、それはほんの少しで、本気で深夜から逃れようとしているとは思えない。

「くすっ。そんなことないわよ? あなたの身体、どこにもけがれた場所なんてないわ。すてきよ。すきになってしまいそう……」

 告げる深夜の声には、少し「本当」が含まれているように感じられた。そして深夜は、少女の開いた性器にむしゃぶりつくように吸い付いた。

「あっ、ああぁあぁぁ〜っ! み、深夜さまあぁッ」

 少女がビクンッと背を反らせる。だが深夜は、少女の股間から顔を離そうとはしない。少女の腰を掴み固定し、ジュパジュパと音を響かせて少女を味わう。

「うはあぁっ! みよ……さま、みよさま、みよさま、みよさまあぁ〜っ」

 少女は自らの双丘を鷲掴みにして、完全に形が変わり、潰れてしまうほど強くこね始めた。

 深夜が少女の股間から顔を上げたのは、少女が深夜の口で三回もイッた後だった。

 

     4

 

「時間ね。今日は、このくらいで終わりにしましょう?」

 少女の股間から顔を離し、立ち上がった深夜が告げる。深夜のドレスは、色が黒いために目立ってはいないが、少女の汁で湿って異臭を放っていた。

「……は、はい……あ、ありが……とう……ご、ござい……まし……た」

 少女がガクガクと震える膝を懸命に堪え、どうにか立ち上がった。

「あなた」

「は、はい……」

「とってもかわいかったわ。これまであなたを自由にしていた彩子さんに、しっとしちゃうくらい……」

「そ、そんな……」

「そ、その、いいかしら? お、お願いがあるの……ホントはこれ、「ルールいはん」なんだけど、もう、彩子さんのことは忘れて? わたしを……わたしだけを、あなたのごしゅじんさまにさせて欲しいの……」

 深夜が緊張した表情で少女に告げた。それはまるで、大好きな女の子に告白する少年のように見えた。

 真剣な顔の深夜に見つめられた少女は、震える身体を自らの両腕で抱きしめ、そっと瞳を閉じた。

 沈黙。そして、

「ご、ごめんなさい。変なこといったわね。忘れて?」

 深夜が頬笑んでいう。無理に作ったような頬笑みと、震えた声だった。

「……い、いいえ。忘れません」

「えっ?」

「私、もうお姉さま……ううん、彩子さんには会いません。私はもう……深夜さまの奴隷ですから……」

 信じられないというように、深夜が目を見開く。

「ホント……に?」

「はい」

「信じていいの?」

「はい」

 深夜の瞳から透明な涙が零れた。

「う、うれしい……あり……がとう」

 深夜が顔を俯ける。ポタポタと床に雫が落ちた。

「深夜……さま?」

「あ、あなたは……なに?」

 俯いたまま深夜が問う。

「私は、深夜さまの奴隷です」

 少女がはっきりと答える。

 深夜は少女に寄り添い、瞳を閉じて顔を上に向けた。少女は少し屈んで、深夜の唇を自らのそれで塞いだ。

 触れるだけのキスだった。

 それで、十分だったから。

 二人の顔が離れる。

 深夜は天使の頬笑みを少女に向けた。少女も頬笑みを深夜に返した。

「また……遊んであげるわ」

 深夜が告げる。それは別れの言葉だったが、この別れは「永遠」ではない。

「はい。よろしくお願いいたします。深夜さま」

 深夜は少女を部屋に残し、外に消えた。

 残された少女は、深夜が消えたドアを見つめ呟いた。

「愛してます。深夜さま……」

 

     5

 

 少女とのプレイを終え、SMクラブ「ラック」の「女優」控え室に戻った深夜は、汚れた衣装のドレスを脱ぐこともなく、呆然とした顔で椅子に腰を下ろした。

 控え室には深夜の姿しかない。どうやら他の「ラック」に所属する「女優たち」は、深夜以外の六人とも客の相手をしているようだ。

「……はぁ」

 深夜は溜息を吐く。こんなことは初めてだった。お客さんを「好き」になってしまうなんてことは……。

 それも自分よりは年上だといえ、まだ高校生であろう同姓の少女をだ。

 深夜は自分が同性愛者だとは思っていなかったし、今でも思えない。だが少女に対する「想い」は「本当」だった。

 深夜は一目惚れに近い形で、あの少女に「恋」をしてしまっていた。少女と触れ合った唇に指をそえる。じゅんっと身体が熱くなった。

 わたしは、あの子がすき。

 頭の中で呟いた。その通りだと思った。

「わたしは、あの子がだいすき……」

 声に出して呟いた。なんだか泣きたくなった。

 今すぐ少女のもとに戻って、「すき」と告白したくなった。

 だがそれは「女優」である「深夜」の想いではなく、本当の「自分」の想いだった。仲間の「女優たち」も、そして当然あの少女も知らない、「湯浅夏穂子(ゆあさ かほこ)」という、九歳の少女としての想いだった。

 あの少女は、「深夜」は受け入れてくれた。だが、「夏穂子」は受け入れてもらえるのだろうか?

 と、深夜が思い悩んでいると、

「あ〜疲れた」

 同僚の彩子が、完全な「女王様スタイル」で控え室に入ってきた。彩子は二十歳ほどの、背が高くてボーイッシュな感じの女性である。

 深夜はビクッとして、彩子から視線を逸らせる。そして、あの少女と何度もプレイを繰り返した彩子に、怒りにも似た嫉妬を覚えた。

 これまで深夜にとって彩子は「頼りになるお姉さん」だったが、今この瞬間、そうは思えなくなっていた。

「あら、深夜ちゃん。さっきまであの子猫ちゃんと遊んでたんでしょ? どうだった? いい声で鳴いたでしょ?」

 深夜はムッとなり、彩子を睨み付けてしまった。

「ど、どうしたのよ……そんなこわい顔してさ。もしかして、お気にめさなったのかな? あの子猫ちゃんは」

「ちがいますっ。お客さんに対して、子猫ちゃんなんてしつれいじゃないですかッ?」

 いいたいことは、そんなことではなかった。が深夜は、「あの子のこと、そんななれなれしくいわないでッ」と、「本当」にいいたいことはいえなかった。

 あの少女との付き合いは、SMクラブの「女優」とその客としての関係だけだとしても、深夜より彩子のほうがずっと長いのだ。もし深夜が「本当」のことをいったりしたら、彩子が不審に思うのは避けられないだろう。

「そ、そうね……ごめん、深夜ちゃん」

 彩子が深夜の偽りの言葉に、本当に申し訳なさそうに謝罪した。その謝罪の言葉に、深夜の感情はスッと冷めていった。

 わ、わたし、なんで……彩子さん、なにも悪くないのに……。深夜は彩子に嫉妬したことを、八つ当たりしてしまったことを恥じた。

「あっ、い、いいんです。ただ、ちょっと気になったから……」

「ううん。深夜ちゃんのいう通りよ。お客さんのこと、プレイのとき以外で子猫ちゃんだなんて、やっぱ失礼よね。ごめんなさい」

「わ、わたしにあやまられても……」

「そうね。うん、これからは気をつけるわ。じゃ、この話は終わりにしましょ?」

「あっ、はい」

 深夜は、彩子のこういうさっぱりとした所が好きだ。とても、嫌いになんてなれないと思った。例え彩子とあの少女の間に、これまでどんなプレイが行われてきたとしても。

「で、どうだったの? あのお客さん。かわいい人だったでしょ?」

「はい……とってもかわいくて、これまでで一番のお客さんでした。それに、すごくやさしい人……」

 いいながら、深夜は頬が熱くなるのを感じた。

「ふ〜ん。よかったわね」

「はい、よかったです。でもわたし、ちょっとしっぱいしちゃって……」

 深夜は、少女にあの薬を使ってしまったことを彩子に話した。

「あの薬って……マネージャーが持ってきたヤツ? ちっちゃな瓶に入った、なんだか薄気味悪い緑色の」

「そ、そうです」

「うっちゃあぁ。そりゃ確かに失敗だわ。アレって、すっごいでしょ?」

「は、はい。すっごかったです」

「あのマネージャーが持ってきたもんよ? お客さんに使う前に、どんな効果があるか自分で試さなきゃダメよ」

「そ、そうですね……あのマネージャーさんが持ってきた物ですもん……ね」

 深夜は反省した。確かにいわれてみれば、「あのマネージャー」が持ってきた薬なのだから、ろくな物でないことは予想がついたはずだった。

「あ、彩子さんはためしたんですか? あの薬」

「もちろん」

「……ど、どうでした?」

「ぶっ飛んだわね。私も、自分んちでお尻にちょっとだけ塗ったんだけど、気がついたら部屋中おしっこまみれで、なぜかお尻の中にリップスティックが入ってたわ。部屋、掃除するのたいへんだったんだから」

「……」

 そ、そんなあぶない薬だったの? 深夜はゾッとした。確かにあの少女の乱れようは、尋常ではなかった。

「で、こりゃダメだわって思って、マネージャーに返したわよ。マネージャーから、聞いてなかったの?」

「……はい。まったく知りませんでした」

「まぁ、あの人だからね。仕方ないわ」

「あ、あの薬って……いったいなんなんでしょう? ちょっと、っていうか、かなりあやしいんですけど……?」

「さぁ? あの人が持ってきた物だからねぇ。どっかの秘密組織が作ったもんじゃないの?」

「ひ、ひみつそしき……ですか?」

「うん。地下五百階くらいの秘密研究所で作られた、秘密薬よ」

「あ、あるんですか? そんなの作ってるひみつそしき……こ、こわいです」

 どうやら深夜は、彩子の冗談を本気にしたようだ。こんな所は、深夜もまだまだ子供だ。と、こんな会話を交わしているうちに、深夜の彩子に対するわだかまり、嫉妬はどこかに消えていた。

 あの少女と深夜が、これからどうなっていくのかはわからない。だが深夜は、もう少しの間は「夏穂子」ではなく、「深夜」としてあの少女との関係を築いていこうと思った。

 お互いに、まだ知らないことのほうが多いのだから……と。


End


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