否定される孤独のコタエ
1
急激に寒さが増した十月の第二日曜日。ボクは待ち合わせの駅前広場で、何度も時計を確認しながら彼女が来るのを待っていた。
現在、時計の針は午前十時五十五分を指し、待ち合わせの時間まであと五分となっている。
来るはずがない。
そう思いながらも、期待している自分がいる。
「あの……」
ボクはその声に視線を向けた。
すると、小学校高学年ほどのかわいい女の子が、ボクの隣に立っていた。小さいから、声をかけられるまで接近に気づかなかった。
下ろせばお尻の下にまで達するようなロングヘアを、黄色いリボンでサイドに二つ結びにして、ピンクハウス系のひらひらした少女趣味(少女なのだが)な服を着た女の子が、ボクを見上げるように見ている。
「なに?」
迷子……じゃないよな。そんな歳じゃない。
「あの……『シエン』さん……ですか?」
確かに、『シエン』はボクのハンドルネームだ。けど、どうしてこの子がそれを知っているんだ?
もしかして……。でも、まさか……。
「……キミ……もしかして、『オトハ』さん……?」
「あっ、はい。そうです。良かった……ホントに来てくれたんですね」
その子は、頬笑みながらボクの言葉を肯定した。
ボクがオトハさんと知り合ったのは、あるマニアックなサイトのチャットでだった。
そのサイトはいわゆる『スカトロ系』の変態が集まる場所(ボクは、自分の趣味が一般的でないことを理解している)で、そういう性癖がある人間が何人か匿名でチャットを楽しんでいる。
オトハさんは、そのチャット友達だ。
女性ということになっていたが、顔が見えない以上本当かどうかわからなかった。でも、そこに集まる人間にとって彼女は女性で、彼女も女性として振る舞っていた。
彼女が現れるのは、午後十時からの十五分間。それ以外の時間には現れない。ボクは彼女との会話が気に入っていて、その時間には毎日チャットに入っていた。
そして三日前。その日はチャットに入ってくる人間が少なく、ボクと彼女だけになる瞬間があった。
「会えない?」
ボクは何気なくいった。
「いいですよ」
彼女は返した。
次の日曜。ボクが住んでいる場所から二駅の駅前広場に、午前十一時に待ち合わせ。ボクは簡単な自分の容姿を説明して、有名な情報雑誌を手に持っている(自分でも「なんだかなぁ」とは思ったが)ということで、待ち合わせの段取りはあっさりと決まった。
でも、彼女が自分のことはなにも説明しなかったから、からかわれているのかもしれないと思った。実は彼女は男で、ボクのことをバカな変態だと思っているのかもしれないと、そんな想像までした。
しかし、彼女は来た。
ボクの予想もしていなかった姿で……。
「……まだ、信じられないよ……その、もっと大人の人だと思っていたから……」
ボクとオトハさんは、近くの喫茶店に入ってお茶(ボクはコーヒー。彼女はレモンティーだけど)を飲んでいる。
「ごめんなさい。騙すつもりはなかったんです」
申し訳なさそうに彼女がいう。
でも、彼女はなにも悪くない。ボクが勝手に、そう思っていただけのことだ。
彼女。ハンドルネーム「オトハ」さん……というか「オトハ」ちゃんは、十四歳の中学二年生ということだった。
しかし、その二、三歳は下に見える。十四歳だとしても、二十六歳のボクから見れば本当の子供だ。
ボクはこんな子供相手に、あんな変態的なことを「喋って」いたのかと思うと、このまま埋まってしまいたくなる。
オトハちゃんは、はっきりいってかわいい。
ボクは別にロリコンじゃないけど、彼女を魅力的だと感じないわけじゃない。あと五年もすれば、彼女はすごい美女になるだろう。今でも、アイドルとして完全に通用する。
テレビで下手な歌を垂れ流しているアイドルなんかより、オトハちゃんのほうが間違いなくかわいくて魅力的だ。
なのに……。
『コンビニで、うんち売っていたらいいと思いませんか? あたし自分の食べるの飽きちゃった』
彼女がチャットでいった、ハードな言葉が脳裏に浮かんだ。
それが真実かどうかは別としても、こんなかわいい娘が書いた言葉だとはとても信じられない。
「……キミ。本当に、オトハさん……だよね?」
ボクはさっきも同じようなことを訊いたのに、また繰り返していた。
「そうですよ。そんなに信じられませんか?」
信じられるのなら、こんなに困惑していないだろう。
「ごめん……でもなんだか、からかわれているような気がして。こんなかわいい娘が……その……」
「……かわいい……ですか? それは、子供っぽいってことですか?」
オトハちゃんは、少し挑むような口調でいった。幼く見えることに、コンプレックスを感じているのかもしれない。
「違うよ。これは偏見かもしれないけど、キミみたいな娘があんなこというなんて、ボクには信じられないんだ」
「あんなことって……。でもシエンさんも、あたしと同じなんでしょ? ホントは違うんですか? あたしのこと、汚い女だなって思ってからかってたんですか?」
「それは絶対に違うよッ。ボクも、チャットで話した通りの人間なんだ……」
「だったら、どうして信じてくれないんですか?」
「だからキミがあまりにかわいくて……って子供っぽいって意味じゃないよ。本当にそう思うんだ。だから、ボクと同じ汚れた人間だとは思えないんだ。ボクのほうこそ、からかわれているんじゃないかって……」
「……そうですね。あたしたち、『普通』じゃないですもんね……。この前もおしゃってましたね、「ボクは自分が変態だって理解している」って」
「キミも「あたしもそう思っています」って、そういったよね」
「はい。本当に、そう思ってますから。だからあたし、あたしと同じこと思っている人がいるって、あたしは一人じゃないんだって、そう思って……嬉しかったんです。あたし、自分は他人と違うんだって、友達がクラスの男の子の話で盛り上がっている時も、適当に相づちをうちながら、なんでこんなことで盛り上がれるんだろう?……って。かっこいいとか、頭がいいとか、そんなことどうだっていい。あたしは……」
オトハちゃんは周りを見回して、誰も自分たちの話しを聴いていないことを確認すると、
「……うんちを食べさせてくれれば、それでいいんです」
と、小さな声でいい、そして続けた。
「できればあたしのことを理解してくれる人がいいですけど、たぶん無理だろうって思ってましたし、今も思ってます。だからシエンさんが、あたしと同じように自分は普通じゃないって思いながらも、同じ趣味を持っているって知って、とても嬉しかったです。他の人たちは、自分は普通じゃないって思っていないような感じで、『当然』みたいに話しをするから……なんか『違うな』って思ってましたから。今だって、こんなこと話してるのは普通じゃないって、他人とは違うんだって思いながら話してます」
「……他人とは違うこと、自分が普通じゃないことがイヤなの?」
「イヤです。でも、イヤじゃないんです……」
「ボクもそうだよ。自分は普通じゃないって感じて、すごく自己嫌悪に陥ることがある。でも、止められないんだ」
「……はい。あたしもです」
「チャットのみんなも、そう思っているのかもしれないよ」
「……そうかも……しれませんね」
「でもチャットでこんな、真面目っていえば変だけど、こんな話しできないよね」
「フフッ……そうですね。そんな雰囲気じゃないですもんね。「おたくなにいってんの?」とか書かれちゃいますね」
「そうかも」
ボクは、この娘はやっぱり本物の『オトハ』なんだと思った。
どんなに見た目がかわいくても、十四歳でも、ボクと同じ趣味の人間なのだと理解できた。
冷めてしまったレモンティーを、こくこくと咽を鳴らしながら飲んでいる彼女を見ながら、ボクも冷めたコーヒーを口に運んだ。
目の前に彼女がいるからだろうか? その冷めたコーヒーは、信じられないほど美味しかった。
2
あたしは、自分が他人とは違う『変態』だって理解している。だって、自分のうんちを食べたり、おしっこを飲んだりして、『気持ちいい』なんて感じるのは絶対『普通』じゃない。
ご飯を食べているときも、「これが、うんちやおしっこになるんだ。楽しみだな」なんてことを考えている。
もちろん自分のだけじゃなく、他人のだって食べたいし、飲みたいって思うけど、そう簡単に手に入るものじゃないから、他人のは数えるくらいしか食べたことがない。
この前他人のを食べたのは、四ヶ月くらい前に公園の公衆便所で見つけた、誰のものともわからないのだ。
それでもあたしには、便器の隣に落ちていた既に渇き始めたそれが、どんな高級料理よりも魅力的に感じられた。
だからあたしは、それを夢中になって食べた。美味しかったし、気持ちよかった。
食べながらオナニー(普段あたしは、ほとんどオナニーはしない)して、それが気持ちよすぎて、トイレの床におしっこを漏らしてしまったほどだった。
思い返してみると、すごく汚いことをしたって思うけど、後悔なんかしていない。汚いことは気持ちいいから。
あたしは、汚いことを気持ちいいって感じてしまう『変態』だから。
そういうふうに『できている』から。
あたしが初めてうんちを食べたのは、小学校二年生のときだった。その日あたしは、友達と遊ぶのに夢中になって、トイレに行きたいのにそれをずっとがまんしていた。がまんできると思っていた。
だけどあたしは、公園でかくれんぼをしている最中、パンツの中にうんちを漏らしてしまった。
どうしよう……ママに叱られる。
こわくなったあたしが考えて出した答えは、「たべちゃえばいいんだ」という、今思えば変なものだった。捨てちゃえばよかっただけなのに。捨てたって、誰のものかなんてわからないのに。
でも、そんな答えを出したということが、あたしがそういうふうに『できている』という証明だって思う。
かくれんぼの最中だったのも幸いして、誰にも見つかることなく、あたしはパンツの中のうんちを処分できた。
汚いと思うよりも、処分できたことのほうが嬉しかった。それに、「うんちって、なんかおいしい……」って、そう思った。
それ以来あたしは、時々自分のうんちを食べるようになった。そして、その回数はだんだんと増え、中学に上がる頃には、食べるために排泄するようになっていた。
食べた後の口臭の処理も研究して、食べる前に牛乳を飲めば臭いが少なくなることも発見した。
その頃には、自分が他人とは違うと理解していて、「あたしは『変態』なんだ」って思うようになっていた。
イヤだとは思ったし、変だとも思った。でも、「うんちを食べられるなら、『変態』でもいい」とも思った。
今でも、そう思っている。
スカトロマニアという言葉……というか呼び名を知ったのは、中学二年生になってすぐのことだった。
公衆便所に落ちているかもしれない他人のうんちを漁っている最中、偶然『そういう雑誌』を見付けた。そしてあたしのように、汚いことが気持ちいいと感じる人を、そう呼ぶんだって知った。
安心した。「こんな『変態』は、あたしだけじゃないんだ」って思えたから。
あたしと同じような人がいるなら、そんな人たちなら、うんちを食べさせてくれるかもしれない。とも思った。
あたしは見付けた二冊の雑誌……一冊は『スカトロぱらだいす』っていう、汚いことをしている写真がいっぱい載っているので、もう一冊は『S&M』っていう、紐で縛られた人や、赤い蝋燭を垂らされている人の写真が載っている雑誌だった。あたしはその二冊の雑誌を家に持ち帰って、自分の部屋でじっくりと観賞した。
そしてインターネットのスカトロサイトというものを知って、そのチャットに参加するようになった。
パソコンは週に二回学校で授業があって、使い方はなんとなくわかっていたし、パパにねだったらすぐ買ってくれた。
チャットの中には、あたしと同じ趣味(性癖)の人たちが大勢いたけど、ほとんどの人たちは少し違うというか、当たり前にそういうことを話してしるのが、あたしはイヤだった。
その中でも『シエン』さんという人だけは違っていて、あたしと似た考え方をしている人で好感がもてた。
だから「会いたい」といわれたとき、躊躇しないで「いいですよ」と返事を返してしまった。
チャットを抜けた後、冷静になって考えると、いろいろな悪いことが思い浮かんで、少し後悔した。
からかわれているかも……とか、ホントは、バカで汚い糞女だって思われているかも……とか。そんなことを考えた。
でもそれは、無用な考えだった。
シエンさんは、あたしの思っていた通りの人だった。考え方がしっかりしていて、優しい人。あたしをバカになんかしなかったし、「かわいい」ともいってくれた。
おしゃれして会いにいってよかった。
シエンさんはあたしより一回り歳が上で、システムエンジニアという仕事をしているらしい。なんだか、パソコンをいじったりする仕事だと教えてもらった。
初めて会った日は喫茶店でお話だけして別れたけど、次の日曜日にまた同じ場所で待ち合わせをして、ラブホテル(初めて入った)でうんちを食べさせてもらった。
シエンさんは、食べるより食べさせるほうが好きな人だということで、あたしのうんちは食べなかった。出すとこは見たいといったので、それは見せてあげた。もちろんあたしは、自分のも食べた。
シエンさんはすごく喜んでくれて、あたしはなんだか照れてしまった。「照れてる顔もかわいい」っていわれた。
「セックスしますか?」
って訊いたら、彼は少し迷ってから「したことあるの?」って訊き返してきた。あたしは正直に、「ありません」って答えた。本当にないから、そう答えた。
「なら……いいよ。ボクはキミの恋人じゃないから、そんな初めての大切なことはできない……って、うんち食べてもらっておいて、変なこというようだけど……」
「変じゃないですよ。あたしも、ホントは少しこわかったんです。でも……ここはそういうことをする場所らしいですし、しないとシエンさんにも失礼かなって」
そういうと、彼は慌てたように「し、失礼なんて。そんなこと絶対ないから」と手を振りながらいった。
あたしはなんだか胸の辺りがキュンってなって、この人に会えて本当によかったと思った。
シエンさんと会うのも、今日で五回目。彼は日曜日しか休みがないから、会うのはいつも日曜日だ。
初めての日から、あたしたちは毎週会っている。
ホテルでうんちをもらって、うんちするとこを見せる。セックスはしない。でも今日あたしが来ているいるのはホテルじゃなくて、シエンさんのアパートだ。
ここに来たのは初めて。思ったより広くて、きれいな部屋だ。男の人の一人暮らしだっていうから、もっとちらかっているのかと思っていた。
「座ってよ」
あたしは促されて、ガラステーブルの側に置かれたクッションに腰を下ろした。シエンさんは、ジュースをグラスに注いで出してくれた。そして、あたしの対面に座った。
この部屋にはテーブルと冷蔵庫の他に、パソコンが置かれたラックと椅子。後は本棚くらいしかない。グラスは、小型の冷蔵庫の上に置かれているプラスチックの箱から出したから、そこに食器が入っているのだろう。
アパートの部屋は二部屋。この部屋とドアを挿んで繋がっているもう一つの部屋は、寝室として使っているそうだ。トイレとユニットバスもあり、一人暮らしなら十分な広さと設備は整っていると思う。もしかしたら、家賃とか大変なのかも……。
実は今日あたしがここに来たのは、ホテル代がもったいないと思ったのもあるけど、シエンさんがもっている「そういう本」とか、「そういう映像」とかが見たかったからだ。
彼は大人だから、「そういう物」もそれなりにもっているという話だったので、あたしからお願いして見せてもらうことになった。
シエンさんが見せてくれたのは、全部はっきり写っているものが多かった。
「こういうのって、いけないんじゃないんですか?」
「……そうだと思うけど、でも結構簡単に手に入ったりするんだよ」
簡単に? 大人になるとそうなのだろうか? あたしはまだ子供だから、本屋で売っているのだって買えないのに。
あたしはそれらを、食い入るように見た。
本当に美味しそうにうんちを食べている、とてもきれいなお姉さん。うんちまみれでオナニーしたりもしている。お姉さんのアソコはあたしのと形が違っていて、中のビラビラがいっぱい外に出ていて、すごくイヤらしい感じがした。
あたしもセックスするようになったら、アソコがこのお姉さんみたいになるのかな? そう訊くとシエンさんは困ったように、
「それは、人それぞれだと思うけど……? ボクは男だから、よくわからないな。ごめんね」
と答えた。
「シエンさん、恋人いないんですか?」
「うっ……い、いないよ」
「ずっとですか?」
「いたときもあったけど……ボクはその……そういうことする前には、趣味のことを話すんだ。黙ってるのは、なんだか騙しているような気がしてイヤだから」
「それでダメになっちゃう?」
「……うん」
「じゃあ……したことないんですか?」
「あるよ、大学生のときに。その頃はまだ、少し興味があるだけって感じだったから。ボクが本格的にこういうふうになったのは、一度した後なんだ。もっとこう……なんていうか、これは違うって思って……それで……」
「それで?」
「まぁオトハちゃんにならいいか。その彼女に、ボクのうんち食べてくれっていっちゃったんだ。それで彼女とは終わり」
「振られたんですか?」
「はっきりいうと、そういうこと。で、それからも二人彼女ができたんだけど、趣味のことを話すと振られちゃったんだよ。当たり前といえば、当たり前なんだけどね。だってこんなの変態だから」
「そうですね……普通じゃありませんからね」
あっ! 今のいい方はよくないっ。
「そ、その……でも大丈夫ですよっ。あたしだって変態ですから。同じですから」
フォローになっているかしら?
「ありがと。オトハちゃんは優しいね」
頬笑まれ、あたしは自分でも顔が紅くなるのがわかった。恥ずかしいのと嬉しいのが混じり合い、「そ、そ、そんなことないですっ」って、かすれた裏声で答えてしまった。
……シエンさん笑ってる。は、恥ずかしいなぁ……。
「でもホントだよ。オトハちゃんはかわいいし、優しいし、とても素敵な女の子だと思うよ」
素敵な女の子? あたしが? 変態なのに? うんち大好きなのに?
信じられない……。
でもなぜ? あたしはシエンさんがウソをいっているとは思えなかったし、彼の言葉は信じてもいいと思った。
彼は、彼だけは、あたしを裏切らないと思ったの。
3
一通り本と、ハードディスクに収められた映像データを観賞したオトハちゃんに、ボクはいつものようにうんちを食べてもらうことにした。
彼女とこうして会うようになってから、ボクは金曜日から排泄するのを我慢している。少しでも多く、彼女に食べてもらいたいから。
少女趣味な服を好んで着ている(と思う)14歳の女子中学生。それも、14歳にしては見た目が幼いロリ系美少女に、自分の排泄物を食べてもらうというのは、すごく悪いことをしているとは思うけど、ボクみたいな『変態』にはそう簡単に止められるものじゃない。
それに、無理やりさせているわけでもないし、彼女も喜んでくれている。まぁ、これはいい訳だけど。
くちゃくちゃ……にゅちゃぬちゃ……。
小さな口を動かして咀嚼を繰り返すオトハちゃんを見ていると、なんともいえない複雑な思いで胸が締め付けられる。でもそれと同時に、ボクの股間は破裂しそうなほど大きくなって、思わずしごきたくなる。
でもボクは、彼女の目の前でしごいたりはしない。それは躊躇われる。そうしてしまうと、本当の意味で彼女を『汚して』しまうようで、できない。
オトハちゃんは排泄物を食べたいとは思っても、食べている自分を見てオナニーしてほしいとは思っていない……と、ボクは勝手に思っている。
「シエンさんのうんちって、本当に美味しいですね。甘くて、粘りけがあって、あたしのより何倍も美味しいです」
アイドルとしても通用するような、完璧な笑顔で彼女がボクを見る。口の周りを褐色に染めて。
圧倒的な存在感。
偽物じゃない。現実にボクの目の前で存在している。
少し……泣きたくなった。
嬉しいのか、悲しいのか判別が付かない感情に、泣きたくなった。
「そ、そう? よかった……」
「はい。ありがとうございます」
洗面器に入った排泄物。つい五分前までは、ボクの身体の中に入っていた。手掴みでそれを口に運ぶ彼女。美味しそうな顔で咀嚼して、嚥下する。
ボクがさせている? 彼女が望んでそうしている?
わからない。
そのどちらでもある気がする。
嬉しそうな彼女を見ていると、これが変なことだなんて思えなくなってくる。
いいじゃないか。ボクもオトハちゃんも満足しているんだから。そう感じる。感じてしまう。
『変態』だから。他人とは違うから。
でも……それは、ホントにいけないことなのか? 他人とは違うということは、そんなに悪いことなのか?
犯罪を犯しているわけじゃない……とはいいきれない。14歳の少女に排泄物を食べさせているのだから。
自分の汚れた欲求に従って、そう……させているのだから。
オトハちゃんも望んでいるじゃないか? ボクが一方的にさせているわけじゃない。
……でもそれはいい訳にしかならない。彼女はまだ子供で、ボクは大人だ。悪いのは、一方的にボクだ。
それがわかっていながらも、今ボクは股間を膨らませている。性的に興奮している。
ダメな大人。ダメな人間。最低の……クズ。
でもわからないんだ。ボクにはわからないんだ。なにがよくて、なにが本当に悪いのか。
潤んだ瞳で口を動かし続けるオトハちゃん。食べているのはボクの排泄物。彼女の胃の中に納められ、消化され、最後には排泄される。
そして排泄されたそれを、彼女はまた口に入れるだろう。繰り返され、終わることない流転。彼女の排泄物の何パーセントが、ボクのそれによって形成されているのだろう?
彼女が食糞を止めない限り、ボクの身体を通ったものは、彼女の身体に溜まり続ける。
繋がっている……と感じた。
ボクと彼女は、もう繋がっているのだと。
不意にボクは、オトハちゃんがすごく愛おしく感じた。
抱きたい。
もっと繋がりたい。
そう……思った。
「ごちそうさまでしたぁ。とっても美味しかったです」
いつの間にか、洗面器の中のものがきれいになくなっていた。洗ったかのように、なんの汚れもない洗面器。考えごとをしていてちゃんと見ていなかったけど、オトハちゃんは洗面器も舐めたのだろう。
そんなにボクのうんちが好きなのだろうか? そんなに……ボクが『好き』なのだろうか?
「……オ、オトハちゃん?」
「はい。なんですか? シエンさん」
「あ、あの……ボクのうんちって、そんなに美味しいの……かな?」
「はいっ。とっても、すごく美味しいです」
かわいい……どうしようもなくかわいいと思った。
あぁ、もう耐えられない。
今すぐ抱きたい。繋がりたい。
思考力が低下していく。頭の中が真っ白に染まっていく。彼女と彼女の頬笑みだけが、世界から切り取られて『リアル』になる。
「……どうかしましたか?」
その声は、遠い異世界から聞こえた気がした。
ダメだ。戻らなければ。そう思うのに、ボクの視覚はオトハちゃんしか認識しない。他の別にどうでもいいモノは、ぼんやりとして上手く形にならない。
「あの……シエンさん?」
「……あっ、ご、ごめん」
「大丈夫ですか?」
「うん。なんでもないよ」
「でも……」
「な、なに?」
「シエンさんの……あ、あそこ」
そう言われ確認すると、ジーンズを目一杯に押し上げてモノが激しく自己主張していた。
「ご、ごめんッ」
ボクは慌てて、躾のよくない息子を手で隠した。
「……シ、シエンさん。あ、あたし……あたしなら、いいですよ……」
「えっ? な、なにが?」
「……しても、いいですよ。その……セ、セックス……」
顔を赤らめ告げる彼女。
かわいい。
とても、最高にかわいいと思った。
「い、いいの?」
「……はい。いつかは、そうなると思っていましたから」
そうなる?
オトハちゃんは、いつかはボクとセックスすることになると考えていた?
彼女は処女のはずた。
ボクに、処女を捧げてもいいと思っていたのか?
胸が詰まる。息苦しい。
告げるべき言葉は、多分たくさんあるはずだ。
しかしボクが発することができたのは、「……じゃ、じゃあ。寝室に……行こうか?」という、まったく気の利かないものだった。
だがオトハちゃんは、黙ってその言葉に肯いた。
ボクが、彼女の細い肩に手を乗せようとすると、
「あっ。そ、その前に、シャワー……使わせてください」
「シャワー? そんなの別に……そのままでいいよ」
「で、でも……は、初めてですから、できればきれいな身体を抱いて欲しい……です……」
ボクはバカだ。自分のことばかりで、彼女のことはなにも考えていなかった。
「そ、そうだね……ご、ごめん」
「いいえ……あたしこそ、わがままいってごめんなさい」
「キミはわがままなんかじゃないよ。ボ、ボクのほうこそ……」
「じゃあ、すぐにシャワー浴びちゃいますから」
「急がなくてもいいよ。その……きれいにしてきてよ。あっ、そ、その、キミはそのままで、十分きれいだけど……」
自分でもなにをいっているのかわからない。でも、彼女がきれいなのは本当だ。
バスルームに消えたオトハちゃんを待つ間、ボクは意味もなく室内をウロウロしていた。
多分、十分くらいそうしていた。
バスルームのドアが開き、彼女が出てきた。
バスタオルで身体をくるみ、いつもは二つ結びにしてリボンで飾っている長い髪を下ろしているオトハちゃんは、なんだかいつもより大人っぽく見えた。
ボクはオトハちゃんの側により、「ホントに、いいんだね?」と、また気の利かないことを訊いてしまった。
「そ、そんなこと、確かめないでください。恥ずかしい……です」
ボクは無言で、こんどこそ彼女の肩を抱き、寝室へ向かった。
寝室に入ったボクは、オトハちゃんをベッドに仰向けに寝かせ、彼女の幼い身体をくるむバスタオルをといた。
「あっ……」
バスタオルをとかれた彼女が、両腕で胸元を隠す。
「腕、どけて。見たい。オトハちゃんの胸、見せて」
「えっ? あ、はい……。で、でも……その、小さい……です……よ」
「関係ないよ。オトハちゃんのだから、見たい」
「クスッ。シエンさん、『おんなったらし』です」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことありますよ。だって、そんなふうにいわれたら、見せないわけにいかないじゃないですか」
オトハちゃんの腕がスッとどかされ、彼女の薄い胸が露わになる。
ホントに小さかった。
でも、とてもきれいだと思った。つい見取れてしまう。
「あ、あの……」
「えっ? あっ、その……きれいだよ。とってもきれいだよ」
「そ、そんなことより、シエンさんも、服……脱いでください。あたしだけなんて、ずるいです……」
ボクは「それもそうだ」と思い。着ているものを脱いだ。
上半身を起こしたオトハちゃんの視線が、ある一部分に注がれる。
「……大きい、です……か?」
なぜか疑問形だ。
「普通だと思うけど」
「そ、そうですか……男の人の、初めて見ましたから……」
「お父さんのは?」
「小さい頃見たと思いますけど、憶えていません。だから、実物は初めて……です。写真でなら、さっき観ましたけど……」
「写真のより大きい?」
「多分……大きいです」
なんか変な会話だ。
「触ってみる?」
「いいんですか?」
これも変だ。今から『しよう』としている男女の会話じゃない。
オトハちゃんは、恐る恐るボクのに触れた。
「温かい……です」
「気持ち悪くないの?」
「どうしてですか? かわいいですよ。あっ、かわいいだなんて失礼ですね……ごめんなさい」
「別にいいよ。でも、かわいいって……ホントにそう思うの?」
「はい」
そういいながらオトハちゃんは、棒を握ったり、袋を手に乗せてたぷたぷさせたりしている。
「えっと……舐めたほうがいいですか?」
「い、いいよ、そんなことしなくて。そんな、まだ『して』もないのに、口の方が先だなんてイヤじゃない?」
「そんなこと……あっ、いいえ……その、う、嬉しいです。シエンさん、あたしのこと大切に想ってくれているんですね? ありがとうございます。本当に、嬉しいです」
花が咲くような頬笑み。
ボクはたまらなくなって、彼女の唇にキスしようと顔を寄せた。
「あっ。ダメです」
思ってもなかった拒否。
「……唇は、ダメ?」
「そ、そうじゃないです。あたしもしてほしいですけど……でもあたし、さっきうんち食べたばかりだから……臭いし、汚いです……」
そう言われればそうだ。そして彼女が食べたのはボクの……。
「ですから、それは……イヤじゃないですか? シエンさん、食べるのはダメな人でしょ?」
「う、うん……ごめん」
「謝らないでください。よかったらですけど、今度いっぱいしてください。あたし、ちゃんと歯磨いてきますから。口の中きれいにして、ミントの香りさせてきますから……ね?」
「……うん、そうだね。楽しみにしてる」
「はいっ」
確かに彼女の口臭は、排泄物の臭いが混じっていた。
ボクは謝ろうとも思ったけど、なにも言わなかった。その方がいいと思ったから。だからボクは、彼女の小さな身体を抱きしめた。
「好きだよ」
「あ、あたしも……好きです」
「両想い……だね?」
「そうですね。両想いです……ね」
青臭く、恥ずかしい会話。でも、嬉しかった。
想いを確かめ合えたことが、嬉しかった。
しばらくの間、そうして抱き合っていた。
そしてボクは、再び彼女をベッドに横たえ、薄い胸の先端に口をつけた。
「ぅんっ」
くすぐったそうな声。
舌で突起を転がす。感じていないのか、膨らまない。
ボクは柔らかいその部分から口を離し、白いお腹に、おへそにキスし、舌を這わせた。
オトハちゃんはやはりくすぐったそうな声で鳴き、身体をよじる。でも、「イヤ」とは一言も口にしなかった。
ボクの顔が、大切な部分に到達する。
ふわふわとした、産毛といってもいい茂みが生えているのが、14歳にしては未成熟な彼女の身体とアンバランスにも思えたけど、彼女の歳を考えれば、それでも控えめなほうだろう。
そんなオトハちゃんの肉厚の薄い大切な部分は、陰核包皮が露わになっていたが、小陰唇はほとんど顔を見せていなかった。
「そ、そんなに見ないでください……恥ずかしい……ですぅ」
見るなといわれても、こんなにきれいで素敵な部分から目が離せるわけがない。
ボクは素敵な部分に顔を寄せ、キスした。
「ぅん……く、くすぐったいですぅ」
何度もキスを繰り返す。
でも、あまり濡れてこない。もしかしたらオトハちゃんは、あまりオナニーとかしないのかもしれない。
ボクは、クラクラするほどいい香りのする大切な部分から顔を上げた。
「挿れるよ」
「……は、はい。どうぞ」
どうぞって……まぁいいか。
「痛かったらいうんだよ」
「大丈夫です」
彼女はいい切った。
ボクはオトハちゃんに覆い被さる体勢になり、開かれた脚の間に下半身を割り込ませた。こうしてみると、ホントに彼女は小さい。
子供だ。
だけどボクは、もう止まれない。
「少し、お尻持ち上げて」
彼女がいわれた通りにする。
ボクは持ち上げられた腰に両手をそえ、固定した。位置を確かめながら腰を動かす。
「……そ、そこ……です」
先端が、僅かに外に現れるヒダに触れていた。
「力抜いて……ホントに、挿れるから」
「……はい。力、抜きました」
彼女が真っ直ぐにボクを見つめる。
「あたし……シエンのこと信じてます。両想いですから。だ、だから、して……ください」
ボクは肯いて、腰を前に移動させた。
「ウッ……」
オトハちゃんが眉間にしわを寄せ、下唇を噛んだ。
だが、まだ先端も全部入っていない。ボクは進入を阻止しようするかのような閉じた肉に、めり込ませるようにモノを埋めた。
「ィッ!」
声を、多分苦痛の声を噛みしめる彼女。
先端が、肉壁にきつく締め付けられていた。
「ホントに大丈夫? 痛くない?」
「……す、少し……でも、だ、大丈夫……です……」
ボクはゆっくりと肉壁を割り、奥へと向かう。
先端につっかかりを感じた。
これが処女膜とかいうものだろう。ボクは経験はあるが、初めての女の子とするのは彼女が初めてだ。
それにしても……きつい。
初めての女の子の中は、こんなにもきつく締め付けてくるものなのだろうか? それとも、オトハちゃんのが小さ過ぎるのだろうか。
油断すると、外に押し出されそうになる。
それに、オトハちゃんがあまり濡れていないのも気になった。
ここまできて後戻りはできない。しかし彼女の苦痛は、できるだけ和らげてあげたかった。でも。どうすればいいのかわからない。
だから、
「最後まで、挿れるから」
「は、はい……いれて、くだ……さい」
苦しげな彼女の声。
ボクは、腰を一気に押し出した。
「ヒィグぅッ!」
メリッ……というより、それは、ブチッという感触だった。
なにかが裂けたのがわかった。
通った……と感じた。
「は、入ったよ……オトハちゃん」
「も、もう……ヒッ、そ……んな、は、恥ずかしい……こと、うッ、い、いわない……で、くだ……さい……」
苦しそうな声。でもオトハちゃんの顔には、どこか嬉しそうな表情が宿っていた。
ボクはそのまま、繋がったまま、彼女の身体中から零れ出る汗の香りに包まれ、じっとしていた。
彼女が落ち着くまで、そうしていた。
「ハァ……ハァ……シ、シエンさん。もう、へ、平気……です。して、くだ……さい」
「わかった……それじゃ、少し動くよ」
「は、はい……」
ボクは腰を引いて、きつく締め付けられているペニスを動かした。
「うぅっ」
オトハちゃんは下唇を噛み、額に皺を寄せて声を漏らす。その表情はゾクゾクするほどかわいくて、愛おしかった。
シーツに広がる長い髪。髪の上に乗せられた細く薄い身体。脚を開き、ボクを受け入れている。
かわいい。かわい過ぎる。世界で一番かわいい。
そんなかわいいオトハちゃんが、初めての男としてボクを受け入れている。ペニスを締め付け、絡み付くねっとりとした温かさ(愛液なのか、破瓜の証なのかわからない。そのどちらでもあるのだろう)が、ボクの身体中に浸透してくる。
「はぁはぁ、オトハ、オトハちゃん……」
無意識に声が出て、腰の動きも速くなる。オトハちゃんは下唇を噛みしめたかわいい顔のままで、その動きを受け入れてくれている。
ボクの腰の動きに合わせて、彼女の小ぶりな乳房がぷるぷると震え形を変える。上下に忙しく移動する桜色の乳首が、少しぷくっとしているように思えた。
感じ始めているのだろうか? まさか……初めてなのに?
「ど、どう? 痛くない?」
「あっ、痺れて……いっぱいでぇ……」
「痛くないんだね?」
「そ、そんな……き、きかな、きかないでください。だい、大丈夫ですから……だ、だから、い、いいです……から」
きれいな涙を零して、ボクに答えるオトハちゃん。
「い、いたくない……うっ、ホ、ホント……うぅんっ」
ホントは痛いのかもしれないが、そういってくれる彼女に、ボクはもう「痛いかい?」なんて訊けなかった。
「オトハ、いいよ。き、気持ちいいよ。オトハの、オトハの身体、す、素敵だよ」
「あぅ、は、はい……う、うれしいぃ……ですうぅ」
ぐちゅ、にゅちゃ、ちゅぴゅ、じゅちゃっ、ちゅ、ちゅ……
性器が擦れ合う湿った音が響く。
「ああぁ、だ、だめえぇ……も、もう、あた、あたし、ごめ、ごめんなさ、ああぁぅんっ」
ビクンッ
ボクの身体の下で、オトハちゃんの身体が跳ねた。それと同時に、生ぬるい液体がボクの下半身を濡らす。
だがその液体は彼女がイった液体ではなく、黄金色のおしっこだった。
ぷしゃあああぁあぁぁーっ
溢れる黄金水が、繋がっている二人の身体とベッドを濡らす。
「ご、ごめんなさいっ。あた、お、おしっこおぉ……やあぁ、ごめん、ごめんなさいぃ」
「いいよ。き、気にしなくていいよ」
「はあうぅ、で、でもぉ……おし、おしっこおぉ……」
「そ、それよりも大丈夫? 一度止めようか?」
「い、いやですぅ……さ、さいごまで、シエンさんがぁ、さ、さいごまで、だ、だから、いやあぁ」
ボクが果てるまで受け入れてくれる?
ゾクッとした。
なんてかわいいことをいうんだろう。辛いはずなのに。初めてのセックスなのに。おしっこを漏らすほど、責められているのに……。
「じゃあ、続けるよ……」
「は、はいぃ……して、してくだ、あうんっ、くだ、くださいぃ……」
ボクはおしっこで滑りがよくなった腰を、オトハちゃんへの想いを込めて動かした。
かわいいオトハ。いじらしいオトハ。未成熟な身体を割り、ボクを受け入れてくれるオトハ。
14歳の……子供のオトハ。
好きだ。
愛してる。
「オトハ、オトハ、オトハ」
「シエンさん、シエンさん、シエンさあぁん」
そろそろ果てそうだ。下腹部から『アレ』がせり上がってくる。
「イクッ、も、もう出る……」
抜かなければ。
そう思ったとき、
「な、中で、い、いいです。なか、中にぃ、いいから、だ、大丈夫ですから。出して、出してくださいぃ」
ボクはその言葉に従った。
オトハの小さな膣壺に、彼女への想いをぶちまけた。
「あっ、あつ、あつうぅいイィ〜ッ!」
ボクが果てるのと同時に、彼女はそう叫びながら、ビクンッと背中を反らして跳ねた。
くたっと脱力したオトハちゃんから、ボクは身体を離した。
閉じきらない彼女の膣口から、赤みを帯びた二人の混合液がドロリと溢れ、おしっこで濡れたシーツに零れた。
「オ、オトハ……」
「う、嬉しい」
「なにが?」
「名前……呼び捨てです」
「あっ、ごめん」
「い、いいんです。そのほうが嬉しい……です」
「そう?」
「は、はい……嬉しい」
汗に輝くオトハの身体は、ボクがこれまでに見たなによりもきれいだった。
「し、知ってますか?」
「なにを?」
「あたしの、あたしの本当の名前……です」
「ううん。知らない」
「あたし……実は本名もオトハなんです。白鷺音葉(しらさぎ おとは)……白い、鳥の鷺に、音楽の音、葉っぱの葉……で、白鷺音葉っていうんです」
「そう……きれいな名前だね」
「シエンさんの名前、教えてください」
ボクは音葉に自分の名を告げた。
「普通……ですね」
「ごめんね。面白くなくて」
「冗談です。いい名前だと思いますよ。だって、初めての人の名前だから……って、あたし、恥ずかしいこといってます?」
「ちょっとね」
「でもいいです、恥ずかしくても。だって、両想いですから」
「あぁ、そうだね」
「恋人……ですよね? あたしたち」
「うん。そうだよ」
「嬉しい……」
「ボクも嬉しいよ。音葉」
本当だ。この言葉に偽りはない。
ボクは音葉の顔に、自分の顔を近づけた。
「キス……したい」
「ダメです」
「でもしたい」
「臭いですよ? 汚いです」
「構わない」
「……じゃあ……いいです」
音葉が目を閉じた。
ボクはその唇に、自分の唇を重ねた。
別に、汚いとは思わなかった。
それ以上に音葉の唇が柔らかくて、心地よかった。
「ファーストキスです」
唇を離すと音葉が言った。
「レモンの味じゃありませんでした」
「なんの味?」
「あなたの味」
「曖昧だね」
「う〜ぅ。気を使ったんですよ」
「どうして? はっきり言ってよ」
「……じゃあいいます。あなたのうんちの味です」
「うっ」
「ねっ? イヤでしょ? あたしは平気ですよ。うんち好きですから」
音葉はくすくすと笑う。
ボクはなんと答えていいかわからず、黙っていた。
すると音葉が、ボクの目を覗き込み、
「でも今は、あなたが一番好きです」
頬を染め、ニコッと頬笑んだ。
「恥ずかしいこと、いいましたか?」
「そうだね。でも、構わないさ」
「両想いですからね」
「そう、両想いだからね」
ボクたちは笑い合った。
いつまでも、こうして笑い合っていられればいい。
誰がなんといおうと構わない。
ボクたちの『コタエ』は、ここに示されているのだから。
End |