この手をずっと離さないで

 

     0

 

 あたし以外、この家には誰もいない。

 お母さんも、お父さんも。

 お金だけが毎月銀行に振り込まれる。電話はかかってこない、手紙もこない。あたしは、今お母さんとお父さんがどこにいるのか知らない。

 もう一年以上も、お母さんとお父さんに会ってない。声も聴いてない。

 寂しい?

 寂しくない。馴れた。

「真紀ちゃんはしっかりしてるから、一人でも大丈夫よね」

 うん。

 そう答えるしかなかった。

 イヤ、一人にしないで。

 いえなかった。

 それでどうにかなるとは思えなかったし、嫌われると思ったから。

 あたしは一人でご飯を食べて、一人でお風呂に入って、一人で寝る。あたしが一人で暮らすには、広すぎるこのアパートで。

 半分以上の部屋は使ってない。お母さんとお父さんの荷物は、ほとんど残ってないから、使ってない部屋は本当に無駄だと思う。

 なにか利用しようと思っても、なにも思いつかない。

 もうすぐ今日も終わる。

 なにもない、普通の一日だった。

 朝起きて、学校に行って、帰ってきて、宿題して、夕ご飯作って、テレビ観ながらご飯食べて、洗濯機を回しながらお風呂に入って、洗濯物を乾燥機で乾かしながらテレビ観て、十時になったら寝る。

 休みの日以外、繰り返されるスケジュール。学校が休みの日はもっと簡単。ほとんどテレビを観てるだけ。

 そんなあたしの毎日。

 そんな、あたしの生活。

 

     1

 

 市立夏樹小学校。

 あたしは、そこの五年生。

 学校は楽しい。友達がいるから。

 勉強も嫌いじゃない。休み時間のほうが好きだけど。

 体育だってそんなに苦手じゃない……鉄棒はちょっと苦手……かな。でも、身体を動かすのは楽しい。

 あたしは、そんな普通の子。

 お母さんもお父さんも家にいなくたって、あたしは普通にやっている。あたしは普通にできている。

 大丈夫。心配ない。

 だから、お母さんもお父さんも帰ってきてくれない。大丈夫だから。

 あたしは、『しっかり』してるから。

 そう、あたしが『しっかり』してるから、帰ってきてくれないだけ。あたしのことが嫌いってこと、絶対ない。

 あたしは信用されている。

 だから、期待を裏切ってはダメ。

 帰ってきてなんていっちゃダメ。

 ……いえない……けど。

 だって、どこにいるのか知らないし、電話番号も知らないから。

 安心してるから教えてくれないんだ。

 あたしは『しっかり』しているし、一人でも大丈夫だって信じてくれているから。

 平気。

 大丈夫。

 だから、泣かない。

 寂しい?

 寂しくない。

 寂しくなんてない。

 ホントだよ。

 あたしは『しっかり』しているんだから。

 あたしは『しっかり』やっている。『しっかり』やっていける。一人でも。

 ほら、算数のテストで100点取った。

「すごいね。真紀ちゃん」

 亜矢ちゃんがいった。亜矢ちゃんは、あたしと一番仲良しの友達。お母さんが外国の人で、ハーフっていうんだって。髪の色が薄くて、肌の色がとっても白い。背も高いし、脚も長い。

 きれいだなって思う。

 亜矢ちゃんと仲良しで、あたしは幸せ。亜矢ちゃんはたまに、あたしの唇にキスしてくる。でもあたしはイヤじゃない。少し変だなって思うけど、二人きりのときしかしないし、亜矢ちゃんは誰にもいわないから。

 亜矢ちゃんのキスは、チュって軽く触れるだけ。大人の人のキスは舌を絡め合ったりするらしいけど、あたしたちは子供だからそんなキスはしない。

 二人だけの秘密のキス。

 友達の、仲良しの証。

 あたしは、亜矢ちゃんが大好き。ずっと一緒にいたいけど、六年生になると違うクラスになってしまうかもしれない。

 五年生になるまで、亜矢ちゃんと一緒のクラスになったことはなかった。お話ししたりしたことはあったけど、友達っていうほどじゃなかった。

 でも五年生で同じクラスになってから、あたしと亜矢ちゃんは仲良しになった。

 亜矢ちゃんはあたしの大切な、大切な友達。

 放課後。

「ねぇ、真紀ちゃん?」

 掃除が終わってあたしがランドセルを手に取ったとき、亜矢ちゃんが話しかけてきた。

「なに?」

「明後日の日曜日、真紀ちゃん家に遊びに行っていい?」

 今週は第二週なので、明日と明後日は学校が休みだ。今週は今日で学校が終わりだから、亜矢ちゃんとは二日も会えなくなるはずだった。だから、日曜日に亜矢ちゃんが遊びにきてくれるのなら、あたしはとても嬉しいと思った。

「うん。いいよ」

「真紀ちゃんって、一人で住んでるってホントなの?」

「う、うん」

「大変だねぇ」

「そんなことないよ。もう馴れたから」

「偉いね。真紀ちゃんしっかりしてるもんね」

「……そうかな」

「そうだよ。じゃあ、日曜日はいっぱい遊ぼッ」

「うん。でも亜矢ちゃん、あたしん家の場所知ってるの?」

「知ってるよ。朝ご飯食べたらいくからね。いいよね」

「うん。待ってる」

 あたしは日曜日が楽しみだなと思いながら、いつもより元気良く家に帰った。いつもみたいに、「ただいま」っていっても誰も応えてくれなかったけど、少しだけイヤじゃなかった。

 

     2

 

 今日は日曜日。朝から亜矢ちゃんが家に遊びにきている。亜矢ちゃんが家にきたのは初めてだ。

 あたしの部屋でゲームをしたり、お話しをしたりして、さっき一緒にお昼ご飯を作って食べた。

 あたしは料理が得意だけど、亜矢ちゃんは料理が苦手らしい。だから、ほとんどあたしが作った。

 亜矢ちゃんは「真紀ちゃんの料理、美味しいね」っていってくれた。嬉しかった。

 リビングでテレビを観ていると、

「ねぇ真紀ちゃん。キス……していい?」

 突然、亜矢ちゃんがいった。

「うん。いいよ……」

 チュッ

 触れるだけのキス。

 亜矢ちゃんはいい匂いがする。ミルク入りの紅茶みたいな、優しい香り。

「ねぇ、真紀ちゃん?」

「なに?」

「亜矢のこと、好き?」

「好きだよ。大好き」

「じゃあ……愛してる?」

「えっ?」

「亜矢のこと、愛してる? 誰よりも好き? 亜矢は、真紀ちゃんが誰よりも一番好き」

 亜矢ちゃん。なんだか真剣な顔してる。

 あたしを真っ直ぐに見つめてる。

 ドキドキ……どきどき……。

 あたしは、心臓が何倍にも大きくなったように感じた。

 亜矢ちゃんの顔がすぐ近くにある。息が届いてくる。

 いい匂いがする。

 キスしたい。

 もっと、もっと亜矢ちゃんとキスしたい。

 こんなこと思うの初めて。

 でも……

「亜矢ちゃん」

 あたしは、初めてあたしから亜矢ちゃんにキスした。

「ぅん」

 唇を押しつけた。重ねた。

 やわらかい。

 もっと……もっと欲しい。

「うっ……ゥウンッ」

 舌……入れちゃった。

 亜矢ちゃんは、歯を開いて受け入れてくれた。

 あたしの舌と亜矢ちゃんの舌が絡み合う。

 これが亜矢ちゃんの味?

 美味しい。

 すてき。

 亜矢ちゃん……好き。

 大好き。

 唇を離しても、唾液の糸が繋がっていた。

 でもすぐにプチッて切れて、弾けた。

「真紀……ちゃん……」

 亜矢ちゃんの白い頬は桜色に染まって、なんだかトロンってした目をしている。

 ドキッ

 そんな亜矢ちゃんを見て、あたしは「かわいい」って思った。

 すてきでも、きれいでもなく、「かわいい」って。

 だからあたしは、またキスをした。

 何度もなんども、あたしたちは大人のキスを交わした。

 かわいい亜矢ちゃんの味。

 唾液をいっぱい飲んで、あたしのも飲んでもらった。

 ドキドキした。

 キュゥンってした。

 これが大人のキスなんだ?

 すてき……。

 すごくいい。

 気持ち良い。

 美味しい。

 ずっとしていたい。

「亜矢ちゃん……」

 胸がキュンと締め付けられ、あたしは苦しくなった。

「……真紀ちゃん……もっと、しよ?」

 もっとしたい。キスだけじゃなく……もっと……亜矢ちゃんといろいろしたい。

「キスだけ?」

「……真紀ちゃんがいいなら、亜矢もっとエッチなことも……したいな」

「あたしもしたい。亜矢ちゃんとエッチなこと……」

「真紀ちゃんは、したことあるの? エッチなこと」

 あたしは首を横に振った。

「亜矢ちゃんは?」

「亜矢一人だけでは、あるよ。してる。アソコさわったり、おっぱい揉んだりしてる」

 そ、そうなんだ……。

「真紀ちゃんは、一人でしないの?」

「ちょっとだけ……アソコは……さわってないけど」

「気持ち良いよ。アソコ」

「う、うん……そう、みたいだね」

 話には聞いているけど、あたしはちょっと恐いからさわれない。

「わさってほしいな、亜矢のアソコ……真紀ちゃんに」

「うん……亜矢ちゃんのアソコ、さわりたい……」

 あたしたちは、少しだけ見つめ合った。

 気がついたらあたしは、黙って亜矢ちゃんを三人が座れる大きなソファに押し倒していた。

「あっ。真紀ちゃん……」

 あたしは仰向けに寝転がる亜矢ちゃんの脚の間に身体を入れて、亜矢ちゃんのふわふわしたスカートをたくし上げた。

 淡いピンク色のショーツ。前にフリルの飾りがついていて、とってもかわいい。

 あたしはそのショーツの真ん中、亜矢ちゃんのアソコにさわった。

 ピクッ

 亜矢ちゃんが身体を震わせた。

 ドキドキ……どきどき……

 亜矢ちゃんのアソコは、うっとりするほど柔らかかった。

 ふにってしていて、ぷにってしていて……。

「ま、真紀ちゃぁん……もっと……」

「う、うん」

 あたしはショーツの上から、亜矢ちゃんのアソコを指で擦ったり、ぷにって押したりした。

 そうしていると、亜矢ちゃんのショーツに染みが浮かんできた。

 濡れてる。

 気持ち良いんだ……。

「亜矢ちゃん。濡れてる……」

「うん……真紀ちゃんの指、気持ち良いのぉ……」

「ショーツ。脱がしていい?」

「いいよ。真紀ちゃんが脱がせて」

 あたしは亜矢ちゃんのショーツを脱がせた。真っ白な亜矢ちゃんの下半身が丸見えになった。

 これが、亜矢ちゃんのアソコ……。

 あたしは自分のアソコなんてはっきり見たことないけど、あたしのとは少し違っていると思った。

 あたしのは中のヒダヒダが外に出てないけど、亜矢ちゃんのはちょっと出てる。それにあたしのより、少しお尻に近い場所にあるような気がした。

 亜矢ちゃんのアソコに顔を近づけると、くらくらするくらいいい匂いがした。

 ちゅ……ちゅぷっ

「ハウゥン」

 あたしがアソコにキスすると、亜矢ちゃんは腰を浮かしてビクンッてした。気持ち良いのかな?

 あたしは亜矢ちゃんに気持ちよくなってほしくて、何度もなんどもキスした。線をなぞって舌を動かした。

「ふぅんッ……ま、真紀ちゃぁん……」

 ぷくってした突起に舌を絡ませた。

「アッ……ヤッ。ダメぇ……」

 ダメだっていってるけど、亜矢ちゃんは自分からアソコをあたしの顔に押しつけてきた。

 かわいい。

 亜矢ちゃん。とってもかわいい。

 あたしは指で亜矢ちゃんのアソコを開いて、複雑な濃いピンク色のヒダヒダに隠されたおしっこの穴と、その下にある穴にキスした。

 下の穴に舌を潜り込ませようとしたけど、穴は堅く閉じていて少ししか入らなかった。

「ん、ん、ぅん……」

 あたしの舌の動きと一緒に、亜矢ちゃんが切なそうな声を出した。

 かわいい声。心地良い声。

 あたしは夢中で、亜矢ちゃんのアソコにキスを繰り返した。

 あたしは、自分のアソコが熱くなっているのを感じた。奥のほうから、なにかが出てきそうだと思った。

 おっぱいさわったりして気持ちよくなったときに濡れるのとは違う、もっと大きななにかが溢れてきそう。

「あっアンッ! ま、真紀ちゃん、イっちゃうよぉ」

 いっちゃう? どこへ?

「アッアッああアァァあぁぅんッ!」

 亜矢ちゃんのアソコから、あたしの口の中になにか温かい液体が注ぎ込まれた。

 亜矢ちゃん、おしっこしたの?

 でもそれはおしっこにしては少なかったし、おしっこの匂いもしなかった。

 なんだろ……これ?

 あたしはそれが零れないように、全部飲み込んだ。味はほとんどしなかった。

 あたしはピクピクしている亜矢ちゃんのアソコをきれいに舐めて、亜矢ちゃんの股の間から顔を上げた。

 亜矢ちゃんは、なんだかぐったりして、ぽーってしていた。

 

 あの液体は、すごく気持ちよくなったときアソコから溢れてくるものらしい。亜矢ちゃんに教えてもらった。

 あれが出てくることを、「イク」っていうのも教えてもらった。

 だったらあたしは、「イった」ことがない。亜矢ちゃんにそういうと、「だったら、亜矢が真紀ちゃんをイかせてあげる」っていって、今度は亜矢ちゃんがあたしのアソコを舐めたり、キスしたりしてくれた。

 そしてあたしは、亜矢ちゃんの口と舌で初めて「イった」。

 それはこれまであたしが経験したことないくらい、とても気持ちよかった。亜矢ちゃんがあたしの「イった液体」を舐め取って、飲んでくれるのを見ていると、あたしはキュゥンてした。

 亜矢ちゃんがかわいくて仕方なくなった。そしてもっと、亜矢ちゃんとエッチなことがしたくなった。亜矢ちゃんもあたしと同じだったみたいで、それからあたしと亜矢ちゃんは、裸でお互いの身体を舐め合い、キスした。

 結局三時間以上も、二人でそうしていた。

 その後一緒にシャワーを浴びて、浴びながらキスして、アソコをさわりあって……そして、そして……。

「好き……真紀ちゃん」

「あたしも、亜矢ちゃんが好き」

 シャワーで濡れた身体のまま、雫を滴らせながらあたしたちは見つめ合った。

「恋人にして。亜矢を、真紀ちゃんの恋人にして」

「うん」

「ホント?」

「うん」

「真紀って呼んでいい?」

「うん」

「亜矢のこと、亜矢って呼んでくれる?」

「うん」

「……キスして」

 あたしは亜矢にキスした。恋人の亜矢に。

 舌を絡ませて、唾液を交換して、大人のキスをした。

「……真紀」

「亜矢……」

 どちらからともなく、あたしたちは抱きしめ合った。

 亜矢の身体は柔らかかった。亜矢の身体は細くて、白くて、胸もあたしのより大きい。身長も亜矢のほうが五センチくらい高い。

 なのに、あたしは亜矢をかわいいと思う。

 かわいい亜矢。

 大好き。

 そして、愛してると感じた。

 ずっと一緒にいたい。誰にも渡したくない。亜矢には、あたし以外の誰にも触れてほしくない。

 亜矢の全てがほしい。

 あたしの全てを、亜矢にもらって欲しい。

 亜矢にあたしの全部をあげる。だから、亜矢の全部をあたしにちょうだい。

 あたしの亜矢。

 亜矢のあたし。

 恋人。

 あたしと亜矢は、恋人になった。

 もうあたしは、亜矢を友達なんて思えない。

 大切な、世界一大切な恋人だ。

 愛してるよ……亜矢。

 

     3

 

 今日は亜矢と水族館でデート。

 手を繋いで歩いていても、女の子同士だから変に思われない。あたしと亜矢が恋人になってから、今日で一ヶ月になる(正確にはちょっと違うけど、第二週の日曜日ってことで)。

 あの日から学校が休みの日は、毎日あたしの家でエッチしている。キスして、身体を舐め合って、アソコも、お尻の穴も、いっぱい舐めてさわってエッチした。

 亜矢の身体は、どれだけさわっても飽きることがない。でも今日は「恋人になって一ヶ月記念日」だから、二人でデートしている。

「わぁ……きれいな魚だね。真紀」

 亜矢のほうがきれいだと思ったけど、「うん」って応えた。すると亜矢が、ニコッて笑って、繋いだ手の力を少し強くした。

 あたしも、少し強く握り返した。

 亜矢はとても楽しそうだ。だからあたしも楽しかった。

 亜矢と一緒にいられれば、あたしはそれだけで楽しい。あたしは、もう亜矢がいなければ生きていけない。

 亜矢と離ればなれになるって、少しでもそんなこと考えただけで泣いてしまう。

 家に一人でいるとき、そのほとんどを亜矢のことを考えて過ごしている。亜矢のことを思って、自分で慰める。

 そういったら、「亜矢も、真紀のこと考えて毎日してるよ」って……。

 同じだ。あたしと亜矢は、同じこと考えてる。嬉しい。

 あたしは一人じゃない。

 お父さんもお母さんも、家にいなくていい。亜矢さえいればいい。亜矢とエッチして、手を繋いで歩いて、笑い合って、それでいい。

 学校では、あたしたちが恋人同士なのは内緒だけど、目が合うと頬笑み合う。休み時間、隠れてトイレでキスをする。ちょっとだけ、胸をさわり合ったりもする。でも、それだけしかしない。それ以上、アソコとかさわっちゃうと、エッチしたくなっちゃうから、学校ではそれ以上しない。

「……ねぇ……真紀?」

 水槽を泳ぐカラフルな魚を背にした亜矢が、あたしを見つめている。すごくきれいで、かわいくて、胸がキュンってした。

「亜矢のこと……好き?」

 亜矢は、最低一日一回はそう訊く。

 そしてあたしは、その度に同じ答えを返す。

「好きだよ。愛してる」

 周りの人に聴かれてもいいと思った。でも、誰もあたしたちの会話に気がついた人はいないみたいだった。

 亜矢はスッとあたしに身体を近づけ、「亜矢も」と囁いた。

 あたしは我慢できなくなって、亜矢を水族館のトイレに連れ込んでキスした。すると亜矢が、

「これから真紀の家に行って、エッチする?」

 と訊いてきた。

「亜矢はしたいの?」

「したいけど……デート続けるのもいいな。真紀と手を繋いで一緒に歩くの楽しいし、嬉しいから」

「うん。あたしも、どっちもしたい」

「時間……足らないね」

「……うん」

「学校。毎日休みだったらいいのに」

「そうだね。ずっと、二人でいたいね」

 そして少しの沈黙の後、

「……結婚……しようか?」

 と、亜矢が囁いた。

「……うん」

 キスした。

 誓いのキスのつもりで。

「……これで、亜矢は真紀のお嫁さんだよ」

 亜希も同じつもりだったようだ。

「くすっ……亜矢がお嫁さんなの?」

「そうだよ。真紀は、亜矢の旦那さま……それじゃイヤ?」

「イヤじゃないよ。かわいいお嫁さんがもらえて嬉しい」

「だったら、いっぱいかわいがってね。好きっていってね。愛してるってキスしてね」

「うん」

「浮気しちゃダメだよ」

「しないよ。あたしには亜矢だけ」

「……嬉しい。亜矢も、真紀だけだよ」

 そういって、亜矢はきれいな涙を零した。あたしはその涙をキスですくった。亜矢の味がした。嬉しいって、そういってる味がした。

 そしてあたしたちは、デートを続けた。

 デートが終わり、あたしは亜矢を亜矢の家まで送った。別れ際亜矢が、「おやすみなさい。あなた」と、触れるだけのキスをしてきた。

 そしてなにもなかったかのように、「また明日学校でね。おやすみ、真紀」といい残して家の中に入っていった。

 あたしは苦笑して、誰もいない自分の家に戻った。

 

     4

 

 相変わらず、お父さんとお母さんからの連絡はない。でも、銀行にお金が振り込まれているから、どこかで元気にやっているのだろう。

「真紀。お昼ご飯できたよ」

 今日は亜矢が、一人で料理するといいだした。なんでも、「お嫁さんだから」というのがその理由らしい。

 少し心配だったけど、せっかく亜矢がその気になっていたから、あたしは亜矢に任せることにした。

 だけど……

「……ううぅ……美味しくない……」

「大丈夫だよ亜矢。美味しいよ」

「ううん、美味しくないよぉ。真紀の作ったほうが、何倍も、何十倍も、何百倍も美味しいもん」

 うーん……そうかなぁ? あたしは亜矢が作ってくれたっていうだけで、それだけですごく美味しいと感るけど。

「ごめんねぇ……真紀。今度はもっとがんばるから」

「だから美味しいって」

「真紀は優しいからそういうけど、これ美味しくないよぉ。これじゃあ、お嫁さん失格だよ」

「そ、そんなこといわないでッ」

 思わずあたしは声を荒げてしまった。恐かったから。そして……。

「いわないで……悲しく……なるから」

「ご、ごめんなさい……」

「あっ……ううん。あたしこそごめんね。亜矢は、あたしのこと思っていったのに」

 あたしは亜矢の側によって、キスした。気まずいのはイヤだから。すぐに仲直りしたかったから。

「……ご飯、あたしが作り直そうか?」

「いい……食べる。真紀が美味しいっていってくれたから」

「うん。じゃ、食べよ」

 ご飯を食べ終えると、あたしたちはエッチした。

 亜矢をいっぱいかわいがった。アソコにキスして、指を入れて、突起を摘んで、亜矢を気持ちよくした。

 そしてあたしも、亜矢に気持ちよくしてもらった。

 エッチが終わるとシャワーを浴びて、バスタオルでお互いの身体を拭き合った。身体を拭き終えると、あたしたちは裸のままで、服を脱いで愛し合ったあたしの部屋に戻った。

 髪がまだ湿っているので、あたしはベッドに腰掛けて亜矢の手でドライヤーを当ててもらった。あたしの髪は短いから、乾くまでにそんな時間はかからない。

 そして次は亜矢。亜矢の髪はもちろんあたしが乾かす。亜矢の髪はとてもきれいだ。長くて、色が薄くて、軽いウエーヴがかかっていて、でもそれが自然で、いつまでもさわっていたくなる。

「うん。これでいいよ」

 あたしはドライヤーで亜矢の長い髪を乾かすと、その首筋にそっとキスした。

「ありがと」

 亜矢は振り向いて、唇を差し出してきた。もちろんその意味は分かる。あたしは唇にもキスした。

 そして、エッチの前に脱いだ服を着た。時間は午後四時三十二分だった。亜矢の門限は午後六時。あたしの家から亜矢の家までは、三十分もあれば移動できる。後一時間くらい一緒にいられる。

「どうする? 亜矢」

 それだけで伝わったらしく、亜矢はあたしに抱きついてきて「時間までこうしてよ」といった。

 あたしたちはベッドに横になって、ただ抱きしめ合った。ちょっとキスもした。一時間は、すぐ経過してしまった。

「……もう、帰らなくちゃ……」

「うん」

「さみしい? 真紀」

「うん」

「亜矢もさみしい」

「明日まで、長いね」

「長いね……」

 亜矢はベッドを降り、服についた埃を払った。そして皺になった形を整えて、「どう? 大丈夫?」と訊いた。

「うん、大丈夫。かわいいよ」

 あたしがいうと、嬉しそうに笑った。

 あたしは亜矢を玄関まで送った。

「また明日」

 亜矢がいう。

「うん。また明日」

 あたしが応えた。

 玄関を出て、自分の家に帰る亜矢。

「亜矢ッ!」

 その亜矢の後ろ姿を見ていると、とても、そう……とても耐えられないくらい切なくなって、あたしは亜矢の腕を掴んでいた。

 亜矢は驚きもしないで、腕を掴むあたしの手に、掴まれていないほうの手の平を重ねた。あたしは腕を放して、その手に指を絡ませた。

「……大丈夫だから……また、明日逢えるから。だから真紀……泣かないで」

 あたしは、無意識だったけど泣いていた。

「……う、うん……」

 亜矢の顔が近づいてきて、あたしは目を閉じた。

 チュッ

 触れるだけの、優しいキスだった。まだ友達のころに交わしたのと同じ、子供のキス。

 あたしは落ち着いた。

「大丈夫……もう、大丈夫だから……」

 あたしはそういって、絡み合う指を解いた。

 でも亜矢の温もりは、手の平に残った。

 今度はちゃんと見送って、亜矢の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、あたしは家の中に戻った。

 そして、亜矢の香りが残っているベッドに顔を押しつけて、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

「……よしッ」

 あたしは夕ご飯の支度をするために、ベッドを離れてキッチンに向かった。

 すると亜矢が散らかした調理器具がそのままになっていて、あたしはそれがおかしくて笑った。

「もう……お嫁さんなら、ちゃんと後かたづけくらいしなさいよね」

 一人ごとを呟きながらも、亜矢がここにいた証拠を嬉しく感じた。

 そしてあたしは胸の前で両手を重ねて、手の平に感じた亜矢の温もりを思い出しながら、散らかった台所をしばらくの間眺め続けた。


End


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