わすれな草

 

 

     1

 

(おなか痛い……)

 給食を食べ始めて、まだ五分ほどしか経っていないだろう。食べるのが遅い佐里奈のお盆には、まだ給食はほとんど残っている。

 確かに今日は、朝からお腹の調子がよくなかった。しかし佐里奈はあまり気にしていなかったし、どちらかといえば我慢強い性格なので、「このくらいなら大丈夫」と安易に考えていた。

 だが給食を食べ始めるとすぐに、佐里奈のお腹の中でなにかが暴れ始めた。

(どうしよう……もう食べられないよぉ)

 給食は残してもいいが、それでも半分は食べなければならない。しかし佐里奈のお腹は、食物を受け入れてくれる状態ではなくなっていた。

 ぎゅるぎゅるるるうぅ

(あっ)

 お腹……というか下腹部でなにかが暴れる音が、佐里奈の身体と頭の中を駆けめぐった。佐里奈にとってその音は大音量だったが、「みんなに聞かれなかったかな」と心配して周りを見回しても、誰も佐里奈に目を向けているクラスメイトはいなかった。

(……よかった。もしあんな音をみんなに聞かれたら、あたし恥ずかしくて……)

 恥ずかしくて……。それに覆い被さるように、再び下腹部でなにかが暴れた。

「ひっ」

 声が零れてしまった。

「なにかいった?」

 隣の席の女子が、不思議そうな顔で佐里奈に訊ねた。

「ううん……な、なんでもないよ」

「ふーん」

 納得したのか、隣の女子は食事に戻る。

 しかし佐里奈は安心するよりも、じょじょに大きくなってくる腹痛に耐えるのに神経を集中して、それ以外のことは考えられなくなってきてきた。

(おなか痛いよぉ……おトイレ、おトイレいきたい……)

 しかし今は給食中だ。トイレに行かせてくださいと教師に告げるには、佐里奈の羞恥心がじゃまをして、どうしてもいうことができない。

 小学四年生の女子ともなれば、クラスメイトの前でトイレに行かせてくださいと教師に告げるのは、とてもではないが恥ずかしくてできるものではない。

 襲いくる腹痛。それに加え、大きい方の便意も佐里奈を蹂躙する。

 視界が白く染まり、意識が途切れそうになる。佐里奈は、どうにかして意識を繋ぎ止めようと必死になった。

 少しでも気を抜けば、お腹の中で暴れているモノが出口から溢れ出してしまう。

(……い、いやぁ……そんなのイヤだよぉ……)

 考えないようにしても、最悪の想像が佐里奈の脳裏にこびり付いてくる。

 お漏らしをして泣いている自分。罵声を浴びせるクラスメイト。すごい剣幕で怒る教師。

(いやぁ……ど、どうしよう……)

 圧倒的な腹痛……いや、すでに便意のほうが大きいだろうか。

(ああぁっ)

 押し出されるように汁けたっぷりの便が零れそうになり、佐里奈はキュッと出口に力を込めた。

 今の波はなんとか大丈夫だったみたいだが、次の波はどうなるかわかならない。出口を求める波は、確実に大きくなってうねるだろう。

 そのとき。

「どうした? 種丘。気分でも悪いのか?」

(あっ……せんせぇ)

 いつの間にか、担任教師の三笠慎太郎が佐里奈の前に立っていた。

「……は、はい……」

 佐里奈には、慎太郎が救世主のようにも見えた。

「保健室に行くか?」

「は、はい……い、いきます……」

(でも、その前におトイレ……おトイレぇ)

「立てるか?」

 佐里奈は立ち上がろうとしたが、とてもではないが一人では無理だった。ガクガクと膝が震え、無理に動くと溢れてしまいそうだ。

「ほら。つかまれ」

 慎太郎が佐里奈の脇の下の腕を通し、立ち上がらせてくれた。

「……あ、ありが……」

「いいから。大丈夫か? 種丘」

 佐里奈小さく肯いたが、本当は大丈夫ではなかった。

(おトイレ……おトイレ……おトイレえぇ)

 支えられて教室を出て佐里奈は、それを待っていたかのようにいった。

「……せ、せんせぇ……お、おトイレ……」

「わかった」

 教室から10メートルほどの距離にある女子トイレまでの廊下は、今の佐里奈にはとても長かったが、佐里奈はどうにかがんばることができた。

 トイレのドアを慎太郎に開けてもらい、佐里奈の視界に便器が白い靄越しに入る。

(あぁ……よ、よかったぁ……)

 安心に、佐里奈の気がゆるんだ。無意識に、力が抜けた。

 その瞬間。

 ぶぴいぃ、ぷぴぴぴっ、びちゃちゃぴゅうぅぶぴいぃーっ、ぶっぶちゃぴゅっ。

 便器を目の前に、佐里奈の堤防が決壊した。

 大きめの子供パンツにブチまけられ、そこから溢れた汁けたっぷりの半液体うんちが、佐里奈の白く細い脚を汚して床に褐色の水たまりを作る。

 お尻に張り付く生暖かさも、脚を伝う液体の嫌悪も、頭の中が真っ白になった佐里奈には感じることができなかった。

 佐里奈は呆然と、糸の切れたマリオネットのように、その汚れた水たまりにお尻から座り込んでしまった。

 それでもまだ佐里奈は、「びぷっ」とか、「ぷちゅ」とか、湿った音をお尻から奏で続けた。

 

     2

 

 目の前の光景を、慎太郎は夢でも見ているかのような気分で凝視し続けた。

 クラス……いや、学校一の美少女、種丘佐里奈の排泄シーン。

 清楚で可憐。成績もよく運動もそつなくこなす。フランス人の祖母から受け継いだという、色素の薄い軽くウェーヴがかかった長い髪。細く薄い身体。長い四肢。体操着に着替えるとわかる、まだ未成熟だが微かに確認できるノーブラの双丘。その頂点を飾るぷちっとした乳首。

 そんな自分が担任を務める10歳のロリ美少女の排泄シーンを、慎太郎は信じられないと思いながらも、じっと凝視した。

(すごい……すごく『きれい』だ)

 びちゃ

 佐里奈がお尻から汚物の中に座り込む。制服(私立の小学校なので制服がある。白を基調にした、清潔なイメージの裾の長い変形セーラータイプだ。膝上までの紺のスカートもはいているが、長い裾に隠れてほとんど見えない)に汚れが染み込んでいく様子に、慎太郎はとても興奮し、欲情した。

 なんともいえない芳しい佐里奈の香りを、慎太郎は胸一杯に吸い込んだ。

 慎太郎には、いわゆるスカトロ趣味がある。とはいえ、本やビデオで体験するだけで、実際に他人の、それも美少女の排泄を目の当たりにするなどということがあるなんて、夢にも思っていなかったが。

 トイレに満ちる排泄臭。圧倒的な異臭。とてもではないが、佐里奈のような美少女が吐き出した臭いとは信じられない。

 しかし慎太郎にとって、それはどんな香水よりも上品で、芳醇な香りだった。

(これが、種丘の『本当』の香りなのか……)

 支えていたときに漂ってきた、やわらかなミルクの香りとでも表現すればいいだろう香りとは違う、『本当』の佐里奈の香り。

(素晴らしい……最高だ)

 そして慎太郎は、その香りを放つモノを、どうしても欲しいと思った。

 口に入れたい……と、思った。

 どんな味がするのだろう? どれほど美味しいものなんだろう? 欲しい。舐めたい。食べたい。

 どうすれば、あれを手に入れることができるのだろうか?

 教師としてではなく、今の慎太郎は28歳の一人の男になって思考を巡らしていた。

(着替え……そうだ。まず職員室にある予備の制服に着替えさせて、下着は……どうだろう? あるかもしれない。あればそれに換えさせて、あのうんちまみれの素晴らしいパンツは捨てるとかでもいって……)

 いい考えだ。それでいこう。すでに慎太郎の頭の中では、汚物汁がたっぷりと染み込んだショーツを口に含み、その味を堪能している妄想が浮かんでいた。

 作戦を決行するため、慎太郎はまだ呆然と座り込んでいる佐里奈に呼びかけた。

「……あっ、せん……せぇ」

「すぐ着替えを持ってくるからな。ちょっとここで待ってなさい」

「ご、ごめんなさい……ううぅ……ごめん、ヒッ、ヒック……ごめんさない、せんせぇ……うっ、ううぅ……」

 ぽろぽろと大粒の涙を零し、佐里奈は「ごめんさない」と繰り返す。

「泣かなくていいから。誰かに知られたら恥ずかしいだろ? 先生は誰にもいわないから安心しなさい。いいか? 先生が戻ってくるまで、じっとおとなしくしてるんだぞ」

 佐里奈の「はい」という返事を聞き、慎太郎は職員室に向かおうとした。が、一度立ち止まり。

「種丘。気分はどうだ? 気持ち悪くないか?」

「……気持ち悪いですけど……大丈夫です」

 佐里奈の返答に慎太郎は、トイレしたかっただけなのか? あんなに腹が下っていたんだから、そうなんだろう……と、的確に推測して勝手に納得した。

「ならいい。すぐに着替えを持ってくるから、安心して待ってなさい。いいかい? なにも心配しなくていいんだぞ。全部、先生がしてあげるからな」

 職員室で佐里奈の体型にあう予備の制服と、幸運にも予備の下着も見付けて、「どうかしましたか? 三笠先生」という教頭の質問に、「給食を零してしまった児童がいまして……」と咄嗟にウソを吐き、首尾よく着替えと、これも必要だろうとタオルも持って慎太郎は職員室を出た。

 トイレに戻ると、佐里奈の入っているトイレのドアは閉まって鍵がかかっていた。トイレ内に、児童の姿はない。慎太郎はコンコンと小さくノックしてから、「種丘……先生だ」と名乗った。

 内から鍵が開けられ、佐里奈が「……どうぞ」と場違いな言葉で招き入れる。

 慎太郎はスッと個室に潜り込み、即座に鍵をかけた。佐里奈はもう汚物に座り込んではおらず、汚れた制服を着たままポツンと立っていた。

「これに着替えなさい」

 慎太郎が持ってきた衣服とタオルを手渡すと、「ありがとうございます」といって佐里奈は受け取った。

「先生は教室に戻るから、着替え終わったらいいにきなさい」

「……で、でも……」

「あっ? 先生まだなにか忘れてるか?」

「におい……くさくないですか……? 教室にいったら、においでみんなに……それにあたし、保健室にいっていることに……」

「そ、そうか……そうだな」

 佐里奈には臭くても、慎太郎にとってはいい香りだったので、あまりそのことは考えていなかった。

「でも、ちゃんとタオルで拭いたら大丈夫だろう。服だって汚れていないし、臭いは気にしなくてもいいぞ」

「……そうでしょうか?」

「あぁ。じゃあ着替え終わったら、そのまま保健室にいきなさい。先生も後で様子を観にいくから。保健の先生になにかいわれたら、来る前にトイレにいったといえばいいだろう。保健の先生は女の先生だから、別に恥ずかしくないだろ?」

「はい……そうですね。ありがとうございます」

「汚れた服と下着は、掃除道具入れに入れておきなさい。服は先生が洗って、明日……いや明後日には学校に持ってくるから。でも下着は捨てたほうがいいと思うけど……捨てていいか?」

「あっ、はい。いいです」

「そうか……ならそうしよう。これで大丈夫か? まだなにかあるか?」

 佐里奈は首を横に振った。

「よし。じゃあ、後で保健室に様子を観にいくから……あっ、種丘気分悪かったんだな。一人でいけるか?」

「はい。いけます……もう、あまり気分は悪くありませんから」

「そうか、ならよかった。先生、教室に戻るからな」

「あっ、あの……せんせぇ」

「なんだ?」

「本当に……誰にも……」

「あぁ、わかってる。絶対誰にもいわないさ、心配するな。種丘も忘れなさい。先生も忘れるから」

「あ、ありがとうございます。せんせぇ……」

 尊敬の眼差しで慎太郎を見る佐里奈。

 外側だけからだと、確かに慎太郎の行動、行為は賞賛されてもいいのかもしれないが、慎太郎の『本当』の目当ては、教え子の汚物で汚れたショーツである。それを得るためにがんばったに過ぎない。

 なので佐里奈が慎太郎を尊敬する必要はないのだが、佐里奈は尊敬の眼差しのまま、トイレの個室を出ていく慎太郎を見送った。

 

     3

 

 着替え終わった佐里奈がまず思ったことは、「床……どうしよう……?」ということだった。床に零れた汚れについて慎太郎は触れなかったし、佐里奈も自分の身体のことばかり気になっていたので、訊くのを忘れていた。

(ちゃんと、拭いた方がいいよね……)

 タオルもあるし、便器の中に水もある。佐里奈は「う……汚い。いやだなぁ」と思いながらも、床をきれいに拭いた。

 タオルが完全に汚れてしまったので、佐里奈はそれを便器に浸けて手で洗う。

(汚いけど、これくらいがまんしなくちゃ。汚したのあたしなんだから……)

 鼻腔を刺激する異臭が漂う。不意に佐里奈は、慎太郎に「すごく恥ずかしくて、汚いところを見られた」のを思い出して、胸が押しつぶされそうになった。

(せんせぇ、あたしのこと汚い女の子だって思ったかな? 思った……よね……)

 佐里奈に限らず、学校で便を漏らしてしまい、それを担任の教師(それも異性)に見られてしまうなどということは、思春期にさしかかったばかりとはいえ、小学四年生の女子にとっても耐え難い恥辱であり、苦痛だろう。

 佐里奈は落ち着くにつれて、自分はとんでもないことをしてしまったと思い始めた。もし親やクラスメイトにバレたりしたら、恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。慎太郎は絶対誰にもいわないと約束してくれた。佐里奈はその言葉と、その言葉を発した担任教師を信じるしかない。

(だ、大丈夫よ……せんせぇは、誰にもしゃべったりしないわ。だってせんせぇ……あんなに優しくしてくれた……汚いあたしに、あんなに優しくしてくれたわ)

 信じられる。せんせぇは信じられる。佐里奈は便器からタオルを出して、ギュっと絞る。

 ビチャびちゃと音をたて、汚水が便器の中に零れた。

 床をきれいにした佐里奈は、トイレに誰もいないのを確認すると個室から出て、『取りあえずタオルで拭った制服』と、『取りあえず便器の水で洗ったショーツ』と、『ショーツと同じように洗ったタオル』を、慎太郎にいわれた通りに掃除道具入れの、二つあるポリバケツの一つに入れて、それを奥に隠した。

(せんせぇ、後で保健室に来てくれるっていっていたから、奥に隠したっていわなきゃ)

 廊下に出ると、すでに給食を食べ終えた上級生の男子数人とすれ違ったが、特に佐里奈に感心を向ける者はいなかった。

(におい……大丈夫みたいだわ。せんせぇのいった通りだ。よかったぁ)

「失礼します」

 保健室の扉を開けると、保健の先生が「どうしたの?」と佐里奈を迎えた。

「あ、あの……少し気分が悪いので、休ませてほしいんですけど……」

「それは大変ね。『女の子の日』かしら?」

「ち、違いますっ。そ、それは……あたし、まだなってません」

 一応佐里奈は、『女の子の日』の意味は知っている。つい先日、女の子だけの授業で教えてもらった。「女の子なら当たり前のこと」と教えられたが、佐里奈の中では『生理』という現象は恥ずかしいこという位置にあるので、保健の先生の質問を慌てて否定した。

「せ、生理は……まだ……です。本当に、少し気分が悪いだけです……」

 保健の先生はそんな佐里奈の態度を微笑ましく思ったのか、噛み殺した笑いを漏らした。

「じゃあ、少しベッドで横になるといいわ」

 さほど重症とは思えなかったので、保健の先生は佐里奈をベッドに寝かしつけて、「しばらく、横になっておとなしくしてるのよ」といい残してカーテンを閉めた。

 グラウンドから男の子たちの声が聞こえてくる。佐里奈はなぜかその声がイヤで、頭から毛布を被ってベッドの中に隠れ手の平で耳を塞いだ。

 どのくらいそうしていただろう。五分? 十分? いや、十分も経ってないだろう。佐里奈は保健室に誰かが入ってきた気配を感じ、そっと毛布から顔を出す。

(せんせぇかも……あっ、やっぱりせんせぇだぁ)

 保健の先生となにか話している慎太郎の声を聴き、佐里奈は嬉しと感じると同時に、恥ずかしくもなった。

 カーテンを潜り、慎太郎がベッドの傍らに立つ。佐里奈は自分でも、顔が火照って赤くなっているのがわかった。

(ど、どうしよう……恥ずかしい……)

「気分はどうだ? 種丘」

「……も、もう……大丈夫です……」

 呟くようにいった。

「そうか。ならいいんだ」

 そして声のトーンを落とし、佐里奈の顔に自分の顔を近づけて慎太郎が続けた。

「あれは、ちゃんと隠しておいたか?」

「は、はい……バケツにいれて、奥に隠しました……」

 佐里奈も小さな声で答える。

「よし。後のことは先生にまかせろ。誰にもバレないように、ちゃんとしてやるから安心しろよ」

「あっ……は、はい……ありがとうございます」

 慎太郎は顔を佐里奈から離し、声のトーンを戻して、

「午後の授業は受けられるか? ダメなら寝ていてもいいぞ」

「大丈夫です。ちゃんと受けられます」

「無理するなよ」

「平気です」

(せんせぇ……なんて優しいの……)

 佐里奈は、これまでに感じたことのない「ドキドキした気持ちよさ」で、慎太郎の顔をじっと見つめた。

「ん……なんだ? 種丘」

「い、いえっ。な、なんでもありませんですっ」

 慎太郎は少し怪訝な顔をして、「ホントに無理はするなよ」といい、カーテンの向こう側へ出ていった。

(……な、なんだろう? すごくドキドキした。せんせぇの顔見ただけで、胸がキュゥンってなって……)

 『恋』……という単語が、佐里奈の脳裏に浮かんだ。

(う、うそ……? あ、あたし……せんせぇに『恋』しちゃったのかなぁ。あんな汚いところ見られて、すごく恥ずかしいって……なのに……あたし)

 考えれば考えるほど、佐里奈は混乱して、恥ずかしくなって、胸がキュゥンっとなった。

(……せんせぇ)

 慎太郎の顔が浮かんだ。

(せんせぇ)

 頬笑みかけてくれた。

(……どうしよう……あたし、せんせぇのこと……『好き』になっちゃった……かも)

 恥ずかしいとは感じたが、それの考えはけしてイヤな感じではなかった。

「せんせぇ……」

 佐里奈は小さく声に出して、そう呟いた。

 鼓動がドキドキと大きな音を奏でた。

 カッと身体が火照った。

 佐里奈は毛布を被り直して、ギュッと瞳を閉じた。

「せんせぇ」

 もう一度呟いた。

(好きです。せんせぇ……)

 心の中で、初めての告白をした。

 

     4

 

 慎太郎隠されていた『お宝』を前に、愕然となっていた。

(な、なんで洗ってあるんだ……?)

 ポリバケツの中の『お宝』は、慎太郎が想像していたのとは違っていたからだ。慎太郎が『本当』に欲しかった汚物は、きれいに(とっても、汚れてはいるのだが)洗い流されてしまっていた。

 冷静に考えれば当たり前のことだ。佐里奈が汚物を付着させたままにしておくはずがない。担任教師である慎太郎は、佐里奈のそういう「ちゃんとした」性格は知っていたはずだ。

 にも関わらず慎太郎は、「佐里奈のパンツは、うんちとうんち汁まみれのままだ」と思い込んでいた。

 突然の幸運に舞い上がり、冷静な判断ができなくなっていたのだろう。バカな大人……というよりは、バカな男の見本である。

(……ハァ……まぁ、人生なんてこんなもんだろ。種丘のあんなシーンが見れただけでも、十分にラッキーだったからな。普通、あんなシーンなんて一生見れるもんじゃないだろうし)

 慎太郎は職員室から拝借した紙袋に『お宝』を押し込み、それを持って駐車場に向かった。そして自分の車のトランクに紙袋を入れて、昼休みが終わるまでにはお茶の一杯くらい飲めるだろうと、職員室に足を向けた。

 午後の授業には、自分でいった通り佐里奈の姿があった。授業中何度か、慎太郎は佐里奈が自分を見ている(教師だから見られるのは当たり前なのだが、どうも他の児童とは視線の『痛さ』が違っていた)のに気がついたが、慎太郎が佐里奈に目を向けると、佐里奈はサッと俯いてしまう。

(気になるのかな? 俺があのことを、ホントに誰にもいわないかって……)

 慎太郎も小学校の教師だ。あれが佐里奈にとって、どれほど恥ずかしいことなのかは理解している。子供は大人より感情が豊かで、起伏も激しい。他人を信じやすいし、もしそれが裏切られたのなら、一生消えないような傷を心に負うこともある。

(時間が解決してくれる。俺は種丘を裏切らないって、約束は守るって態度で示し続けるしかないだろうな)

 慎太郎は佐里奈の『うんち汁パンツ』を手に入れようとしたこと以外は、それなりにいい教師だ。児童たちにも好かれている。佐里奈との約束も、初めから破るつもりなどない。

 佐里奈に辛い思いをさせたいとは思わないし、あのことを材料にして佐里奈を脅迫しようなどとは一欠片も思っていない。というか、かわいい児童に対してそんな非道いことを思いつくような精神構造はしていない。

 そもそも慎太郎は、子供が好き(変な意味ではなく)で小学校の教師という路を選択したのだ。

 慎太郎は佐里奈を意識しながらも、いつものように授業を進めた。

 学校での仕事が終わり、一人暮らしをしているアパートに帰った慎太郎は、『お宝』が入った紙袋を広げた。

 ムワッとした残り香が鼻腔に入り込み、慎太郎は幸せな気分になった。付着物は洗い流されたといえ、臭いまで完全に消えたわけではなかったようだ。

 よく見ると、もとは純白だったであろうショーツは、薄茶色とのまだら模様になっていて、顔を近づけるとほのかな香りが楽しめた。

 慎太郎はその香りを吸い込み、佐里奈の排泄シーンを思い出しながらオナニーをした。自分でも驚くくらい早く、そして大量の精液を吐き出して果てた。

(お、俺……なにやってるんだろう?)

 一度出したためか、慎太郎は冷静になり、佐里奈に対してすごく悪いことをしてしまったと感じた。

 急に、佐里奈の沁みつきパンツを握る手が震えた。

(そ、そうだ……ホント俺、なにやってるんだ? 種丘のパンツを騙し取って、その臭いを嗅ぎながらオナニーするなんて……こんなこと種丘が知ったら、きっと泣いてイヤがるにきまってる)

 罪悪感が、冷静になった慎太郎を苦しめる。自分の受け持つ児童のパンツの臭いと、その児童の排泄シーンを思い出してのオナニー。教師としてあるまじき行為である。いや、教師として以前に、人間としてどうだろうか?

 ねっとりと右手に付着する自分の精液が、とても汚らわしく感じられた。

 嫌悪と罪悪感に、脳髄が、心が灼ける。

「……ごめん……ごめん、種丘」

 届かない謝罪を、慎太郎は続けた。

 涙が零れた。

 でも、自分を許すことはできなかった。

 

     5

 

 佐里奈は自分のベッドの中で下半身だけ裸になって、慎太郎のことを思いながら股間の縦線を指でなぞっていた。

 こうすると気持ちいいということを知ったのは、つい最近のことだ。いつもはただなぞっているだけなのだが、今日は慎太郎のことを考えながらなぞっていた。

(せ、せんせぇ……)

 いつもより気持ちいい。でも、もっと気持ちよくなりたい。佐里奈は、少し指に力を込める。

「くぅ……んっ」

 力を込めた指がいつもより深く中に埋もれ、その刺激に佐里奈は思わず声を漏らした。

 これは恥ずかしいことだから、パパやママに知られちゃいけない。それはわかっているのだが、佐里奈は指の動きを止めることができない。それよりも、もっと、もっと気持ちよくなりたいと思い、ぐにぐにと指で股間を押した。

「んっ、んっ、ぅんっ……」

 ピリピリと身体に電流が走る。お腹の奥から、なにかが溢れそうになる。

「くうぅん……せ、せん……せんせぇ……」

 指に『こうしていると出てくる汁』がまとわりつき、佐里奈はその汁で滑った指を動かし続ける。

 にゅるっ

「ひぃっ」

 生理の穴に、指が第一関節まで入ってしまった。

(だ、だめ……ここは触っちゃだめなのにぃ……)

 佐里奈は女の子だけの授業で教わったことを思い出したが、生理の穴の気持ちよさには抗えなかった。

(だめ、だめなのよ……ここは、この穴は……でも、ちょっとだけ……もうちょっとだけ……)

 入ってしまった指を動かす。気持ちいい。なぞっていただけでは得られない快感に、佐里奈は溺れた。

 痺れる脳髄。火照る身体。止まらない指。ぴくぴくとむず痒い乳首。佐里奈は空いている左手で、むず痒い乳首をさすった。

「あぁんっ」

 これまで発したこともない高い声。佐里奈はうつ伏せになり顔を枕に押しつけ、その声が部屋の外に漏れないようにして、乳首を刺激すると得られる新発見の快感を幼い身体に刻み、教え込んだ。

(い、いいぃ……これ……すごく気持ちいいのぉ。生理の穴も、おっぱいの先っぽも、すごい……すごいよぉ)

 佐里奈はその「すごい快感」に囚われ、夢中でそれを身体に与え続けた。

(いい……せんせぇ……す、好きぃ……好き、すき、スキ、せん……せんせぇ……あっ、あっ、あっ、でるうぅ……な、なにか……おしっこ、おしっこでちゃうぅっ)

 指を止めなければ蒲団の中でお漏らしをしてしまう。しかし指は、佐里奈のいうことをきいてくれない。

(だ、だめえぇ。も、もう……ほんとに、ほんとにだめなのぉ。あっ、あっあぅん、あっああぁぁあぁぅんっ!)

 佐里奈は産まれて始めて、生理の穴から『おしっこ』を漏らした。

 

「あ、あの……せんせぇ」

「どうした? 種丘」

 次の日佐里奈は、朝のショートホームルームが終わると、慎太郎が廊下に出るのを追いかけて声をかけた。

「あっ……そ、その……」

「昨日のことか? 大丈夫だ、誰にもいってないし、いわないから」

「ち、違います……」

「あぁ。制服のことだな。それなら今日クリーニングに出してきた。臭いがしなくなるまで先生が洗っておいたから、心配することはないぞ。明日持って来るからな」

「あっ、そ、そうじゃなくて……その、お話があるんです……」

「話? なんだ?」

「えっと……ここじゃぁ……できれば、二人だけで……その……」

「……わかった。じゃあ放課後でいいか? 放課後なら教室に誰もいないから……そうだな、掃除が終わったら教室で待っていてくれ。それでいいか?」

「は、はい。わかりました」

「うん、そうか。じゃあ、すぐに授業が始まるから教室に戻りなさい。先生も授業の用意して戻ってくるからな」

 職員室に向かう慎太郎の後ろ姿が見えなくなっても、佐里奈はその場から動かなかった。

 そして放課後。

 教室には佐里奈と慎太郎の姿があった。それ以外、誰もいない。

「先生に話ってなんだ?」

 自分の席に座る佐里奈の前に、慎太郎が前の席の椅子を使って座っている。

「えっ……そ、その……」

「いいにくいことなのか? 先生は、絶対に秘密は守るから、心配しなくていいぞ」

 自分を見つめる慎太郎の視線に、佐里奈の心は破裂しそうになった。

(あぁ……せんせぇ……)

 佐里奈は慎太郎を見つめ返した。

 そして……。

「あ、あたしっ、せんせぇが『好き』ですっ」

 そう告げた瞬間。佐里奈の頭の中は真っ白になった。まだいわなければならないことはたくさんあるのに、上手く口が動かない。

「き、昨日、は、恥ずかしいところを、でも、違うんです。だから、その、汚いって……」

 言葉が意味をなさない。

「あ、あたし、だから……好きですっ。せんせぇが大好きですっ」

(……う、上手く伝わったかな? あたしがせんせぇのこと『好き』だって……)

 上手くは伝わっていないだろうが、慎太郎はそれなりに理解はした様子だ。鳩が改造式連射可能豆鉄砲をくらったような顔をしている。よくはわからないが、まぁそんな感じだ。

「……えっと、それは……どういうことだ? 先生のこと、どう好きなんだ? 種丘」

「ど、どう『好き』って……そ、その、だから……愛してますっ、け、結婚してくださいっ!」

 まったくもってダメダメだ。

「け、結婚って……種丘、お前まだ小学生だぞ? 結婚はできないだろ?」

「大人になったらですっ。あたし、がんばって早く大人になります。だから結婚してくださいっ」

 がんばっても早く大人にはなれない。

「本気でいってるのか? 種丘」

「本気ですっ」

 真剣な佐里奈の顔。慎太郎は目を瞑って、十二秒間考え込んだ。

 そして目を開けると、

「ハァ……わかった。いいよ。種丘が大人になって、まだ先生のことが『好き』なら、結婚しよう」

 佐里奈がその言葉の意味を理解するのには、三十四秒の時間が必要だった。その間教室は、変な静寂に包まれた。

 そして、

「ほ、本当ですかっ?」

「先生はウソ吐いたりしな……い、いや、たまに吐くこともあるが、これはウソじゃない」

「あたしが大人になるまで、せんせぇ待ってくれますかっ?」

「待つよ。だけど、いくつか条件がある」

「はいっ」

「一つ目。先生のことを『好き』だなんて、他の誰にもいわないこと」

「はい。いいません」

「二つ目。先生のことが『好き』じゃなくなったり、結婚したくなくなったら、先生は怒ったりしないから素直にそういうこと」

「あたしは、せんせぇのこと『好き』じゃなくなったりしませんっ」

「それでもだ。約束できないのなら、この話はなかっ……」

「は、はいっ。約束します。そういいます」

 ここまできて、話を白紙に戻されるなど耐えられない。佐里奈は、慎太郎の言葉を遮るように声を発した。

「三つ目。種丘が小学校を卒業するまで、二人でお出かけしたり、デートしたりはしません。手を繋いだり、キスしたりなどもしません」

「……そ、そんなぁ」

「約束できないのなら……」

「は、はい……約束します……」

「よし。いい子だぞ、種丘。四つ目……」

「ま、まだあるんですか?」

「約束でき……」

「な、なんですか? 四つ目いってくださいっ」

「先生が『好き』なうちは、一日一回、先生のことが『好き』っていうこと。先生も種丘に『好き』だっていうから、それをちゃんと聞くこと。もちろん、誰もいない、二人きりのときだぞ?」

「は、はいっ! あたし、せんせぇが『好き』ですっ」

「……声が大きい」

「す、すみません……」

「種丘」

「はい……?」

「先生も、種丘のこと『好き』だぞ」

「あっ……はいっ! あ、ありがとうございますっ」

「だから、声が大きい……」

 佐里奈は初めての『恋』に一生懸命なのだ。多少声が大きくなるくらい、許してやってもらいたい。

 放課後の教室。

 二人だけの空間。

 だからもう一度だけ。

「大好きです。せんせぇ」


End


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