みるくちゃん
1
推定年齢、九歳〜十歳。肩にかかる長さの黒髪はキューティクルがバッチリと決まっていて、いつも白いカチューシャで飾っている。
身長は百四十センチに満たないだろう。どちらかといえば痩せ形だが、貧相に感じるほどではない。細い首に乗った、どこか日本人形を思わせる面は、文句のつけようがないほどに整っている。
そんな彼女は、「お友達」からは「みるくちゃん」と呼ばれている。
本名は不明だが、みるくちゃんの「お友達」にとって、そんなことは「どうでもいい」ことだ。
「あっ、でる。で、出るよ、みるくちゃんっ」
ふれあいの森公園。たいそうな名称がついているが、ただの寂れた児童公園である。
その隅にある公衆便所には、今日もみるくちゃんと、そのお友達数人の姿があった。
「んく。ちゅ、ふうぅん、ん、ぅん……」
ジーンズのファスナからペニスを出して、ふたを下ろした洋式便器に座る一人のお友達。そのお友達の股の間に跪き顔を埋め、硬くなった肉棒を、かわいい桜色の唇を広げて口の中いっぱいに頬張るみるくちゃん。
だが、幼いみるくちゃんの口には、お友達のモノは収まりきっていない。みるくちゃんが頬張り舌で唾液を絡めているのは、全体の半分といったところだ。
それでもみるくちゃんの「おしゃぶり」は絶品で、彼女の舌技に五分ともつお友達は少ない。
今も個室の外では三人のお友達が、みるくちゃんにフェラってもらう順番がくるのを待っているはずだ。
「うっ!」
どぴゅっ!
お友達の両手でガッチリと頭を固定されたみるくちゃんの咽の奥に、彼女の大好きな「ミルク」が注ぎ込まれた。
咽の奥を灼くミルクの熱。と同時に、みるくちゃんの鼻腔を、ツンとしたミルクの「いい香り」が通り抜けた。
みるくちゃんは口の隙間からそれが一滴も零れないように、唇をキュッとすぼめ、ビクビクと震えるお友達のペニスに密着させる。
そしてみるくちゃんは、
「ん……ちゅ、ちゅううぅ〜っ」
チロチロと舌先でミルクの出口を刺激しながら、残りも全部搾り取るように、お友達のを強く吸った。
お友達は一度ブルッと震え、吸い出し尽くされたのか、みるくちゃんの口から唾液にまみれた(というか、なぜ唾液しかついていないのだろう? よくわからないが、さすがはみるくちゃんだとでもいっておこう)モノを抜いた。
口が自由になったみるくちゃんは、ちゅぱちゅぱと口内で搾りたてのミルクを転がし、じっくりと味わっている様子だ。
上気した頬と潤んだ瞳。夢見心地な表情が、とても愛らしい。
「美味しい? みるくちゃん」
しぼんだペニスをジーンズに収めながら、お友達が問う。
「……は、はい。ちゅぱっ、お、おいしいですぅ」
幼い少女特有のお菓子のような甘い声で、みるくちゃんは鳴くように告げた。
「おい。空いたぜ」
お友達が個室のドアを開ける。「おう」と、次のお友達が入れ替わりに入ってきた。次のお友達は、前のお友達よりも身長があり、体格もいい。
ドアを閉めお友達は、すでに臨戦態勢が整った黒光りする肉棒をズボンの外に出し、便器に座る。
目の前で直立するそれを、みるくちゃんは嬉しそうな顔で見つめ、パクッとくわえ込んだ。
「いっぱい、いっぱいくださいね。んちゅ、ちゅ、ぅん……ミ、ミルク、いっぱい。ん、ふぅん」
鼻を鳴らし、夢中になっておしゃぶりをするみるくちゃん。
大好きなミルクをはやく飲みたい。いっぱい、いっぱい飲みたい。みるくちゃんの頭の中を覗けたなら、そんな言葉で溢れていることだろう。
小さく幼い、和風のミルク飲み人形。
それがミルク大好きっ子、みるくちゃんだ。
2
ミルクを飲ませてくれるお友達のみんなは知らないが、みるくちゃんはこの街ではお嬢様学校として知られる、某私立女子校の初等部に在籍している。学年は四年生だ。
ちなみに学級委員長だったりもして、成績も素行もよい模範的な優等生だと、教師たちの評判もいい。
どうしてそのような彼女が「みるくちゃん」となってしまったかというと、それには半年ほど前まで彼女の自宅近所のアパートに住んでいた、ある青年が関係している。
始まりは、彼女が女子校の初等部に入学して間もなくだっただろう。彼女はその青年に「家に遊びにこないかい? お菓子もいっぱいあるよ」と誘われた。
「知らない人についていちゃダメよ」
もう聞き飽きた言葉を彼女は思い出した。が、青年は「知らない人」ではなかった。
何度か話しをしたことがあり、彼女は青年を「きんじょにすんでる、やさしいおにいちゃん」だと思っていた。それに「お菓子」という言葉の誘惑には抗えず、彼女は青年のアパートについて行ってしまった。
確かにそこには彼女が大好きなお菓子がいっぱいあって、青年は「全部食べていいよ」と優しくいってくれた。
「ママには、ないしょにしてね?」
青年は快く了承した。彼女は思う存分お菓子を食べて満足した。とても嬉しかった。
「ありがとう。おにいちゃん」
お菓子を食べて満足した彼女は、当然のこととしてお礼をいった。
「よかったね。その代わりといっちゃなんだけど……」
青年はいった。
「ボクのお願いきいてくれるかな?」
「おねがい? うん。いいよ」
彼女は軽く答えた。
その一分後には、彼女は青年のペニスをペロペロと舐めていた。そして数分後、彼女の小さく幼い顔いっぱいに、温かくてドロドロしているモノが放出された。
「な、なに……これ?」
彼女は少し驚いたが、見たこともないモノへの興味の方が勝っていた。
「ミルクだよ」
「みるく?」
「そう。男の子のおちんちんからは、ミルクが出るんだよ」
彼女は「そうなんだ」と信じた。
「飲んでみて? 美味しいよ」
顔にこびり付いたそれを、彼女は指ですって口に入れた。
「うっ……みるくじゃないよぉ」
苦くて、ツンッとした刺激香があって、彼女はとてもそれがミルクだとは思えなかった。
「男の子のミルクなんだよ。美味しくない?」
「あんまり、おいしくない……おかしのほうが、ずっとおいしいよ」
そういいながらも、彼女はなぜか「ドキドキ」していた。イヤな「ドキドキ」ではなかった。
ウエットティシュで、青年が彼女の顔を拭いてくれた。「おにいちゃん。やさしいな」と彼女は思っていた。
帰り際青年は「ここに来たこととミルクのことは、絶対誰にもいっちゃダメだよ」と、彼女に百円くれた。
彼女も、お菓子を食べたことを母親に知られて叱られたくなかったし、「もしだれかにいっちゃったら、ひゃくえんかえさなきゃならないかも」と勝手に思い込み、青年に「わかったよ、おにいちゃん。ぜったいだれにもいわないよ。ふたりだけのひみつね」と答えた。
その日から彼女は、度々青年のアパートを訪れるようになった。青年の家に行くとお菓子が食べられ、青年のペニスを舐めて「男の子のミルク」を飲むと、青年がお小遣いをくれることを知ってしまったからだ。
そして彼女は、何度も「男の子のミルク」を飲むうちに、それがとても美味しいと感じるようになっていった。「男の子のミルク」を飲むと、胸が「ドキドキ」してとても気持ちいいとも……。
二人の秘密の関係は、青年が大学を卒業して引っ越してしまうまで続いた。その間青年は、彼女への要求の度合いを増していったが、彼女はそれを拒まなかった。
恥ずかしいけど、裸になると二百円もらえた。アソコを舐めさせてあげると、もう二百円もらえた。他にもいろいろなことをさせてあげると、その度にお金がもらえた。だが青年は、最終的な行為まで要求することはなかった。
彼女が自分のしていることは普通のことではなく、とても恥ずかしくてエッチなことなのだというのに気がついたのは、そんな関係が二年以上続いてからだった。
もうその頃には、彼女は「男の子のミルク」の味を覚えてしまっていて、「ミルク」の美味しさと「ドキドキ」の気持ちよさを手放すことはできなくなっていた。だから、「二人の秘密」は誰にも漏らさなかった。
恥ずかしいこと。エッチなこと。そう思いながらも、彼女は青年のミルクを飲み続けた。そして青年は引っ越して、いなくなってしまった。初めて青年のアパートを訪れたとき一年生だった彼女は、四年生になろうとしていた。
「もう、エッチなことしなくていいんだ……」
安心感よりも、虚無感のほうが大きかった。
彼女に「禁断症状」が現れたのは、青年が引っ越してちょうど一週間後だった。
その夜彼女は、「男の子のミルク」が飲みたくて、どうしようもなく飲みたくて眠れなかった。身体がムズムズと疼いて、アソコを指でさすり続けた。そうしていないと、大声で叫んでしまいそうだった。
「誰でもいいから、あたしにミルク飲ませてぇッ!」
と……。
だが、誰も彼女にミルクを与えてはくれなかった。男がみんな、「ミルクが詰まった袋」に見えるようになるまで、それから三日とかからなかった。
「ミルク……ミルク飲みたい、誰か、あたしにミルク……」
毎晩ベッドの中で丸まり、ブルブルと震えながら呟いた。しかしミルクを飲むということは、とても恥ずかしくてエッチなことだ。彼女は「ミルク飲ませて」とは、誰にもいえなかった。
そう、彼と出会うまでは……。
3
四月最後の日曜日。
彼女がミルクを絶ってから、一ヶ月以上が経過していた。
その日彼女は、ひと気のないことでは他の追随を許さない、ふれあいの森公園のベンチに座り項垂れていた。
この公園に来たのは、男の人を見たくなかったからだ。家には父親がいる。「もう、パパのミルクでもいい」、朝食のとき彼女はそう思ってしまった。思ってしまったことが、とてもこわかった。だから、家を飛び出してこの公園に来た。「ここなら誰も来ない」そう思ったから。
「どうしたの?」
頭の上から声をかけられた。見上げると、知らないお兄さんがいた。二十歳ほどの、優しそうなお兄さんだった。
「気分でも悪いの? どこか痛い?」
お兄さんが心配そうにいう。彼女は首を横に振った。
「そう……でも、すごく顔色悪いよ? ホントに大丈夫なのかな?」
その声は本当に優しくて、彼女は思わず顔を被って泣いてしまった。
お兄さんは慌てて、「どうしたの?」と彼女が座るベンチの隣に腰を下ろした。彼女はお兄さんにしがみついて泣いた。お兄さんは、彼女が泣きやむまで黙って抱きしめていてくれた。
「……ぐす。ご、ごめんなさい」
お兄さんから身体を離し、彼女は謝罪した。
「落ち着いた?」
お兄さんは優しく訊ねた。
彼女はまた泣きそうになった。でも、泣かなかった。「はい」、とだけ答えた。お兄さんは頬笑んでくれた。
「この人なら、ミルク飲ませてくれるかも……」
彼女は思った。思ってしまった。だが、恥ずかしくていえなかった。だから、ただうつむいた。
「悩みごと?」
「……たぶん、そう……です」
彼女は答えた。
「ふ〜ん。困ったね?」
「……はい。こまって……います」
「相談に乗ろうか? ボクでよければだけど」
「……」
「ボクには話せない?」
「……は、恥ずかしい……から」
「そう……」
「……はい」
しならくの間、沈黙が二人を包んだ。
彼女はお兄さんを盗み見た。お兄さんは、ぼ〜っとした顔で空を見ていた。
「……あ、あの」
「ん? どうしたの?」
お兄さんが彼女を見る。彼女は顔を伏せた。
「ほ、本当に……恥ずかしいこと……なんです」
「うん」
「あ、あたし……変なんです」
「そうは見えないよ。かわいいと思うけど?」
彼女はカッと頬を紅く染めた。かわいいといわれたのが、嬉しくて恥ずかしかった。
「で、でも、変なんです」
「そうなの? じゃ、そういうことにしておこうか?」
「あっ、はい」
再び沈黙。そして彼女。
「き、きかないんですか? あたし、変なんですよ?」
「訊いて欲しいの?」
問われた彼女は、「そうかもしれない」と思った。自分ではどうすることもできないから、誰かに助けてもらいたい……と。
途切れとぎれの言葉で彼女は語った。お兄さんは別に驚きもせずに、黙って彼女の話を聞いていた。
「……だから、お願いです。ミルク、飲ませてください……」
そう告げてしまうと、彼女は少しすっきりして、落ち着いた気持ちになった。
「……」
無言のお兄さん。
「ダメ……ですよね、やっぱり」
彼女は「当たり前よね」と思った。と、
「ホントに、飲みたいの?」
お兄さんがいった。
「えっ?」
「ホントに、精液……キミの言葉でいうとミルク、飲みたいの?」
「は、はい」
「ボクは冗談で訊いているんじゃないよ? ホントに飲んでもらうよ? やっぱりイヤだっていっても、無理にでも飲んでもらうよ? いいの? それで」
「はい。飲みたいです……飲ませて、くれるんですか……?」
信じられない。彼女は思った。と同時に、夢じゃないかとも思った。
そして彼女は公園の隅にある公衆便所の個室で、お兄さんのミルクを二杯も飲ませてもらった。身体中が火照り、さわってもいないのにアソコからトロトロとした汁が溢れた。あまりにも気持ちよすぎて、お漏らししてしまいそうになったが、それはガマンできた。
だがミルクを飲んで急速に冷静さを取り戻した彼女は、ひと気のない公衆便所の個室に男の人と二人きりだという状況を不安に感じた。
「エッチな、恥ずかしいことされたらどうしよう……」
そう思った。
しかしお兄さんは、なにもしなかった。「満足した?」と、訊いただけだった。
「は、はいっ。お、おいしかったですっ」
答えた彼女に、お兄さんは「そう? よかった」といって頬笑んだ。そして二人は便所から出た。
外に出ると、
「口、洗ったほうがいいよ」
お兄さんがいった。
「えっ? どうしてですか?」
「だって、変な病気になったら困るじゃない」
彼女には、お兄さんの言葉の意味が理解できなかった。顔に「?」を浮かべている彼女に、お兄さんは説明した。
ミルクを飲む……というよりは、ペニスを口に含むと、悪い菌に感染して病気になる可能性があると。
「だからミルクを飲んだあとは、口をきれいに洗わなくちゃいけないんだよ。きれいに洗えば、病気にはならないからね」
彼女はお兄さんにいわれた通り、水飲み場で何度も口を濯ぎ、うがいをした。
「きれいになった?」
「はい。あ、あの……で、でも……」
「大丈夫だよ。キミは病気になんかなってないから」
彼女が、自分はすでに病気にかかっているのではないかという不安を口にしようとすると、お兄さんはそれを察したかのように先制していった。
「本当……ですか?」
「うん。ホントだよ。ボクは、これでもお医者さんの卵なんだよ。お医者さんになるための勉強をする学校に通っているんだ。だから、ホントだよ。安心していいからね。でもこれからは、ミルクを飲んだらちゃんと口を洗わなくちゃダメだよ。わかった?」
お兄さんの言葉にウソはないと思った。彼女は安心して「はい」と答えた。
それから二人はベンチに戻って、他愛のない会話を楽しんだ。年齢差があるので話題が噛み合わないところもあったが、彼女はとても楽しかった。
別れ際。
「また……会ってもらえますか? ミルク飲ませてもらえますか……?」
彼女はいった。
「うん、いいよ」
お兄さんは笑顔で答えてくれた。涙が出るほど嬉しかった。
「あ、あのっ。明日……は、ダメ……ですか?」
「学校があるから遅くなるよ? 夜になっちゃうけどいいの?」
「な、何時くらいですか……?」
「そうだね……ここなら、七時までにはこれるけど」
「そ、それなら平気です。塾が終わるのが、ちょうど七時ですから。あっ、でも……だったらあたし、七時にはこれませんね……」
「どのくらいかかるの? 塾からここにくるのに」
「十分……くらいです」
「じゃあ七時十分に、ここで待ち合わせにしようか?」
「い、いいんですかっ?」
「いいよ。そうしよう」
「は、はいっ! あたし絶対きますっ」
「ボクも遅れないようにくるよ」
そしてお兄さんは、「じゃあ、また明日ね」といって公園から姿を消していった。
彼女はその後ろ姿が見えなくなっても、うっとりとした表情で、彼の消えた方向をぽ〜っとなって見つめていた。
これが彼女と、彼との出会いだった。
その日から彼女は、毎日といっていいほど、彼のミルクを飲ませてもらえるようになった。
そしていつのころからか彼は、彼女のことを「みるくちゃん」と呼ぶようになっていた。なぜだか彼は、みるくちゃんの本名を、「名乗らないほうがいい」といって知ろうとはしなかった。しかしみるくちゃんは「ユージさん」と、彼のことは教えてもらったその名前で呼んだ。ユージはそれについて、なにもとがめたりはしなかった。
二人が出会って一ヶ月ほどが経過したある日。ユージは、彼と同い年くらいの二人の青年を、いつもユージとみるくちゃんが会っている公園に連れてきて、「お友達だよ」とみるくちゃんに紹介した。
その二人のお友達も、ユージと同様みるくちゃんにミルクを飲ませてくれた。その一週間後にもお友達は二人増え五月中旬の現在では、ユージを含めて五人のお友達がみるくちゃんにミルクを飲ませてくれている。
そしてお友達ができるにつれ、みるくちゃんにはユージから幾つかの禁止事項、ルールが与えられた。
一・ミルクを飲んだ後は、必ず口の中をきれいに洗うこと。
二・ミルクを飲みたくないときは、はっきり「飲みたくない」ということ。
三・お友達でも、本名、住所、電話番号を教えてはいけない。
四・ユージ以外のお友達と、ユージがいないときに会ってはいけない。
五・待ち合わせの場所にユージ以外のお友達だけしかいないときは、なにもいわなくてもいいから、すぐ家に帰ること。
その他にも細かいことは幾つかあるが、大きな規則はこのようなものだ。
「どうして、ユージさんがいないとダメなんですか?」
訊ねたみるくちゃんに、
「もし、みるくちゃんになにかあったら、ボクは後悔してもしきれないからね」
と、ユージは答えた。
ユージは信用できる者たちだけを、みるくちゃんにお友達として紹介してきたが、それでも「なにも起こらない」という保証はない。
みるくちゃんの望みは、ミルクを、精液を飲みたいということだけだ。それ以外のことは望んでいない。
実際みるくちゃんは、お友達の前だけだとしても、服を脱いで肢体を晒すのはイヤだと思っているし、身体を触られるのも少しならがまんできるが、いわゆる性交となると話は別だ。みるくちゃんはまだ処女だし、セックスがどのような行為なのかもはっきりと理解していない。
漠然としたセックスという行為の知識。それだけでも、「したくない」と思う。ユージはそんなみるくちゃんの思いを理解している。だから、みるくちゃんがイヤがることをするようなヤツは、絶対に仲間に入れない。
みるくちゃんは、本当にまだ子供だ。もしユージがお友達として紹介した誰かが、みるくちゃんに乱暴したり、ムリやり行為に及んだりしたなら、彼女に抵抗する力はないだろう。その様な事態は絶対にあってはならないと、ユージは考えている。
まず、第一に考えなければならないのは、みるくちゃんの安全だ。これは絶対条件となっていた。
ならばお友達を紹介しなければいいのだが、ユージ一人だけでは、みるくちゃんが満足するほどのミルクを飲ませてあげることができない。みるくちゃんを満足させる前に、自分のほうがどうにかなってしまう。
かといってユージには、みるくちゃんを見捨てることはできなかった。もし自分がいなくなり、みるくちゃんが自分以外の「変なヤツ」に近づいていってしまったらと考えると、彼はそれに「恐怖」すら感じていた。
だから自分の目が行き届く範囲で、みるくちゃんを満足させてあげるためには、やはりお友達は必要だった。
自分が気をつけていればいい。絶対にみるくちゃんを、危険に晒したりなどしない。彼女は、みるくちゃんはボクが守る。
ユージはそう誓っていた。
しかし、みるくちゃんにとってミルクを飲ませてくれるお友達は、みんな「いい人」ばかりだった。乱暴なことをする人などいないし、「裸にならないとミルクはあげない」などと、意地悪なことをいう人もいない。みるくちゃんは、「男のこわさ」を理解していない。それは彼女がまだ子供だからということではなく、みるくちゃんにミルクの味を覚えさせた青年も、ユージを含めたお友達も、みるくちゃんに「本当の恐怖」を与えていないからだ。
ユージさんもお友達のみんなも、優しくていい人ばかり。酷いことする人なんていない。みるくちゃんはそう思っている。それでも彼女はこれまで、ユージの定めたルールは忠実に守っていた。
「ユージさんは、絶対に間違ったことはいわない」
みるくちゃんはユージを信頼している。だから、ユージのいうことには素直に従った。
「あたし、お友達のみんなのことは好き。でも、ユージさんは大好き。ユージさんは、他のみんなとは違う。ユージさんは特別」
みるくちゃんはユージの自分を見る目が、他のみんなが自分を見る目とは違うことを理解していた。
「ユージさんは、本当にあたしのことを大切に思ってくれている」
優しいユージ。大好きなユージ。
「あたしはユージさんになら、どんなエッチなことされてもいい……あたしは、ユージさんが『好き』……」
だがみるくちゃんは、その『想い』をユージに告げてはいない。
恥ずかしい。拒否されるのがこわい。拒否されるくらいなら、今のままでいい。今のまま、このままならユージにミルクを飲ませてもらえる。優しくしてもらえる。頬笑みを向けてもらえる。「みるくちゃん」……本当の名前ではないが、そう呼んでもらえる。
しかしそれ以上に、ユージと「逢って」、ただ「逢って」お話しをして、ドキドキして、嬉しくて、楽しくて、でも少し切なくて……そんなユージとの時間を、彼女は望んでいた。望むようになっていた。
だからなくしたくない。ユージと「逢える」幸福な時間を。
「スキデス。アイシテイマス」
たったそれだけの「コトバ」で、なにもかもをなくしてしまうことはできない。
ユージと「逢え」なくなる。
それはみるくちゃんにとって、ミルクが飲めないということ以上の恐怖となっていた。
4
季節は移ろう。時間という絶対者に支配されている限り、世界はそれを強制され続ける。そして世界に付属しているモノも、絶対者に抗うことはできない。
七月十一日……今日。彼女は十歳の誕生日を迎えた。
今年の誕生日は日曜日だ。彼女はいつもの公園で、午前十時にユージと待ち合わせをしていた。
「今度の日曜。あたしの誕生日なんです」
そうユージに告げたのは三日前。いつものようにいつもの場所でお友達二人のミルクを飲み、最後にユージのミルクを飲もうと、そのペニスの先端にユージにだけはしている「いただきますのキス」をした後だった。
「そうなんだ。じゃあ、なにかプレゼントしなくちゃね。欲しい物ある? あまり高い物はプレゼントできないけどね」
みるくちゃんは、プレゼントが欲しくて自分の誕生日を告げたわけではなかったが、
「あ、あの……だったら、その……」
「なに? いってみて」
彼女は思い切っていった。ずっとしてみたかったことを。何度も夢に見たことを。
「あ、あたしと……デ、デートして……ください」
みるくちゃんは、まだユージにあの『想い』を告げてはいない。だが『想い』は消えることなく、毎日を繰り返すごとに大きく育っていた。
毎晩ベッドの中でユージを想いながら自分で慰めないと、ユージへの『想い』が溢れ出してどうにかなってしまうほどに、ユージへの『好き』は大きくなっていた。
「デート? そんなことでいいの?」
そんなこと。ユージはいったが、彼女にとっては「重大」なことだった。みるくちゃんは、「そんなこと」といわれたのを寂しく感じた。
「ダメ……ですか?」
「ダメじゃないよ。うん。じゃあ、デートしよう」
みるくちゃんはとても嬉しかったが、「ユージさんにとって、あたしとデートするなんて、「そんなこと」なんだ……」とも思い、複雑な心境に陥った。
嬉しい。でも、なんだか悲しい。
その日みるくちゃんは、いつもより激しくユージのペニスを貪った。
「もうきてたの? 早いね」
ユージが待ち合わせ場所に現れたのは、待ち合わせ時間の十分前だった。がみるくちゃんは、待ち合わせ時間の一時間前には公園にいた。家にいても落ち着かなかったし、「ユージさんがくるのを待ちたい」とも思ったからだ。
「は、はい。あたしも、今きたところです……」
ウソだったが、そういおうと決めていた。ユージはみるくちゃんのウソを見抜いたのか苦笑の表情を浮かべたが、声に出しては「じゃ、行こうか?」とだけいった。
「あっ。はい」
寄り添って……というよりは、みるくちゃんはユージの左側の半歩後ろを歩く。見なれた街並み。でも新鮮に感じた。世界中が、初夏の白い陽光にキラキラと輝いていた。
「水族館に行こうと思うんだけど、いいかな?」
「は、はい」
どこでもいい。ユージさんと一緒にいられるなら。
駅に向かう。水族館に行くには電車に乗らなければならない。
「晴れてよかったね」
「はい」
そんな他愛のない会話が続く。楽しい。でも……。
(服、褒めて欲しいな……)
みるくちゃんの胸の奥に、チクッとした痛みが走った。
彼女にとっては初めてのデート。とうぜん、精一杯のおしゃれをしてきた。いつもは着けないリボンで頭を飾り、よそ行きの服でも一番かわいいのを選んできた。
彼女が選んだのは、袖の短い水色のワンピース。
大きな白い襟の部分にはチョコレート色のラインが二本入っていて、どこかセーラー服を思わせる。そして、胸元を飾るラインと同色の小さなリボンがちょっとしたアクセントになっていて、落ち着いた色合いを胸元に乗せることで、子供っぽさを抑える役目を果たしていた。
そんな、みるくちゃんが長い時間悩んで選択した服装に、ユージはなにも触れようとしない。
(似合ってないのかな……? かわいく……ないのかな……)
と、そのとき、
「その……みるくちゃん?」
「はい?」
「かわいいね……その、服」
「えっ?」
「う〜ん、なんていったらいいのかな。みるくちゃんはいつもかわいいけど、今日は特別かわいいっていうか、その……なんだか緊張しちゃうな。ごめんね。ホントはボク、女の子とデートするの初めてなんだ」
「は、初めて……なんですか? あたしが?」
信じられなかった。ユージはとても魅力的で、優しくて、格好いい。「もしかしたらユージさんには、彼女がいるのかも……」と、みるくちゃんは思っていた。そのことは、あまり考えないようにはしていたが。
だからユージの言葉は、すぐには信じられなかった。
「う、うん。二十一にもなって、初デートだなんて恥ずかしいけど。だからホントは、もっと年上っぽくて、頼りになりそうなとこ見せたかったんだけど……やっぱダメみたい。今すごく緊張してる。こんなかわいい子と並んで歩くなんて、どうしたらいいのかわからないよ。ごめんね、せっかくの誕生日なのに……やっぱダメだな、ボク」
照れたように、でも力なく頬笑むユージ。
「そ、そんなことないですっ。ユージさんは……ユージさんはとっても格好いいですっ。ステキですっ。ダメなんかじゃありませんっ」
みるくちゃんは、思わず大きな声を出してしまった。わかって欲しかったから。ユージは魅力的な男性だということを。少なくとも彼女は、そう思っているということを。
そして彼女は、ユージの左腕にしがみついた。
「み、みるくちゃん?」
「……ダメ、ですか? あたしユージさんと、腕組んで歩きたいです。ユージさん格好いいから、ひとりじめしたいです……みんなに見てもらいたいです。こんなに格好いい人と、あたし腕組んで歩いてるんだよって、うらやましいでしょって……だから、ダメ……ですか?」
ダメっていわれたらどうしよう……? イヤ、そんなのイヤっ! 彼女はしがみついた両腕に、ギュッと力を込めた。
『好き』……あたし、ユージさんが『好き』ですっ。『大好き』ですっ!
声にはならなかった。だから『想っ』た。
「ダメ……」
ユージの声。心臓が凍った。
「……じゃないよ」
続いた言葉。
「でも……」
ユージが彼女の肩を押す。彼女は力なくユージから身体を離した。
(ダメじゃない……でも……? でもってなにっ? どうして? やっぱりダメなの……?)
ユージから少しの距離を置いた彼女は、震えている身体を無意識で抱きしめた。
「その……ほら、身長差があるからさ、腕組んでると歩きにくいでしょ? だから、手……つなご?」
ユージが左手を差し出した。彼女はその手に、震える右手を重ね置いた。
ギュッ
彼女の小さなな手を、ユージは少し強めに握った。二つの手が重なり、絡み、一つとなる。
「ユ、ユージさん……」
「ん?」
「その……ありがとうございます。う、嬉しい……です」
「ボクも嬉しいよ。ありがと。女の子に格好いいなんていわれたの、初めてだよ。それもみるくちゃんみたいな、とってもかわいい子にいわれるなんて、すごく照れちゃうな……お世辞でも、ホント嬉しいよ」
「お、お世辞じゃありませんっ。本当に、ユージさんは格好いいですっ。それにとても優しいし、ステキだし、それに、それに……」
彼女は言葉に詰まった。なんといえばいいのだろう? ユージはその全てがステキで、魅力的で、だから彼女はユージが『大好き』で、その『想い』を知ってもらいたくて、でも告げられなくて、『好き』なのに「好き」といえなくて、苦しくて、辛くて、でも幸せで、それが少し切なくて……。
「じゃ、行こう?」
ユージが繋いだ手を軽く引く。
「は、はい」
彼女はそれに従った。
水族館でのデートは、とても楽しかった。
キレイな魚がいっぱい泳いでいて、変な魚もいて、とても大きな亀もいて、繋がれたユージの手は温かくて、彼女はとても楽しい時間を過ごした。
お昼にはカフェで一つのテーブルに向かい合って座り、一緒に食事をした。アシカのショーでは少し水を被ってしまったが、ユージが彼女の濡れた髪と服をハンカチで優しく拭いてくれた。恥ずかしかったけど、嬉しかった。
夢のような時間。水族館にはたくさんの人がいたが、彼女は世界には自分とユージの二人だけしかいないかのように感じた。
だが楽しい時間は刹那に過ぎ去るもので、
「そろそろ帰ろうか?」
午後四時を目前に、ユージが夢の終わりを告げた。
「イヤです」
思ったがいえなかった。
「そう……ですね」
家では両親が待っている。彼女の誕生日を、祝ってくれる予定になっていた。しかし彼女は、家で自分を待ってくれている両親よりも、ユージと一緒にいたかった。ずっと、ユージと一緒にいたかった。
繋がれた手は、やがて離れてしまう。そう……もうすぐ、別れの言葉とともに。
水族館をあとにした二人は、休日で空いている電車に乗り、三駅分を座椅子に並んで座って経過させた。左腕でユージが買ってくれたイルカのぬいぐるみを胸元に抱えた彼女は、電車の中でもユージと繋げた右手を離そうとはせず、ユージも彼女のしたいようにさせていた。
だが電車に乗っている間、二人はずっと無言だった。
(帰りたくないな……もっと、ユージさんと一緒にいたいな)
我がまま。それはわかっていた。だが彼女は、そう思わずにはいられなかった。思うのは自由だから、思うだけではユージに迷惑はかからないから。
電車がホームに停まる。
「降りるよ」
ユージが彼女の手を引いた。ホームに足をつく二人。電車のドアが閉まる。動き出す電車。彼女は……動かなかった。
「……どうしたの?」
問うユージ。
「……りたくない。帰りたくない……です」
いってしまった。思うだけでは、『想い』を堪えきれなかった。
「どうして?」
ユージが心配そうな声をかける。彼女の胸に、なにか重いものがのしかかった。苦しい……彼女は思った。
だが……
「ごめんなさい。なんでもない……です」
「なんでもなくなくないよ」
「本当に、なんでもないですから……」
「じゃあ、なんで泣いてるの?」
ユージに告げられて、彼女は初めて自分が泣いていたことに気がついた。
「な、泣いてなんかいません」
彼女はぬいぐるみを抱えたまま、左腕で涙を拭った。右腕は、ユージから離したくなかった。
涙を堪える彼女。でも涙は、彼女の意志を無視して溢れ続ける。
(ど、どうしよう。ユージさんを困らせたくないのに。こんな場所で泣いてたら、ユージさんを困らせてしまうのに……)
自由にならない感情。もどかしい。
(もうこれで、ユージさんと逢えなくなるわけじゃないのに)
それでも彼女は、心のどこかで「終わり」を感じてしまっていた。このまま、なにもないまま別れてしまったら、「終わって」しまうと。
だがなにが「終わって」しまうのか、彼女には理解できなかった。ただ「終わって」しまう、そう感じていた。
「終わらせたくない」。彼女は思った。このまま「終わらせ」たくない。
だから彼女は涙に濡れた瞳をユージに向け、告げた。
「あ、あたし……ユージさんが『好き』です」
あれほどこわがっていた言葉を、『想い』をユージに告げた。
人影まばらな駅のホーム。気の早い蝉がどこかで鳴いている。
「ボクも……『好き』だよ」
ユージは彼女を胸元に包み込み、その細い身体を抱きしめた。
抱きしめられたまま、そっと顔を上げる彼女。ユージが真っ直ぐに彼女を見つめていた。彼女の『想い』と同じ『想い』を宿した頬笑みで。
初夏の陽光は西に傾き始めていたが、それでもまだ優しく二人を包み込んでいる。その優しさの中、二人は初めて互いの唇を重ねた。
ユージは少し屈んで、彼女は少し背伸びして、唇から伝わる『想い』を確かめ合った。
この日から「彼女」は、「彼」だけの「みるくちゃん」になった。
End
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