『終わらない〈昨日〉・保坂美由紀&松岡千恵』

 

     0

 

 たぶん〈それ〉が直線的であるというのは間違いで、本来はもっと絡まって進んでいるのだろう。

 しかし〈それ〉本来の姿は、誰にも理解することが不可能であるが故に、誰もが直線的だと単純化して理解したふりをしているのだろう。

 そうすることによって、理解できないという「気持ち悪さ」が隠され、納得したという「自己満足的な傲慢」を得ることができるから。

 もっとも、〈それ〉がなにを表し、なにを隠しているかなどという「事実」は、ほとんどの人間には関係なく、「どうだっていいこと」だろう。

 〈それ〉がもつ「意味」を理解しようと足掻く者だけが、徒労にも似た「心地よさ」を垣間見ることとなり、やがて失望して「止まる」のだ。

 〈それ〉によってなにかを得ることができる者など、本当はいないのかもしれない。

 人類にとって〈それ〉はなんの「意味」もなく、ただそこに「存在を定義されている」だけの「無意味」なモノでしかないのかもしれない。

 それでも誰かが、〈それ〉に「意味」を付属させようと足掻く度、物理的な距離が置かれた「時空」で軋みが生じて、〈それ〉はより絡まってゆく。

 永遠に、捻れ、絡まり続けてゆく。

 きっと〈それ〉は、自らを「悲しんで」いることだろう。

 〈それ〉はとても弱く、脆いモノだから、自らを「哀れんで」いることだろう。

 

     1

 

 こうなることが「必然である」などと二人は思ってはいなかったし、今でも思っていない。ただ事実として認識しているだけのことだ。

「千恵、起きて。朝よ」

 同じベッドの中という、さほどの労力も必要とせず触れることができる場所で眠る千恵に、美由紀はそっと声をかけた。

「う〜ん……もうちょっと寝かせて……」

 寝返りをうち、くぐもった声で千恵が返す。

「ダメよ。起きて」

 告げながら、美由紀はベッドから降りた。

 カーテン越しに室内に入り込む朝の白い陽光が、一糸纏わぬ美由紀の細くしなやかな、それでいて出ているところは出て、しまるところはしまっている身体のシルエットを、フローリングの床に落とす。

 鏡台の上に置かれたフレームの細い眼鏡を取り、それを顔の指定位置に置きながら、美由紀は再度「起きて」と千恵に告げた。

「わ、わかった……起きればいいんでしょ」

 欠伸をし、乱れた長い髪に手を入れてかき乱しながら、千恵はシーツをはいで裸体の上半身を起きあがらせた。

「やればできるじゃない。偉いわよ」

 ぼ〜っとした千恵の顔を眺め、美由紀がくすっと笑う。

「……バカにしてる?」

「さぁ? どうかしら」

「してる。ぜったいバカにしてるっ」

 千恵のすねたような抗議に、美由紀は頬笑みで答え、「シャワー。浴びるでしょ?」と問う。

「一緒に?」

「千恵がそうしたければ、一緒に」

「遠慮しとくわ」

「そう……残念」

「……ウソつきだね。美由紀は」

「そうかもしれないわね」

「そうなのっ」

「そう……ね」

 そっと美由紀が視線を落とした。

「あっ……ご、ごめん」

「どうして謝るの?」

 と、美由紀が視線を千恵に戻す。

「ごめん……美由紀」

 今度は千恵が視線を伏せる。

 ピリッとした緊張感が室内に満ちた。

 無言の二人に、動きだした街が奏でる朝の音が染み込む。

「シャワー。先に使うから」

 沈黙を破ったのは美由紀だった。

「う、うん」

 ユニットバスルームに消える美由紀を、千恵は盗み見るように見送った。

 

 どうしてこうなったのか?

 明確な答えを出すことは、当事者である美由紀にも千恵にもできない。

「ただ、なんとなく」

 それが精一杯の答えだろう。

 同じ悲しみを共有する彼女たちは、同じ深さ、大きさの「傷跡」を持っていた。その「傷跡」が残された「場所」も、彼女たちは同じだった。

 だから、「傷跡」を舐め合い、その痛みを誤魔化し合うことができた。

 例えそれが刹那のものであると理解していても、彼女たちは「傷跡」を舐め合い、癒し合うことを望んだ。

 互いの身体を重ねるという、これまでも、そしてこれからも続く人生というスパンで考えれば刹那の時間の中でだけ、彼女たちは「傷跡」からの痛みを誤魔化すことができる。

 それは、「優しさ」と呼べるものではけしてない。そして「快楽」でも、ましてや「愛」などでもない。

 強いて述べるなら、「共生」。

 欠損部分を補い合い、自らの痛みを誤魔化すためだけに相手を必要とした「共生」。

 自己中心的で、エゴをむき出しにした「共生」。

 それでも……いや、だからこそ二人は、互いを必要としている。

 自らを癒すために。

 それだけのために、互いを利用し合っている。

 

「今日はどうするの?」

 八畳のワンルーム。そのほぼ中心に置かれた円形の白いテーブルを挟み、二人は朝食を採っていた。テーブルの上のトーストとサラダは、半分以上が消費されている。

「練習……かな」

 美由紀の問いに千恵が答える。

「美由紀は?」

「私は学校」

「そ、そうだよね。学校……だよね」

「うん」

 ぎこちない会話。

 二人で一緒に暮らし始め、まだ一ヶ月に満たない。だがそれは、ぎこちない理由になっていない。

 たぶん二人は、「なにか」がない限りずっとこのままだろう。

 千恵に比べて平常を装っていても、美由紀も自分が不自然なのは理解している。後ろめたいと感じている。

(私は、千恵を利用しているのかもしれない)

(あたしは、美由紀を利用しているのかもしれない)

 二人共、そんな思いから解放されない限り、こんなぎこちない毎日が続くのだろう。

 それでも二人は互いを必要としているし、離れることができない。

「バイトには……行くから。でも、少し遅れるかもしれない」

 千恵がいう。

 二人が初めて出会ったのは〈あの日〉、〈彼〉の葬儀の場であったが、その時は互いに相手のことよりも、自分のことで精一杯だったため、言葉を交わすことはなかった。ただ、〈自分と同じ男性を好きになった女性〉ということだけ、互いに理解はした。

 その後二人は偶然(もしくは「なんらか」の作為)によって、同じ弁当屋でのバイト仲間として知り合うこととなった。

 二人が初めて「そういう関係」をもったのは、バイト仲間としての時間をそれなりに経過させてからである。

 何年の何月何日だということを明記するのは、「ここ」ではさほど問題ではないので、「今」から十ヶ月ほど前とだけ記すことにしよう。

 そして二人は、今でも弁当屋でのバイトを続けている。

「うん。待ってる」

 美由紀が、コーヒーが注がれたカップから口を離し、応えた。

「ごめん」

「また謝る。千恵はすぐに謝る。どうして?」

「ごめ……ううん。どうして……かな」

「浮気でもしてるの?」

「浮気?」

「私以外の誰かと」

「……」

「冗談よ。だって私たち、ただの同居人だものね」

「そっ……それは、違う……よ」

「じゃあ、なに? 千恵にとって、私はなに?」

「……」

 千恵のとっての、美由紀の存在理由。

「……」

 美由紀にとっての、千恵の存在理由。

 お互い、明確に定義することができない。なぜならそれは、「認識」してはいけないことだから。

 定義することによる、「存在」の「固定化」と「認識」。

(あたしは、美由紀を利用してなんかない)

(私は、千恵を利用してなどいない)

「……ごめん、美由紀」

「私こそ、意地悪なこといってごめんなさい……」

 それから二人は無言で朝食を採り、個別に「家」を出た。

 

     2

 

 かつて桜を乱舞させていた風は、いつの間にか初夏の香りをはらんで何処かへと流れている。

 美由紀はスケッチボードと画材を抱え、キャンパスの廊下を歩いていた。美由紀が席を置いているのは、美術系の大学である。

 とはいえ美由紀は、自分が画家になれるとは考えていないし、自分にその才能があるとも思っていない。

「取るに足らない存在。それが私」

 なにをしても、結局ものにはならない。

 そもそも自分は、「なにか」になれる「特別」な存在ではい。

 美由紀は空いている個室アトリエをみつけ、その部屋に入る。室内は思ったより広く、四畳半ほどのスペースがあった。

 この学校には、学生が自由に使用できる個室アトリエが、全部で三十室ほど用意されている。

 美由紀は椅子に腰掛け、スケッチボードを目の前のアート台に固定した。

 そのスケッチボードに黒炭で描かれているのは、どうみても千恵だった。長い髪をポニーに纏めてリボンで飾り、浜辺のような場所に佇む千恵の姿。その千恵の表情は、泣きたいのを堪えているかのようにみえる。

 どこか荒涼とし、もの悲しい絵だ。

 美由紀はしばらくその絵を眺め、黒炭を手に取りボードに走らせ始めた。

 

「ねぇ、美由紀」

「なに?」

 世界から切り離された、二人だけの〈世界〉。

 同じベッドで同じシーツにくるまり、美由紀と千恵は言葉を交わす。

「今度、ライブやるんだ」

「そう。よかったわね」

「それでなんだけど、来て……くれないかな」

 主に千恵のバンドがライブを演じるのは、ライブハウス「JAM-Freedn」という店だ。広いとはいえないが、ライブハウスとしては中規模だろう。

「私が?」

「うん」

「来てほしいの?」

「……うん」

「どうして?」

「見て……欲しいから。美由紀に」

 これまで美由紀は、千恵の(正確には、千恵が所属するバンドの)ライブに脚を運んだことはない。

 それに千恵も、無理に美由紀を誘うことはなかった。美由紀が騒がしい場所を嫌っているのを知っているからだ。

「……うん。いいわよ」

「ホント?」

「ウソっていったら?」

「……」

「冗談よ。行かせてもらうわ」

「うん。ありがと」

 ベッドに横になり向かい合う美由紀の唇に、千恵はそっと触れるだけのキスをした。

「キス……だけ?」

 唇が離れると同時に美由紀が問う。

「する?」

「千恵がいいなら」

「いいよ。しようか」

 千恵は美由紀に覆い被さるように位置を変え、162cmの自分より6cm身長が低いのに、自分と同じ88cmのバストサイズを持つ美由紀の、むき出しになっている胸に触れた。

 やわらかいくて張りがあり、手の平に余る美由紀の大きな胸を、千恵は大切なものを扱うように、そっと円を描くように優しく揉んでゆく。

「ぅん」

 千恵の手の中で、美由紀の胸の先端がツンととがった。

「美由紀。胸、弱いね」

「ぁ、そ、そう?」

「ちょっと揉んだだけなのに、もう、さきっぽコリコリしてるよ」

 いいながら、千恵は美由紀の先端を指で転がす。

「ふうぅんっ。ち、千恵ぇ……もっとぉ」

「もっと、どうして欲しいの?」

「う、うん……もっと、ぎゅってして」

「どこを?」

「ち、乳首……」

「よくいえたね」

 千恵は美由紀の願い通りに、乳首を摘んだ指に力を込めた。

「ひぅっ!」

 ピクンッと、美由紀が背を反らして小さく跳ねる。

「あぁ……ちえぇ」

 美由紀は手を伸ばして、いつものポニーとは違い、下ろしている千恵の長い黒髪に触れた。

 千恵の顔が美由紀の顔に近づく。

 二人の唇が重なった。

「う、ぅん」

 口腔内に差し入れられた千恵の舌を、美由紀は拒むことなく受け入れ、自らのそれを絡めた。

 二人は互いの頬に両手を置いて、顔が離れてしまわないように固定し、湿った音を奏でながら夢中で唾液の交換を続ける。

 その湿った音は、三分は鳴りやまなかっただろう。唾液の糸で繋がったままだが、二人の唇が距離をとった。

「あれ、使う?」

 千恵が問う。

「あ、あれって?」

「美由紀の大好きな物」

 美由紀の脳裏に、特殊ゴム製の疑似ペニスが付いている黒い革張りの「ショーツ」が浮かんだ。

「今日はいいわ。千恵、あれしたいの?」

「美由紀がいいなら、いいんだ」

「うん。今日は、なにも使わなくていいわ。だから……」

 美由紀と千恵の位置が入れ替わる。上になった美由紀は後ろを向いて、千恵の顔に陰部を晒すようにし、自分は千恵の股間に顔を埋めた。

 いわゆる「シックスナイン」の体位だ。

「舐めて、千恵」

 いってから美由紀は、体格のわりに小ぶりな千恵の陰部を手で開いて、そこに口をつけた。千恵もいわれた通りに、陰毛が薄く、小陰唇が控えめに顔を見せている美由紀の陰部に顔を寄せる。

 ぴちゃぴちゃ

 身体を重ね、互いの性器を舐め合う二人。

「千恵は、ここが弱いのよね」

 美由紀は唾液と愛液で濡れた口を、千恵の一番敏感な場所に移動させ、やわらかい小豆のような部分を吸った。

「きゃうぅんっ」

 男……というよりは少年っぽい雰囲気を持つ千恵が、普段からは想像もできないような「かわいい声」で鳴く。

「だ、だめ……そこ、か、感じすぎ、キュ、キュウゥンッ!」

 美由紀は千恵の言葉を無視して、千恵のクリトリスを強めに吸い続ける。

「アウッ……み、みゆ……ひぃんッ! お、お願い……そんな、そんな強くしない、うっ、ハアあぁあァンッ!」

 もはや千恵は、美由紀の股間に顔を埋めることもできず、ピクピク小刻みに痙攣しながら、美由紀の責めに汗ばんだ身体をくねらせている。

「あっ、アンッ。あっ、あっ、あひッ、ヒッ、みゆ、だ、ダメえぇッ」

 ビクンッ!

 千恵の性器から、これまで以上の液(さほど白さはない)が溢れ出る。美由紀はその液を、ベッドに零さないように全て舐め取った。

「ハァ……はぁ……み、ゆき……」

「イクの早過ぎよ。千恵」

「そ、そんな意地悪……いわ、いわないで」

「くすっ。千恵、かわいい」

 と笑い、美由紀は再び千恵の股間に顔を埋めた。

「ダ、ダメッ。まだ、フ……ぅンッ。や、やすませ……み、みゆきぃ」

「まだ飲み足らないの。千恵の美味しいジュース」

「そ、そんな……」

「だから、もっと飲ませて」

 再び責められる千恵。

 どうやら今日は、美由紀が「責め」のようだ。二人の「責め」と「受け」は、その日によって違う。

 二人の性生活には、これという決まりがない。

 性具を使用することもあるが、今日のようになにも使わないこともある。キスすらしない日があると思うと、一日中身体を重ね、ハードなプレイに及ぶ日もある。

 それでも二人の性癖というか、好むプレイ内容は違う。

 美由紀は体液を飲むこと、飲ませることを好み、少し「S」の気がある。

 千恵は性具を使用し、「責め」を好むかと思えば、「M」の気もある。

 二人の一番ハードなプレイの内容を説明すると、美由紀が「責め」のときは、性器とアナルにバイブをはめられ、ポニーの頭を飾っていたリボンで腕を後ろに固定された千恵が、美由紀に頭からおしっこを浴びせかけられるという内容で、千恵はフローリングの床を濡らす美由紀の小便を、バイブをはめられたまま舐めさせられた。

 千恵が「責め」のときは、疑似ペニス付き「ショーツ」をはいた千恵が、イキ過ぎて脱水症状を起こすまで、何時間も連続で美由紀を犯すという内容で、次の日美由紀は身体を動かすことができず、大学を休むこととなった。

 だが二人の間でそのようなハードなプレイは少なく、大抵は互いの身体をまさぐり合い、舐め合い、バイブを使って刺激し合うくらいだ。

 しかし二人は、互いのプレイを本気で拒むことはない。

 美由紀に「おしっこ飲んで」といわれれば千恵は飲むし、まだいわれたことはないが、「うんち食べて」といわれれば食べるだろう。

 美由紀も、千恵が同じことをいえばその通りにするだろうし、「犯してあげるから、這いつくばって脚開いて」といわれれば、いわれたままに這いつくばり、脚を開く。

 相手の望む行為を受け入れる。例えそれが「変態的」であっても。それが二人の間に存在する「暗黙の誓約」だった。

 美由紀の責めを受け、汗に濡れる身体を悶えさせる千恵。

 千恵の性器部分だけを、飽きることなく貪る美由紀。

 二人の「癒し合い」は、この後も一時間ほど続いた。

 

     3

 

 時間という「絶対者」からは、「生」に束縛された者であるなら、何者であろうとも逃れることはできない。

 それは美由紀も千恵も同様であり、その「例外」ではなかった。

「ここ……よね」

 美由紀は、数日前に千恵と交わした約束を守り、「JAM-Freedn」にその脚を向けた。チケットは、すでに千恵から受け取っている。

 店内に脚を踏み入れると、そこには美由紀が想像していた以上の人間がいた。

(この人たち、みんな千恵の歌を聴きにきたのかしら?)

 ステージ上には、なにやらゴチャゴチャした(と美由紀には思えた)物が並んでいる。それらはドラムセットやアンプ、スタンドマイクにコードなどだが、それらを見なれない美由紀にはゴチャゴチャした物でしかなかった。

 前に所属していたバンドでは、千恵は主にギターを担当していた。だが今のバンドでは、メインヴォーカルを勤めている。

 ヴォーカル。

「歌をうたう人よね」

 そのくらいは、いくら美由紀でも知っている。

 店内に座る場所はないので、入り口近くの壁に背をつけ、美由紀は立ったまま千恵が出てくるのを待つことにした。

 腕時計で時間を確認する。

(そろそろかしら)

 チケットには19:00開演と記されていた。時計の針は、その時刻を指そうとしている。

 と、ステージの袖から、ギターを抱え紅い髪をした高校生くらいの少年が現れた。少年は中性的な容姿で、女の子にも見えなくない。事実美由紀には、少年が男なのか女なのか判別がついていない。

(……千恵じゃないの。まだなのかしら?)

 だが、少年がギターをアンプに繋ぐ作業を始めると、ステージに千恵が姿を見せた。

(あの子、千恵のバンドの子なんだ)

 美由紀は、千恵が所属するバンドに関して、まったくなにも知らないといっていい。別に興味がないので、千恵にバンドについてのことを訊いたりもしていなかった。

 ステージ上の千恵がマイクのセッティングを始めた。

 キュウゥウゥンッ

 マイクが耳障りなハウリング音を発する。音が止むと、千恵は顔をしかめたままマイクを叩き、

「あぁ〜っ」

 間の抜けた声でテストをし、どうやら問題ないらしいことを確認した。

 美由紀はその千恵の様子を、苦笑しながら眺めていた。

 バンドのメンバーが指定位置につく。メンバーは千恵を含んで四人。ボーカルのチエと、ギターのシン。ベースのレキト、ドラムのコウである。

 千恵がその中心に立つ。

 と、美由紀は千恵が自分を見ていることに気が付いた。

 少し恥ずかしかったが、美由紀は小さく手を振ってみた。それを確認したのか、千恵が照れたようにニカッと笑った。

 

 耳を塞ぎたくなるほど大きな音が、美由紀の身体を突き抜ける。スポットライトを浴び、ステージ上の千恵が光に包まれる。

 驚くほど英語の発音がいい千恵の歌。しかし美由紀には、その内容を理解できるにも関わらず、意味のある言葉としては聞こえていなかった。

(な、なに……これ?)

 圧倒的な客席のテンション。奇声を発して跳ね回る者もいる。美由紀だけが呆然としていた。

 美由紀にとって、ここは「異世界」だった。

 そして千恵は明らかに「異世界」の住人であり、美由紀は見なれているはず千恵を「知らない人」かのように感じた。

(ち、千恵……? あれ、本当に千恵なの?)

 咽の奥がヒリヒリと乾く。

(……あ、あれが、「本当」の千恵……?)

 飛び散る汗が光を反射させて千恵が輝く。観客席から声援が送られる。

(あっ……い、いや……)

 美由紀は、ガクガクと震え崩れそうになる膝を懸命に堪えた。

(やめて、千恵。こんなの……いや)

 周りを見回す。誰もが、ステージ上でマイクを握る千恵に視線を送っていた。

(あぁ……み、見ないで……ダ、ダメッ! 見ないでッ。千恵を……私の千恵を見ないでッ!)

 音にならない悲鳴。慟哭。

 美由紀は店を飛び出した。

 追いかけてくるかのような千恵の歌声に、いい知れない恐怖を感じながら。

 

 自分がどうやってここまで戻ってきたのかも曖昧なまま、美由紀は「二人の家」のドアを潜った。

 瞼に焼き付いたステージ上の千恵。身体がバラバラにされそうになった歌声。声援を送る客の熱を帯びた視線。

 そして、二人きりのときにはけして見せないような、充実した千恵の表情。

 それら全てに、美由紀は恐怖を感じた。

 美由紀は千恵に対して、自分にはない「特別」を感じた。

 自分にはなく、千恵にはある「特別」。

 憧憬は覚えなかった。ただ、「置いていかれる」と感じた。千恵が、自分から離れていってしまうと感じた。

 だからこそ美由紀は恐怖に支配された。されてしまった。

 千恵には「先に進む力」がある。でも、自分にはない。

 これまで共に歩んできた旅の連れの正体が、実は「天使」だった。そんな突拍子もない事実を唐突に突きつけられたかのような「裏切り」を、美由紀は千恵に感じた。

 それを「裏切り」だと感じてしまうのは、美由紀の「弱さ」だ。千恵は「裏切って」などいないし、自分が「天使」だなどとは一言もいっていない。

 だが美由紀には、ステージ上の千恵が「天使」に見えた。

 どれだけ腕を伸ばそうとも、自分には手が届かない存在に見えた。

 だから、これは「裏切り」だ。

 フラフラと身体を左右に揺らしながら室内を歩き、美由紀はベッドに腰を下ろす。

(千恵は、私に合わせて歩いていた? いつでも私を置いて、遠くに、高みに飛び立てる翼を持っていたのに、「哀れんで」、「同情」して私と一緒にいたの……?)

 美由紀の恐怖は、唐突に怒りへと変換された。

(哀れみ? 同情……? バカに、バカにしないでッ!)

 美由紀は下唇を強く噛んだ。唇が切れ、口の中に錆びた鉄の味が広がる。

 痛みはない。それよりも胸の奥から沸き上がる「熱い感情」に、美由紀は強く支配されていた。

 悔しい。バカにされていた。影で嘲笑されていた。そうに違いない。千恵は、美由紀を嘲笑っていた。

「あたしが一緒にいてあげなければ、美由紀にはなにもできない。あの子は、取るに足らない、どうだっていい子だから。可哀相だから、あたしはあの子の側にいてあげている」

 そういって笑う千恵の声が、美由紀には聞こえた。

 被害妄想。

 美由紀の「弱さ」が創った幻聴だ。

 もしこの幻聴が幻聴ではなく、他人がこれと類似した言葉を美由紀に向けたとしたなら、美由紀は簡単に否定しただろう。

「千恵は、そんな人間じゃないわ。千恵のことなにも知らないくせに、わかったようなこといわないで」

 そう、怒りを込めて否定しただろう。

 だが言葉は、自分の「奥の方」から聞こえてきた。

「……るさない。ゆるさない。許さない。許さない。ゆるさない。ユルサナイッ」

 室内に入り込む街の微かな灯りが、ベッドに膝を抱いて踞ってそう呟き続ける美由紀を、闇の中に浮かび上がらせる。

「絶対……許さないからッ!」

 暗く、しかし熱い視線で、美由紀は目の前の「なにか」を睨み付けた。

 

     4

 

 ライブが終わって後かたづけの最中、千恵はステージ上から店内を眺めた。美由紀がどこにいるのか確認するためにだ。

 だがどこを捜しても、美由紀の姿はなかった。

(あれ? 最初はいたのに……一人で帰っちゃったのかな)

 当然美由紀が自分をまってくれていると思っていた千恵は、少し拍子抜けしてしまった。

 ライブが始まるとすぐに客席が盛り上がって、ライブの間中、千恵には美由紀がそのどこに紛れているのか確認できなかった。

 だが最初の挨拶の時には、美由紀は後ろの壁際にいた。それは確認できていた。

 美由紀が来てくれたことが嬉しくて、千恵は今日、いつもの1.5倍はがんばった。いつもはみんなのために歌うのだが、今日だけは美由紀のためだけに歌った。

 客席のどこかにいるはずの美由紀に向けて、もてる力を出し切って歌った。

 それなのに……。

(まっててくれてもいいじゃん。せっかく、二人で食事して帰ろうと思ってたのに)

 と千恵が拗ねていると、

「松岡さん。ミーティングを兼ねて、エッセンで食事でもどうですか?」

 紅い髪の少年、ギターのシンが声をかけてきた。ちなみに「エッセン」というのは、ここから少し歩いた場所にあるファミレスである。

「う〜ん……みんなは?」

 ベースのレキトも、ドラムのコウも、シンの意見に同意した。

「……うん、そうだね。そうしようか」

 美由紀が帰ってしまったのなら仕方がない。千恵はメンバーとミーティングしてから帰ることにした。

 

 千恵が帰宅すると、部屋には電気が点っていなかった。

(美由紀、寝ちゃったのかな)

 すでに時刻は日付を変えようとしている。少し早いが、美由紀が寝てしまっていても不思議ではない時間だ。

 千恵は靴を脱ぎ部屋に上がる。

 と、薄暗い室内のベッドの上に、膝を抱えて踞っている美由紀の影を見付けた。

 カチッ

 部屋が明るさを得る。

「ど、どうしたの? 美由紀」

 千恵はベッドの傍らに駆け寄った。

「……なんでもない」

 感情がこもっていないかのような、小さくて、吐き捨てるような返答。

「なんでないわけないじゃん。ねぇ、美由紀。ホントどうしたんだよ」

「うるさいッ!」

 急に美由紀は大きな声を発し、肩に触れようとする千恵の手をはねつけた。

「み、美由紀……?」

「バカに……私のことバカにしてたくせにッ!」

 顔を下に向けたまま、美由紀が吐き捨てる。

「美由紀、どうしたの? なに怒ってるの?」

 美由紀の様子がおかしい。というより、いつもと違い過ぎる。千恵は、このような美由紀を見たことがない。

「……許さない。絶対許さないからッ!」

「許さないって……美由紀、なにいってるんだっ?」

 千恵には、美由紀の言葉の、そして怒りの意味が理解できなかった。

 だがそれは当然だ。美由紀が千恵に向けているのは、理不尽で自分勝手な感情なのだから。

「な、なあ……美由紀」

「気安く美由紀なんて呼ばないでッ」

 露骨な怒りを露わにする美由紀。千恵はその怒りの理由が、どうやら自分にあるようだと感じた。

「あ、あたし、なにかした? 美由紀が怒るようなこと、なにかした?」

「よくそんなことがいえるわねッ! ずっと……ずっと私のことバカにしてたくせにッ」

 強い視線で千恵を睨み付ける美由紀。

(いったい……いったい、どうしたっていうんだよッ?)

 理解不能。

(あたしが、美由紀をずっとバカにしていた? なんだよ、それ……?)

 混乱。

「みゆ……き」

「美由紀って呼ばないでッ! 裏切り者のくせにッ」

「うらぎり……もの? 裏切り者ってあたしのことッ?」

「そうよッ! あなたのことよッ」

「なんだよ……なんだよそれッ」

 千恵が美由紀の両肩を強く掴む。

「さ、触らないでよッ!」

 美由紀は藻掻いたが、千恵は腕を放さない。美由紀よりも千恵のほうが体格もいいし、腕力もある。

 千恵の腕を振り解くのが無理だと悟ったのか、美由紀は抵抗を止めた。

「美由紀。裏切り者ってどういう意味なんだ?」

「その通りじゃないッ」

「だから、ちゃんと説明してくれよ。あたしには、なんのことだかわからないよッ」

「白々しい……」

 ボソッと美由紀が呟く。

「美由紀ッ!」

 二人の視線がぶつかり合う。互いに相手を睨み付けていた。

 視線をぶつけ合う二人の「隙間」を静寂が埋める。

 ふと、千恵の表情が崩れた。今にも泣き出しそうな、美由紀のスケッチボートに刻まれたのと同じ顔に。

「……美由紀。どうしたの? どうして……」

 千恵の表情に、美由紀はハッとしたように大きく瞳を開き、次いで顔を背けた。

「み……ゆき?」

「……」

 長い沈黙に思えた。が、実際には二分も経過していなかった。

 沈黙を崩し、ボソッと美由紀が呟く。

「……私は、千恵とは違う……。千恵みたいに「特別」じゃない」

 千恵は掴んだままだった美由紀の肩を放し、美由紀の沈んだ横顔を見つめた。

「とくべつ……って? あ、あたしが?」

「そうよ。みんな千恵を見てた。千恵は輝いていた」

「……」

 美由紀が、「ステージ上での千恵」のことをいっているのだと千恵が理解するのに、数秒の時間が必要だった。

「私とは違う。私には無理……だ、だからッ」

 美由紀は一度言葉を区切り、

「だから……千恵が私を「置いて」、「裏切って」、「どこか」に行ってしまうって……」

 いつもは理論的な美由紀の、要領を得ない言葉が続く。それでも千恵は、美由紀が「なに」をいおうとしているのか漠然とだがわかった。

 美由紀は強がっていても、「奥の方」に弱さを抱えている。そのことは千恵にもわかっていた。自分もそうだからだ。

(美由紀は、あたしにコンプレックスを感じたんだ。あたしが「特別」に見えてしまったんだ……)

「そ、そんなことない。あたしはどこにも行かない。ずっと美由紀と、美由紀の側にいるよ」

「……ウソつき」

「ウソなんかじゃないっ。それに美由紀。あたしは、「特別」なんかじゃないよ。あたしだって、美由紀が羨ましいって……思ってたよ」

「……」

「美由紀は頭もいいし、かわいいし、料理も上手だし、もちろん絵だって。あたしは、美由紀のこと素敵だって、ずっと羨ましいって思ってた。今でも、思ってる」

「ウソ」

「ウソじゃない」

 千恵は真剣な表情で、真っ直ぐに美由紀を見つめた。

 その千恵に「ウソ」がないことは、美由紀も認めるしかなかった。これまで幾度も身体を重ねてきた人間の「本当」の言葉、そして「思い」。

 美由紀には、自分を見つめる千恵を「否定」することができなかった。

「ち、違うわ。私は……なにもできない、取るに足らない、ゴミみたいな人間なの」

 震える声でそう告げる美由紀。

「そんなことない。絶対ないっ」

 千恵がはっきりと否定する。

「どうして……いい切れるの? 私は本当に」

 美由紀の言葉を遮るように千恵がいった。

「あたしは、ずっと美由紀を見てきたから。だから、わかる。美由紀が素敵な、魅力的な女の子だって……あたしは知ってる」

「それは……違うわ」

「なにが?」

「私は素敵でも、魅力的でもない……わ」

 項垂れる美由紀。

「どうして? あたしが信じられない?」

「……わからない。私……私がわからないの」

「だったらあたしを信じて」

 沈黙。

「美由紀……信じて、あたしを」

 沈黙。

 そして……。

「……う、うん」

 美由紀は肯き、千恵に視線を向けた。

「……信じる」

 そういった美由紀の顔には、混乱も怒りもなく、千恵の知っている「素敵で魅力的」な美由紀だった。

 

     5

 

 千恵の泣きだしそうな顔を見た瞬間。美由紀は、自分の「奥の方」が一瞬にして冷めた(醒めた?)のを感じた。

 冷静さが戻り、「そんな、切ない顔しないで」と思うことができた。

「……私は、千恵とは違う……。千恵みたいに「特別」じゃない」

「とくべつ……って? あ、あたしが?」

「そうよ。みんな千恵を見てた。千恵は輝いていた」

「……」

「私とは違う。私には無理……だ、だからッ」

(そう……だから)

「だから……千恵が私を「置いて」、「裏切って」、「どこか」に行ってしまうって……」

「そ、そんなことない。あたしはどこにも行かない。ずっと美由紀と、美由紀の側にいるよ」

「……ウソつき」

(違う。千恵はウソつきなんかじゃない)

「ウソなんかじゃないっ。それに美由紀。あたしは、「特別」なんかじゃないよ。あたしだって、美由紀が羨ましいって……思ってたよ」

(うやらやましい? どうして?)

「美由紀は頭もいいし、かわいいし、料理も上手だし、もちろん絵だって。あたしは、美由紀のこと素敵だって、ずっと羨ましいって思ってた。今でも、思ってる」

「ウソ」

「ウソじゃない」

 美由紀は、千恵の真剣な視線を真っ直ぐに受け止めた。

(ち、千恵……どうして……どうしてそんなに私を褒めるの? 私は本当にダメな人間なのに。そんな「本当」の目で見つめられたら私……どうしていいかわからない)

「ち、違うわ。私は……なにもできない、取るに足らない、ゴミみたいな人間なの」

 声が震えていることは自分でもわかった。

「そんなことない。絶対ないっ」

 揺れる「弱い心」を、千恵にはっきりと否定された。

「どうして……いい切れるの? 私は本当に」

 美由紀はいい終える前に、千恵の言葉に遮られた。

「あたしは、ずっと美由紀を見てきたから。だから、わかる。美由紀が素敵な、魅力的な女の子だって……あたしは知ってる」

「それは……違うわ」

「なにが?」

「私は素敵でも、魅力的でもない……わ」

(だって私は、千恵を「裏切り者」だって……)

「どうして? あたしが信じられない?」

 真剣な千恵の顔。そして同様の視線。

(う、裏切り者? そ、そうよ……私なにを、千恵になんてことをいってしまったのっ? そんな……そんなこと、千恵が私を裏切るなんてこと、「絶対にない」のに……)

「……わからない。私……私がわからないの」

(ダメなのよ。私には、千恵に優しくしてもらう権利なんてないの)

「だったらあたしを信じて」

(えっ?)

「美由紀……信じて、あたしを」

 美由紀は、「裏切り者」は自分の方だったことを悟った。自分自身が千恵に嫉妬し、疑い、八つ当たりした「裏切り者」であったことを。

(ど、どうして私は……さ、最低。私、最低だ……で、でも……私まだ、千恵を信じていいの? 私なんかに「信じられて」もいいの?)

「……う、うん」

 美由紀は肯き、千恵に視線を向けた。

「……信じる」

(信じ……させて)

 千恵のほっとしたような頬笑みに、美由紀は泣き出してしまいそうになった。

 

「……私、千恵に非道いこといったわ」

「忘れた」

 千恵があっさりと答える。

「どうすればいい? どうすれば……許してもらえるの? 私、なんだってするわ。千恵が許してくれるなら、なんだって……」

(死ねといわれれば、死んだっていいの)

 美由紀はそう思ったが、言葉にはしなかった。二人の間で、「死」は触れてはいけない「言葉」だから。

「だから忘れたって」

 苦笑する千恵。

「……優しいね。千恵」

「美由紀にだから……ね」

 それには、少し照れた響きが含まれていた。

「……うん。ありがとう……」

 美由紀は瞳を閉じて、唇を差し出すように顔を上げた。なぜそんなことをしてしまったのか、美由紀にもわからなかった。

 しかし重ねられた千恵のやわらかな唇に、美由紀は「癒され」た。自分にとって千恵がどれほど大切な存在になっていたのか、美由紀は初めて「理解」した。

 二人の唇がそっと距離をとる。

「お願い、千恵。私を……「抱いて」……」

 美由紀は、沸き上がる「本当」を言葉にした。

「いつもみたいに?」

「ううん、違うの。これまで私は、千恵に「抱かれた」ことなんてない。千恵を「抱いた」ことも……」

「そう……だね」

「……うん」

「いいよ。「抱いて」あげる」

 千恵はそっと美由紀を押し倒し、二人は再びその唇を重ねた。

 

 

     プロローグ・『〈今日〉の始まり』

 

「千恵、起きて。朝よ」

 同じベッドの中という、さほどの労力も必要とせず触れることができる場所で眠る千恵に、美由紀はそっと声をかけた。

「う〜ん……もうちょっと寝かせて……」

 寝返りをうち、くぐもった声で千恵が返す。

「ダメよ。起きて」

 告げながら、美由紀はベッドから降りた。

 カーテン越しに室内に入り込む朝の白い陽光が、一糸纏わぬ美由紀の細くしなやかな、それでいて出ているところは出て、しまるところはしまっている身体のシルエットを、フローリングの床に落とす。

 ベッドの下に落ちていたフレームの細い眼鏡を拾い上げ、それを顔の指定位置に置きながら、美由紀は再度「起きて」と千恵に告げた。

「わ、わかった……起きればいいんでしょ」

 欠伸をし、乱れた長い髪に手を入れてかき乱しながら、千恵はシーツをはいで裸体の上半身を起きあがらせた。

「おはよう。千恵」

「おはよ。美由紀」

「シャワー。浴びるでしょ?」

「一緒に?」

「もちろん。一緒に」

「そうだね。昨日の美由紀すっごく激しかったから、まだ身体中ベトベトしてるよ」

 苦笑まじりの千恵の言葉に、美由紀は耳まで真っ赤にした。

「ち、千恵ッ!」

「どうしたの? ホントのことじゃない」

 慌てた様子の美由紀に、千恵はにやけた頬笑みを向けた。

「うっ……そ、それは、そうだけど……。千恵、意地悪」

「ごめん、ごめん。美由紀があんまりかわいいから、ちょっといじめたくなったんだ」

 千恵はベッドから降り、美由紀の側に歩み寄った。

「美由紀」

「ん?」

「シャワー浴びる前に、も一回しようか?」

「……バ、バカッ。するわけないでしょッ」

「ホントはしたいくせに」

 千恵は美由紀の背後から腕をまわして、彼女の細身なわりには豊満な胸に触れて手を動かし始める。

「きゃっ! や、やめてよ千恵っ」

 だが美由紀の抵抗は、ほどなく喘ぎ声に変わった。

「アンッ、ぅん、は、はうぅ……ち、ちえぇ。い、一回、くぅ……本当、一回だけ……だよ」

「うん。わかってる」

「ほ、本当に?」

「ウッソ」

 二人は降りたばかりのベッドに逆戻りし、カーテン越しに入り込む朝日を浴びながら、〈今日〉最初のキスを交わした。



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