『供物』

 

 義姉の理穂が「変」になってしまったのは、交通事故で両親が死んでしまってからだった。

 四年前に父が再婚してできた新しい母と姉を、中山かおり(なかやま かおり)は心から慕っていた。

 かおりの実母はかおりを産んですぐ亡くなり、かおりは実母との思い出がなかった。そのためか父の再婚に抵抗はなく、お母さんとお姉ちゃんができたことを、かおりはとても嬉しく感じていた。

 新しいお母さんとお姉ちゃんはとても優しく、かおりは家族、家庭という温かな場所を得ることができ、毎日を幸せだと感じることができる四年間を過ごした。

 なのに……。

「アッあっ、ハウッうぅ、あっ、あっ、アウゥンッ!」

 隣の姉の部屋から聞こえてくる「気持ち悪い声」。かおりは両手で耳を塞いで、それに耐えていた。

 両親の葬式が終わり一週間も経たないうちに、理穂は変わってしまった。「教祖さま」とかいう変で気持ち悪い男を家に連れ込み、大学にも行かないで一日中「気持ち悪い声」を出している。

 かおりが小学校に行く時も、帰ってきた時も、それは続いている。

 裸で家の中を歩き、食事もかおりと一緒に採らなくなった。両親が生きていた時は、家族四人で食事を採るのが当たり前だったのに。

(お姉ちゃん。おねえちゃん。オネエチャンッ!)

 いったい姉はどうしてしまったのだろう? あの「教祖さま」とかいう男はなんなのだろう?

 考えても、かおりには答えが出せない。

 ただ姉が「変」になってしまったのには、あの「教祖さま」が関係しているのだと漠然と感じているだけだ。

 かおりは姉の部屋に入ることを禁じられたし、入りたいとも思わなくなったので、姉が「教祖さま」と部屋でなにをしているのかは分からない。だが、「気持ち悪い声」を出しているからには、「気持ち悪いこと」をしているに決まっているとは思っていた。

 

 それはある日の深夜。現役小学四年生のかおりは、当然ベッドで眠りに就いている時間だった。

 身体を揺すられ起こされたかおりは、目の前に姉の顔を見ることになった。

「ぅん……どうしたの? お姉ちゃん」

 眠い目を擦りながらかおりが問う。

「かおりちゃん。よかったわね」

「……? なにが?」

「教祖さまが、かおりちゃんにも<救い>をお与えになってくださるそうよ」

 姉がなにをいっているのか、かおりには全く理解できなかった。

「すくい?」

「えぇ、そうよ」

 姉が久しぶりに頬笑みを向けてくれた。かおりはそれが嬉しくて、胸が締め付けられて、泣きそうになった。

 理穂がかおりの部屋の灯りつけ、「どうぞ。教祖さま」と「教祖さま」を導いた。

 かおりの部屋に入ってきた「教祖さま」は、姉と同じくその身になにも纏っておらず、姉とは違い汚らわしい体毛に被われた気持ち悪い身体だった。

 かおりは声にならない悲鳴を漏らし、顔を背けて瞳を閉じる。

「ほら、かおりちゃん。教祖さまにちゃんとご挨拶して」

 だがかおりは、その言葉に従うことができなかった。

「い、いやっ! こないでっ。あんたなんか、あたしの部屋に入ってこないでっ」

 いい終わらない間に、理穂の手のひらがかおりの頬を打っていた。

 パンッ!

「きょ、教祖さまに、なんてことをいうのッ!」

 パンッ!

「謝りなさいッ」

 パンッ!

「ほらッ」

 パンッ!

「早くッ!」

 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 かおりは頬を打たれながら、「ごめんなさい」と繰り返す。なんどもなんども、「姉に対して」謝罪を繰り返した。

 痛いというよりは、痺れる頬。無意識に零れる涙。それでもかおりは、理穂に対して恐怖は感じなかった。

「お姉ちゃんが「変」になってしまったのは、全部この「教祖さま」のせいだ」

 理穂は悪くない。悪いのは全て「教祖さま」だ。

 憎い。この男が。この男さえいなくなれば、理穂はもとの優しい理穂に戻る。理穂はこの「教祖さま」に「操られて」いる。

 理穂に頬を叩かれながら、かおりはそんなことを思っていた。

 

 理穂が腕を止めたとき、かおりの両頬は真っ赤に染まっり膨れあがっていた。

「ごめんなさい。かおりちゃん……」

 瞳を潤ませいう理穂。だが、

「でも、かおりちゃんが悪いのよ。教祖さまに、失礼なことをいったりするから……」

 かおりは、無言で理穂を見つめた。

「だけどもう安心よ。かおりちゃんにも、教祖さまのすばらしさは理解できるはず。だってかおりちゃんは、わたしのかわいい妹だもの」

 と、理穂はかおりに告げ、次いで「教祖さま」に視線を向けた。

 すると突然。「教祖さま」がかおりをベッドに押し倒した。

「なっ。イ、イヤアァ〜ッ!」

 暴れるかおりの顔面に、「教祖さま」の拳がめり込む。かおりは、鼻血で顔を紅く染めて気絶した。

 かおりが気を失っていたのはほんの数分だったが、気がついたときかおりは、全裸で両腕を頭の上で理穂に押さえつけられ、覆い被さる「教祖さま」に胸元を舐められていた。

 「教祖さま」がかおりの、最近微かな膨らみを持ち始めた胸の先端を口に含む。かおりの全身に、ナメクジが這い回るようなおぞましい感触が走った。

「ひうぅっ」

 思わず声が漏れる。

「ぃやあぁ……いやあぁ〜っ!」

 暴れるかおり。だが理穂に両腕を固定され、「教祖さま」に腰を掴まれているために、その抵抗は徒労に終わった。

 ナメクジは先端から下り、腹部、へそ、そしてその下まで這いずる。

「いやぁ……や、やめて。お、お姉ちゃん……おねえちゃんッ!」

 泣きながら請うかおりに、理穂は不思議そうに声を返す。

「どうしたの、かおりちゃん? せっかく教祖さまが<救い>をお与えくださっているのに、なにがそんなにイヤなの? わがままいっちゃダメでしょ?」

 秘部をナメクジに犯されるかおりの顔は、鼻血と涙でグチャグチャになっていた。

 イヤ。気持ち悪い。止めて。さわらないで。

 だがナメクジは閉じた穴にまで進入し、かおりにより一層の不快感を与える。

「さぁ教祖さま。かおりちゃんにも、<聖なる証>をお与えください」

 大仰に肯く「教祖さま」。そして「教祖さま」は、かおりの股の間に自分の下半身を割り込ませた。

「イヤあぁっ! た、たすけてお姉ちゃんっ!」

「なにもこわがらなくていいのよ。教祖さまに、全てお任せすればいいの」

 唾液に濡れる閉じたワレメに、「教祖さま」の「聖棒」があてがわれる。かおりはギュッと瞳を閉じた。

 その瞬間。

 グチイィッ!

 かおりは、身体が引き裂かれたと思った。

 視界が黒と赤のまだらに染まり、それ以外のなにも見えない。激痛が波のように、なんども下半身から全体に広がる。

 かおりはパクパクと口を開閉させたが、その口から音は出ない。

 乱暴としかいいようのない動きで、「教祖さま」がかおりを犯す。かおりと「教祖さま」の性器は真紅に染まり、その紅はシーツにまで零れて自らを拡げていく。

「よかったわね、かおりちゃん。これでもう、なにも苦しむことはないわ。かおりちゃんは<救われた>のよ。教祖さまのお力で、神さまに『捧げ』られたの。これからは、ずっと幸せな毎日が続くの。ずっと、幸せだけを感じて生きていけるのよ……」

 理穂は泣いていた。至福の表情で。

 だが理穂の言葉は、激痛に犯されるかおりには届いていなかった。



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