『白道』
こないでっ。
変な人たち、いっぱい。
いやっ。おねえちゃん助けてっ!
こわいよっ。
おねえちゃんっ!
変な人たちが、ゆりを食べにくるっ。いっぱい、いっぱい、いっぱい。
顔がない人。お腹から変な物を引きずっている人。口から黒いねばねばした物を出してる人。虫の顔をした人。腕から半分つぶれた顔が生えてる人……。
いっぱい、いっぱい……。
ゆりを食べにくるよっ!
おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃんっ!
「ゆり。どうしたの?」
あっ、おねえちゃんっ! やっぱり、助けにきてくれたんだ。
「大丈夫?」
うんっ。
おねえちゃんがきてくれたから、変な人たちはどこか行っちゃった。
「そう、よかったわ」
ありがとう。おねえちゃん。
ゆり、とっても恐かったんだよ。でもね、おねえちゃんが助けにきてくれるって信じてたんだ。
「ゆり、ちょっと待ってて。お薬の用意するから」
うん。
ゆりは病気だから、おねえちゃんが買ってきてくれる、お注射しなきゃダメなの。外にも出ちゃダメ。でも、ゆりにはおねえちゃんがいるから寂しくないんだ。
「はい。腕だして」
いたっ。
お注射は、ちょっといたい。でもがまんしなきゃ。
「いいわよ」
おねえちゃんは、お薬をかたづけている。
あれっ? 誰かいる。男の人だ、でも変な人じゃない。
そうか、おねえちゃんのお友達の人だ。おねえちゃんは、よくお友達を家につれてくる。いつも男の人ばっかり。
「本当にゆりちゃんだ」
男の人は、ゆりを知ってるみたい。でも、ゆりはこの人知らない。
「こんばんは。ゆりちゃん」
こんばんは? そうか今は夜なんだ。ゆりは家の外に出れないから、分からないんだ。時計はあるけど、ゆりには時間の見方がよく分からない。おねえちゃんは、ゆりは知らなくてもいいんだよって言ってた。だから、ゆりは知らなくてもいいんだ。
こんばんは。
「おい、本当にいいんだろうな」
「いいわよ。ビデオ見たんでしょ」
「そりゃな。ゆりちゃんは俺達の間じゃ、ちょっとしたアイドルだからな」
「そのアイドルをたったの五万で抱けるなんて、アンタ運がいいわよ」
男の人と、おねえちゃんがお話ししてる。ゆりには何を話してるのか分からない。きっと、難しいことなんだ。
「そうだ。ゆりちゃんて何歳?」
なんさい? ゆりなんさいなんだろう?
おねえちゃん……。
ゆりはおねえちゃんを見る。ゆりが分からないことは、おねえちゃんがぜんぶ知ってる。おねえちゃんは、知らないことがないんだ。
「十歳よ。あと五日でね」
そうか、ゆりは十さいなんだ。
「はい、ゆり」
おねえちゃんが、ゆりにコップをわたした。
ゆりはいつもみたいに、コップにおしっこをする。
「おい、何してんだよ」
「ロリータのアイドルのおしっこ、一杯一万円」
ゆりのおしっこは、とっても美味しいんだって。でも、ゆりも飲んでみたけど美味しくなかった。おねえちゃんは、ゆりがまだ子供だからだって言ってた。
男の人がきたら、ゆりのおしっこ飲ませてあげるの。みんな、とっても美味しそうに飲むんだよ。
「そんな変態みたいなこと出来るかよ」
「飲みたくないの? 子ども抱けるって、鼻鳴らしてついて来たくせに。今更常識ぶったって仕方ないじゃない。要るの? 要らないの?」
「いっ、……要る」
男の人は、ゆりのおしっこの入ったコップをうけとって、においをかいだり、少しずつ飲んだりしている。とってもしあわせそうだ。やっぱり大人の人には、ゆりのおしっこは美味しいんだ。
美味しい?
「あっ、あぁ。とっても美味しいよ」
よかった。
「プッ。くくっ」
おねえちゃんが笑ってる。
へへっ。ゆりも笑った。
「じゃあ、時間は四十分。延長は十分ごとに二千円」
「中はいいのか」
「いいわよ、まだ生理きてないの。好きなだけ出していいわ」
おねえちゃんは、へやからでていってしまった。
ゆりと、男の人だけになっちゃった。
ねぇ、せっくすするの?
「えっ、そ、そうだよ」
そうか、ゆりせっくすするんだ。でもゆり、せっくすは嫌い。だって痛いんだもの。
でもおねえちゃんが、ゆりはせっくすするのがしごとだっていうから、ゆりはがまんしている。それに、せっくすするとおねえちゃんがほめてくれるから、ゆりは痛いけどがまんするんだ。
やっぱりせっくすは痛かったし、きもちわるかったけど、おねえちゃんにほめてもらった。うれしかった。
またいっぱいせっくすして、おねえちゃんにいっぱいほめてもらうんだ。
じゃあおねえちゃん。おやすみなさい。
今日はおねえちゃん帰ってこない。どうしたんだろう?
今日もおねえちゃん帰ってこない。どうしたのかな?
助けてっ。変な人たちがゆりを食べにくる! いっぱい、いっぱい、いっぱい!
頭いたいよ、くるしいよぉ……おねえちゃん。
おねえちゃあぁーんっ!
ゆり食べられちゃった……。
もうおねえちゃんにあえない。
いやだ! いやだよ! おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん!
助けて。帰ってきて!
ゆりせっくすいっぱいするから、いやだって言わないから!
おねえちゃん!
「警視庁は本日、アパートに少女を監禁し、売春を強制していたとされる容疑者を逮捕しました。
容疑者は十九歳の女子大生で、これまでに複数回にわたり、少女に如何わしい行為を強制させていたとみられています。
なお、アパートに監禁されていた少女はとても衰弱しており、現在は入院しています。少女には薬物を注入されていた形跡もあり、警視庁では容疑者を追及し、事件の全貌解明にあたっています」
ゆり死んじゃった。
変な人たちがそう言ったの。
ゆりは死んじゃったって。
でもいい、おねえちゃんにあえたから。
おねえちゃんも死んじゃったんだって、だからこれからはいつでもいっしょ。
うれしい。
おねえちゃんといっしょにいられるんだ。
ゆりはおねえちゃんがいればそれでいい。
ゆりはいまとってもしあわせ。
ねっ? おねえちゃんっ。
「今日未明、五日前に警視庁により保護されていた少女監禁事件の被害者が、入院先の病院で亡くなりました。
事件は十九歳の容疑者が、都内のアパートに少女を監禁し、売春を強制させていたとみられるものです。
被害者は十歳の少女で、アパートに監禁されていたさいに、薬物を注入されていたとみられていて、死亡の直接の原因は、その薬物ではないかとされています。
警視庁では事件の容疑者を厳しく追及する姿勢を明らかにし、薬物の入手経路を徹底的に調査するとのことです。
では次のニュースです。
今日、都内の動物園では……」
おねえちゃん。
ゆりね、おねえちゃん大好きだよ。
これからも、ずっとゆりといっしょにいてね。
やくそくだよ?
やくそく……だよ。
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