月涙花 〜 月の章 〜 0 そっと伸ばした腕。 届かないことはわかっていた。 でも、それでも。 白く輝く月の涙のように。 ひとしれず咲く花のように。 わたしは……。 1 もっと一緒にいたかった。 ずっと一緒にいたかった。 永遠に咲く花のように、歪でもかまわなかった。 終わらせることで不幸を感じるのなら、終わらない夢を追いつづけていたかった。 さよならなんて、いえないよ。 2 笑ってるのがいいよね。 きっと。 たまには泣くのもいいよね。 たぶん。 ホントはなんでもいいよね。 ふたりでなら。 ずっと、ふたり一緒なら。 3 風の道を追っていこう。 たどり着く場所はどこだっていいさ。 どこにいっても同じことさ。 そこには大地があり、水が潤い、風が流れ、誰かが言葉を紡いでいるはずだから。 さあ。 いこう。 ここじゃない場所へ。 まだ、しらないどこかへ。 4 飛び跳ねる水滴に虹が伸びて、すんだ空気を輝かせる。 ゆるやかに。そしておだやかに時は流れる。 一瞬という永遠の宝石。 どこまでも続く、かわらないこの瞬間。 だから……泣かないで。 5 銀色の虹。 それはあなたの言葉のように優しく、そして厳しい。 求めるだけでは、強くはなれない。 与えるだけでは、負けてしまう。 ありがとう。 最後には、そういいたいから。 だから今は……。 「さようなら」 6 忘れてしまいたい。 涙を消してしまいたい。 どうして、今のままでいられないの? 7 傷つけあうことに馴れたくない。 悔しさをなくしたくない。 涙をこらえること。 やるせなくて眠れない夜。 それは、とても大切な試練だと思うから。 負けないための。 強くなるための。 今のままじゃ、いたくない。 8 すべてはあなたのえがおのための 9 なくすのは簡単なこと。 失うのは。 つくるのは難しいこと。 手に入れるのは。 だから今は。 そして、ずっと。 〜 涙の章 〜 0 銀光。 りんとした。 やがて消えると悟っていても。 今はこの手に感じていても。 水が凍えてしまうように。 焔が淀んでしまうように。 晶涙。 りんとした。 いずれ砕けてしまうとしても。 今はこの手に掴んでいても。 空が病んでしまうように。 大地が沈んでしまうように。 月を。 溶かしてしまわないで。 1 ひとすじの月光が降る。 花は咲き、溶ける朝をまつ。 しゃん。 玲瓏と鳴る音。 しゃん、しゃん。 花は咲き、溶ける朝をまつ。 2 束縛の視。 紅いようで黒い。 痛みによって悟る。 繰り返し、くりかえし。 だけれどいずれ、終わらないようで終わる。 甘えるだけでは、自分を嫌いになってしまいそう。 3 密かにひそかに。 歩みを止めることはなく。 だけれど偽物の光。 求めを止めることはなく。 水面は揺れることもなく。 4 なくしたから無口なのかい? だったらこうすればどうだい? ほら。あのときのようにさ。 詩音に手をふれて、唇を音色でそめてさ。 うん。そうしよう。 できない? どうして? ほら。こんなにもきれいなすみれ色。 哀しみは月と一緒に溶けた証拠じゃないか。 意味のない言葉を、意味のあるメロディと飛ばそう。 琥珀の空へとさ。 だから、もっと近くで聞かせてよ。 青白い花の歌を。 5 わたしはきっといまのままで、あそこまでいくのだろう 6 しゅっと痛んだ。 凍えた指先が切れて流れた。 命の水が。 まるで、幻のようだと思った。 7 削られていく感じがする。 風化というよりは磨耗。 ごりごりと。 粉になっていく感じがする。 だけれど。 それでもわたしは、負けたくない。 8 草原をわたるリズムのようだ。 積もる雪の悲鳴のようだ。 ああ、なんて哀しくて、なんてきれいなんだろう。 ひとすじの涙さえ、月明かりに凍るようだ。 9 天海から零れ落ちた月の涙は、大地に染み込んで白く小さな花を咲かせた。 |