夢乃園ポエ夢 詩集・V
『静』
黒く虚ろな痛み。 溜息が聞こえた。 静寂の鼓動が、やるせない吐息の影に溶ける。 だがそれは偽りの、そして夢色の虹。 風の指先は誰にも届かない。
『笑えない喜劇』
大切な誰かが消えた時、私はなにに涙するのだろう。 そして涙に溺れ、沈み、私も消えるのだろうか。 あなたは全てを知っている。 結末を知った観客なのだから。 面白くもなく、楽しくもない。 だからこれはお願いです。 その時がきたら、滑稽な私を笑ってください。
『リトル・アース』
蠢く螺旋は、ボクたちには隠されている。 外側にいる彼らだけが、把握しようと藻掻いている。 だけど、あの<少女>は何も語らない。 語るという行動を、彼女は知らないのだから。 誰も彼女に、「さようなら」を告げていないのだから。
『MUGEN』
終わりのない<YUME>。 永久に、永遠に終わらない<GENSOU>。 <MUGEN>がみる<KIBOU NO UTA>。
『雛菊』
多分、ボクは彼女が好きなんだろう。 だからこんなにも、毎日が楽しいし、切ない。 放課後の教室で彼女と交わした「秘密」は、きっとボクを苦しめる。 「終わらない物語なんてないのよ」 彼女がそっと呟いた。 ボクはただ俯いて、季節の移ろいを感じていた。 どうしてボクは、彼女を「先生」と呼ばなければならないのだろうか。 どうして彼女は、そう呼ばれて頬笑めるのだろうか。 だったらなぜ、彼女はボクと唇を重ねたのだろうか。 そう…雛菊のような頬笑みで。
『ネコ好き?』
オレは好き。
『苦笑』
汚水に浮かんだ煙草のフィルター。 なんだか、今のあたしと似てる。 仲間だね。 雨上がりの陽光の下、あたしは小さく苦笑した。
『混雑』
必要な「モノ」を見失っていないのなら、きっと大丈夫だから。
『大人はなにもわかっちゃくれないッ!』
カワウソに似ている彼女は、いつもはんぺんを握りしめている。 ときたまそれはちくわだったりするけど、そんなとき彼女は「グギュグギュ」と鳴くふりなんかしたりして、ボクはうっとりと見とれてしまう。 背中に装備したフライパンは、彼女のお気に入りだそうだ。ボクもステキだと思うけど、それで教室にある色つきチョークを粉砕するのはどうかと思う。 そんな彼女が、洋なしジュース作製選手権東アジア大会で優勝した。ボクは彼女に憧憬と嫉妬を覚えたけれど、実はこんぺいとうが大好きだ。
『解き放つように詠え』
廃墟に歌が響いていた。 紅き魔女の慟哭だろうか。 それとも、縛られた少年の歓喜だろうか。 けれどそのどちらでもなくとも、この歌は永遠だ。 そして空虚だ。 だからこそ<剣>はここにあり、<物語>は語られることなく潰える。 嘘の運命に、歌は…潰える。
『メロンパンふうのバナナパンもどき』
釘が打ち付けられた棍棒を振り回し、右上から天使が舞い降りて来た。 …ので、 取りあえず黒ゴマを一握りぶつけてやった。 うっわッ! ヤロー、追いかけてきやがったぞッ! ケッ! 誰がおとなしくボコられるかっつーんだッ。 行け、ロボッ! あの珍奇ズラした天使を粉砕しろッ! そして、できたら轟けッ! 必殺ッ ドリルクラッシャーッ! …ふ、ふぅ。 どうにか危機は去ったようだ。 しかし、いつ次の…ハ、ハグウゥッ! チッ…い、生きてやがったのか。ゆ、油断した…ぜ…。 だ、だが、オレが死んでも、第二、第三のオレが…ゲ、ゲフうぅッ! そう…そうさ…オ、オレは…還って…くる…ぞ…。 絶対に…かえ…って…くる…。 そして…そしてえぇッ!
「天使の前に風前の灯火的なオレ。だけどみんなの応援があれば、きっとオレは大丈夫ふうッ! 次回、『子猫好き好き、でも…いや、なんでもないさ。ちょっとトラウマがね…』 で、笑顔のキミと握手ッ!」
『やばチキッ?』
世の中は間違っているッ! そしてオレは、地震の予知ができる。 100%の確率でなッ。 タイムマシーンの開発も順調に進んでいるし、どこでもドアも持ってるぞ。 マ、マジだってッ! なっ、なんだよッ。石投げんなよぉ…。 わかっ…わかった。 じゃ、これやるよ。 これだよ、これッ。 ん? これはなんだって? うんなことも知んねーのかよ。 これは奇蹟の石、<ミラクリックストーン・ EX>だ。ほら、ここに書いてあんじゃん。 「みらくる?」 って…。 な、なにすんだよッ! 捨てんなよぉ。 小林さんから五万円で買ったんだぞ。 騙されてる…って? うんなことあるわけねーじゃん。 だって小林さん、実は<神>だぜ。 ち、違うって。あれは、床屋のオヤジってのは仮の姿なんだってッ。ホント、小林さん<神>だってッ! ま、まてよ。 マジで、マジなんだってえぇッ! え? しょ、証拠…? そ、それは…。 小林さん…「神さまの免許」見せてくれたぜ? 信じてないなッ。 だったら、今から小林さんとこ行こうぜ。 ゼッテー後悔すんぜ? だって、マジなんだからなッ。 後で謝ったって、許してやんねーからなッ!
『ときめき』
あなたの笑顔を見るたびに、あたしの小さな胸は「DOKI☆DOKI」震えるの。 あぁ…潰れてしまいそう。 「好き」って云えたら、この「想い」を告げることができたなら…。 でもあたしは「弱虫さん」だから、なにも云うことができないの。 だからお願い。 お願いだから、あたしのこの胸の「TOKIMEKI☆」を感じて? そして受け取って? 「弱虫さん」なあたしを、あなたの「HEART☆」で包み込んで? 何度でも告げるわ。 心の中で。 「好き。すき。スキ。SUKI…大好きッ☆」
「あ〜っ…この珍文を書いたのは三十四歳の独身女性ですが、精神を病んでいるというのはいうまでありません。みなさん、それは説明しなくていいですね。 では、過度に使用されている「☆」ですが。これにはある意味が含まれています。分かる人はいますか? …少し難しいですか? では説明します…」
という内容の、精神医学講義。
『ナミダを凍らす氷河のような』
あなたは泣きたいの? じゃあ…どうして泣かないの?
『アシタに続く軌跡のような』
あたしはバイシュンフ。セックスをして、お金をもらっている。 もう、ずっとまえから。ちゃんとおぼえていないくらい、ずっとずっとまえから。 五歳のお誕生日。お客さんとセックスしていたから、たぶん、それよりもまえから、あたしはバイシュンフをしている。 学校の給食費も工作費も、ママがお金をくれないから、あたしは先生たちとセックスして、それでゆるしてもらっている。 学校の先生の半分くらいと、あたしはセックスした。おとこの先生がほとんどだけど、おんなの先生としたこともあった。 おとななんてみんな同じ。セックスとお金のことしか考えてない。 小学校に通いはじめたばかりのころも、五年生になった今でも、先生たちはあたしがお金をはらえないと、そのかわりといって身体をもとめてくる。セックスしたら、ほとんどのことはゆるしてもらえる。 おとななんてみんな同じ。お客さんも先生たちも、けっきょくはセックスできればそれでいいんだ。 できるだけ安く。できるだけいっぱい。できるだけ、自分だけが気持ちいいセックスをすること。おとなはみんな、そんなことしか考えてない。 あたしは、おとなが気持ちよくなるためだけの道具で、ニンゲンじゃないのかもしれない。バイシュンフっていう、道具なのかもしれない。 …どうでもいい。 考えたって、あたしがバイシュンフだってことは、なにもかわらないんだもの。 学校が終わると、夜おそくまでお仕事。 セックスして、セックスして、セックスするの。 それだけ。 あたしにはそれだけしかない。 お友だちと遊んだりなんて、バイシュンフのあたしにゆるされているわけがない。それにあたしには、お友だちなんていない。 だってあたしは、バイシュンフだもの。 今日もお仕事。 セックスセックスセックスセックスッ! もう…イヤ。 ホントはもうイヤなのッ! セックスなんかしたくないのッ! 学校なんかいけなくたっていいッ! セックスしないですむなら、学校なんかいけなくなってもいいのッ! なんで…なんでなの? なんであたしはバイシュンフなの? なんであたしは…あたしは…。
『ユメを亡くした子供のような』
ねぇ? おぼえてる? 子供のころってさ、おとこの子もおんなの子も、みんな一緒になって遊んでたよね。 ドロだらけになってさ、田圃に入ってカエルつかまえて、農家のおじさんにすっごく怒られたこと、あったよね。 今じゃ信じられないよね。あんな世界、ホントにあったんだよね。 子供でさ、なにも考えてなくてさ、ただ、遊んでいることが楽しくてしかたないの。 …なんか私、おばあさんみたいだね。昔のことなんてさ。 私たち、まだまだこれからなのにね。 でもね。ちょっと思い出してみたかったの。 私がまだ、おんなの子だったころのこと。 そしてあなたが、おとこの子だったころのこと。 だって、たまには思い出さないと、忘れちゃいそうだもの。 ねぇ、もっと思い出してみようよ。 私たちが、おとこの子とおんなの子だったころのこと…。
『ココロを解かす魔法のような』
「ごめん…オレにはよくわからない。でも、キミは人間だし、キミがいう売春婦…性を売っている人たちだって、人間なんだと思う。 …違うな、人間なんだよ。 身体を売って金銭を得る仕事。オレには想像もつかない、大変な仕事なんだと思う。オレは、そういう仕事をしている人たちを見下すなんてしていないし、できない。 もちろん、キミのことだって…」
『ムゲンを隠す雪華のような』
夢幻とは、現実を形作るに欠かせない要素であり、それはまた、虚実を語るに必要不可欠な要素でもある。 まるで、雪華の一輪の如くではあるまいか。
『キボウを歌う小鳥のような』
鳥も草もラララ 今、なんだってできる あなたといるから 空も海もラララ 今、なんだってかなう あなたといっしょに なんだってかなえましょう 幸せなとき ずっとこのまま あなたの笑顔 ずっとそのまま ラララ ラララ ラララララ
『胸に残るキモチをもって』
「じゃあ…ずっと、ずっとずっとずうぅ〜っと!」
『〈お魚さん〉』
ミルク色の世界を、彼女は泳ぐように暮らしている。自由に、そして不自由に。 それは誰かが望んだことで、彼女は誰かには逆らえない。なぜなら彼女は、〈お魚さん〉だから。 知っているだろう? 〈お魚さん〉は誰かのモノなんだ。 それはキミのモノではなく、もちろんボクのモノでもない。彼女は正真正銘、誰かだけのモノなんだよ。 十三夜の月明かり。彼女は傘をさしてお散歩中。 クルクルくるくる。傘をまわしてお散歩中。 街ゆく人たちがそんな彼女を遠巻きに、そして怪訝に見送ったりして? 雲一つない夜空。降水確率0.0078%。 だけど彼女はお散歩中。傘をまわしてお散歩中。 スイスイすいすい。ミルク色の世界を泳いで、彼女はどこにいくのだろう? どこにもいかないつもりかな? なぜなら彼女はお散歩中。 さぁ、〈お魚さん〉のお散歩だ。じゃまするヤツは蹴散らすぞっ! クルクルくるくる楽しそう。彼女はとても楽しそう。 だけど、〈お魚さん〉が楽しいと、なぜかボクらは悲しいね?
『舞落』
不安に押し潰されそうじゃなければ、生きている気がしない。
『上昇』
なぜキミは、そんなにも笑えるの?
『記録→プロローグ』
「サクライッ!」 廃墟と化した異国の街。仲間がオレを呼ぶ。 死と煙の入り交じった臭い。吐き気がする。 戦場。 だがオレは、望んで此処に来た。 それがオレの仕事だからだ。 金さえ貰えればなんでもやる。 人殺し? あぁ当然だ。 オレは傭兵なんだからな。 …違うッ! これは…夢…だ。オレはもう傭兵じゃない。絶対に人殺しなんかしない。例えいくら積まれたって、絶対にやるものかッ! 落ち着け…これはいつもの夢なんだ。オレは日本に帰って来てるんだ。 もう、脅える必要はない。ただそこにいるなんて理由で、誰もオレを殺そうとしない。 夢なんだ…現実じゃない。 だけど…このリアリティはなんなんだ? 刺さる様な危機感。 喰い破られそうだ。 怖い。 本当に夢なのか? あの日本での生活が夢だったんじゃないか? オレは半壊した民家に入り込んだ。 床に散乱した生活用品。誰かが生活していた証拠だ。 誰が壊した? オレ達だ。 テーブルの上に倒れた写真立てを見つけ、オレは何気なく手に取った。幸せそうに微笑む四人の家族が写っていた。 オレの家族(あれを家族と呼べるのならだが)とは違う。多分、オレが子供の頃に憧れていた家族というものの具現された姿。 ここに在ったんだ。 考えもしなかっただろうな。こんなことになるなんて…。 写真をテーブルに立て、オレは思い出した。 やはりこれは夢だ。 何故気づかなかったんだろう。ここを忘れたことなんてないのに。 「居るんだろ? 出て来いよ」 場面が暗転し、オレは薄暗い地下室に移動していた。 「ここから離れられないのか?」 オレの目の前に、二人の子供が立っている。あの写真に写っていた兄妹だ。十歳程の兄が、二、三歳程年下の妹を背に庇い、オレに玩具みたいな銃を向けている。 脅えと決意を、同居させた顔で…。 「撃てよ。オレはもうなにもしない…なにもできない」 無言での返答。 「撃てよッ! 撃ってくれ…オレを、殺してくれ」 ふと、オレの中からもう一人のオレが現れる。 「止めろッ!」 もう一人のオレ。こいつがなにをしようとしているのか、オレは知っている。 落ち着いた動作で、手にした銃を兄妹に向けた。 「止めろッ! 止めてくれッ!」 だがもう一人のオレは止まらない。 銃声が四つ。 全て、もう一人のオレ…違う、過去のオレが創り出した音だった。 男の子は即死だった。女の子には、息があった。 オレは、女の子の額に銃口を向けて…弾き金を引いた。
『記憶→プロローグ』
降り続く雪。 白く、白く、白く…夜の公園を染めて。 「『ユエ』…死ぬな、死なないでくれ…」 彼は微笑む。彼には流すことのできない涙を流す、彼の友達に向かって。 「死なないよ…壊れるんだ」 「…『ユエ』…」 「『ハルノ』も壊れてしまった…だから…ボクも…」 「死ぬな…『ユエ』。ボクを一人にしないでくれ…」 「純は一人じゃないよ、みんな居るじゃないか。小鳩も、ゆかなも…みんな…」 「『ユエ』じゃなきゃダメなんだッ!」 「…純…」 「『ユエ』…『ユエ』…」 純の涙が、泣くことのない『ユエ』の頬に落ちて、伝う。 「純に会えて…よかった…」 純が顔を顰める。言葉は出ない。 不意に、『ユエ』の瞳が閉じられる。 「『ユエ』?」 反応はない。 降り続ける雪。 絶叫。 彼の名を呼ぶ。 世界は、白く染められる。 しかし純の世界は、ここから灰色に変換された。
『プロローグ←記録と記憶と復讐と』
ママに誉められた。 嬉しくない。 どうして? ママ。どうしてわたしを誉めるの? わたし、悪いことしてるんだよ? 違うよッ! これは悪いことなんだよ。なのに…なのにママはわたしを誉めるの? 悪いことをしたら、怒られるんだよ。 ねぇ、ママ。わたしを叱ってよッ! あなたは悪い子だって言ってよッ! そうしたら…そうしたらわたしは、こんなこと止められるから。 ねぇママ…ねぇ、ママッ!
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