夢乃園ポエ夢 詩集・X

 

 

     『蒼月』

 

 逃げ出したいとか泣きたいとか、そういうわけじゃないの。

 ただね、少しだけ…そう、少しだけ悲しいの。

 言葉は伝わらない。微笑みを作るのは苦手。

 だから…ね。

 溜息ついて、いいよね…?

 …許してくれる? わたしが憧れる、憧れの中のわたし。

 

     『触れてくるモノ』

 

 悲しいことがあったらしい。

 でも、誰にとって悲しいこと? なににとって悲しいこと?

 不思議に溶ける蒼い月。

 答えは誰がもってるの?

 

     『十一夜の月』

 

 なんか曖昧だよな。

 いろいろとさ。

 ハッキリしないんだよ。

 別に、それが悪いってことないんだろうけど、やっぱ気持ち悪いよな。

 

     『吹雪の中』

 

 あの人を好きになったこと、あたし…後悔なんてしてないわ。

 

     『大切なことが大切であるという証拠』

 

 愛してる。

 その一言で全てが“完全”になるのなら、ボクの悩みなんか一言で解決さ。

 でも悲しいことに、そうじゃない。

 それでもボクは告げるしかない。

 何回だって、何万回だって告げるしかない。

 キミがボクを信じてくれるまで。

 

     『いっつお〜らいっ!』

 

 そもそもあの人がいけないのよね。

 あたしの料理、どこが悪いっていうのよ!

 そりゃ、マズイわよ。

 だってあたし、料理ヘタだもの。

 でもさぁ…それを「おいしい」って食べてくれるのが、彼氏だったら当たり前のことだと思わない!?

 うぅ〜…なんか、すっごく悔しいわ。

 絶対、あの人が鼻水たらしながら驚くような、おいしい料理つくってやるんだから!

 

     『罠』

 

「裏切られた気分はどう?」

 彼女が楽しそうに笑った。

「これが、キミがしたかったことなの?」

「そうよ」

 ボクの問いに、彼女が微笑んで答えた。

 なら…いい。

 彼女がしたかったことなのなら、ボクはどんなことだって受け入れよう。

 ボクは彼女に微笑み返し、脇腹に刺さったナイフを引き抜いた。

 

     『ロンド』

 

 廻る廻る歯車

 ギシギシ ギシギシ 軋みながら

 古びた自動人形 蒼いガラスの瞳

 止まった柱時計 過去を凍らせて

 ここに在る理由 きっと誰にもわからない

 

 こんなにも遠く 奏でられるロンド

 

 廻れ廻れ歯車

 ギシギシ ギシギシ 軋みながら

 

     『奇行?』

 

 真夏に飲むホットコーヒーって激ウマ!

 

     『初デート』

 

 お気に入りのワンピできめて、薄桃色の色つきリップを唇に。

 前髪は大丈夫? うん、大丈夫。

 彼との待ち合わせまで、あと一時間。

 そろそろ家を出なくちゃね。

 三十分前には待ち合わせ場所にいて、ソワソワしながら彼を待つの。

「ごめん、待った?」

 いう彼に、

「ううん…今きたとこだから」

 微笑んでいうの。

 彼はもう一度「ごめん」っていって、そっとわたしの手を握ってくれる。

 わたしはそれが当然のように、彼の手を握り返すの。

 誰がみても、お似合いのカップル。

 羨ましいでしょ?

 みんなにみせつけてあげるの。

 わたしの彼なのよ? すっごくステキでしょ? …ってね。

 あぁ…楽しみ。

 彼、ワンピ褒めてくれるかな? リップに気づいてくれるかな?

「かわいい」

 って、いってくれるかな…?

 前髪をもう一度チェックして、さぁ! 彼との初デートに出かけよう。

 

     『気負いすぎてたですか?』

 

 …初デート失敗。

 っていうか、手も握ってくれないって、どういうこと?

 普通握るでしょ?

 ハァ…なんか、わたしってバカみたい。

 一人でいろんなこと想像して、一人で浮かれて…。

 でも…好きなのよね。彼のこと。

 来週のデートは、普通の服でいこうかな。

 

     『記号論理学』

 

 エロスとタナトスの連続。それに伴う生と死の非連続

 

     『行き場所のない声』

 

 遠いようで近い場所 近いようで遠い声

 

     『ゲフッ! か、かわいいっ』

 

 ね、ねこが…それもこねこがあぁっ!

 にゃ〜…って、にゃ〜…ってぇ!

 すげっ! か、かわいい〜ッ!

 

 あぁ〜かわいかった。こねこ。

 

     『辻』

 

 悪寒がする。誰かに見られてる。

 視線を感じ、僕は振り返る。

 でも、そこには誰もいない。

 気のせいか…。

 だけど悪寒は収まらない。

 ぞくりと首筋を撫で続ける。

 

     『デーア』

 

 もしも二人で歩めるのなら

 もしも二人で見つめ合えるのなら

 今日は きっと素晴らしく

 明日は もっと素晴らしく

 未来は 必ず素晴らしく

 過去は 祝福の光へと

 

     『雨の朝』

 

 目が覚める。

 外は雨。

 となりにはキミの寝顔。

 自然と零れる笑み。

 ボクは再び瞼を閉じる。

 

     『残夢』

 

 まだ死ねない。やり残したことがある。

 必ずやり遂げねばならない、大切なこと。

 冷たい風が頬を撫でる。

 その風に奪われる意識。

 溶ける…とけて、しまう…。

 …まだ…しねない…のに…。

 

     『残夢の後継者』

 

 他人や過去に束縛されるなんて、バカげてる。

 あたしはあたしだし、あたしでしかない。

 だから全部、自分で選択する。

 楽しいことも辛いことも、全部自分で選ぶの。

 あたしは、あたし。

 あたしは、生きている。

 

     『壊れやすいもの』

 

 少女の歩調に合わせ、影が無音で忍び寄る。

 少女の口調に合わせ、夢が無音で砕け散る。

 

 誰にも気づかれず、誰も〈それ〉に気づくことができず。

 

 少女の歩調に合わせ、影が無音で忍び寄る。

 少女の口調に合わせ、夢が無音で砕け散る。

 

 少女の吐息に混じり、恋は脆く壊れ去る。

 

     『アダンとイル』

 

 水面に漂う少女。黄金の苺が世界樹から堕ち、地中に眠る少年を殺す。

 少女は紅い瞳でへビとウサギを食べ、黒い卵を産み堕とした。

 

     『ゲイル』

 

 上向きな感じで眠ろう

 ネジ巻き鳥の奇声で飛び起きよう

 無精卵のハンバーグ

 紫色に焦げ目をつけて フォークで突いて粉々に

 目玉がいうよ もう終わり

 背中の羽根が 今日は重い

 溜息吐いて 粉々に

 なんでもかんでも 粉々に

 くるよくるよ くる くるよ!

 リズムにのって 粉々に

 もっと右下さ!

 ヤツが吼えたね

 もちろん 知ったこじゃないけどね

 

 下向きな感じで躓いて

 左向きな感じで告白を

 ネジ巻き鳥を籠に詰め 紫色で出かけよう

 

     『ピュア』

 

 ピンクの髪の少女がいった。

「だれかのものになりたいの」

 蒼い首の少女がいった。

「わたしはわたしじゃないかもね」

 金の瞳の少年は、

「よわさはいらない。じゃまだから」

 いい残して旅だった。

 

 彼らは弱く脆いもの

 

     『Z・001』

 

  少女は「うーん」と顎に指を添えて視線を泳がせ、少し考える様な仕草をした。その仕草を、彼女は子供っぽいと感じたが、それと同時にかわいらしい少女には似合っているとも感じた。

「…そうですね。『存在は思考によって構築され、言葉によって定義される』って云っていた作家がいました」

「…どういうこと…かしら?」

「言葉遊びだと思います。ここで云われている『存在』とは、『固定化された概念と現存する全ての事象』のことだと思うんです。

 それが『思考』によって『構築』されるとは、有名なデカルトの言葉『我思う。故に我在り』ってにも通じていて、考えることができる以上、それは『形』をもっていると云うことだと解釈できます。そして『言葉』にすることで、『存在』は『生み出される』。

 要するにですね。

 『自分以外の不特定多数にも理解される可能性』をもつ様になるってことで、それによって『見えなかった形』が『見える』様になり、存在は『存在』することを確定して…って…あの、どうかしました?」

 ポカンとした彼女の顔をのぞき込み、

「…あたしの説明、解りにくいですか?」

 少女は少し不安げな顔でいった。

 

     『Z・000』

 

 〈彼〉は知っていた。

 自分の全てが『終わった』ことを知っていた。

 でも、まだだ。まだ『時間』はある。もう少し…あと一瞬、そして刹那。〈彼〉の『時間』は残っている。

 『門』を越え、『もう一つの世界』へ『もう一つの希望』へ、〈彼〉は辿り着かなくてはならなかった。

 それだけが、〈彼〉に残された『可能性』だからだ。

 〈彼〉は跳んだ。刹那を一瞬に換え、一瞬を握りしめ、〈彼〉は『可能性』へと跳んだ。

 

 そして〈彼〉は、その『場所』で完全に『終わった』…。

 

     『Z・006』

 

 少し、イタズラが過ぎたかもしれない。

 彼女はくすり…笑いを漏らすと脚を止め、自分を追いかけてくる新しい友達を待つことにした。

 

     『現実』

 

 あの娘が自殺したのは、高校の卒業式の日だった。

 大量の睡眠薬を飲んで、あの子は永遠の眠りについた。

 あれから15年が経ち、わたしは人並みに結婚して娘も産まれた。かけがえのない家族、わたしたちの家庭。

 涙が出そう…。

 あまりにも幸せなの。優しい夫、可愛くて仕方のない娘。

 わたしに、こんな幸せを得る資格があるの?

 あたしは、あの子をイジメていたのに…。

 あの子は、わたしが殺した。遺書は無かったけど、きっとあの子はわたしのイジメを苦にして自殺したんだ。

 どうしてわたしは、あんな事をしたの? 彼の死は、あの子のせいじゃなかったのに…。

 後悔している。

 わたしは愚か者だ。

 もし、あゆりがイジメにあい自殺したら…。

 わたしはきっと許さない、イジメた奴を殺してやる。あゆりはわたしよりも大切な、わたしたちの子供だ。あゆりより大切な存在なんて、この世にない。

 あの子のご両親だって、わたしと同じだったはず。

 なのに、わたしを責めるのはわたしだけ。こんな事が許されるはずがない。

 この世は幸福に満ちながら、矛盾で形成されているの?

 わたしは、今、幸せ。これに間違いはない。

 じゃあ…あの子は幸せだったの?

 わたしは考える。答えの得られない問題を、多分永遠に考え続けるのだろう…。

 

 わたしが、あの子をイジメていた頃。あの頃は、意味も無く活気に満ちていたように思う。

 本当はそんな事無かったのだろうけど、世界を満たす雰囲気を感じ取れる程わたしは大人ではなかったし、大人になった今でもそんな事は分からない。

 日本は未だ大統領制ではなく、アメリカが世界有数の大国で、中国も存在していた。そんな時代を生きていたなんて、ほんの十年前の事なのに、まるで物語りのように現実味がない。

 現在は過去と連続している。でも、未来は現在とは連続していない。だから、過去と未来は繋がってはいない。

 その境界線は、どこで引かれるの?

 過去と現在。現在と未来。

 今は…なに?

 現在? 過去? それとも…未来?

 あの頃は過去だ。それだけは、理解していなければならない。

 過去の世界は緑葉のように力強く、硝子のように脆かった。

 そしてわたしは…笑いたくなるほど、バカだった。

 

 『好き』という感情は、どこで創られるのだろう?

 恋と愛は違う。でも、どちらも『好き』という感情だ。それはどこで創られるの?

 『好き』と『愛』はイーコール。『恋』は『愛』の小集合。

 でも、これは嘘。

 これはわたしだけが、曖昧な事を無理やり納得しようと考えただけの答えだから。

 曖昧。矛盾。ハッキリしない。

 気持ち悪い。

 わたしみたいだ。

 あの時も、理由もなくわたしは彼を好きになった。違う、理由は在った。彼が綺麗だったからだ。彼は、とても綺麗だった。

 女のわたしが嫉妬もできないほど、美しかった。

 だから好きになった。

 好きだから、わたしのモノにしたかった。

 でも、本当にそうだったの? 本当に彼が好きだったの?

 今になっては解らない。

 そんな薄っぺらな想いだったくせに、わたしはあの子に嫉妬した。彼が選んだあの子に。

 そして許せなかった。あの子に負けた自分が。

 彼が事故で死んだ時、それがあの子のせいだと感じた。彼が死んだのは、あの子のせいだと。

 −だからイジメた−

 だからイジメたの?

 −そうよ−

 そうなの?

 馬鹿なわたし…それは許される事じゃなかったのよ。今も許されていないのよ。

 時間は罪を風化させはしない。劣化したような、そんな錯覚を埋め込まれるだけ。他人が忘れてしまうから、自分も忘れていいのだと誘惑しているだけ…。

 それに甘えてはいけない。

 わたしは人間だから、あゆりの母親だから甘えられない。

 

「お前も人殺しの仲間だッ!」

「傍聴人を退廷させなさい」

 テレビが裁判所の様子をリアルタイムで映している。裁判の様子がテレビで放映されるようになって、もうどのくらい経ったのだろう。

 最近では、娯楽番組かのように無神経に垂流されている。

 悪趣味だ。わたしはテレビを消した。

 手が震えている。

『お前も人殺しの仲間だッ!』

 わたしは…人殺しだ。

 愛する者を理不尽に奪われる苦しみ。

 想像はできる(ただの思い込み)かもしれないけど。事実わたしは、愛する人たちを理不尽に奪われたことはない。

 それは、幸せなこと。

 幸せなこと?

 あの子を、死に追いやったのに?

 わたしは、幸せでいる権利が在るの?

 そろそろ、あゆりが小学校から帰ってくる時間だ。こんな顔は見せられない。

 わたしは洗面所で顔を洗った。

 冷たい、水。

 透明。

 透き通っている。

 純粋。

 あゆり。

 あゆり、あゆり、あゆり!

 涙が止まらない。

 わたしは、こんなにも幸せで、とても不幸だ。

 これは、自分が選んだ現実。自分が仕出かした罪への、罰。

 わたしは…もう一度、顔を洗った。

 


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