満月に凍える声

 

 

     『砂糖時計』

 

 白濁する息は闇夜に映え 凍えた指先と心は紅くあかく

 ふと視る足元に転がる 言葉なき夢

 臙脂色の溜息を零す

 

 嗚呼 停止した砂糖時計のように

 

 降り積もる雪は月光に映え 凍えた爪先と心は白くしろく

 ふと視る月星に属する 夢なき言葉

 琥珀色の石涙を零す

 

 嗚呼 停止した砂糖時計のように

 

 嗚呼 まるで 停止した砂糖時計のように……

 

 

     『あやかし』

 

 隙間が在る 卵と地上の狭間に隙間が在る

 天女が残した仮初めは 足音すらなく逃げ出して

 まやかし まやかし まやかしと

 解き鳴く虫の不快さよ

 

 小麦の色の あやかしか

 

 

     『不浄の氷』

 

 凍てつく涙は影に堕ち

 囁く声は不浄の音色

 虹は砕けて砕けて散った

 紡ぐ紅糸は何処へと

 

 

     『刻 −トキ−』

 

 嗚呼、このまま狂えてしまえるならば

 それはなんとも救いとなることだろう

 なにもかもを投げ出して、ただ、狂気に触れてしまえるならば

 

 無限と連なる、刻の牢獄

 伸びし髪は星をも砕く

 

 

     『約束 −ウラギリ−』

 

 ふと脚を踏み出したこの路は

 きっと、後悔へと繋がっている

 だけどこれしか路はない

 路の先には鏤骨の裏切り

 だけどここしか路はない

 

 立ち止まることは許されない

 路があるなら、進むしかない

 

 ふと脚を踏み出したこの路は

 きっと、後悔へと繋がっている

 

 

     『雨と風の姉妹』

 

 雨と風は姉妹神

 慈愛と試練と共に在る

 やがてみつかる壊れ物

 雨は優しく手を伸ばし

 風は微笑み手を伸ばす

 

 そして嵐は全てを壊す

 

 

     『月と太陽と花』

 

 月は愚かだ。海中に沈み、翼魚を連れ天に還った。

 太陽は王だ。罪で汚れた翼魚を、錫杖をもって打ち付けた。

 

「ベンド・ゲア。ベンド・ゲア、アダンクス」

 

 翼魚は嘆いたけれど、王はシラムをペクダした。

 愚者は一粒涙を零し、翼魚の罪を口にした。

 

「ラララル・ラル・ララ」

 

 翼花は翼魚の罪の影。

 月は流転に瞳を閉ざし、太陽王に恨みを零す。

 無限に伸びるその髪が、白海面に届くまで。

 

 

     『哀しい雪の吐息』

 

 慈愛をもって語りましょう。

 哀しみを奪って降りましょう。

 哀しみと共に溶けましょう。

 笑ってください。

 請い願って積もりましょう。

 

 

     『回廊 〜紅い祭壇〜』

 

 四隅に落ちた〈欠片〉を拾い、回廊を真っ直ぐに進んで、七つ目の階段を昇り、三つ目の祭壇に〈欠片〉を捧げよ。

 一面に咲き誇る翼花の香りが、海鳥を殺すことだろう。

 

 

     『夜想曲』

 

 月下に咲く華

 少年の小さな喜びを咲かせる

 光琳

 舞い散る〈欠片〉の如く

 少年は

 小さな喜びの華を咲かせる

 

 月下に閉じる華

 少女の小さな溜息を消す

 鈴音

 砕け散る〈欠片〉の如く

 少女は

 小さな溜息で華を躙る

 

 夜想曲

 

 癒されることなき寂しさは

 消えることなき月光の白

 

 

     『序曲 −花園は月光の下−』

 

 凛々 凛々

 白い花が奏でる玲瓏

 

 深々 深々

 紅い雪が積み重ねる冷牢

 

 花園は月光の下にありて

 少女は……

 

 

     『終曲 −月光は海面の上−』

 

 昇りたい

 還りたい

 願うだけでは叶わない

 

 砕かれた骨肉は既に溶け

 記憶だけが由良っている

 

 還りたい

 昇りたい

 なくした手足を伸ばしてみても

 

 やはりそこにはなにもない

 

 

     『審音 −シンオン−』

 

 これが罪であるならば

 わたしは望んで罪人となろう

 いつか罰を受けるなら

 歓んでそれを受け入れよう

 

 だから今は 血潮に染まるこの腕を

 愛しきあなたへと捧げよう

 

 

     『心音 −シンオン−』

 

 これが罪であるならば

 わたしは望んで罪人となろう

 いつか罰を受けるなら

 歓んでそれを受け入れよう

 

 だから今は 愛しきあなたが伸ばした腕を

 血潮に染まるその腕を

 わたしの心へ導こう

 

 

     『來事 −らいず−』

 

 美しきカタチ

 哀しきカタチ

 尊きスガタ

 麗しきスガタ

 あなたが零す ナミダのカタチ……

 

 全てを箱にしまい込み

 全てを瞳に灼き付けて

 最初の言葉を捧げます

 

 

     『来図 −らいず−』

 

 かつて望んだ未来

 多分

 今、この時が、かつてあなたが望んだ未来

 

 だから

 最後の言葉を捧げます

 

「また、あいましょう」

 

 

     『刻は流れ、過去は壊れて』

 

 凍らせた華を砕きますか?

 凛

 と音色を響かせて

 華は砕けることでしょう

 

 凍らせた心を解かしますか?

 憐

 と音色を響かせて

 心は解けることでしょう

 

 凍らせたあなたをどうしますか?

 砕いたところでなにもなく

 解かしたところでなにもなく

 やがて刻が満ちたなら

 零

 と無音でなにもなく

 あなたは生まれることでしょう

 

 

     『満月に凍える声』

 

 あなたは、あなたの世界の王

 

 

     『新月に生まれる夢』

 

 あなたはわたしの命の〈欠片〉

 わたしはあなたの命の〈欠片〉

 ありがとう

 愛おしいあなた

 ありがとう

 わたしを育み

 そしてこの子に命を授けてくださった

 世界の全て

 

 あなたはわたしの命の〈欠片〉

 わたしはあなたの命の〈欠片〉

 

 ありがとう

 

 あなたはわたしの

 命の〈欠片〉

 

 

     「ぽえ?」終記

 

 愛の中の闇。闇の中の愛。

 生まれ育まれる命と、生み、育む命。

 神話と現実。流転と停滞。

 矛盾を許容する強さと、矛盾を認めてしまう弱さ……。

 そういったものをごちゃ混ぜにして、この「ぽえ?」を書きました。

 「ぽえ?」をココロの中に溶かしてくださった方が、少しでも「ココロの中に善い何か」を感じてくださり、「それ」を認識して頂けたのでしたら、言葉を紡いで「記号」を作った者として、これに勝る歓びはありません。

 

 ……と、まぁ、そんな感じです。

 じゃあ、またいつかです。

 


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