「みなこ」 (はぁ……き、気持ちわるいよぉ〜) ベッドに横になり、今月二度目の病欠で学校を休んでしまったみなこは、昨夜から続いている発熱と一時間ほど前に無理して採った朝食(卵入りのお粥)のせいか、頭はクラクラ、胃はムカムカ状態で、はっきりいって体調は最悪だった。 (やっぱり、おかゆ食べなければよかった……) みなこは生まれつき病弱で、そのため小学校も休みがちになってしまう。昨年、三年生のときは多少ましだったが、四年生になってから、また学校を病欠することが多くなっている。 両親は仕事に出てしまっていて、兄も学校にいってしまった。今、家にいるのは、彼女一人だけだ。 一人きりの家は静かで、自分一人が家族から取り残されたかのようにも感じてしまう。優しい家族が、自分を見捨てるはずなんかないのに……。 両親は仕事で家を出る直前まで、みなこの身体を気遣ってくれた。そして、彼女の大好きな五歳年上の兄は、 「お兄ちゃん、学校終わったらすぐ帰ってくるからな」 といって、優しく頭をなでてくれた。 (ダメだなぁ……あたしって) 病弱に生まれついたのは自分のせいではない。だがみなこは、 (パパもママも、それにお兄ちゃんも元気なのに、あたしだけ病気してばっかり……あたし、パパにもママにもお兄ちゃんにも、心配かけさせてばっかりだ……) そんなことを思ってしまう。 家族の誰も、みなこのことを心配はしても、彼女が病弱であることを責めたりはしない。責められるのなら、家族に怒りをぶつけることもできるのかもしれないが、心配されてしまうと、みなこは自分を責めるしかなかった。 そう。自分は家族に心配ばかりかけさせている、ダメな子だ……と。 みなこは嘔吐感を堪えながら、ひとつ寝返りをうった。 ☆ みなこの嘔吐感は、秒単位で増していった。それに加え、嘔吐感と同調するかのように、汁気たっぷりな便意が彼女を襲撃してきてもいた。 (もう……ダメっ) これ以上は耐えられない。ベッドから抜け出したみなこは、発熱でふらつく身体をもてあましながらも、今にも噴出してしまいような便意と嘔吐感には勝てず、トイレへと向かって自分の部屋を後にした。 みなこの部屋は二階にあり、そして、トイレがあるのは一階だ。便座に腰を下ろすために彼女は、まず一階に下りなければならない。普段ならどうということもない移動距離なのだが、今のみなこにとってそれはとても遠く感じられた。 「うぅ……っ!」 一歩進むごとに肛門が決壊してしまいそうになり、歩を進めるたびにみなこは立ち止まってしまう。これだと、トイレに着くまでにどれだけ時間がかかるかわからない。もたもたしていると、想像するのもイヤだが、漏らしてしまうかもしれない。 焦るみなこ。 が、思うように脚は進んでくれない。 やっとのことで階段に到着。だが、これが試練だった。一段下るごとにその振動で、ギュッと肛門括約筋を引き締めないと漏れてしまいそうだった。 発熱による汗とは別に、みなこの額から油汗が浮き出て、その汗が彼女のつるつるおでこに前髪を張りつける。 (もう……ちょっと、もうちょっとのガマンだから……) 一段一段、慎重に階段を下るみなこ。彼女の顔は発熱しているとは思えないほど蒼白で、唇は紫色ががってきていた。 いつの間にか嘔吐感よりも、便意の方が勢力を増して彼女を襲っている。 (トイレ……ト、トイレ……) みなこの短い人生の中で、トイレに入り便器に座って排便することを、これほど切望したことはあっただろうか。 そう思えるほどにみなこは、今はただ、トイレを求めていた。 みなこがやっとのことで階段の最後の一段を下り、そこから二歩進むと、右手前方五メートルの位置に、ついにトイレのドアがみえた。 (や、やっとトイレだ……) と、少し気をゆるめてしまった、その瞬間。 ぷぴゅっ 湿った音と一緒に、みなこはお尻の谷間に湿った温もりを感じた。感じたのは温もりだったが、その温もりに彼女はゾッとした。 認めたくない。認めたくはないが、しかし、この温もりは……。 (も、もらしちゃった!?) 四年生にもなってウンチをお漏らしだなんて、みなこは恥ずかしくて思わず泣きそうになってしまった。 だが、彼女は、 (す……少しだったら、だいじょうぶ) なにを根拠にしてかそう考えると、もう目前にまで到達したトイレへと駆けこむため、大きく一歩、脚を進めた。 ……しかし、その一歩が致命傷となってしまった。 ぷっ、ぶぴゅっ 足の裏が廊下に到達する前に、小さな放屁音と汁のようなものが飛び出す音が肛門から響き、足の裏が廊下と密着するのとほぼ同時に、 ぶびいいぃいぃーっ! ぶっ、ぶぴゅっ! びちゃしゃちゃちゃっ! ぶぴいぃ〜……ブビブビビィーっ! 激しい噴出音を響かせて、ついに肛門が決壊してしまった。 みるみる間に、ショーツで塞き止めきれなかった液便がホワイトピンクのパジャマのズボンをグッショリと濡らし、パンツとパジャマのズボンでこされたウンチ汁が、ピチャピチャと音を立てて廊下へと滴り落ちる。 むわっ……と、下半身を蒸らす濡れた温もり。そして、圧倒的な便臭。その便臭は、どこか甘い匂いを含んでいるかのようにも思えたが、とはいえやはり便臭でしかなく、彼女にとっては不快なものでしかなかった。 みなこは、その温もりと異臭に頭の中を真っ白にされ、 びちゃっ その場にお尻から座りこんでしまった。 ショーツに被われたお尻は、軟便……というよりは液便の温もりに満たされ、ビチャビチャにゅちゃにゅちゃして気持ちが悪い。 しかしそれを汚いと思う余裕もなく、汚いと思うより先に、自分の便臭を吸いこんだみなこの胃が急激に激しい痙攣を始め、彼女の口腔内に唾液が溢れてきた。 「ウっ……ぐッ!」 ビクッ! ビクビクッ! 胃が何度も痙攣し、内容物を咽から逆流させて排出しようと足掻く。すでにみなこの口腔内には、唾液の他に胃液の酸っぱいような苦いような味が拡がり、そのおぞましい味が媒体となって、堪えきれない嘔吐感が彼女を襲った。 と、 「ウぐゥッ! ぐっ……ゴボォッ」 みなこは咄嗟に、手の平で口を押さえたが、それはさほど意味のある行動ではなかった。 彼女の口と手の平の隙間からは大量の吐瀉物が、パジャマで隠されたほんのかすかに脹らみをみせ始めたばかりの胸元に大量に滴り落ち、そこから伝って下半身と廊下をも汚していく。 その間にもお尻は、プピぷぴゅっ……と湿った音色を奏で、彼女のお尻に張りつく軟便の量を増やし、液便を滴らせた。それに、自分が吐瀉、排泄したものとはいえ、それら臭気は凄まじく不快なもので、臭いという名の凶器……とも呼べるほどだ。 (く、くさい……っ!) 排泄物のそれよりも、ダイレクトに鼻腔を刺激してくるからだろうか、吐瀉物のすえた臭いの方がみなこには辛い。口からは嘔吐。肛門からは排便。瞳からは涙が零れ、鼻腔からは鼻水が垂れ、彼女の愛らしい顔を濡らしている。 臭い。頭がクラクラする。気持ち……悪い。 (あっ……ぅあぁ……) 言葉にならない不快感。息ができない。いや、したくない。 呼吸を一時中断するみなこ。と、貧血だろうか、急速に目の前が暗くなり、その闇が彼女の意識を奪い取っていった。 そして、 クラっ みなこは脱力したように身体を一度揺らすと、 びちゃっ……! 前のめりで自分が吐瀉した嘔吐物に横顔を浸すようにして倒れこみ、そのまま、気を失ってしまった……。 ☆ 「ぅ……うぅ」 みなこが、嘔吐物に顔を浸したまま目を覚ましたのは、気絶してから二時間ほどが経過してからだった。すでに嘔吐物は乾き始めていて、ゲル状になっている。 いや、嘔吐物だけではなく、ショーツやパジャマの中の排泄物も乾き始めていて、それらが下半身全体にこびりついていた。 座りこんだまま、上半身を持ち上げるみなこ。嘔吐物と密着した頬を上げると、嘔吐物と頬の間に幾本もの糸が生まれ、やがてそれらはプチンっ……と弾けて消えたが、彼女の頬にはニチャリとしたイヤな感触が残り、ツン……と、胃液臭が鼻腔を刺激してきた。 「ひっ……く」 汚れた顔を歪め、嫌悪感と情けなさに涙を流し始めるみなこ。 「ひっ……えっ、えぐっ……うっ、うぅ……ぐすんっ」 ……とはいえ、泣いていても仕方がない。みなこは泣きながらも立ち上がり、その場で着ているものを脱いで全裸になると、自分が汚してしまった場所を掃除するために、タオルと洗面器を取りにお風呂場へと向かった。 頬にこびりついた嘔吐物。お尻にはウンチがベッチョリで、おしっこをする場所までウンチまみれ。細長い脚は、指まで変な色に染まっている。 とてもではないが、こんな恥ずかしくて汚いこと、家族に知られるわけにはいかない。誰かが帰ってくる前に掃除して、汚れた衣類を洗濯して乾燥機にかけ、もと通りに着ておかなければならない。 皮肉にも、気絶から目覚めたみなこの体調はよくなっていて、彼女はそういったことを冷静に考えることができた。 しかし、彼女がお風呂でシャワーを浴びて身体を清め、全裸姿でタオルと洗面器を持って汚物まみれの場所に帰ってくると、自分が撒き散らした汚物を不思議なものをみるような顔で見下ろしている、テスト前ということでいつもより早く学校から帰った兄と鉢合わせてしまうなどということまでは、このときのみなこは想像もしていなかった……。 |