さいしょに このお話は、スカというよりはグロです。 ゴキちゃんとか出てきます。それもメインで。 ですので、「虫きらぁ〜い」……な方にはおすすめできませんし、「うっわ、エロッ!」ともならないと思います。 書いている本人も、エロというよりはグロという意識で書きましたので、そのへんをご理解して頂いたうえで、「読んでみようかな?」と思ってくださる方だけ読んでくださると嬉しいです。 「みかん」 紅いランドセルを背負った少女が、ひとり、校門を潜り抜けて外に出てきた。その歩調にあわせ、ゴム紐によって左右で縛られた髪が、ウサギの耳のようにぴょんぴょんと跳ねる。 みたところ、小学三年生ほど。身長は130cmあるかないかで、幼い愛らしさ全開の美少女だ。 もしこの様子をみる者がみていれば、彼女が違法な地下ディスク界のロリータ女優、「紅衣みかん(あかい みかん)」であることがわかっただろう。 紅衣みかん。 彼女のデビュー作が地下で流通し始めたのは、三ヶ月ほど前。そのタイトルは「みかんなミカン」といい意味不明なものだが、内容はハードなスカトロものだった。 デビュー作から、放尿、脱糞、飲尿、食糞、塗糞を披露し、男優との絡みはいっさいないものの、そこには汚物と戯れる愛らしい少女(というか幼女)の姿が、克明に記録されていた。 とても汚物と戯れるようにはみえない、むじゃきな雰囲気の美少女。しかし、デビュー作から一ヶ月後に発売された、二作目の「みかんをおべんじょにしてください」でも、彼女はデビュー作を超えるハードな「演技」を披露し、たった二作品でスカトロロリータ女優の地位を確実なものとしたといっていいだろう。 そして今日は、みかんにとって三作目の作品となる新作の撮影日。 最新作のタイトルは、「ごきぶり姫」だ。タイトル通り、ゴキブリを扱った作品になるらしい。 今回の撮影にあたり、彼女は虫喰いの訓練もしてきている。ウジ虫だろうがミミズだろうが、もちろん今回扱われるゴキブリだろうが、生きたまま躍り喰いできるほどだ。 新作の制作が決定してからの二週間。みかんはゴキブリを炊き込んだご飯を食べ、ゴキブリを具にしたみそ汁を啜り、ゴキブリ喰いを完全なものとしてきた。 もちろんそれだけではない。性器に、アナルにゴキブリを詰め込むこともできるようになっている。 (今日もがんばろっ! パパに、よくがんばったてほめてもらうんだっ) 以前は、唯一の家族である父に殴られたり蹴られたり、そして性的に虐待され続けていたが、「女優」になってからは少なくとも殴られたり蹴られたりはなくなったし、これまでの二度の撮影のあとには、「えらいぞ、よくがんばったな」……とほめてもらえた。そしてレストランで、父と一緒に食事もした。 父との外食。それは彼女にとって、生まれて始めての嬉しい経験だった。 父に対して、「優しくしてもらいたいけど、自分はダメな子だから優しくしてもらえない」……と思い続けていた彼女は、「汚いこと」をしてそれを「撮影」されることで「パパがほめてくれて、優しくしてくれる」ということが、とても嬉しかった。 糞尿を口にすることも、身体中に塗ることも臭くて汚いと思うが、それでも「パパがほめてくれて、優しくしてくれる」という嬉しさに比べれば、どうということはない。 今回の撮影が決まり、虫を食べる練習をするのには抵抗があったが、父が作ったくれた虫料理だったから食べたし、残さず食べれば父が頭をなでてくれた。 (あたしがんばるね、パパっ!) 今日の撮影現場に父はきてくれないそうだが、それでも彼女は「がんばろう」と心に誓った。 (あたし、いい子になるから。ちゃんとするから。だからパパ、おわったらほめてね。いい子だっていってね) 彼女は日常での「自分」を脱ぎ捨て、スカトロロリータ女優「紅衣みかん」となって歩調を進めた。 ☆ 電車に乗り、いわれていた駅につくと、顔見知りの撮影スタッフが迎えにきてくれていた。 「おはようございます」 ペコリと頭を下げるみかん。どうしてかはわからないが、「撮影」のときは朝でも夜でも挨拶は「おはようございます」なのだそうだ。 「おはよう、みかんちゃん」 撮影スタッフが運転する車に乗り、撮影現場へ移動。 「みかんちゃん、ちゃんと虫さんは平気になってる?」 スタッフの問いに、 「は、はい。へーきです」 答えるみかん。 「ゴキブリさん、ちゃんと食べられる?」 「はい。たべられます」 「いっぱいだよ?」 「が、がんばります。おなかいっぱいになるまで、ゴキブリさんたべますっ」 真剣な口調で答えるみかんに、スタッフが車を運転しながら肯きを返す。 「がんばり……ますから。あたし、ちゃんとしますから」 独白。自らにいい聞かせるように、みかんはいった。 撮影現場は、広い倉庫だった。倉庫の中には、今回使用する真っ白なセットが組まれている。背景も、シーツが敷き詰められた床も白で、小道具として置かれている円形のテーブルも白だ。 みかんはまず、「カントクさん」に「おはようございます。よろしくおねがいします」と挨拶し、次いで七人いたスタッフ全員にも挨拶をする。 スタッフは全員男で、カントクさんが一番若くみえる。みかんには「大人の人の年齢」がよくわからないが、カントクさんは二十代前半。下手をすれば、十代にもみえた。 (このひとたちは、あたしをパパにほめてもらえるあたしにしてくれる、とてもしんせつでやさしいひとたち。このひとたちがいなかったら、あたしはダメな子のまま、パパにしかられてばかりいるしかなかった) 自分にできることは、「親切で優しい人たち」のいうことを聞き、いわれた通りにすることだけだ。これまで二回そうしてきて、二回とも父は彼女をほめてくれた。 (あたしは、いわれたとおりにすればいい。いわれたとおりにしなきゃいけない) 決意を新たにするみかん。と、「イショウさん」が彼女に声をかけてきた。 みかんは、この人がいう服を着て撮影する……ということを理解していて、「イショウさん」が、 「パンツも脱いで、これを着て」 といって渡してきた、カットソーのワンピースに着替える。 そのワンピースはフリル素材で、スカート部分がフワフワとした作りになっていた。ワンピースというよりはドレスのようにもみえる。 着替えを終えたみかんを椅子に座らせ、ゴム紐で纏められていた髪を、同じように白いリボンで二つ結びにするイショウさん。 撮影衣装を完全をにたみかんは、渡された台本を読む。難しい漢字には、手書きでふりがながふられていた。きっと、スタッフの誰かがふってくれたのだろう。 (さいしょはウンチをたべるんだぁ……がんばろう。それから自分でウンチして、それもたべてから、おしりにゴキブリさんいれて、ごきちゃんうんち? えっと……セリフは、「みかん、ごきちゃんうんちしまぁ〜す。いっぱいでるかなぁ? ごきちゃんうんち。たのしみっ」……か。うん、いっぱいだそう。がんばろう) 真剣な顔で、台本に目を通すみかん。 (あっ……ごきちゃんうんちのあとは、ゴキブリさん100匹たべるのか。さいしょにウンチもたべるから、そんなにたべられるかなぁ……? でも、がんばろう) しばらくして、 「みかんちゃん、準備はいい?」 カントクさんがいう。みかんは台本から顔を上げ、 「はいっ!」 しっかりと返事を返した。 「うん。じゃ、始めようか」 こうして、撮影は始まった。 ☆ 白いセットの中央。円形テーブルの傍らに置かれた白い椅子に腰を下ろすみかん。テーブルの上には、糞便が盛られた大きなフルーツ皿が置かれている。 「いっただきまぁ〜す」 みかんはにっこりと微笑んで、嬉しそうに「セリフ」をいうと、くにゅちゃっ……糞便を手づかみで口へと運ぶ。 そしてくちゃくちゃと音を立て、食糞に勤しむみかん。ときおりカメラに向かって、ウンチでいっぱいの口を開けてみせる。白いはずの歯は糞色に染まり、糞が溶けた唾液が口角から零れ、顎を伝い落ちて白い衣装の胸元を汚す。 くちゃ、にゅちゅ……ちゅっ、にちゅっ (これ、生ウンチじゃないや) どうやらこの糞便は、加熱殺菌されているようだ。生の味ではない。彼女にはわかった。 生糞をたくさん食べるとお腹が痛くなり、ひどいときには発熱してしまうことを経験からしっているみかんは、加熱殺菌されていたことに感謝しながら食べた。 みかんは貪るように糞便を食べ、やがてフルーツ皿が空になると、 「……なくなっちゃったぁ」 物足りなさそうにつぶやき、 「そうだ! みかんのウンチたべよっ」 テーブルの上に乗る。 (お皿のウンチをぜんぶたべたら、テーブルの上でお皿にウンチ) そう台本に書いてあった。 フルーツ皿の上に、みかんは中腰でしゃがみこむ。服のスカート部分をたくし上げ、小さなお尻を丸出しにすると、 ムチっ……ムチみちむちちぃ〜 フルーツ皿の中に排便した。 アナルを円らに押し拡げ、褐色の一本糞がフルーツ皿に盛られていく。 (ウンチためてきてよかったぁ) 指示されていたわけではなかったが、撮影のときはいつもウンチをしているので、彼女は五日ほど便を溜めてきていた。 ムチムチみちみちと排便するみかん。 ミチっ……ぶっ! びぷブぷぅっ 放屁音を最後に排便が終わる。みかんはお尻の底に糞粕をつけたままテーブルを降り、椅子に戻ると、 「おいしそ〜」 排便したばかりのまだ温かいウンチを、先ほどと同じようにして頬張った。 (自分のウンチは、やっぱりヤだなぁ……。でも、がんばってたべなきゃ) みかんはどちらかといえば、他人の糞便のほうが食べやすい。自分のは、どうしても「汚い」と思ってしまう。 しかし、 (がんばって、パパにほめてもらんだっ) そう思うと、「汚い」自分の糞便でも、「美味しそう」に食べることができた。 食糞が終わると、少し休憩。みかんは口もとを糞色で染めたまま、セットから離れてパイプ椅子に座るようにいわれた。 なにらや忙しく動くスタッフたちを眺める彼女は、自分の生糞を食べたためか、胸にムカムカを感じていた。最初フルーツ皿に盛られていた、誰のモノともわからない糞便は「熱殺菌」されていたようだが、自分で出したモノは生のままだ。 (ちょっと、きもちわるい……。ゴキブリさん、ちゃんとたべられるかなぁ……?) 少し不安だ。 食糞を終えたとはいえ、今回の作品のメインはゴキブリである。今回の撮影には、ゴキブリを生きたまま百匹食べるというシーンも予定されていて、台本を読んだ彼女もそれは理解していた。 「みかんちゃん、セットに上がって」 スタッフのひとりがいう。 「あっ、はい」 セットに上がり、カントクさんの指示に従い、みかんはクッションを抱いてうつ伏せ立て膝で、スカート部分からお尻を出して突き上げる。 と、白い手袋をはめたスタッフが彼女のお尻の底にクスコを刺し、小さなアナルを拡げた。しかしカメラのフレームには、白い手袋をした手しか映っていない。 (お尻のなかがスースーする) ポッカリと開いたアナル。そこに、白い手袋をはめたスタッフが、ガサガサと脚を動かすゴキブリをねじ込んでいく。 (イタっ! ひっ、ひぅッ) ゴキブリをお尻の中に詰めるのは練習してきていたが、練習したゴキブリより撮影で使われるゴキブリのほうが大きい。ささくれ立った脚が、彼女の腸内を傷つける。 と、腸内に十匹のゴキブリが詰め込まれたそのとき。 「イッ、イタッ!」 お腹の奥にズキッ! とした痛みが走り、思わず彼女は声を出してしまった。 「カット」 その声に、一端撮影を止めるカントクさん。 「ダメだよ、みかんちゃん。痛いなんていっちゃ」 「ご、ごめんなさいっ」 正直、ガマンできない痛さだ。痛みで、つい涙が零れてしまう。撮影では泣いてはいけない。いつも笑って、楽しそうにしていなければならない。父にそう教えられているのに……。 (が、がんばらなきゃ! ないてなんかいられないよっ) もし撮影が「失敗」したりでもしたら、父に嫌われてしまうだろう。 (いやっ! そんなのいやッ) みかんは懸命に涙堪え、痛みに耐えた。 計十八匹。腸内にゴキブリを詰め込まれたみかんのアナルから、クスコが抜かれる。 (で、でちゃうっ!) すぐにでも「ごきちゃんうんち」が飛び出してしまいそうだが、出すのはまだ先だ。 みかんはひっくり返り、股を開いて股間を露わにする。と今度は、その小さな性器にゴキブリが押し込まれた。 一匹、二匹……。 生きたままのゴキブリが、ヴァギナにねじ込まれる。三匹目が入れられたとき、みかんには、自分の子宮口にゴキブリが触れてきたのがわかった。 全部で七匹入れられた。七匹目はワレメから上半身を除かせ、カサカサと外に出た脚を、触覚を蠢かせている。 みかんにゴキブリを詰め込んだスタッフがセットを下り、次はみかんの演技だ。 「くすっ……かわいっ」 と、自分の性器で蠢くゴキブリの頭を、指でなでる。しばらくの間、ゴキブリと戯れるみかんの姿を、カメラが納めていく。 そして、 「じゃあ、みかんちゃん。ごきちゃんうんちして」 カントクさんの指示。みかんは「はい」と肯き、 「みかん、ごきちゃんうんちしまぁ〜す。いっぱいでるかなぁ? ごきちゃんうんち。たのしみっ」 台本に書いてあった通りのセリフをいって、台本に書いてあった通りに四つん這いになり、カメラにお尻を向けた。 お尻を、スリットを露わにする少女。しかしそのスリットからは、生きたままのゴキブリが半分覗いている。 (ごきちゃんうんち……がんばろう) ブッ……ビブッ! 大きな音とともに噴出された「それ」は、「ごきちゃんうんち」なんていえるものではなく、潰れ、砕かれた、十数匹のゴキブリの死骸だった。 アナルから白いシーツに吐き出される、崩れたゴキブリの死骸。 腸液なのかゴキブリの体液なのか判別がつかない「なにか」で滑り、潰れていても「かつてゴキブリだったもの」にしかみえない。 みかんのお尻の底には、ゴキブリの残骸がこびりつき、脚が、羽根が、パーツの形を残したままで露わになっている。 それでもみかんは、異物感がなくならないのか、「うんうん」とうなりながら下腹部に力を入れ、「ごきちゃんうんち」を止めようとしない。 (まだ……まだゴキブリさん、お尻にはいってる) しかしどれほど気張っても、もうでない。 カントクさんの指示が跳ぶ。 「みかんちゃん、もういいから次にいって」 「……は、はい。ごめんなさい」 ちゃんとできなかった。思い彼女は陰鬱な気持ちになったが、そんなのを顔に出すわけにはいかない。まだ、撮影は続いているのだ。 みかんは気持ちを改めると、予定通りに次の演技へと移った。 (えっと……つぎは、ごきちゃんうんちをたべればいいんだったよね?) ゴキブリの残骸を手に取り、口へと運ぶ。 「おっいしぃ〜」 本当は苦くて、全然美味しくなどない。はっきりいって気持ち悪い。しかし台本には、「美味しい」というよう書かれていた。だから、「美味しい」といわなければならない。 みかんは、 (おいしい、ほんとにおいしいの) 自分にいい聞かせて、次々と「ごきちゃんうんち」を口に入れてはクチャクチャと噛み潰し、飲み込んでいった。 ☆ 20cm四方ほどの透明なケースの中で、百匹のゴキブリが蠢いている。みかんはこれを、全て食べなければならない。 ゴキブリを食べること自体は大丈夫だが、量が多くて食べきれるかどうかが不安だ。 (でも、たべなきゃ) ケースの上辺には、中に手を入れられる丸い穴が空いていて、ゴムの弁によってゴキブリが外に出ないようにされている。 彼女はその穴から手を入れ、ゴキブリをつかみ取ると、 ぱくっ……くちゃっ、パリっ、ぱきぱき 口に入れて噛み潰した。 口の中に拡がる、苦みと臭み。パリパリとした表面部分と、噛み潰したときのにちゃっとした内部の感触の違いが、なんともいえない「気味の悪い食感」を伝えてくる。 (た、たべるだっ! がんばって、ゴキブリさんたべるんだもんっ) しかし思った以上に時間がかかった。みかんが百匹のゴキブリを完食したのは、それから一時間後のことだった。 彼女の胃は、撮影の最初に食べた糞便と今食べ終わったばかりのゴキブリでいっぱいになり、ワンピースで隠されたお腹は、ぷっくりと脹れている。 (ウッ……! は、はいちゃいそう……) 気をしっかりもたないと、自分の意志に関係なく、胃の内容物が逆流してしまうそうだ。 「みかんちゃん、ちょっとまっててね。すぐにゲロゲロさせてあげるから」 カントクさんがいう。みかんに声を返す余裕はなく、小さく肯くだけで答えた。 (は、はやく。はやくしてくださいっ) 両手で口を塞ぎ、準備が整うのを待つ。ここで吐き出してしまっては、また食べなければならないだろう。 ビクッ! ビクビクッ 胃が、身体中が痙攣する。意識が刈り取られそうになる。 スタッフが床に大きな白い皿を置き、その皿に吐くようにいう。皿の側に移動するみかん。すぐさま、 「グボぉッ……! ゲボっ、ぐげげぇーッ」 噴出……というよりは噴射。小さな口から、咽を逆流した胃の内容物が飛び出し、跳び散る。みかんは嘔吐と同時に、おしっこも垂れ流していた。 おしっこはカントクさんに指示されておらず、台本にも書かれていないことだったが、それを気にする余裕はみかんになかった。 「ゲボぉッ、ゲッ、げごげごッ、ヴゲェーッ! ゲッ、ウゲエェッ」 苦しげにえづくみかん。なにかが咽に引っかかって、すごく痛い。涙と汚物色をした鼻水が自然と垂れ、みかんの愛らしい顔をグチャグチャに汚す。 糞便と潰れたゴキブリ。ゴキブリの中には、上半身だけになっていて、それでもまだピクピクと蠢いているものもいる。彼女によって咀嚼され、胃の中に納められても、まだ生きていたのだろう。 嘔吐物というよりは、糞便とゴキブリの残骸が混じり合った汚物。それが愛らしい少女の口から、次から次へと逆流してくる。 それはある種、「この世のものではない芸術」のようだった。 「ゲッ、ゲホゲボけほっ」 ドロリとした汁が、みかんの口から糸を引いて零れるのを最後に、嘔吐が終わる。大きな皿に溢れるほどの汚物。 口元といわず顔中をべっちょりと汚物で汚し、ほっぺたにゴキブリの羽根を張りつかせたみかんは、零れそうになる涙と嗚咽を懸命に堪え、それでもカメラに向かってにっこりと微笑んだ。 「はいオッケー。よかったよ、みかんちゃん」 カントクさんの言葉に、ふっと意識が遠のく。しかしこの後は服を脱いで、吐き出した汚物を使っての撮影だ。まだ気絶するわけにはいかない。 (が、がんばろう……。がんばって、パパに……ほめてもらうんだ……もん) この後、撮影は五時間以上も続き、「ごきぶり姫」で使われたゴキブリは三百匹を超えていた。 紅衣みかんは全部で十三本の作品を残し、推定年齢12歳で地下ディスク界から姿を消す。ファンの間では「死亡説」が有力視されているが、それもただの噂でしかない。 第三作「ごきぶり姫」は、発表された当時は「マニアック過ぎる」という評価も受けるが、後期のみかんの作品には「それ以上にムチャなもの」が多々あり、ファンの間で「こきぶり姫」は、「みかんの作品にしてはおとなしいもの」として認識されている。 |