『淫夢』

 

 道玄坂香苗(どうげんざか かなえ)は夢をみていた。

 夢の中で香苗は、『なにか奇妙なモノ』に犯されていた。『それ』は、無数の『腕』を持つ大きなナメクジの様なモノだった。

 男性器の様な形をしたナメクジの『腕』たちが、香苗の細身な裸体に巻きつき、粘液を垂らしてうねうねと蠢く。そしてそれらは、身体に巻きつくだけでなく、香苗の穴という穴に入り込んでいく。

 口から、性器から、排泄口から……香苗の体内に進入した『腕』たちが、香苗の内部を激しく陵辱する。

 自分の中に異物が進入してくる感覚に、香苗は歓喜の声をあげようとする。しかしそれは、口から進入してくる『腕』に阻まれて音にはならない。

 『腕』が身体中をうねうねと動いているのがわかる。お腹の中が掻き混ぜられる。

 それは、とても気持ちいい感触だった。

 身体が壊されている。自分が……壊れていく。

(なんて気持ちいいのおぉっ!)

 『腕』がお腹を突き破って外に顔をだし、それでもまだうねうねと蠢いて自己を主張する。

 ブチュッ! 皮が破れる。

 グチョッ! 肉が潰れる。

 グリッ! 目玉が奥から押される。

 バキッ! 骨が砕かれる。

 それら全てが、最高に気持ちがいい。

 香苗は、この快楽が永遠に続けばいいと思った。

 そして…目が醒めた。

 

 カーテン越しに朝の陽光が室内に入り込んできているが、目覚まし時計が香苗を起こすはずの時間までは、あと十五分程必要だった。

(……また……濡れているわ)

 香苗はショーツの染みを確認すると、ワンピースのパジャマ(ネグリジェとは違う)を脱いで濡れていないか確認した。

 幸運なことに、パジャマはまでは濡れていなかった。しかし、ショーツは換えなければならないだろう。

 香苗は腰に手を当て、ショーツを降ろす。股間とショーツとの間に液状の糸ができて、それはショーツを降ろすにつれてぷちッぷちッと切れた。

 香苗はティシュペーパーを引き抜き、丁寧に股間を拭う。そして濡れたショーツを「これ、どうしよう?」というふうな顔で眺め、少し考えてからビニールに包んでゴミ箱に捨てた。

 ショーツはまた買えばいい。香苗には、高い物でもないのだ。しかし、見る者が見ればわかっただろう。今無造作に捨てられたショーツはシルクで、最低でも一万円は下らない最高級品であったことが。

 香苗は裸のまま(初めからブラは着けていなかった)寝室の外へ出た。そしてバスルームでシャワーを浴び、シャンプーをしてからバスルールを出ると、バスタオルで髪を拭きながら衣服部屋に入った。

 タンスのショーツの棚から、先ほど捨てたショーツと似た様な、シルクのものを取り出し身に着ける。次にブラ、カッターシャツ、制服のスカート、ブレザーの順で着替えを終えると、最後に胸元を飾るリボンを着け、登校スタイルを完了させた。

 登校時間までまだ時間はある。髪を乾かせてセットし、少な目の朝食を採って、運転手が迎えに来るのを待つだけだ。充分に間に合う。

 道玄坂家当主、道玄坂香苗の一日は、今日もこうして始まる。

 

 道玄坂家といえば、この街一番の名家だ。

 そして道玄坂家の現当主は、どこか幼さを残す顔を持ち、躰は子供の時代を捨て大人のそれへと変わりつつあるが、その変化はまだ完全ではなく、『子供』か『大人』かと問われれば、十人中十人は『子供』だと答えるであろう容姿で、玲瓏な雰囲気を身に纏ってはいるが、『当主』などという肩書きを持っているとはとても信じられない様な、16歳の美しい少女である。

 その『当主』の名は、香苗。道玄坂香苗という。

 しかし香苗は道玄坂家を完全に掌握しており、香苗が当主になってから、道玄坂グループの財政は潤って、前当主(香苗の祖父)の頃と比べると、三十パーセント以上の成長率を実際にあげている。

 香苗は、誰も住んでいない実家を管理人に任せ、自分名義で所有している高級マンションの最上階に一人で生活している。

 幼い頃からいつも誰かが側にいて、一人の時間を持てなかった香苗は、香苗以外の家族が全員事故で死亡し、彼女が道玄坂家の当主となった一年ほど前から、一人暮らしを始めることにした。

 当然、一族の内には色々と煩い年寄り連中もいたが、彼女は当主の権限で押し通した。

 一人暮らし。当時、高校生になったばかりの少女が……だ。

 その一番の理由として上げられるのは、彼女が身の周りに誰かを置くのは危険だ……と、判断したからだった。

 家族の事故死……本当に事故だったのか? 『違う』と、香苗は確信している。

 七年ぶりの家族旅行での事故……体調を崩して留守番をしていた香苗だけが助かった。当主一家の内で、最年少の香苗だけが……。

 一年前のあの日。香苗が、道玄坂家の当主となることが正式に決定されたあの日……。

 あの日交わされた十歳年上の従兄との会話を、香苗は今でもはっきりと憶えている。

「私は見逃されたのですか? 私なら操ることができると、そうお考えになられたのですか? 答えてください……庚(かのえ)兄さま」

 香苗が見上げる様にして見た庚の顔は、いつもの様に優しく頬笑んでいた。

「なにをいってるんだい? 香苗」

 いつもの、香苗が『大好きだった』庚の声。

「……庚兄さま」

「香苗は道玄坂家の当主となったんだ。しっかりしてくれなくては困るよ」

 香苗を励ます様に笑いながらいい残し、庚は立ち去る。

「兄さまッ! 庚兄さまッ!」

(いくら呼んでも、庚兄さまは振り返ってはくださらなかった……。

 庚兄さま。やはり、あなたなのですね……?

 私の家族を殺し、私を一人きりにしたのは。

 庚……兄さま。

 それほど、私が『欲しかった』のですか?

 私が、なにもわからない『子供』だと思っていらっしゃったのですか?

 一人になれば、兄さまを頼るしかなくなると、本気でそう考えておられたのですか?

 庚兄さま。それでは、私はあまりにも愚か者です……。

 私は、自分の家族を殺した男に嫁ぐほど、馬鹿な女ではありません。

 残念でしたわね。庚兄さま……。

 私はあなたの妻にも、あなたに当主の座をもたらす道具にもなりませんわ。

 私は、私のもの。

 道玄坂の当主も、私のものです……)

 

 夢。

 いつもの夢。

 『壊される』夢。

 『気持ちのいい』夢。

 香苗は夢の中にいた。

 彼女の身体の中で、なにかが蠢いている。ドン! ドンッ! と暴れている。

 お腹から出ようとしている。それは間もなく現れるだろう。

(あぁ、そうよ……私のお腹を突き破り、内蔵を潰し、肉を裂き、骨を砕き、そうして姿を現すのよ。

 なにが『住んで』いるのだろう? 私の『中』に。

 私を『破壊』して。

 私を『気持ちよく』して。

 私を……。

 あぁ……で、出る! 私の『中』にいるなにかが現れる!)

 快感と共に私の躰を引き裂いて、なにかが現れる。

 ブチュッ! 皮を破って腕が飛び出す。

 グチャッ! 内蔵を潰しながら這い出そうとしている。

 クギッ! 骨を砕いて出口を確保している。

 ビチャッ! 大量の血液が腹部から吹き出す。

 そして……『なにか』が、その頭を現せた。

(なんだろう? 私の『中』にいたのはなんだったの?)

「……か……な……え……」

 『それ』はいった。

 私のお腹から顔を突きだした『それ』は、私を見てそういった。

「……か……なえ……かなえ……か苗……香苗……香苗えぇッ!」

 香苗を呼び続ける『なにか』。

 香苗は、『それ』を知っていた。『それ』の顔を知っていた。

(そんなッ! そんなことってッ!

 あぁ、アアァアァ……イッ、イヤアァァーッ!)

 

「か、庚兄さまあぁッ!」

 自らの声で目を醒ました香苗は、バッと勢いよく蒲団を剥ぎ取ると、寝台から飛び降り、近くにあった小型な椅子を持ち上げて、カーテンで仕切られたガラスに投げつけた。

 ドンッ!

 ガラスが割れる音はしなかった。

 特殊強化ガラスにはヒビも走らず、椅子も壊れはしなかった。

 なにも『壊れない』。

 これまでも。

 そしてこれからも。

 なにも、なにも『壊れ』はしない。

「アアァァアアァアアァアアァアァァーッ!」

 痛々しく響く絶叫が、寝室に虚しく木霊する。

 香苗の股間は、滴る蜜にグッショリと濡れていた。



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