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雨がふっている。
午後からふりだした雨が、街と、傘もささずに歩くオレを濡らしている。
「ど、どうしたですかっ!? どこかいたいですかっ」
たぶん兄妹だろう。傘を手にする兄に引っつく妹が、オレに声をかけてきた。とても髪の長い、十歳ほどのおんなの子。
痛い? なにいってんだ?
オレは兄妹を無視して、そのまま前に進んだ。
だが、
「まってくださいですっ!」
おんなの子が呼び止める。一瞬、オレの脚は止まっていた。
そう……一瞬だけ。
そして、オレの脚は前に進む。ただ、目の前に続く道があるからという理由で。
兄妹は追ってこない。そしてオレには、立ち止まる理由も、振り返る理由もない。
視界が霞んでいる。
雨がふっているからか?
それともオレは、泣いているのか?
まさか……オレが泣いている?
このオレが?
オレには、泣く権利なんかない。
オレには……なにも。
なにも、「許されて」いないんだから……。
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