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ビルとビルの隙間。オレは、珍しいもんを見つけた。
最近見かけなかったヤツだ。確か、カンケーシャの話じゃ行方不明になってるハズの、行方不明者。見かけるのは、かれこれ一年以上ぶりだ。
「よっ! ぅんなところでなにしてんだ? ササメ」
オレは声を発すると同時に、後ろからササメの首筋に手刀を放った。っても、コイツがオレの手刀を簡単に喰らうとは思えないけどな。
だが、
「鈍ったんじゃねぇのか?」
寸止めしなきゃ、当たっていた。
「歳だからさ」
ササメが、首だけでオレに振り返る。
「ケッ! よくゆーぜ」
オレは手を戻し、ササメの頭を叩こうとする。今度は、軽くかわされた。
「相変わらずだな、アラタ」
絢目新(あやめ あらた)。それがオレの名だ。年齢は十七歳。バッキバキのジョシコーセーってヤツさ。
「お前、行方不明じゃなかったのか? らいるとかいうヤツが、そんなこといってだぜ」
「らいる……知ってるのか?」
「あぁ、あれは変わった軟体動物だな。コンジョーはあるけど、脳味噌は膿んでいる。うん、面白いヤツだ」
「……なにか、いってたか?」
「うん? お前のことか? だったら、行方不明だっていってたな」
「それ以外には?」
「別に、おじさまのことですからしんぱいないですうぅ。でも、すこししんぱいですぅ……とか。わけわかんねぇよアイツ。なに? アイツ。ササメの愛人? だったらサンネンだな。ショウとかいうヤツに取られてたぜ」
「そうか……」
「なんだ? ホントに愛人だったのか? やるなぁ、オヤジのくせに」
「ここでお前に会ったのも、仕組まれていたのかもしれん」
「ん? 〈ゲーム〉か?」
「あぁ」
「オレ、第二ステージクリアしたぜ? 〈愚者〉と〈天使〉もな」
「〈守人〉がフィールドから消えた。知ってたか?」
「そうなのか? しらねぇな。っていうか、〈守人〉には会ったことねぇし」
「〈狩人〉も、日本から逃げた」
「それはしってる。殺人容疑で指名手配されてるだろ? アイツ」
「それはすぐに撤回される。どうやら、アクシデントだったらしい。〈虚〉が裏で動いているはずだ」
「ふーん……どうでもいいけどな、他のヤツのことなんて。でも……〈虚〉か。変だな。ヤツは、二十五日と十七時間くらい前に、オレが殺したんだけどな。五人目か?」
「六人目だ。五人目は、五日前に自殺した」
「〈虚〉は消耗品だからな。〈マスター〉もなに考えてんだか。ま、最後はオレが殺すけどな」
「頼みがある」
「オレにか?」
「あぁ」
「高いぜ?」
「抄とらいるを守ってほしい」
「……自分でやれよ」
「やれればお前に頼んだりしないさ」
「……」
「……」
「〈イレギュラー〉か。動いているのか? ヤツが」
「〈狩人〉に冤罪を被せたのも、〈イレギュラー〉だ」
「殺すか?」
「無理だ」
「だろうな」
「名前もわからない」
「女だ。オレくらいの年齢だ」
「なぜわかる?」
「〈マスター〉も女だ。それも、まだ子供だ。小学生くらいのな」
「勘……か?」
「〈愚者〉がそういってた」
「〈愚者〉が? そうか、ならそうだろう」
「ヒントが増えたじゃねぇか」
「女はいっぱいいる」
「オレも含めて怪しいな。女」
「お前は怪しくないさ」
「女じゃないからだな」
「あぁ。お前は」
「ひ・と・ご・ろ・し」
ササメのセリフを遮り、オレはにこやかな形を演じていってやった。
だがササメは、
「違う。お前は……」
それに続く言葉は聞きたくなかった。
『あなたは、私の希望です』
脳溝が沸騰する。グラグラする。苦しい。吐きたい。
死んで……しまいたくなる。
「オレは、ただの人殺しだ」
先制していうと、オレはササメを横切って通り過ぎた。背中ごしに、
「二人を、頼む。家族なんだ……」
投げかけられた言葉に反応は返さず、オレは進んだ。
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