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許せない?
あぁッ! 許せないねッ。
絶対に許せないッ!
少女というのは至高の存在で、ゲスどもが手を触れることを許される存在じゃない。そのうえ手を触れるだけじゃなく、あんな……クッ、クソッ! あんなことまでッ!
脳味噌が沸騰しそうだ。
あの映像を、記憶から消してしまいたい。だけど、消えることはないだろう。この、オニのような怒りと一緒に。
気にくわないけど、仕方ない。この事態を解決へと導くためなら、不本意だけど、ヤツの力を借りたい。
ボクはボードを操作して、ヤツの端末に繋げる。
が、コール音はしてるはずだが、ヤツは出ない。そして……た、端末を切りやがった!
クソッ! なんて非常識なヤツだッ。もう一度繋げる。今度は、コール音なしでこっちから開かせる。
『〈愚者〉! これを視てるのはわかってるんだ! さっさと返事しろ』
ヤツの端末モニタに、ボクが打った文字が表示されているはずだ。きっとヤツのことだから、下品にニヤついて、どうやってボクをからかおうかと思案しているはずだ。ヤツは、そういうヤツだ。
『ウザイ シネ ロリコン』
モニタに返答がきた。三つの単語で。
それにしても……クッ!
『ボクはロリコンじゃない! 少女崇拝者だ』
『ビョウイン イケ セイシンカ』
クソクソクソッ! カタカナ文字が、やけに神経に障る。
だがガマンだ! ここは、ボクが大人であることをちゃんとヤツに示して……。
ボクが、譲歩した言葉をボードに打ち込もうとすると、
『なにしてる。勝手に、他人の端末使わないで』
あ、あれ……? なんだ? この文字。
アドレスを確認する。いつの間にか、見崎雛子の端末に繋がっていた。
〈愚者〉の仕業だ! なんてことするんだッ。
見崎雛子は、ボクが認めた数少ない「ウェバー」の一人だ。「ウェバー」とは、電子世界に生きる人間のことで、「ハッカー」「クラッカー」などと呼ばれ、世間から悪印象をもたれているようなヤツらとは違い、もっとこう……なんというか、崇高な精神の持ち主のことだ。
それにしても、どうして見崎雛子なんだ?
疑問を感じたが、〈愚者〉がしたことだ。ヤツがしでかすことを、不思議がっても意味がない。どうせ、答えなんて出ない。
『丁度いい。次はこども探偵が危ない。なんとかして』
見崎雛子が『言葉』を発する。
こども探偵……って、それ、月代巳夜ちゃんのことかッ!? 巳夜ちゃんは小学生ながら、いくつもの事件を解決に導いている、天才……とはいい過ぎかもしれないけど、キュート&コケテッシュなエンジェルだ。もちろんボクは彼女のファンで、ハッキリいって崇拝している。
『巳夜ちゃんが危ないって、どういうことだ』
『こども探偵、失踪事件に首を突っ込んできた。身の程知らず』
一言多い! だけど……それが本当なら、確かに巳夜ちゃんには荷が重すぎる。
それに巳夜ちゃんは、マスメディアにも多く顔を出す、いわばアイドルだ。ゲスどもの欲望には底がない。もし巳夜ちゃんのマーダーディスクが「裏市場」に出回ったりでもしたら、莫大な金を産むことになるだろう。
クッ……! そんなこと、絶対にさせないッ。
『もう一人の人、みてるだけ? なにかいったら』
見崎雛子の『言葉』に、〈愚者〉が領域から消えた。
『だれ? 今の』
『ただの愚か者だ』
『知り合い?』
『そうだ。けど、友達じゃない』
『あたしも、あなたの友達じゃない。でも、それは、どうでもいい。こども探偵のこと、お願い。あたしも、動く』
『どうしてキミが?』
『許せないから。マーダーディスク』
『視たのか、キミも』
『みた』
そうか……あんなディスクを作るヤツなんて、人間じゃない。そして人間なら、許せなくて当然だ。
『巳夜ちゃんには、誰かついてるのか?』
『だれもついてない。それは、あなたに任せる』
ま、任せる……って! ボクに、外に出ろというのか!?
『なにかわかったら、コード4198756で連絡して。あたしも、必要なら連絡する』
端末が切られる。まだ訊きたいことはあるのに。ボクは見崎雛子の端末にアクセスした。すでにプロテクトがかかっている。アクセスできない。時間をかければプロテクトを破ることもできると思うけど、見崎雛子を怒らせてしまうかもしれない。
ボクは、見崎雛子を怒らせたことはないけど、もし怒らせてしまうと、どんな報復がくるか予想できない。
連絡先は……コード4198756でのアクセス。また、面倒なコードを指定して……って、これってもしかして、勝手に端末を使われたことに怒ってのことか!?
クソッ! 〈愚者〉のヤツ。なんてことしてくれたんだッ。
……仕方ない。見崎雛子への連絡は、なにか動きがあってからにしよう。
巳夜ちゃんは、位置確認システムに登録しているはずだ。
ボクはメインマシンのスリープを覚まし、巳夜ちゃんの現在地を確認するために、警備会社「ラディム」の中枢に進入を試みた。
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