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気になることは、いくつもある。
おんなの子の、連続失踪。全てが、同一犯によるものなのか。琴香に、それが調べられればいいけど……
探偵がいれば、調べられる。彼なら、できる。
探偵……久貫鏡一郎。
でも、探偵はいない。消えた。
あたしにも、行方がわからない。
日本を出た跡はない。でも、探偵のことだから、形跡を残さずに消えることくらいできる。
あたしは、あたしの方法で探るしかない。
マーダーディスク。
あたしがみたのに映ってたのは、一人だけ。
他にもある? 映ってるディスク。
調べなきゃ……。
あたしが〈電界〉に潜っていると、第16−b端末にアクセスがあった。あたしは一度〈電界〉からあがり、アクセスがかかった端末をメインマシン【MITORI】に繋げる。
『ヒナっち、頼みたいことがあるの』
音声のみ。琴香の声だ。
「なに……?」
あたしも、音声のみのアクセス。もちろん、壁は厳重に作ってある。例えあのロリコンでも、簡単には覗くことはできない。
『あなたがみたマーダーディスクが欲しい。確証を得たいの。本当に、行方不明の子なのか』
「……むつかしいと思う」
グチャグチャだったから、あれでは、判別はむつかしい。あたしだって、似てる……とは思ったけど、確証できたとまではいかない。60%、同一人物だと思うけど。
『わかってるわ。でも、なんとかできると思うの。そういうの、得意なヤツがいるのよ』
「そういうの……ね」
琴香には、変な知り合いが多い。グチャグチャの人間を判別するのが得意なひとがいても、不思議じゃない。もちろん、あたしは、そんなひとと知り合いになりたいとは思わない。
「わかった。すぐ、用意する。あたしからも、お願いがある」
『なにかしら』
「あたしがみたのと、ロリコンがみたの。同じディスクかどうか、確認してほしい」
『あぁ……そうね。確かにそれも、確認する必要あるわね。でも、自分でできないの?』
「ちょっと、あのロリコンにムカついてるの。できるだけ、アイツと話したくない」
半分ウソ。ロリコンは、「愚か者」とかいうひとに見張られているかもしれない。ナニモノかわからないし、危険なひとかもしれない。あたしに気づかせずに、端末に入り込むなんて、普通のひとにはできない。たぶん、〈ゲーム〉の関係者。近づかないに越したことない。
『そう? アイツ、ムカつくとこあるものね』
「……うん。あたしがみたのは、クラッシュベリーって呼ばれるディスク。でまわったのは、NY」
『わかった。ロリコンに確認してみるわ。それから、紅野さんとは接触できたわ』
「……」
『協力してくれると思うわ』
「……」
『気に入らない?』
「わからない。判断がつかない」
『大丈夫よ、あの人なら』
「楽観的。琴香」
『そうかしら? ……あっ、ちょっとまって』
端末から琴香が消える。二分十三秒後。端末から再び琴香の声。
『そっちに紅野さんがいくわ。ディスクは紅野さんに渡してくれる?』
「……家に、くるの?」
『それは困るかしら?』
「別に……いいけど」
今、お姉ちゃんは家にいない。だから、大丈夫だと思う。
お姉ちゃんは、あたしが危ないことをするのを嫌う。琴香も探偵も、お姉ちゃんは嫌い。あたしを利用している、嫌なひとたちだって思ってる。
確かに、それは間違ってない。ううん、お姉ちゃんがいったり思ったりすることは、全部正解。それが、世界の破滅を願う……ということでも。もしお姉ちゃんが、世界を壊してってあたしいってきたら、あたしはどんなことをしてでも世界を壊す。
お姉ちゃんは、あたしの全てだから。
あたしは、お姉ちゃんのもの。そしてお姉ちゃんは、あたしのもの。
あぁ……だいすき、お姉ちゃん。愛してる。
『……で、そういうことになったから……って、ちょっと、聞いてるの? ヒナっち』
聞いてなかった。お姉ちゃんのことを考えて、ちょっとボ〜ってしてた。
「……なに?」
『あなた、最低限の返事はしてよね』
「うん……なるべく、そうする」
端末から、琴香の溜息が聞こえた。
要するに、紅野笹雨が家にくるから、きたらクラッシュベリーのディスクを渡して……ってことみたい。
あたしは琴香に、「紅野笹雨には、絶対、お姉ちゃんに顔をみられないで……って、いっておいて」と注意して、再度〈電界〉に潜った。
お姉ちゃん。あたしは、危険なことをしてるのかもしれない。でも、お姉ちゃんを裏切ることは、絶対ないから。
だから、お姉ちゃん。
お姉ちゃん……。
だいすきだから。
ずっとあたしと一緒にいて。
ずっと……永遠に……。
愛してるから。
お姉ちゃん……。
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