第1話 「本日も開店休業中!」

 

 大陸暦2222年。エルファント大陸には、大小、七つの国家が興っている。

 その中でも、大陸の南西に位置するパルム王国は、大陸七ヶ国の内一番〈魔法〉と呼ばれる〈力〉が遅れている国であり、その反面、魔物や魔獣の被害がもっとも少ない国でもある。

 パルム王国の王都をア・パルムといい、そこには約三ヶ月前から、ア・パルム唯一の魔法屋として、

『メイ&ファム魔法商店』

 という店が、営業を始めていた。

 

     ☆

 

「ひ〜ま〜ねぇ〜」

 ここは、ウワサ(?)の魔法屋、メイ&ファム魔法商店の店内。

 さほど広くもない店内に、カウンターに肩肘をついて顎を乗せている少女の、溜息ともつかない愚痴が哀しく染み込んでいく。

 彼女が眺める店内の壁際には、棚に陳列された魔法薬のビンがいく本も並び、魔法を扱わない者にとっては用途すらしれない、お札だの、木の実だのも見つけることができる。

 だが、客らしき者の姿はなく、店内には愚痴を零した少女の姿しかない。

「それに……」

 

 ぎゅるぎゅるる〜

 

「お腹空いたなぁ〜」

 空腹を独り言で訴える彼女の名は、メイ・レチャル。

 年齢は十八歳。

 普段なら、面を飾るネコ目が印象的に輝いているはずだが、今は空腹のためか情けなく半開きになり、ショートにまとめられた青みがかった黒髪も、なんとなく艶がないように思われる。

 それにしても、このような情けない姿を晒していると、彼女がレイス聖王国の国都グ・レイスにある大陸最高の魔法学校、〈フォウスター魔法学園〉を卒業した「若きエリート魔法士」……だとは、とてもではないがみえない。

(ファムがレモンドさんのところから魔法薬の代金をもって帰ってきたら、パンを買いにいこう。あぁ〜、三日ぶりねぇ……パンなんて高級食品を口に入れられるのも)

 メイが、そんな今の姿にみあった情けないことを思っていると、

「たっだいまあぁ〜!」

 薄紅色の長い髪を純白のリボンでツインテールにした、やけにひらひらとしたかわいらしい服(なんとなく、メイドさんを思わせる感じの服だ)を着た少女が、元気よく扉を開けて店内に入ってきた。

 その短いスカートからは細長い脚が真っ直ぐに伸び、少女の髪と同色のリボンで飾られた胸元では、幼くかわいらしい顔にそぐわない(ともいいきれないけど……)激しく自己主張をしている豊かな双丘が、彼女の動きに合わせて、

 

 ぷるるんっ ぷるるんっ!

 

 跳ねるようにして揺れる。

 このロリ顔巨乳な彼女の名は、ファム・クロス。

 年齢は、メイと同じく十八歳。

 とはいえファムは、胸以外はとても十八歳には見えない。身長も158センチのメイより10センチは低く、見た目年齢は、せいぜい十四、五歳といったところだろう。ツインテールの髪型や、ひらひらした子供っぽい服装も、彼女の見た目年齢を下げるのに一役かっているのだろうが。

 しかし彼女は、メイと共同でこの店を開いている、〈フォウスター魔法学園〉を卒業したれっきとした魔法士である。

 見た目はただの(?)巨乳ロリッ娘だが、魔法薬調合の腕はメイを遙かにしのぎ、生まれついての才能がないと絶対に不可能とされていて、大陸中捜しても百人と修得者がいないであろう、〈聖霊〉との会話術も修得している。

「だだいまっ! メイっ」

 やけに元気な声で、嬉しそうに二度目の「ただいま」を告げるファムに、

「お〜か〜え〜り〜」

 メイが力のない声で答えた。

 ファムは、手にしていたさほど大きくもない紙袋をカウンターに置き、

「どうしたの? メイ」

 と、問う。

「お腹……空いたのよ」

「ふ〜ん。でも、ファムたち貧乏だしね。仕方ないよ」

 今にも倒れそう(カウンター内におかれた椅子に座っているが、そういう意味ではなく)なメイに、ファムが現実を突きつける言葉を返す。

(そうよねぇ……ファムのいう通り。全部、貧乏が悪いのよ)

 十八歳にして魔法屋を開業している二人だが、けして裕福というわけではない。

 魔法屋を開業する過程で、彼女らは結構な額の借金をしたからだ。

 もちろん、新米魔法士の二人が、店を開業するほどの大金を簡単に借りることができるわけもない。だが彼女たちは、ア・パルムに着いてすぐに出くわしたある事件で偶然知己を得た貴族に、「幸運」にも「お金を借りる」ことができた。

 本来なら、魔法の技術を売ってお金をもうけ、店を開業する予定だったのだが、その必要がなくなったというわけだ。

 だが、メイ&ファム魔法商店を開業したのはいいものの、当初見込んでいたよりも売り上げが伸びない。

 少しづつだが借金も返さなければならないし、当然生活費も必要だ。メインとして販売している魔法薬の材料は、森などにいって自分たちで調達しているが、その魔法薬が売れないのだからどうしようもない。

『あなたたちも……私とこない?』

 これは、同じ魔法学園で学んだ親友であり、フィトス王国の王従妹にして第七王位継承者でもある、サーナリング・ヘル・ハージュベルクが、学園の卒業式を終えたときにメイとファムにかけた言葉だ。

(サーナとフィトスにいっていれば、少なくとも食べ物で困ることなんてなかったんだろうな)

 メイは、そう思うこともある。

 だが彼女らは、サーナリングの誘いを断った。

 そのときの、

『う〜ん……ファムは、メイと魔法屋をやるの。だから、いかない』

 というファムの言葉が、メイは一生忘れられないだろうと思っている。そのときに感じた、泣いてしまいそうなほどの嬉しさと共に。

(うん! 貧乏でもなんでも、ファムと一緒に魔法屋をやれているんだ。少しくらいの貧乏なんて、なんでもない!)

「お金、ちゃんともらってきた?」

 帰ってきたファムに、メイがそう口にしようとした瞬間。

「あっ、ただいまのちゅー、忘れるとこだったぁ」

 ファムが先制して口を開き、次の瞬間には、

 

「ぅっ……ぅン!」

 

 カウンターを鋏んで、メイの唇を自分のそれで塞いでいた。

(えっ!? な、なに? ただいまのちゅー……って。いままで、そんなのしたことないじゃないのよっ)

 だが、押しつけられた唇の奥から、ファムの舌がにゅるり……と入り込み、たっぷりの唾液がメイの口腔内に注ぎ込まれると、彼女は一瞬にしてうっとりとした表情をつくり、とろ〜ん……とした感じで瞳を潤ませる。

 とぷり……口腔内に満ちるファムの唾液。ファムには、キスのとき大量の唾液を注ぎ込むという癖(?)がある。

(ぅん……ファ、ファムの味……お、美味しいぃ。あっ、ファム、ファムうぅ〜っ)

 チュクチュクと音を響かせて、唇を重ね、舌を絡ませ合う二人。

(あっ、ダメだよぉ、こ、ここ、お店の中なのにいぃ)

 ファムとメイはいわゆる「そーゆー関係」で、彼女たちが初めて関係(ともいえないかもしれない、かわいらしいものだが)をもったのは、魔法学園の学生だった十五歳のときだ。

 それは、学園生活二年目に行われた課外講習で、〈ペンタクルスの森〉に修行にいったときのこと。突然の雷雨で土砂崩れが起こり、メイとファムは教師や他の生徒たちとはぐれてしまった。

 なんとか合流を図ろうとした二人だったが、激しい雨と森が造り出す自然の迷宮に阻まれ、身動きなとれなくなって、仕方なく偶然みつけた洞窟に避難することにした。

 今でなら魔法を使ってなんとでもなるのだろうが、そのころの二人は基礎の魔法学を修得していた程度で、実際に魔法を使うとなると、小さな火をおこすとか、空気に含まれる水分を集めて水を得るとか、その程度の魔法しか使えなかった。

「ね、ねぇ……クロスさん(このころメイは、ファムのことを「クロスさん」と呼んでいた)。あたしたち、ど、どうなっちゃうのかな。し、しんじゃったり……す、するのかな」

 ガタガタを身体と震わせ、弱気なことをいうメイ。彼女が遭難しただけで「死」までを口にしたのは、〈ペンタクルスの森〉には魔物が生息していると聞かされていたからだ。

 メイは幼いころに、騎士団にいた父を魔物に殺されてしまっている。

 魔物が生息している森で、学友と二人きり。不安を感じて平静を失っても仕方がないだろう。

 だがファムは、

「だいじょーぶだよ、メイちゃん。ファムもいっしょだから」

「えっ!?」

「メイちゃんひとりじゃないよ? しぬときは、ファムもいっしょだから……ね?

 でもファム、まだしにたくないし、メイちゃんにもしんでほしくないから、いっしょにがんばろーよ」

「が、がんばる……って、ど、どうやって? なにをかんばればいいの!?」

「えっとねぇ。しなないって、いきるんだ! って、そう思うこと……かな?

 ファムのおねーちゃんがいってたよ? ホントーに、心から思ったり願ったりすると、悪いことじゃないかぎり、なんとかなるんだ……って。

 おねーちゃんウソいわないから、きっとホントだよ。

 だから……ね? メイちゃん、いっしょにがんばろーよ」

 そういってファムは、天使のような顔で微笑んだ。

 メイはファムの笑顔にみとれた。なんてかわいい子なんだろう……と、思った。

 そして、

「……う、うん」

 答えたメイの頬に、ファムは軽く口づけをした。

「おねーちゃんが教えてくれた、元気がでる魔法だよ?」

 メイは、弱音を吐いてしまったことと、ファムに口づけされたことがとても恥ずかしく、膝を抱えてうつむき、

「あ、ありがとう……」

 小さな声でお礼をいった。

 ファムは、

「どーいたしまして」

 笑いながら返した。

 こうして二人は、雨が止み、救助がくるまでの一昼夜を、洞窟の中で抱き合いながら過ごした。互いの存在を確かめ合うように互いの身体に触れ、何十回も唇と唇を重ね合って……。

 メイは、ファムのやわらかな身体をまさぐり、そして唇を重ねることに、なんの疑問も感じなかった。そうすることが、ごく自然なことのように感じていた。

 ファムは自分の行為を拒まなかったし、自分もファムの行為を拒まなかった。それどころか、「ずっと、クロスさんとこうしていたい」……とさえ、少しだけ思っていた。

 それ以降、二人は急速に仲を深め、いつの間にか身体を重ねるのが当然……という仲になっていった。

 

     ☆

 

 メイの口腔内を、荒々しく蠢くファムの舌の感触。

(ダ、ダメ! このままじゃあたし、あっ、か、感じちゃうっ!)

 キス……というよりは、メイの口をファムの舌が陵辱しているような状況だ。

(ダメだよぉ……あ、あたし、キスに弱いのしってるくせにぃ、ホ、ホントに感じて、感じてきちゃうよぉ〜。あっ、ぅん、ン! ファ、ファム、ファムうぅ〜っ!)

 一度「そーゆー気分」になってしまうと、メイは著しく理性を削がれてしまう。普段が理性的な分、その反動なのか、「そーゆーこと」になると彼女はすごく乱れてしまうのだ。

 ファムに身体を預け、貪られることだけしか考えられなくなり、「甘えたがりやの子猫」のようになって、「ファムうぅ〜、ファムうぅ〜っ!」……などと、とろけるような声で鳴き、それは見事な甘えっぷりをラマン(その表現はどうか?)に露呈してしまう。

 ファムの激しいキスによって、すでにメイの乳首は硬くなり、彼女は下腹部に、ジュン……とした温もりをも感じていた。

(ぬ、濡れてきちゃったよぉ……こ、これ以上はホント、ホントにダメえぇっ!)

 店内での行為。いつお客が入ってくるかわからない(心配無用だと思うが)。もしメイ&ファム魔法商店の経営者二人が、「そーゆー関係」だなどと世間にしられたりでもしたら、今以上に来客がなくなってしまう。

 そうなったら、夜逃げしかない。

(や、やっとお店を始められたのにっ! ファムと二人で、学生時代からの夢を叶えることができたのにっ!)

 学生時代。寮のベッドの中で語り合った、「二人の将来」。小さくてもいいから魔法屋を開業して、ずっと一緒に、仲良く暮らそうね……と。

 幸運にも早くしてその夢が叶い、確かに借金はあるし食事にもことかく状態だが、それでもメイは、本当に今の生活……ファムと一緒に魔法屋をやって暮らしているという、かつての夢だった現実が、大切で大切でたまらない。

(だ、だからファム、わかって? お、お店の中で、それもお仕事中に、こ、こんなことしてちゃいけないのよっ)

 メイはファムの両肩を押すようにして、繋がった唇を顔ごと離し、

 

 メゴッ!

 

 硬く握った拳をファムの頭に振り下ろした。

(あっ! 強く叩きすぎちゃったかも!?)

 まぁ、確かに「いい音」はした。鈍い感じで。

(で、でも、ここで甘やかしたら、ファムのためにもならないわっ)

 メイは思い、

「今は、お・し・ご・と・ちゅ・う!」

 ハッキリといった。

「な、なによぉ〜……メイだって、とろ〜ん……ってしてたじゃないのよぉ〜」

 涙目で、頭をさすりながら抗議するファム。その姿は子供っぽく、とてもメイと同い年にはみえない。

 と、突然ファムが口調を変え、

「も、もしかして……メ、メイ、ファムのことジャマになったの? ファムのこと、キライになっちゃったの……?」

 ウルウルと瞳を潤ませてメイをみる。

「そ、そんなことないわよ!」

 慌てて否定するメイ。

「でも、メイ……」

「ほらっ、今はお仕事中でしょ!? だ、だからっ」

(どうして、あたしが慌てなくちゃならないのよっ! お店の中でキスなんて、そんなのダメに決まってるじゃない……)

 そう思いながらも、やはりメイはファムの涙に弱い。

 同い年(実は、ファムの方が二ヶ月お姉さん)の同性で、仕事の同僚……だがそれ以上にメイは、ファムのことを恋人として認識してしまっていた。

 別に、「あたしたちは恋人同士だよね?」……などとファムに確認したことはないし、今更確認するのも恥ずかしい。

 〈フォウスター魔法学園〉で出会ってから四年。「そーゆー関係」になってから三年。互いに、互いの身体で指が、唇が触れていない部分はないだろう。

 メイにとってファムは、一緒にいると、日常生活において多少迷惑なところはあるが、いないと寂しくて耐えられない……といった存在だ。

(うぅ〜……やっぱりあたしの方が、ファムに惚れちゃってるんだろうな)

 そう思ってしまうことが、メイは少し悔しい。どこかで、自分がファムといてあげるのではなく、ファムが自分といてくれている……と、「悟って」しまっていることが。

(本当はあたしの方が、ファムに依存している。多分ファムは、あたしがいなくてもやっていける。でもあたしは、ファムがいないとダメ。

 やっぱりあたしは、ファムのことが好き。ファムの側にいたい。ファムに、あたしの側にいて欲しい……)

「ごめんね……」

 メイは、深い緑の瞳を涙で潤ますファムの頭を優しくなで、

 

 ちゅっ

 

 そのやわらかな頬に、優しく口づけを送った。

(元気が出る……魔法)

「痛かった? ごめんね……ファム」

「……ファムのこと、キライじゃない?」

「もちろんよ」

「じゃ、好き?」

「うん……大好き。大好きよ、ファム」

「だったら……しよ?」

(そ、それはあたしだって、し、したいわよ。あんなキスされて、身体がウズウズしちゃってるし……)

「う、うん……でも、お店の中じゃイヤ……あっ、イヤじゃないけど、やっぱり、ダメだよ。いつ、お客さんがくるかわからないし……ね」

「うん! だったら、今日はお店おしまいにしよ? どうせ、お客さんなんかこないよ」

 メイの言葉に、嬉しそうにいうファム。その顔には、涙のあともない。

(さ、さっきのウソ泣きだったんじゃ……。

 ……ま、いっか。ファムに振り回されるなんて、今に始まったことじゃないしね。

 それにあたしは、ファムのことが……)

 メイは立ち上がって一度店の外に出ると、ドアにかけてある「メイ&ファム魔法商店 ただいま営業中!」の看板を裏返し、「メイ&ファム魔法商店 ただいま準備中!」にして、店内に戻る。

 すると、

「ほらっ! メイ。みてみて」

 ファムが、帰ってきたときにカウンターに置いた紙袋を手に持ち、それをメイに示した。

(そういえば、あの紙袋なんだろう?)

 メイの疑問に答えるように、ファムが紙袋に手を突っ込んで、その中身を取り出す。

「じゃーん!」

 ファムの声と共に現れたのは、直径五センチ、長さ二十センチほどの、なんだか男性器に似た形の物体だった。

「な、なに……? それ」

(……っていうか、性具にしかみえないけど)

「ペペルンの新製品」

 ペペルン。

 それは、メイ&ファム魔法商店があるタールタ通りから一本外れたアリカ通りにある、いわゆる「大人のオモチャ屋さん」のことだ。

「メイ。これ、すっごいんだよ? ここをこーするとぉ……」

 いいながらファムが、「ペペルンの新製品」なるものの根本についた突起を押すと、

 

 グルン、グルン、グルングルン

 

 性具がほぼ真ん中辺りから、先端で円を描くようにして動き出す。

「ねっ? すごいでしょ!? どーなってるのかわかんないけど、これ、動くのぉっ!

 きっと気持ちいいよ? だって、動くんだもんっ!」

 確かに珍しいものだし、気持ちいいのかもしれない。メイも、多少は興味を引かれた。

 だが……。

「ファ、ファム? それ、どうしたの? どうしてファムが、そんな珍しいもの持ってるの?」

「えへっ……メイに喜んで(悦んで?)もらおーって、魔法薬売った代金で買ってきちゃったのぉ。ちょーど買える値段だったしねっ」

 性具をグルングルンさせながら、

「ね? ねっ?」

 なにやら誇らしげな顔をするファム。が、メイは、固まった表情で急速に顔色を白くしていった。

「ま、魔法薬の代金……?」

「そうだよ」 

「ね、ねぇファム?」

「ん? なにぃ? メイ」

「その魔法薬の代金って、レモンドさんのところに納めた……」

「うん! そーだよっ」

(そ、そーだよ……って)

 レモンドさんのところに納めた魔法薬の代金……といえば、メイがこの先五日間の生活費(とくに食費)として、あてにしていたお金だ。

 ちなみにファムが外出していたのは、レモンドさんなるお客に魔法の増毛薬を届けにいっていたからで、魔法薬を届け、その代金を持ってファムが帰ってくる。だからこそメイは、ファムが持ち帰るはずのお金をあてにして、「ファムが帰ってきたらパンを買いにいこう」……と、考えていたのだが……。

 あまりのことに声もなく固まるメイに、

「……どーしたの? メイぃ」

 不思議そうにファムが問いかける。

 拳を握りしめてプルプル震えているメイを、やはり不思議そうに眺めるファム。

 やがて……。

「あ、あんた! とおぉ〜っても大切なお金をそんなモノに使って、いったいこれからどーするつもりなのよおぉっ!」

 メイが、魂からの叫びを発した。なんだかせっぱ詰まった感じが宿る、ソウルフルなシャウトだ。

 だがファムは、性具をグルングルンさせながらメイの目の前に移動すると、

「なんとかなるって。メイってば、心配性だぞっ」

 性具を持つのとは反対側の指先で、メイの高く真っ直ぐにとおった鼻筋をツンッ……とつつき、

「クスッ」

 なんでもないような顔で、にこやかに微笑んだ。

(ク……クスッ……じゃ、ないわよ!)

 カーッ! 一気に頭に血が上る。

「あ……あんたが無神経すぎんのよおおぉおぉっ!」

(ど、どうしてあたしはこんなヤツに、こんなヤツに惚れてるのよおぉっ! あたしのバカ! あたしのバカ! あたしのバカあぁ〜っ!)

 メイは自分を責めながら、その「自分が惚れているヤツ」に、「自分が惚れているヤツ」から奪い取った「グルングルン動く性具」で、

 

 ボグッ! ベゴッ! メリッ! ゴンゴンゴンッ! メゴォッ!

 

「どうしてあんたはっ! あんたはああぁあぁ〜っ!」

 殴打に次ぐ殴打を繰り返した。

 

 殴り疲れて冷静になったメイが、

「こ、これ(グルングルン動く性具)返品して、お金返してもらわなくちゃっ!」

 と思い立ったときには、ファムはうつ伏せに床と平行になってぴくりともせず、「グルングルン動く性具」改め「生活費のもと」は、すでに取り返しのつかないほど、ボロボロになってしまっていた。

「……これじゃ、返品はムリ……よね」 

 諦めたように呟くメイ。そんな彼女の背中は、そのまま「哀愁」というタイトルをつけて飾っておきたいほど、ある種の芸術性に満ちみちていた……。

 

 第1話 「本日も開店休業中!」 えんど → とぅ ねくすとえぴそ〜ど

 

     ☆

 

 次回予告

 あっ……わ、わたくし、あ、あの……エルミナ・アル・タウンゼン……と、申します……。お、王立図書館で、第二級司書官を務めさせて、い、いた、いただいて……お、おります。

 じ、次回は、わ、わたくしが……あ、あの……す、すみません! な、なんでもないんですうぅ〜っ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいっ!

 で、では……じ、次回の『ようこそ! メイ&ファム魔法商店へ』……は、

 

 第2話 「聖なる花を摘みにいこう!」

 

 で、です。

 み、みなさま、なんとなくお楽しみに……だ、そうです。

 

 ハァ〜……き、緊張しましたぁ〜。

 ……えっ? ま、まだ終わってない!?

 あ、あのっ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんな(時間切れ)。



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