第三章 サシャ
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サシャが幼少期を過ごしたのは、娼館だった。
汗臭く酒臭い男たちが、乱暴に性欲を吐き出していくような、場末の娼館だ。
サシャは、自分の両親が誰なのかをしらない。物心がついたころには、館の「おねえちゃんたち」がサシャの「家族」で、彼女はそれに疑問をもったりはしなかった。
幼いサシャにとって「世界」とは「そういうもの」であり、それ以外を想像する必要はなかった。
だが、その世界が変化をみせたのは、彼女が七歳のとき。
どういった経緯があったのかサシャにはわからないが、突然に彼女は「家」を離れることになった。
「元気でね、サシャ。このひとと一緒にいれば、大丈夫だから」
見知らぬ男に引き渡されるサシャ。サシャは男に好感を覚えなかったが、やさしいルールーおねえちゃんがいったことだからいわれた通りにしようと思い、男に手を引かれて「家」を後にした。
しかし男は、すぐにサシャを奴隷商人へと売り飛ばした。
サシャは漠然と、「なにかよくないことになっている」とは感じていたが、幼い彼女にはどうすることもできなかった。
だが、数人の女性たちとともに狭い馬車に詰めこまれ、いずこかへと連れて行かれる途中。
サシャたちは、「空を飛ぶ不思議なトカゲをつれたおにいちゃん」に助けられた。
そのおにいちゃんのことをサシャはよく憶えていないが、彼の髪がとても鮮やかな青だったことだけはいつまでも憶えていた。
数年が経過したのち、サシャは、国に関係なく戦乱の場に現れ、力なき民たちのために活動する「国なき騎士団」と称される集団に、「蒼風のジャム」とよばれる青髪の「勇者」がいるという噂をきいたが、その「勇者」と「空を飛ぶ不思議なトカゲをつれたおにいちゃん」を結びつけることはなかった。
もしもそのときに、「蒼風のジャム」と「空を飛ぶ不思議なトカゲをつれたおにいちゃん」を結びつけていれば、サシャの人生は現在とは少し違うものとなっていたかもしれない。
「もう一度会いたい」
ずっとそう思いつづけた「空を飛ぶ不思議なトカゲをつれたおにいちゃん」に、サシャは会いにいったことだろうから。
だが、結局サシャは、「蒼風のジャム」と「空を飛ぶ不思議なトカゲをつれたおにいちゃん」が同一人物だということを、生涯しることはない。
そして、サシャの現在の主であるアリクローダが、後の世に「神槍戦争」とよばれることになる戦で「蒼風のジャム」と肩をならべて戦い、伝説に語られる「勇者」となることも、サシャがしることはない。
しることもなく彼女は、とても長いとはいえない一生を……。
1
光度が低く保たれた、おちついた雰囲気の部屋。
室内にはベッドのかわりにもなるのであろう大きなソファとテーブルが置かれ、壁際には数種類の酒が陳列された棚を目にすることができた。
サシャは果実酒が満たされグラスを両手にふたつもち、
「どうぞ、アリク様」
その片方をソファに腰をおろすアリクに手渡すと、彼に身体を密着させるようにして、その隣に腰を下ろす。ふたりはともに裸体のため、サシャはその肌に主の体温を感じることができた。
ここは、サシャがマリーナに与えられた「私室」。
現実世界と半次元ずれた異空間に存在し、「夢と現実の中間」のようなところに造られた部屋である。
ちなみに、この部屋に出入りできるのは、所有者のサシャ、サシャの主であるアリク、そして創造者のマリーナだけ……ということになっている。
アリクがグラスに口をつけたことを確認し、自分もグラスを傾けるサシャ。ほのかな果実の香りが口腔内で広がり、鼻腔を通り抜ける。
サシャは、お酒が嫌いではない。むしろ、好きなほうだろう。
かといって、強いわけではなかったが。
再度、グラスを傾けるサシャ。体内にアルコールが浸透し、すぐに彼女は浮遊感を覚えた。
夜は、まだ始まってもいない。あまり飲みすぎるわけにはいかないが、少しくらい酔っていた方が大胆になれるし、大胆であることを酒のせいにすることもできる。
サシャはアリクの側面に身体をあずけ、主人の体温を楽しんだ。
(肩を抱きよせるくらい、してくれてもいいのに)
しかしアリクに、そのような気のきいたことができるとはサシャには思えない。
サシャはアリクの腕をとり、自分の胸元へといざなう。それでやっと、アリクはサシャの乳房に触れ、遠慮がちに揉んでくる。
乳房をなでる主の動き。それはくすぐったさがほとんどだったが、うっすらと感じる気持ちよさに意識を集中させ、サシャは甘い吐息を漏らす。
サシャもアリクの股間へと手を伸ばしたが、そこはまだ力をもっていなかった。
(いやらしい身体をしていると思うんですけど……)
女性的な曲線によってつくられた身体。自分でも大きすぎると思う乳房は、油断するとすぐに垂れ下がってしまうように思え、サシャは今の大きさと形を維持するために、それなりの努力をしていた。
サシャは手にしたグラスを目の前のテーブルに置き、アリクの首筋に抱きついて豊満な乳房を主に押しつける。そして手のひらの中で、力のない主のペニスをさするようにして揉んでいくが、それが力を増していくことはない。
サシャは手の動きはそのままに、アリクの胸元に顔を寄せると主の乳首を口に含み、舌で転がす。
しかし、
「サシャさん……くすぐったいです」
さりげないが、拒否を示す主の動き。すぐにサシャは口に含んだものを自由にして、
「でしたら、わたしのを可愛がってください」
両の乳房を持ちあげるようにしてアリクにむけた。
アリクは少し迷ったしぐさをみせたあと、左の乳首を口に含んで転がす。サシャは右の乳首を自分の指でもてあそび、左右に不公平なく刺激を与えた。
しばらくそれをつづけたふたりだが、アリクの股間が硬度を増すことはなく、サシャの股間だけが潤みを増していくだけだった。
やはりアリクをその気にさせるには、「アレ」が必要だ。サシャはいつでも主の要求にこたえることができるように、できる限り「アレ」を体内に溜めるようにしている。
サシャはアリクから身体を離すと、テーブルに置いてあったグラスを手にとる。それを傾けてアルコールを体内にとりこむと、目の前のテーブルにのぼった。
テーブルの上には、ガラス製の大きな皿。そしてマリーナが異世界から持ち帰った、男性器を模していて竿の部分にイボイボがついた物体や、直系3〜4センチほどの玉がつらなったものなどの、「オトナのオモチャ」が散乱していた。
サシャはそれらの中からガラスの大皿を手にすると、アリクの目の前にお尻をおくようにして、皿の上でしゃがんだ。
そして、
「お尻、ほぐしてください」
主へと告げた。
アリクはサシャにいわれるまま、彼女のお尻へと顔を寄せていく。そして大きい桃のような臀部のワレメに顔を押しつけると、底の蕾へと舌をのばした。
唾液をたっぷりとまぶし、舌を使うアリク。その刺激はピリピリとした静電気と少しのくすぐったさとなって、サシャへと与えられた。
「アリク様……もっと、強くしてください。サシャのウンチのお穴、もっとかわいがってください」
アリクは行為に積極的ではないので、おねだりをしたほうがスムーズにコトが進む。そのことを、サシャは把握していた。
サシャの言葉にアリクは顔を上げると、唾液でぬめったそこに指を一本埋めていく。
ぬっ……くぅ
力を抜き、アヌスを広げて進入してくる指を素直に招き入れるサシャ。
体内に異物を迎え入れる息苦しさを、「ふぅ……っ」と息をはくことでやわらげる。とはいえ、息苦しさはすぐになくなり、サシャは直腸内で蠢く主の動きを楽しむのに集中することができた。
ぐにぐにゅとアヌスをほぐしてくれる、主の指づかい。
「ぅ……くぅっン」
体内の深くに潜ってくる主の指。それが根元まで埋められたのを感じたが、それだけではなんだかものたりないように思える。
「あっ……も、もっと、ください」
サシャのおねだりにアリクは一度指を引き抜くと、それを二本に増やして再び埋めてくれた。
サシャは主のモノをお尻に受け入れることができるので、指の二本くらいならどうということはない。
しかしそれが、グリグリと激しく動かされているのなら話は違う。
アリクがサシャの直腸内で、二本の指を複雑に動かす。体内で蠢く主の指。腸壁が擦られる。切ない息苦しさと、子宮の辺りをきゅーっと締めつけられるような感覚。お尻というよりは、お腹の中が掻き混ぜられ、眠っていた便意が目を覚ます。
繰り返される刺激は便意の促進だけではなく、やがて性的な快感となってサシャの内部で広がっていく。
股間に熱を感じる。
尿意にも似た、快感の証。
ぴくっ……ぴくぴくっ。乳首が勃起して敏感になり、
「ぁ……ぅンっ」
サシャの唇から、吐息とも喘ぎともつかない音が零れた。
ぐぬぅ、ぐちゅぬちぃっ
アリクがお尻の中で指を広げる。刺激されて柔軟になったアヌスが開かれ、内部に外気が進入してきたのが、サシャにははっきりとわかった。
「ア、リク……様ぁ」
サシャの声にアリクはアナルに埋めた二本の指を揃え、それを根元まで埋めてグリグリと動かす。
直腸内を掻き混ぜつづけるアリク。
もう……限界だ。
「う……んちぃ、で、ちゃ……っ」
サシャの身体は排便の動きを示している。それは、彼女にもわかっていた。
「ア……リク様ぁっ、ウンチ、うんっ……ちぃ〜っ!」
しかしアリクは、指を抜くことなく刺激をつづける。出したいのに、出させてもらえない。本当ならウンチは、もう出ているはずだった。
主からの、予想外の攻撃。「ウンチでちゃいます!」が身体中に浸透していくが、サシャはもう少しこの快感を堪能したいとも思った。
アリクがこのような「イジワル」をしてくれたのは初めてのことだ。サシャにはそれが、嬉しくて気持ちがよかった。
刺激されつづけるお尻から、とろけてしまいそうなほどの心地さが身体中に広がっていく。サシャは甘えた喘ぎ声で、「とっても気持ちいいです」と主に告げる。
頭の中が霞ががってきた。サシャは激しい息づかいで喘ぎ、口角から零れるよだれを堪えることもできない。
と、
「サシャさん。だしてください」
アリクが埋めていた指を、グジュっと一息に引き抜いた。
その瞬間。
ムチぃ……みちむちゅみちちいぃっ
サシャのアヌスを押し広げ、彼女の果実が溢れ出た。
ぬらりとてかる、褐色の果実。その果実にアヌスが円らに広げられ、内部の紅色を露呈する。
ほぼ一本の線となり、一息に噴出するウンチ。
ぶびぃッ! ブッ、ミチュぶちゅッ
排泄口の下品な摩擦音はそう長くつづくことはなく、サシャの体内で生成されたしっかりとした形のそれが大皿に盛られ、空気にふれて臭いを放つ。
「ハッ……ぅっ、ゥンっ!」
おおむねを排出し、ぷりぷぴとおまけを零すと、サシャは潤みをみせる股間からおしっこを溢れさせた。
黄金色といってもいいほどの、あざやかな色の尿。尿道をこすりながら溢れるそれが、いままで感じたことのないほど気持ちいい。
(な、なにかしら? ただのおしっこなのに……)
どうしてだろうか。放尿の摩擦があまりに心地よく、
「あっ、あっ、あぁァンっ……!」
自然と甘い声が漏れてしまう。
びちゃびちゃと音をたて、大皿に溜まっていく尿。それが皿の中でウンチと混ざり合い、より香ばしい匂いを室内へと充満させていった。
☆
サシャはテーブルに登ったまま、大皿に溜まった大便と尿を混ぜ合わせ、十分に混ざり合ったそれを手にとると、豊満な乳房全体に塗っていった。
圧倒的な存在感をほこる乳房が、サシャの手の中でさまざまに形を変えながら汚物色に染まっていく。
「大丈夫ですか?」
胸を糞色で染めていくサシャに、アリクがいった。
サシャは初めて塗糞したとき、あまりの臭気に気を失ってしまったため、アリクはそれ以降、サシャに塗糞を望むことはない。
「結構、平気になってきたんですよ」
心配そうな顔をするアリクに、サシャはそういって微笑むと、排泄物にまみれた指を「ぱくっ」と口の中へと運ぶ。
それはサシャにとって、初めて排泄物を口にいれる行為だった。
まっすぐにアリクをみつめ、汚物を付着させた指をなめるサシャ。たいした量ではなかったが、それでも口の中全体に苦味が広がり、便臭が鼻腔を刺激して頭の奥に痛みにも似た不快感が与えられる。
(……ソフィアちゃんは、よくこんなものをおいしそうに食べられるわね)
これは食べ物ではない。当たり前のことだが、改めてサシャは思いしった。
サシャは両乳房にまんべんなく塗糞をほどこすと、最後に紅をさすようにして唇に汚物を塗り、テーブルを降りる。
「失礼いたします。アリク様」
そしてアリクの股の間でかがみ、いつの間にか力強く直立していたペニスを、自身の大きな胸ではさんだ。
にちゅっ、にゅるにちゃっ
自らの胸を揉みしだくようにして、アリクのモノを刺激し始めるサシャ。
(やっぱりウンチがないと、アリク様は感じてくださらないのかしら……)
柔らかな、だがしっかりとした質感の乳房に感じる、主の温もりと力強さ。サシャは主のそれを、胸の中で汚物まみれにしてもてあそぶ。
胸元から……というよりは、身体全体から臭いたつ汚物臭。汚物が付着したアリクの先端が、乳房の間から顔をのぞかせる。サシャはそれを清めるように、ぺろぺろとなめた。
「気持ち、よろしいですか?」
「はい……気持ち、いいです」
アリクは圧倒的に身分が下のサシャたちにも、丁寧な言葉づかいをする。サシャはそれを好ましく感じるが、貴族社会の中ではアリクの「弱み」になるのではないかと心配でもあった。
汚物にまみれた胸で主を刺激しながら、サシャは先端を口に含み、舌を絡める。
ぐちゅちゅく……じゅっ、くちちゅっ、れる、れろれろ
たっぷりの唾液を口腔内で循環させ、巧みに舌や唇をつかって主に奉仕するサシャ。しかしいつものおしゃぶりとはちがい、口の中にはウンチの味が広がっている。
ぴちゅくちゅっ、くちゅぴっ、れろれろ……にゅくっ、ぴくちゃっ
サシャはアリクの弱点を把握していて、おしゃぶりでイカせるのはそう難しいことではない。
事実、
「サシャさん……で、でちゃいます」
おしゃぶりを開始してさほどの時間でしかないのに、アリクはいった。
とはいえ、今日はずいぶんと早い。ウンチを塗ったおっぱいでの攻撃がきいているのだろうか。それにサシャ自身も、初めてとなる汚れたおしゃぶりで、いつもよりも興奮しているように感じていた。
アリクの言葉に、サシャは一度口の中のものを外にだすと、
「はい、たくさんだしてくださいね」
告げ、ぎゅっぎゅっと乳房でペニスを締めつけて、先端を再びくわえこんだ。
ぐちゅっ、くちゅちゅっ
舌と唇の動きを激しくし、頭を前後にゆらしながら唇でしごくかのようにして刺激する。
円を描くようにして舌を休むことなく動かし、連続する刺激を捧げて主を昇らせていくと、アリクの先端から先走りの滴が溢れてきた。いつもならその味を楽しむところだが、今日はウンチの味がジャマをして味がわからない。
ぐちゅ……ちゅっ、くちゅっ
「ぅ……」
アリクの腰がピクっと震える。
(もう、ダメですか?)
本当はもう少し「遊び」たかったが早くアレを味わいたいという思いもあったので、サシャは主の欲求にしたがい、乳房をもみしだくようにして、そこにはさんだ主の硬さへ刺激を激しいものにした。
もちろんそれだけでなく、じゅるじゅると音をたてながらの先端部分への奉仕も忘れてはいない。
乳房の中で、口の中で。アリクを弄ぶサシャ。激しい動きで胸に塗ったウンチが舞い、それは彼女の顔にまで飛んで付着する。
「サシャ……さんッ!」
声と同時に、
「……ぅンクっ!」
咽にぶつけられるようにして、アリクの汁が口腔内へと勢いよく注がれた。
ビクビクと連続して放出される汁。口腔内に漂うウンチ臭に負けない青い臭いがサシャの鼻腔を刺激し、どろりとしたものが口の隙間を満たしていく。
(おい……しい)
舌に絡みつき、口腔内でねばりつく精液。サシャはお酒ほどではないが、この味が好きだった。
ぅく、ぅん……ちゅる、ちゅくぴちゃっ
放出が治まると、サシャはペニスを吸いながら、胸をもつかって最後の一滴まで絞りとる。そしてザーメンを口の中で循環させるようにして、アリクが自分から腰を引くまでおしゃぶりをつづけた。
ちゅくっ……にゅる
唇での束縛を逃れていくペニス。サシャは口の中のお汁を零さないように、ペニスの動きに合わせて唇を閉じていく。そして、「くちゅ……ちゅぱちゅっ」。わざと淫靡な音をたてるようにして、主のザーメンを味わった。
「大丈夫ですか? サシャさん」
問う主を見上げ、サシャは何度かにわけて口の中のものを胃に収めると、
「はい。とてもおいしくいただきました」
にっこりと微笑む。
「いえ、その……気分は悪くありませんか?」
サシャはウンチにまみれた胸に目をむけ、そして主へと視線を戻すと、
「アリク様?」
「はい」
「アリク様は、いかがでした? サシャのウンチおっぱいは、気持ちよろしかったですか?」
「え? あっ……はい。すごく、よかったです」
「でしたら、うれしいです」
結局サシャはアリクの問いに答えることなく、力を失い始めた主のペニスの汚れを、丹念になめとっていった。
2
サシャは、自分が酔っているのを理解していた。
今夜はすでに、コップ二杯のお酒を飲み干している。だからだろう。いつもよりも、淫らな気分になっているのだ。
おしゃぶりを終え、二杯目の果実酒を一息で飲み干すと、サシャはテーブルの上に仰向けとなった。
汚物色の乳房は彼女の努力の賜物だろうか、若さの特権だろうか、大きさのわりに形がつぶれていない。
「アリク様」
「はい?」
「塗って……ください。サシャを、ウンチ色に染めてください」
「いいんですか?」
「いいんです。ですから、お願いしているんです」
サシャはアリクの女仕である。いつまでも汚物に嫌悪を感じているわけにはいかない。できることなら自分も、ソフィアのように汚物嗜好者になるべきだ。それが主であるアリクに、誠心誠意尽くすということだろう。
かといって、いますぐに汚物嗜好者になれる……というわけでもない。徐々になれていかなければ。
自分で塗るという選択肢もあったが、初めての本格的(?)な塗糞だ。やはりアリクの手によってなされたい。そう思いサシャは、主に塗糞をせがんだのだった。
「わかりました」
アリクはサシャの汚物が溜まった大皿に手を入れると、
「ぁンっ……」
彼女のわき腹へと汚れた手を落とした。
アリクの手の動き。その心地よさとくすぐったさに、サシャは身体をくねらせる。アリクの手がはった跡には、黄色がかった褐色がその肌へと刻まれていく。
柔らかく、張りのある肌にほどこされていくコーティング。ぬらぬらとした排泄物が、彼女の肌の上で領土を広げていく。
ソフィアのように夢中に、ルルのように無邪気に……というわけではないが、サシャだってアリクのことが好きだ。
かといって、精神的な繋がりがほしいわけじゃない。彼と、永遠にともにありたいわけじゃない。
しかし、
「このひとの子を産んでみたい」
とは、思っていた。
ひっそりとでいい。アリクとの子とともに、静かに暮らしていきたい。
そのような「理想」を願うこともあるだけだ。
この国では、主人と女仕との間につくられたイノチは、普通ならば堕胎させられる。それはクスリでのときもあれば、魔法を使う場合もある。
例外的に、主人が女仕との子を認知して産ませる場合もあるが、それは本当に例外的な場合だ。
どちらにしろ、「この部屋」での行為で子がなされることはない。そのことを、サシャはマリーナに説明されていた。
身体の表全体が、ウンチ色に彩られていく。ぬらりとした感触と排泄臭につつまれる身体。汚されていく……いや、汚してもらえている。サシャの股間は潤みをまし、滴となって垂れ始めていた。
「お顔にも、ください……」
告げ、まぶたを閉じるサシャ。アリクは大皿に手を浸し、汚した手でサシャの頬から顎にかけてをなでた。
ぬちゃりとした感触が顔を濡らす。サシャの鼻腔に新たな汚臭が進入し、彼女は一瞬息を止めたが、すぐに大きく吸った。
脳内で暴れるかのような、強烈な臭気。
だがそれは、ついさきほどまで自分の体内に溜まっていたものの臭いだ。
サシャはまぶたを閉じ、顔をなでる主の手の動きを感じる。にゅるりとした臭いものが顔のほぼ全体に塗られると、
「ここにも、ください」
彼女はゆっくりとまぶたを、そして大きく股を開き、自分の手でスリットを左右に広げて内部を露出させた。
その内部から、とろりとした汁が溢れているのが自分でもわかる。股間の花が弁を広げ、蜜を零して侵入者を心待ちにしているのが。
明らかに欲情している様子を、主人にみられている。
しかしサシャは、それが気持ちよかった。
(やっぱり、酔っているみたい……)
普段なら、気持ちいいよりも恥ずかしいの方が勝っているだろう。だが今夜は、どのようなことでもできそうだし、それを気持ちいいと思えてしまえそうだった。
「いいんですか?」
「どうしてです? ソフィアちゃんには、もっとすごいこともなさっているじゃないですか」
ソフィアに比べれば、この程度はどうということはない。
サシャはアリクの汚れた手をとり、彼の指の汚れをなめとっていく。ピチャピチャと音をたて、自分の汚物を味わうようにして。
こうしてみると辛いと感じたのは最初だけで、排泄物を口にいれるのも身体に塗るのも、考えていたよりも不快ではなかった。いや、むしろ心地よいほどだ。それは股間の潤みが証明している。
(こんなに気持ちいいものなら、もっと早くにこうしておけばよかった。そうすれば、もっとアリクを楽しませてあげることができたのに……。そうだわ。今度の夜会は、ソフィアちゃんじゃなくて、わたしを主品にさせてもらおうかしら?)
身体中を汚物まみれにして、口、性器、お尻……全ての穴に汚物をつめこんで、その穴という穴でアリクによろこんでもらう。
恥ずかしい格好で、恥ずかしい言葉を口にして、とてもいやらしい姿でアリクにかわいがってもらっているところを、ソフィアやルルにもみてもらう。
考えるだけで、ゾクゾクしてくる。
(もしかしてわたしにも、汚物嗜好の素質があったのかしら……?)
そのようなことを思いながら、サシャは、チュパチュパと主の汚れた指をしゃぶった。意識的に、ペニスをしゃぶるときと同じ舌づかいで。
(ほしく、なってきちゃった……)
前も後ろも、アリクを迎え入れる準備は整っている。いますぐに埋めてほしいくらいだ。
しかしアリクのモノは、まだ最初の迸りから回復していない。
今夜、アリクがさほど乗り気ではいことは、サシャにはわかっていた。
最近は仕事が忙しいようなので、仕方がないといえば仕方がないのだが……。
本当は今夜のお誘いも、断られると思っていた。だけれどアリクは、「はい。お願いします」といってくれた。
この前、サシャがアリクとふたりきりの時間をもってから、ひと月ほどが経過している。そのことを、アリクも気にしてくれていたのだろうか。
だとしたらうれしいのだが、どこか申し訳なくも思う。
ちゅくぱっ
アリクの手の汚れを全てなめとると、サシャは主の腕を自由にし、股を広げる体勢にもどって小さくうなずいた。「お願いします」。うなずきに含ませた意図をくみとってくれたのか、アリクは汚物をたっぷりと手に取ると、ぬらめくサシャの股間へと押しつけてくれた。
にちゃっ……とした汚物を、股間に感じる。ゾワリと、背筋に寒気が走った。
だがそれは嫌悪というより、してはいけないことをしているような、背徳的なヨロコビによってだ。
サシャの潤んだ股間へと汚物を刷りこむようにして、遠慮がちに手を動かすアリク。
ここを刺激されるのは久しぶりだからだろうか、やけに気持ちがいい。下腹部の淫な唇が勝手に蠢いて、サシャの意思とは関係なく膣内へと食糞をしていく。
入り口辺りをはう主の指。汚物の進入を許した性器が、その指をも飲み込みたいと主張する。
「ぁンっ! も、もっと、奥まで……ぁッ! く、ください」
アリクの指が二本、ひくつく淫唇を押し広げて汚物とともに膣内へと進入してきた。サシャの内部で汚物をかき混ぜるようにして、その指が蠢く。
「アッ……ぁンっ!」
膣内壁が擦られる。ぐちゃぐちゅという湿った音色が、サシャの耳にまで届く。
たった一夜のうちに、排泄物の味をしり、外側だけでなく内側までもが汚物で濡れている。
二度、三度と、新たな汚物を股間に食べさせてくれるアリク。
だがサシャは、それを嫌悪するわけでもなく、よろこびすら感じてしまっていた。
「ァっ! アリク、さ、様ぁっ……!」
意識をしっかりと握っておかないと、なにを口にしてしまうかわからない。
臭いにだろうか、酒にだろうか。そのどちらにもかもしれないが、サシャは酔いによる思考力の低下を自覚していた。
ときおりアリクの手が敏感な突起にふれ、その刺激の度にサシャは高い音域で切なげに鳴かされてしまう。
そしてアリクは、サシャの鳴き声を連続させるように、彼女の敏感な突起を指の腹で何度もなんども擦ってきた。
「アッ、ぁ、ぁ、ァンッ……!」
分泌液と汚物で滑った股間から、主が与えてくれる快感が身体中に広がっていく。やがてその快感のうねりが、サシャをひさしぶりの高みへといざなっていった。
☆
軽くだが、イカされてしまった。
サシャが一度高い音域で鳴き、ビクンっと肩で跳ねると、膣内を満たす主の指をキュッと締めつけた。
その締めつけが緩くなると、アリクは指を抜いてサシャの股間へと物足りなさを与える。
「……ウンチ、はいっちゃいましたね」
サシャは呟くようにしていうと、汚物でぬめった股間に手をやり、膣内から零れそうになるものをせき止めるようにヴァギナへと指を埋めた。
「え? あっ、す、すみません」
せがんだのはサシャなのだから、アリクが謝るのはおかしい。そのことにサシャは気がついていたが、
「いいえ、うれしいんですよ? アリク様にこんなにしていただけて、とってもうれしいです」
笑顔で答えた。
「そう……ですか?」
「はい。そうです。くす……くすくす」
サシャはひとしきり笑い、すぐ隣に転がっていた竿部分にイボイボがついた男性器を模した性具(マリーナが異世界から持ち帰ったもの)を手にすると、それを丹念になめて唾液をまぶし、汚物にまみれたヴァギナへと埋めていった。
「ゥっ……くぅ」
ゆっくりと、汚物がつまった内部へと性具が埋もれる。それにともない、性具に居場所を奪われた汚物が隙間から溢れ出てくる。
サシャは一度、性具を最深部まで埋めると、ゆっくりと動かし始めた。
動きに合わせ、淫靡な音を奏でる股間。
イボが内壁をゴリゴリと刺激して、思っていた以上に気持ちがいい。快感の波が、みるみる間に大きくなって押し寄せてくる。
「イッ……ちゃい、そうです」
このままつづければ、本格的にイってしまう。
そんなことは考えるまでもない。
サシャは性具から手を放し、
「アリク様に、イカせて……ほしいです」
軽く腰を持ち上げて、性具が刺さったままの股間をアリクへと突き出した。
「こう、ですか」
アリクは性具を手にし、ゆっくりと前後に動かす。
「は、はい……ぅくンっ!」
遠慮がちに、性具を動かすアリク。
「大丈夫ですよ。もう少し……乱暴にして、ください」
アリクは腕の動きを大きくし、異世界の性具で糞色に染まった女仕を犯した。
「ぅんっ、ンっ、ぅうン……」
性具によって擦られる膣内壁。膣内でかき混ぜられる汚物。それらの刺激や音によって、サシャの興奮の度合いは増していく。乳首が痛いくらいに気持ちいい。たまらずサシャは、尖った乳首を自分で慰めていた。
「ハッ……ぁンっ! ぁっ、ア……ッ」
さほどの時間を必要とせず、サシャは今夜二度目の絶頂へと近づいていった。
「ぁっ、ァンッ! アリク様ぁっ、み、みてくださいっ。サシャがぁ、あっ、ぁンっ! サシャがイッちゃう、か、顔、みてくださいぃっ」
口角から涎を零して快感に歪んだ、ウンチまみれの顔をみられている。気持ちよさと恥ずかしさが混ざり合い、なんともいえない気持ちになっていたサシャに、
「きれいですよ。サシャさん」
アリクは、やさしい顔と声でいってくれた。
その瞬間、
「ぅッ! ぅうぅン……ッ!」
サシャは全身を痙攣させ、一度目よりも高い位置で絶頂を迎えていた。
性具を抜かれ、余韻に浸るサシャ。彼女は息を整えると、
「次は、これで遊んでください」
直径が五センチほどのいくつもの白い珠が繋がった性具を手にとった。
「お尻にこの珠を入れたり出したりして、遊ぶんだそうですよ?」
いうとサシャは四つん這いになって、アリクへとお尻をむけた。
3
数種類の異世界のオモチャを堪能したふたりの身体は、いつの間にかベッドがわりのソファへと移っていた。
オモチャで遊んでいる間にアリクのモノは回復し、ベッドに仰向けになる彼の股間で塔となっている。
サシャは主に馬乗りになり、熱い肉棒を手で包んで自らの秘部へといざなう。慣れない性具で遊んだせいだろう、アソコもお尻もヒリヒリしていたが、彼女は慎重な動作で腰を落として「自分の排泄物がたっぷりと詰めこまれた膣内」へと主を導いた。
「サシャさん、今夜は大胆ですね」
結合にともない、居場所をおわれた汚物が溢れるのがわかる。それに、サシャのもっとも深い部分へと汚物が侵入してくるのも。
だがこれは、自分で望んだことだ。
「そうですか? わたし本当は、とっても淫らな女なんですよ?」
その言葉を示すかのように、激しく腰を振り始めるサシャ。彼女の動きに合わせて、汚物で染まったふたつの果実がぶるんぶるんと揺れ、その飛沫が舞った。
揺れる乳房に視線を刺すアリク。サシャは心の中で「クスリ」と笑い、意識して乳房を波打たせた。
ぴたーんっ! ぴたーんっ!
乳房が上下するたびに、多少の痛みと引き換えにして彼女は胸部で音を響かせる。いいかげん、おっぱいのつけ根が痛くなってきたころ、
「おっぱい、もんでください」
動きを止めてシャはいった。
「は、はい」
アリクの手が、両の乳房を強く掴む。
「……ッ! そ、そんなに強くしちゃ、いたいです」
「す、すみません」
「やさしく、してくださいね」
「……はい」
アリクがやさしい手使いで乳房を揉み、やがて乳首を口に含む。そしてサシャを刺激すると同時に彼女の味を楽しむかのように、汚れた乳首をしゃぶった。
主の口の中で、尖った乳首が遊ばれる。乳首に与えられる刺激は電流となって股間にまでとどき、結合のそれとは違う「気持ちよさ」をも与えてくれる。
「アリク様?」
「はい?」
「わたし……いいですか?」
「え?」
「ですから、わたしの身体……です。満足、していただけていますか?」
アリクは「はい……」と、小さくうなづき、
「とても、いいです」
はっきりと答えた。
アリクの答えにサシャは微笑み、
「ありがとうございます。サシャは、やさしいご主人様にかわいがっていただけて、とってもしあわせです」
心からの言葉を告げた。
そしてゆっくりと腰を動かしながら、以前から気になっていたが、口にするのをためらっていた質問を主にぶつけた。
「もしも……もしも、ですよ?」
「はい?」
「もしもわたしが……いえ、誰かが、アリク様のお子を身ごもってしまったら、どうするおつもりですか?」
その質問に、アリクはすぐさま答えた。
「もちろん、責任はとります」
と。
「どういう風にです? まさか、妻にめとるわけにはいかないですよね」
女仕たちとアリクでは、身分が違いすぎる。女仕たちの身分では、伯爵であるアリクに「オモチャ」として使ってもらえることすら、光栄と思わなければならないほどだ。妻などと、そのような「高望み」ができる身分ではない。
「妻……?」
サシャの言葉に、アリクはなにか考えるような顔をした。
「いかがなされました?」
「い、いえ……なにか、忘れているような気がしたものですから」
しかしアリクは言葉をつづけることなく、なんでもないというように微笑む。
このとき彼は、本当に忘れていたのだ。
自分に、祖父が決めた婚約者がいることを。
その婚約者が、いま、このとき。「彼女」の家族を巻き込んで大騒動をおこしているなど、アリクがしるはずもなかった。
「そうですね。妻に……というわけにはいかないかもしれませんけれど、ボクにできるかぎりの保障はします。もちろんその子はボクの子として育てますし、サシャさん……えっと、サシャさん以外でもですけど、不自由な思いはさせません」
「それは、産ませる……ということですか?」
「当たり前じゃないですか」
なにをいってるんですか? というような顔をするアリク。
思わずサシャは、
「くすっ。クスクス」
笑ってしまった。
「も、もしかしてサシャさん」
「いいえ……くす。違いますよ? 大丈夫です。わたしはまだ、わたしだけです」
まだ、わたしだけ。
いずれは、「わたし」ではない「だれか」を体内に宿すこともあるのかもしれないし、宿さないかもしれない。
とはいえ、もし自分が身ごもることがあるなら、それはアリクの子以外ありえないだろうとサシャは思った。
☆
サシャは汚物にまみれた身体を主に密着させるようにして抱きつき、主と自分とを快感の絶頂へと導くために激しく腰を動かした。
「ぁンっ! ぁっ、ぁっ、アリクっ、アリクさまあぁっ!」
結合部からの湿った音。汚物にまみれていても感じる、アリクの肌の温もり。アリクも強くしすぎることなく、サシャを抱きしめてくれる。
大きな乳房によって隔てられる、主との距離がもどかしい。いまだけ、この瞬間だけでいい。アリクと「ひとつ」になりたかった。
突然。
「サシャっ……さんッ!」
アリクが腰を跳ね上げ、サシャは子宮を突かれるようにして下半身を持ち上げられた。
「ア、リク……さまあぁッ!」
すでに汚物で満ちた子宮へと注がれる、主の精液。サシャは主とともに達した絶頂の渦に絡めたられながらも、注がれる性の存在を身体全体で感じていた。
結合を解き、ふたりは抱き合うように並んで息をととのえる。
サシャはなでるようして、アリクの身体へと触れた。逞しい主の身体。自分をかわいがってくれた身体。
注いでもらった性が溢れ、太ももを濡らす。もうたくさん可愛がってもらったにもかかわらず、その感触が性的な疼きとなってサシャを襲った。
今夜はこれで終わりにするつもりだったが、
「アリク様?」
「はい?」
「お願いがあるんですけど、いいですか?」
「サシャさんがお願いだなんて、めずらしいですね。なんですか?」
多少のためらい。しかし、
「わたし、アリク様のをいただきたいです」
サシャはいった。
「ボクの……? ですか?」
「はい。アリク様のおウンチを、食べさせていただきたいです」
今夜なら。いまならきっと、食べることができる。
いや、食べさせてほしい。
「ソフィアちゃんにばかりは、贔屓ですよ」
意識せずに零れた言葉。アリクの排泄物はソフィアのもの。意識はしていなかったが、そういう認識があったのだろう。
だが、サシャだってアリクの女仕なのだから、彼の排泄物をねだってもかまわないはずだ。
アリクは少し困ったような顔をして、
「あの……結構、量があると思いますけど」
いった。
量がある? もしかして、ソフィアとの行為のために溜めてあったのだろうか。
そう思ったが、サシャはなにも気がつかなかったかのように、
「はい。がんばっていただきます」
微笑んで答えた。
その微笑みにつられたのか、アリクは笑みと苦笑の中間の表情をサシャにむけ、身体を起こした。そして仰向けになるサシャの顔面の上に、彼女とは身体を反対向きにしてかがむ。
(アリク様の、お尻……)
サシャはアリクの腰に両手をそえて顔を持ち上げると、目の前の臀部に顔を押しつけて、底の蕾へと舌を伸ばした。
なめてもらったことは何度もあるが、サシャがアリクのアヌスをなめたのはこれが初めてだった。
「いきますよ、サシャさん」
サシャはその言葉に、貪るようにしてアヌスをなめるという行為で答える。
蠢くアヌス。舌の上に、なにかを感じた。
(ウンチ?)
そう思う間もなく、それは次々と溢れてきた。サシャがあわてて唇を広げると、溢れるものが彼女の口腔内をいっぱいにしていく。
想像以上の量。サシャは口腔内に排泄されるものを、なにも考えることなく租借して飲み込んでいくことしかできなかった。
「ぅグッ! ぅン、ゥグぅ」
味も臭いも気にはならない。というか、よくわからなかった。ただ、「温かいものなんだな」……とは感じていた。
とてもではないがソフィアのように、美味しいとは思うことはできない。
しかし、耐えられないということはなかった。
ちゃんと、アリクの汚物を食べることができる。
なれていけば、美味しいと思えるときがくるかもしれない。
いつまでこの城にいたい。アリクの側にいさせてほしい。もしかして自分は、自分が思っている以上に、アリクに惹かれているのだろうか。
もしかしてすでに、このひとを愛してしまっているのだろうか。
けして叶えられることのない「恐ろしい想い」を打ち消すように、サシャは無心でウンチを噛み潰しては飲みこんでいく。
やがて絶えることのないようにも思えた食糞にもおわりがきて、アリクが腰を上げようと動いた。サシャは彼の腰にそえていた両手でその動きを封じると、口の中の汚物をすべて胃の中に収めて、アリクの門へとむしゃぶりつく。
門に付着した汚物を丹念になめとり、舌が汚物の存在を認識できなくなってやっと、サシャは腕の力を抜いた。
束縛がなくなり、腰を上げるアリク。そして彼はサシャのかたわらへと移動して、
「大丈夫……ですか?」
心配そうな顔で彼女を覗きこんだ。
サシャは油断すると逆流しそうになる胃の内容物を懸命に抑え、ゆっくりと上半身を持ち上げると、
「お腹、いっぱいになっちゃいました」
唇に付着した汚物をなめ取って、いつもの笑顔をアリクへとむけた。
4
身体からチカラが抜けていく。
自分が立っているのか倒れているのか、それすらもわからない。
やけに身体が重く、息苦しい。身体全体が痺れているような感じだ。
えっと……そもそもわたしは、どうなってしまったのかしら……?
というより、なにをしているんだろう?
よくわからなくなってきた。
あっ、そうだわ。
(ル……ルは……?)
ルルはどうなったのだろう。突然現れた「アイツ」に、ルルが連れ去られてしまったのだった。
たしか……わたしは、ルルを助けようとして、助けようと……して……。
(な……なん、だった……かしら)
なにか大切なことを忘れているようにも思えるが、考えるのがつらい。頭の中が真っ白になって、「自分はいま、なにをしているのだろうか?」……と、それすらもわからない。
(ルルが、たしか……アリク……様)
アリクは戦に出ていて不在だ。とはいえ、アリクが頻繁に「戯華宮」を訪れることはないのだが。
戯華(アーリュ)。妻ある者が愛でる、「ひとのかたちをした華」。
アリクの戯華となって、もう一年になるだろうか。とはいえ、女仕をやっていたときのほうが、アリクと接する機会は多かった気がする。
サシャは「みんな」で暮らしてしたころの「輝き」を、泣きたいほどに懐かしく感じた。
微笑ましいほど、アリクに夢中だったソフィア。
凛々しいながらも、どこか「あぶなっかしい」ところがあったナホカ。
伝説級の魔女、マリーナ。
貴族のご令嬢だが、女仕の自分たちにも親しく接してくれたリカレナ。
書記官としてセルン城に赴任してきた、パティ。
もう「ここ」にはいない彼女たちをふくめた「みんな」の姿が、いま、サシャの目の前にあった。
(ゆ……め、を……みてる、の……ね)
よくわからないが、夢の中にいるのだろう。
でなければ、戻ってきたのだ。
懐かしい場所に。
(そ、そう……だわ。アリク……さ、さまが、もう……すぐ)
国境での戦も終わって、もうすぐアリクが帰ってくる。そう連絡をうけたのは、いつのことだったろうか。今日? それとも、きのう?
思い出せないが、アリクも帰ってくる。
そうしたら、そうしたら……。
「ア……リク……さま」
それが音になったのか、それとも自分の内側だけに響いたのか、サシャにはわからなかった。
わかることなく彼女は、二十四年にもみたない、とても長いとはいえない一生を終えた。
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